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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第5章 お針子姫
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59 稽古

稽古だけで1話まるまるかかってしまいました。

いつになったらギルドで冒険者登録をするんだよ?

ネアのレベルは?

やっぱり最初の敵はスライムなの?

ハーレム作ってきゃっきゃっうふふは?

と心配されなくてもそんなことは起きる予定はありません。

チート能力の一つや二つ持たせるべきだったのかな・・・。

 「レヒテ様、くれぐれも手加減は為されないようにお願いします。心配されなくとも手傷は負いませんので」

 構えるレヒテにお昼の献立を読み上げるように緊張感も見せず、構えもせずイクルはたんたんとレヒテに声をかけた。

 「言われなくてもっ!」

 レヒテは一言叫ぶと袋剣を力なく持っているように見えるイクルに全速力で突っ込んで行った。レヒテはイクルの正面の剣がギリギリ届く距離でいきなり姿勢を低くし、そのまま飛び上がるようにイクルの下から斬り上げようとした。しかし、レヒテの剣はイクルに届く前に止まってしまっていた。

 「前回からは進歩しましたね」

 レヒテはいきなりイクルが自分の正面、零距離で現れ、にこやかに話しかけられていることに驚きを隠せなかった。レヒテの剣を掴んでいる右手をいつの間にか柔らかくであるがしっかりとイクルの左手で握られており動かすことができなくなっていた。右手に握られている袋剣をいつの間にかそっとレヒテの首筋に当てられていた。

 「え?いつの間に」

 レヒテは驚愕の色を隠すことも無く顔に浮かべたままイクルの手を振り払ってさっと飛び退いて間合いを切った。

 「相手はいつまでもじっとしていません。レヒテ様の動きに合わせて動きます。手練と呼ばれる人たちはレヒテ様の動きを見切ることもできます。素早く動けない人も見切ることができれば簡単に攻撃をかわし、無力化することができます」

 イクルは、構えなおすレヒテに落ち着いた口調で先ほどの攻撃を評価した。その言葉にレヒテは頷くと一声短く叫んで再びイクルに打ち込んでいった。

 最初の打ち込みはややもすれば直線的と言われる自分の動きを何とかしようと、あまり使わない頭を酷使して造り上げた動きであった。しかし、イクルはその努力をいとも容易く打ち崩した。次は、レヒテが得意とする重い打ち込みを乱発するラッシュ攻撃に切り替えるのみである。しかし、それはレヒテの人並みはずれた身体能力の上にしか成り立たないような攻撃である。

 「攻撃の手筋を速やかに変更されたことは評価しますが、先ほどの攻撃より読みやすくなっていますよ」

 豪雨のように打ち込まれるレヒテの攻撃を紙一枚でかわし、時折手にした袋剣でいなしながらイクルは息を乱すことなくレヒテの動きを評価した。

 「くっ」

 イクルの言葉が癪に障ったのかレヒテは打ち込みの速度を上げた。しかし、レヒテの攻撃がイクルに届くことは無かった。さすがのレヒテも高速全力打ち込みを続けていたため息が切れてきた。レヒテの動きが乱れた時、ポコンとイクルの袋剣がきれいにレヒテの頭に打ち下ろされた。

 「数を打てば良いものではありません。届かない打ち込みを何百回としても意味がありません。それより、確実に届く一撃です。力任せはいただけません」

 イクルはそう言うとレヒテに頭を下げた。これでレヒテの稽古は終わりとなった。


 「お次はどなたかしら?」

 レヒテの激しい攻撃をかわしたにも拘らず息一つ乱していないイクルがにこやかに侍女たちに問いかけた。

 「「霧雨」のフォニー、参ります。お願いします」

 長短二つの袋剣を手にしたフォニーがイクルの正面に歩み出て一礼した。

 「貴女も手加減無用でかかってきてください」

 イクルの言葉を合図にしたようにフォニーは舞を舞うようにイクルに襲い掛かった。軽やかなステップと回転による攻撃はレヒテとは対照的な動きに見えた。ややもすればトリッキーな動きから繰り出される斬撃をイクルはことごとくかわし、いなしていった。

