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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第5章 お針子姫
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61 裏と裏

椿三十朗からネタをお借りしました。捕まったらエライ目に合わされるのはどこの世界でも同じだと思っています。

 「残念ながら、チェックメイトだよ。君の手駒は全て盤面から消えたよ」

 髭の男に剣を突きつけながらヴィットは穏やかに語りかけた。

 「すぐに手当てをしないと死ぬ程度には手加減しましたが、ご期待に副えたかどうか・・・」

 イクルは自分の周りに転がって血を流している連中を見回し、もう動く者がいないと確認すると手にした剣をまるで汚物のように投げ捨てた。

 「ご協力感謝します。この場の責任者らしき者を確保しましたので、バト、ルロこの方を拘束して差し上げろ。で、バト、あくまでも拘束だからな、趣味を出すなよ」

 ヴィットは剣を収めるとイクルに一礼し、バトとルロに髭の男を縛り付けるように命じた。その際、バトに釘を刺すことを忘れなかったのは今までの付き合いから学んだことであった。

 「ちっ」

 ヴィットの言葉にバトは小さく舌打をした、それを聞き逃さなかったルロが

 「そんなに気に入らないなら、貴女の望み通り縛り上げてフーディン様のお屋敷の前で放置プレイを楽しませてあげるよ」

 「それもいいかも・・・、でも、寒いからパスね」

 ルロの言葉にバトはニコニコしながら応えた。そんなバトを見てルロは深いため息をついた。彼女たちは日常的な会話を交わしながらも、確実に髭の男を縛り上げていた。

 「ヴィット様・・・」

 ヴィットの戦いっぷりを襲い掛かる覆面連中を殴りつけながらラウニは熱い視線で見つめていた。その姿は憧れのロックスターを見つめる女学生の姿と重なるところがあった。ネアはラウニの新たな一面を見て小さな驚きを感じていた。

 「ラウニ、久しぶりだね。怪我はなかったかい?」

 ラウニの姿を認めたヴィットは親しげに声をかけながらラウニに近づくと彼女の頭をワシワシと撫でた。

 「だ、大丈夫・・・です・・・」

 ラウニが真人であったなら多分真っ赤になっているのが手に取るように分かったであろう。

 「フォニーも怪我はなかったかい?君はネアだね。はじめまして、鉄の壁騎士団で団長を勤めさせて頂いているヴィット・マークス、「仮面」のヴィットとも呼ばれているが、よろしく」

 仮面で表情は見えないが、多分微笑んでいるであろうことは髭のある口元や声の調子から容易に判断できた。

 「「湧き水」のネアです。ご丁寧なご挨拶に感謝します」

 ネアがペコリとヴィットに頭を下げた。

 「ヴ、ヴィット様、フーディン様のお屋敷までご案内します」

 ぎこちなくラウニがヴィットに声をかけた。

 「ありがとう、早速案内して貰おうかな、君達、ここに転がっている方々に手当てを特にイクルさんにお相手して貰った方を優先して下さい。動ける方は逃げ出さないようにしてフーディン様のお屋敷にお連れするように」

 騒ぎの連絡を受けて駆けつけたワーナンの衛士たちにヴィットは気さくに声をかけると歩き出そうとした。

 「待て、随分と勝手なことをしてくれたみたいだな」

 歩き出そうとした一行に大音声で呼びかける者がいた。

 「随分と時間がかかったようですね」

 声をかけてきた男はがっしりとした巨躯に軽鎧を貼り付けたようないでたちのワーナンの警備にあたる蒼き稲妻騎士団の警備隊長であった。

 「我が郷の民をいかにするつもりか?その男、速やかに我々に引き渡して頂きたい」

 隊長は有無を言わさぬ高圧的な態度でヴィットに詰め寄った。

 「この男、我が郷の郷主の娘であられるレヒテ様に刃を向けた者故、我等が取り調べた後にお引渡ししよう」

 ヴィットは隊長の顔を見ることすらせず、事務的に言葉を発するとラウニに案内を促して歩き出した。

 「な、何を勝手な」

 「その方は、私に用事があるようですので屋敷でじっくりとお話を伺いたいと思います」

 ヴィットの言葉にいらっときている隊長にメミルが更に追い討ちをかけた。

 「私を助けてくださったのは、貴方達ではなく、鉄の壁騎士団ですよ。それこそ、郷の民を守れなかったのに随分と・・・」

 メミルの言葉に顔色を赤くしている隊長を見てレヒテはそっとメミルの袖を引っ張って

 「これ以上追い込んじゃダメ、このタイプは怒り出すと性質が悪いから」

 そっと耳打ちした。メミルはレヒテの言葉に頷くと軽く隊長に一礼して屋敷へと歩き出した。隊長は彼らの後姿を歯を食いしばって見送っていた。


 「怪我はなかったか」

 屋敷に着いた一行を出迎えたカスターの第一声であった。事前に襲撃とその排除の報せを受けていた彼は娘やレヒテの顔を見るまで生きた心地がしなかった。元気な様子の娘を見たとたんにヘナヘナとその場に座り込みそうになるのを堪えてヴィットを見つめ