 「読みにくい動きを意識されていますが、動きが大きく、まだまだ無駄な動きが多いですよ」

 イクルは懸命に打ち込んでくるフォニーの剣を己の剣で抑え、短い袋剣で刺突を試みるフォニーの左手を払い、そのまま手刀をフォニーの顔面に叩き込む直前で止めた。フォニーはもしこれが実戦であるなら命があったとしても視力やその愛らしい顔を失うところであった。

 「トリッキーな動きは評価できますが、狭い屋内、多人数を相手にした時のことを考えるべきですよ。いつも広い場所で戦えるわけじゃないんですよ。足元には斃した敵の身体やひょっとすると仲間の身体、椅子とかが散乱している場合もあるんですよ」

 袋剣を下ろしながらイクルはフォニーの攻撃を評価した。ちょっと辛口な評価にフォニーは悲しそうな表情を浮かべた。

 「しかし、無駄な動きをなくしていけば効果的な攻撃を繰り出していくことができますよ。日々の練習を大切にしてくださいね」

 フォニーの表情を読み取ったイクルはすかさずフォローを入れた。これは、単なるリップサービスではなくイクルの本心であった。イクルの言葉にフォニーの表情が少し明るくなった。それを見てイクルはこれからもフォニーが腐らずに練習していってくれるだろうと確信に近い思いを抱いた。


 「お次はラウニさんかしら?」

 イクルの言葉に己が拳にグラブを嵌め終わったラウニが「はい」と大きな声で返事した。

 「そう、貴女は格闘でしたね」

 イクルはそう言うと手にしていた袋剣をそっと芝生の上に下ろした。

 「何度も言いますが、手加減は必要ありません。本当の姿でかかってこないと稽古になりませんからね」

 イクルの言葉にラウニは「はい」とまた大きな声で返事すると、静かにイクルの正面に立ち深々と一礼すると両手で己に気合を入れるように頬を叩いた。

 【ラウニの本当の姿って、まさかそのまんま熊になるのか・・・】

 ネアがイクルの言葉の真意を探っている間にラウニはさっと構えると

 「「山津波」のラウニ、参ります」

 ラウニは一言イクルに告げると甲高い掛け声を上げてイクルに対して恐ろしい勢いでタックルを喰らわせようと駆け出した。そこには、いつもの真面目でちょっと控えめなラウニの姿がないことにネアは気づいた。

 【あの子、あんな表情するんだな】

 ネアの見たラウニの表情は心身とも限界に追い込む訓練を受けている兵隊のギラついた表情と重なるものがあった。イクルはラウニのタックルを身をよじってかわしながらラウニの足をそっと己が足で引っ掛けた。バランスを崩したラウニは咄嗟にゴロゴロと転がりながら受身を取ると自分に背を見せているイクルの首筋に鋭い手刀を繰り出した。

 「あっ」

 じっと見ていたレヒテがイクルの身を案じて声を上げたが、ラウニの手刀は何も貫くことは無かった。ラウニの手刀をイクルは見事に掴んでいた。

 「殺気がダダ漏れです。見なくてもどんな動きをしているか手に取るように分かりますよ」

 ラウニはイクルの言葉が届いていないのか、掴まれた腕を振りほどくとさっと間合いを取ると今度は背後からイクルの側頭部を狙って回し蹴りを浴びせようとした。ガツと何かがぶつかり合うような音が響いた。ラウニの蹴りはイクルの右手で防がれてしまっていた。