 「ありがとうございます」

 と深々と頭を下げ、礼を述べた。ヴィットはカスターの態度に少し恐縮しながら義務を果たしたまでと簡単に答えた。その傍らでやり取り、と言うかヴィットのみをうっとりと見つめるラウニの姿があった。

 「コイツか・・・」

 カスターは縛り上げられた髭の男を見ると表情が一変した。いつものニコニコとした人好きのする顔はそこには無く、帳簿の数字を見るように冷徹に睨みつけると低い声で一言話しかけた。

 「詳しく話してもらおうか・・・」

 髭の男はカスターの態度に恐怖を感じながらもふてぶてしい態度を取ることによって萎えてしまいそうになる心をなんとか保っていた。

 「フーディン様のお手を煩わすまでもありません。バト、ルロこの方のお話を聞いて差し上げろ」

 ヴィットはバトとルロに命じると二人は縄を引っ張ってその場から髭の男を連れ出した。

 「身体中に焼き鏝を押し付けられたり、大事なモノを切り刻まれるか、私たちとお茶を飲みながらでもお話しするのかどちらを選びますか?ひょっとするとバトの素敵なサービスもあるかもしれませんよ」

 髭の男を引っ張りながらルロが声をかけた。バトはルロの言葉に合わせるように技らしく胸元のボタンをそっと外した。

 「いい子にしてくれたら、お姉さんがイイコトしてあげるからね」

 髭の男は二人の言葉から、己の行動方針を決定した。その方針は勿論、いい子になることであった。


 「ヴィット様・・・、かっこよかった・・・」

 ベッドの上で枕を抱きしめながらラウニがうっとりと呟いた。

 「ラウニ・・・、それ何回目?」

 フォニーがあきれたような目でラウニを見つめた。

 「23回・・・」

 ネアがポツリとフォニーの問いに答えた。

 「ネア・・・、あんたって・・・」

 フォニーは思わずベッドに突っ伏していた。

 「ヴィット様・・・、かっこよかった・・・」

 「24回・・・」

 「あんたたちおかしいよ・・・」

 フォニーはベッドにうつ伏せになりながら大きなため息をついた。

 「ラウニ姐さんが剣術の稽古が黒狼騎士団だと乗り気に見えなかった理由が分かった・・・」

 枕を抱きしめながら悶えるラウニを眺めながらネアがつぶやいた。

 「単なる憧れ以上だからね・・・、ラウニがああなるのも分かるけど」

 フォニーが何とかベッドが起き上がってラウニを不思議そうに見つめるネアに話しかけた。

 「憧れ以上って?」

 首をかしげながらネアはフォニーを見つめた。

 「・・・うちもラウニも訳ありなのよ」

 あっけらかんと話すフォニーの言葉にとても悲しそうなものが潜んでいることをネアは感じ取った。

 「訳あり・・・か・・・」

 【思ったとおりにこの子たちは深いものを抱えているんだな・・・。訳ありといえば俺も随分なシロモノだけど】

 「そう、訳あり、ネアも気づいたでしょ、うちらが休みの日に家族にあいにいかないどころか、家族の話すらしないこと。ま、そう言うこと」

 「・・・」

 できる限り感情を出さずに話そうとするフォニーを見ながらネアは黙って頷いた。

 「お屋敷に戻ったら、ネアにお話しますね。狂戦士のことも・・・」

 ラウニが枕を抱きしめたまま落ち着いた声でネアに話しかけた。

 「丁度、いい頃合だしね」

 さぱさぱとした風を装いながらフォニーもラウニに続いた。

 「それにしても、ヴィット様・・・、かっこよかった・・・」

 「25回・・・」

 「あんたたち・・・、もう勝手にして」

 フォニーは再びベッドに突っ伏した。

 