 「殺気がダダ漏れです。何度言わせるのですか?」

 イクルはラウニの足を左手で掴むとそのままブンと振り回して自分の正面に倒しこんだ。ラウニは倒れた姿勢から立ち上がろうとイクルを睨みつけた。

 【ケダモノの目だ・・・、あれがあの子の本性なのか・・・】

 ネアはラウニの豹変振りに驚きながらもその動きから目が離せなかった。

 「・・・狂戦士状態になってる・・・」

 ラウニの動きを目で追いながらフォニーが呟いた。

 「狂戦士?」

 ネアは聞きなれない言葉の意味が気になった。

 「とても強い戦士のこと、一度、狂戦士になると自分以外は全部敵になるの。狂戦士から戻るには疲れ果ててぶっ倒れるか、敵に斃されるか、完膚なきまで力の差を見せ付けられるかしないと戻らない。敵からも味方からも恐れられる戦士のことよ。心が強くなれば、敵に対してだけ狂戦士になれるようになるみたいだけど、難しいって聞いている」

 レヒテがネアの疑問に答えるとネアを安心させるかのようにその小さな方にそっと手を置いた。

 「イクルさんの言葉が聞こえていないみたいだし・・・」

 ネアは初めて見るラウニの姿に少し衝撃を覚えながら呟いた。ネアが驚愕している間もラウニはイクルに対する攻撃の手を休めることはなかった。次々と飛んでくる拳と足をイクルは的確に受け流し、時には払いながらラウニの攻撃を吟味していた。大きく振りかぶりイクルの顔面に拳を叩き込もうとするラウニの腕を取るとイクルは流れるようにラウニを己が足元に投げ落とし、牙をむき出して睨みつけるラウニの顔面に拳をたたき下ろした、その拳はラウニの顔面を捉えることなくラウニの目の前でピタリと止まった。その拳を見つめるラウニの目にケダモノの光は無く、ただ恐怖の色だけがあった。

 「意識して狂戦士になれるようになったのは大きな進歩ですが、攻撃本能だけで技の組み立ても、作戦もありませんね。大きな力は反動が大きいんですよ。自分の本当の姿を嫌うのではなく、コントロールできるようになれば、もっと強くなれますよ」

 イクルは倒れているラウニに手を貸して立ち上がらせると優しく服をはたいてやった。

 「ありがとうございました・・・」

 ラウニは力なくイクルに一礼し、ネア達の元に戻ってきた。

 「ネア、驚いたでしょ、あの姿が私の本性なのです・・・。ちゃんとコントロールできると思ってたけど・・・」

 ラウニはネアに告げると後は押し黙ってしまった。

 「口煩いところも、妙に真面目なところも、優しいところも、そしてケダモノなところも皆でラウニ姐さんだから・・・」

 ネアは俯くラウニに何とか言葉をかけた。いろんな要素が合わさってラウニという人格を造り上げているといいたかったのだが、口にできたのは拙い言葉でしかなかった。

 「最初の二つは余計です・・・」

 ラウニはそう言うと顔を上げた、そこにはいつものラウニがいた、それを見てネアはほっと安堵した。


 「次はおチビちゃんかしら?」

 イクルはネアをニコニコしながら見つめた。

 「はい、「湧き水」のネア、参ります。お願いします」

 ネアはイクルの前に進み出ると一礼した。

 【初一本で勝負をかける。力量が圧倒的に違いすぎるから、それしかない】

 ネアは構えると同時に飛び出した。ネアの動きを見ているイクルには驚きの表情も何も浮かんでいなかった。

 【読まれている?しかし、これしか】

 ネアは渾身の直突を突き出したが、それは簡単にイクルの袋剣に払われてしまった。

 【しまった。止まると次が来る、ならば】

 ネアはイクルの脇をすり抜けその場で180度回転するとがら空きに見えるイクルの背中にもう一度突きを繰り出した。

 「!」

 ネアの袋剣を身をよじったイクルにがっしりと掴まれてしまった。そのまま凄い力で引っ張られるのを感じるとネアは袋剣を素早く手放し、イクルの首を締め上げようと飛び掛った。

 「あっ」

 イクルはネアの動きを読んでいたかのようにさっと身をかがめると大地に勢いがついて激突しそうになっているネアの腕を素早く取ってハードランディングからソフトランディングになるようにしてくれた。