 「男の名は「インク壷」のベルケスと呼ばれる、口入れ屋の使い走りでした。傭兵を集めるように命じられ、傭兵を連れて店に戻り、その場で襲撃を命じられたそうです」

 ルロはフーディン夫妻、モーガ、メイザ、そしてヴィットが寛いでいるように見える屋敷の客間で著りく率不動の姿勢でメモを読み上げた。

 「手当てはベルケスが小金貨3枚、傭兵達が小金貨2枚の報酬が支払われています。しかも、その場で・・・、私たちのお手当てすら・・・」

 バトもルロの横に立ってベルケスや傭兵たちから聞き出したことを報告していた。

 「バト、いらないことは言わないの。それと、彼らを雇った口入れ屋、ビアス屋ですが、屋号こそちがいますがディーコン商会の出資で作られた店です。バトが言ったように結構な金額が支払われていますが、ビアス屋の規模では賄いきれない金額のように見えます。ベルケスの話では、商工会のおエライさんらしき者が店に来て、店主となにやら話し込んでいたのを見たそうです」

 「ご存知のようですが、商工会の重役の8割がたはディーコン商会縁の者で占められています。商工会の方針はワーナンの真人以外に対する政策に賛同する立場を取っています。それが、何らかの理由かと推測しています」

 バトはルロの後をまじめに続けた。

 「彼らからすれば、私は目の上のタンコブみたいなものだからね。メミルを人質にして私の行動を制御したかったんだろうね。私がケフに送った報せも意図的に配達されなかったと見ることができるな」

 報告を受けたカスターはため息をついた。

 「お館様はこの事をご存知なのか・・・、自分で言うのもなんだが、こう見えてもワーナンの財政を預かっている身だからね、ご存知であればお館様は私を信頼されていない、ご存知で無ければあの連中が勝手に動き回っていることになるな」

 カスターのため息交じりの言葉を受けてクコリが口を開いた。

 「あの者たちをお館様の前に引き立てて事の次第を話せば」

 「私たちが手にしている証拠は残念ながら、彼らの証言だけです。それを持って商工会の黒幕まであぶりだすことは不可能でしょうね」

 ヴィットが悔しさを押し殺した冷静な口調でクコリの考えをただした。

 「そうだねー、知らぬ存ぜぬで押し通すことができる、逆にこっちが難癖をつけた、でっち上げたといわれるのがオチだろうねー」

 メイザがつまらなそうにお茶を飲みながら呟いた。

 「・・・裏の手を使うしかあるまい・・・な・・・」

 腕を組んで考えていたカスターが重々しく言った。

 「商工会でディーコン商会と繋がりが深い者たちに文を送ろうと考えております」

 「文ですか・・・、それは如何様な」

 ヴィットがカスターに尋ねた。

 「彼らの子どもや孫の名前、年齢、住所、屋敷の見取り図・・・、全ての情報を書いたものと、鼠の屍骸を・・・」

 いつもの笑顔ではなく黒い笑顔を浮かべるカスターを見てクコリは夫の決心が深いものだと悟り、その言葉に賛同するように頷いた。

 「脅迫ですね」

 「フーディンの家に弓引いたなら、それなりの覚悟をせよ、と言うことです。我が娘、使用人を害するような輩はその場で殺しても良いのですがね。それは、あまり賢くありませんからな」

 カスターはヴィットの言葉に答えると、いつもの笑顔に戻ると何事も無かったようにテーブルの上の小さなドーナッツを口に入れた。

 「君達も他言は無用だよ。まさかとは思うが・・・、その時は・・・分かるね」

 直立不動で報告したバトとルロをにこやかに見つめながらカスターは穏やかに語りかけた。

 「は、はい」

 「し、承知しました」

 バトとルロはその気迫に押されて声が裏返ってしまっていた。後に、バトはその時、少しちびったと語り、ルロも恥ずかしそうに自分もそうだったと白状することになった。

 「表現は悪いですが、その喧嘩、ケフも加えて下さいね。ここまで関わりながら、後は関係なし、とは言わせませんよ」

 今まで黙っていたモーガがにこやかにカスターに言った。その言葉にカスターは深々と頭を下げた。


 屋敷でなにやら密談らしきものが行われている時、治療院に担ぎ込まれた襲撃者は薄暗い川を見た者蛾少なからずいたが、川を渡った者は幸いなかった。ただ、この件をきっかけにオカマの傭兵として名を売る者が出てくることになることは誰にも予想できないことだったが、このオカマの冒険譚は後に読み物として出版され、演劇の定番の演しものとなることはさらに予想できないことだった。

何となく、ラウニとフォニーの身の上を書けるように準備はしましたが、果たしてどうなるか・・・。

しっかりしろ主人公と思いながらキーボードを叩いていますが、おっさんは動きが悪い、と言うか、動かしにくいですね。(大きなボタンのかけ違いをやらかしたような)

駄文にお付き合い頂き感謝しています。

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