 【完敗だ・・・】

 「なかなかいい動きでしたよ」

 イクルはネアの腕を取りながらにっこりして口を開いた。そして、じっくりネアを見つめた。ネアは一瞬いつも細められているイクルの目が一瞬開きルビーのような真っ赤な瞳を目の当たりにして息を飲んだ。しかし、イクルはそんなネアに構うことなく首を傾げると

 「あれ・・・、ひょっとして、そうか・・・、だからね」

 小さく呟いて、そして何か納得したかのように頷いた。

 「おチビちゃんはおチビちゃんじゃないのよね」

 【まさか、俺がまれびとだって分かったのか・・・】

 ネアはどきりとした。ネアの表情を読んでか、イクルはにっこりと微笑んだ。

 「そうだよ。その子にはネアってちゃんと名前があるのよ。おチビなんて名前じゃないのよ」

 レヒテがイクルの言葉に抗議の声を上げた。

 「そうでした。ご無礼、申し訳ありませんでした。ネアさん」

 イクルは深々とネアに頭を下げた。

 「さん、なんていらないです。ネアだけで充分です。稽古、ありがとうございました」

 ネアは頭を下げるイクルに一礼すると先輩方のもとに戻っていった。

 「ネアの戦い方って、見たことが無いよ。武器を簡単に手放すなんて普通はしないよ」

 レヒテはネアの戦いを見ての感想を述べた。

 「アレは正しい判断ですよ。あのまま武器にしがみついていたら、私は攻撃しやすい位置に持っていくことが簡単にできますから、もっと練習すれば下手な騎士団員が足元にも及ばないくらいになれますよ」

 イクルがネアの戦いの評価を下した。ネアはイクルの言葉を聞きながらその姿を確認して愕然とした。

 「イクルさん・・・、最初の位置から動いていない・・・」

 レヒテ、フォニー、ラウニ、ネアと稽古をつけてくれていたイクルの立ち位置が最初から全く動いていないのである。

 「なに、それ・・・」

 レヒテはネアの言葉で初めて気づいたようで目を見開いて硬直していた。

 「バケモノだよ・・・」

 フォニーが畏怖のこもった目で見つめ

 「まだまだなんですね」

 ラウニはこれから精進しなくては決心している中

 「皆さんも練習すれば、こうなれますよ」

 イクルが取り繕うように言いながらネア達の元にやってきた。

 「私のときもそう言ってたねー」

 いつの間にかやって来たメイザがイクルに声をかけた。

 「あ、大奥様・・・」

 イクルは今までのちょっと余裕を見せていた状態からいきなり余裕が見えない状態に陥っているように見えた。

 「お祖母様もイクルに稽古をつけてもらったんだ・・・、えっ」

 レヒテはそう言うとびっくりしたようにイクルを見つめた。

 【イクルさんて、一体何歳なんだ。どう見てもタミーさんの少し上ぐらいしか見えないけど】

 良く考えれば、ネアが想像していた年齢でこの屋敷を取り仕切っている見えることや、落ち着きすぎた態度は年齢に不相応であった。ラウニもフォニーも互いに顔を見合って畏怖の色が混ざった眼差しでイクルを見つめていた。

 「イクルさんて何さ・・・」

 その場にいる者の疑問を代表として聞こうとしているようなレヒテの言葉が言い終わらないうちにメイザはその口にそっと指を当てた。

 「人はそれぞれ色々とあるんだよ。イクルもね・・・、だから野暮なことはなし」

 メイザの言葉を聞いてイクルはほっと小さなため息をついた。

 【イクルさんはエルフ族じゃないよな。それと、あのおチビちゃんはおチビちゃんじゃないって言葉・・・、一体何者なんだよ】

 ネアは不思議そうにイクルを見つめた。それに気づいたイクルはネアの疑問に答えるように謎じみた笑みを浮かべただけであった。

 

規格外とは言え、一介の侍女にやられてしまう主人公、

その主人公よりなんか濃いような侍女・・・、

ガンバレ主人公

駄文にお付き合い頂きありがとうございます。

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