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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第4章 黒
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53 巡りあわせ

彗星(と書いてメテオと読ませる。)の冒険のお話です。

今回もネアたちはお休みになっています。

 それは村と言うにはあまりにも不自然であり、この地域を治める郷主も把握していない存在であった。この広大な草原は通行の要衝ではなく、どんなに頑張っても裏街道以上になれる素養がなかった。そんなわけでこの道を往来するのは、お天道様の下を堂々と歩けないような連中か、ヤバイ物を運んでいる連中か、借金取りから逃げようとしている連中か、そいつらを喰いモノにしている山賊まがいの盗賊か、それらの要素を複雑にミックスしたような連中ぐらいしか使わないような道であった。そんな道の丁度中間点にそんな胡散臭い連中を相手にした宿、飯屋、取引所などか自然発生的に出来上がった集落である。そこに返り血でどろどろになった見たことがないような衣服に身を包み、腰に剣を抜き身でぶち込んでいる若い男が知らずのうちに辿り着こうとしていた。


 集落は高さ3メートルほどの柵に囲まれ、出入りする門には2名の人相の良くないのがそれぞれ得意な得物を持って出入りする者を検査しており、その時々の気分で通行料を脅し取ったり、差し入れと言う名で無理やり行商人から商品などを巻き上げたりしていた。こんないい加減な門番に、本来なら就けてはならない男が就いていた。ここの門番は当番制であり、集落の住民が交代で勤務するのであるが、その日、たまたま本来ここにつく予定の真人の男が二日酔いでぶっ倒れてしまったため、仕方なく問題だらけの男を代役として就けていたのである。その男は、胡散臭い連中で溢れかえっているこの集落においても随分と迷惑がられていた。「火打石」のバムと言うのがその男の名であった。ブルドッグ系のがっしりした短躯に常に喧嘩を売る相手を探してきょろきょろしている小さな目、着ているモノと言えばいつ洗濯したかも分からないような、しかも異臭を放っているもので、雑巾をかき集めて服の姿にしているとも思われるようなシロモノであった。このバムなる人物は大酒のみの上、喧嘩早く、それなりに力もあるためこの集落で発生する生傷の7割はこの男が原因となっていると言っても過言ではなかった。この男は行動を起こす際、考えることは無かった、そして行動を起こした後にその行動について省みることもなかった。


 「お前、何やってきたんだ?」

 返り血塗れの男にバムは喰ってかかった。取り押さえたり、尋問しようなんて髪の毛の先ほども考えていなかった。怪しいから殴り倒す、斬り殺すしかバムの頭には浮かばなかった。そんなバムが新たな犠牲者を発生させようとしている風景を相方として門番に立っている馬族の獣人の男はこれからの出来事を楽しみにしながら眺めていた。


 「何吼えてんだこの犬?」

 彗星(と書いてメテオと読ませる)は凄んでくるバムを見ながら呟いた。多分、この犬は言語らしきものを発しているようであるが、何を言っているのかさっぱり分からなかった。しかしながら、この犬から発せられる敵意は確実に伝わってきた。


 「言葉が分からないのか?」

 バムはそう言うと使い慣れた刃こぼれだらけの片手剣を抜いた。ここまで犠牲となる存在と言葉を交せるようになるのに随分と時間がかかっていた。数年前までは何も言わずに斬りかかっていたのである。


 「またかよ・・・」

 彗星はため息をつきながら頚動脈を斬って倒した犬から分捕った剣を同じように抜くと、その犬が斬りかかる前にその脳天に一撃を叩き込んでいた。これで、バムの闘争に満ちた長くない人生が終焉を迎えた。彗星はバムの眉間の下まで埋まった剣を引き抜くと、隣で呆気に取られている馬の首に返す刀で斬りつけた。これにより、彼の服にはまた新たな返り血による歪な赤い水玉模様が追加された。彼は剣を納めることもせずそのまま集落に入っていた。

 「動物園かよ・・・」

 目に付く人の形をしたものはその殆どが獣人であった。時折見かける人のようなヤツも妙にずんぐりしていたりで違和感しか感じられなかった。門での異状を確認した数人が剣を抜いて彼の周りを取り囲んだ。

 「てめぇ、何者だ?」

 「誰の差し金だ?」

 「覚悟はできてるんだろうな?」

 と見慣れぬ獣じみたのが口々に彗星に言葉を投げつけてきたが、彗星にはやはりさっぱり分からなかった。しかし、またここでも敵意だけは見事に感じ取ることができた。

 「殺すよ」

 彗星は一言呟いた。取り囲んだ連中は彼が何を言ったのか分からなかった。それは、彼らが聞いたことが無い言葉であった。この言葉を発した後、彗星の姿はその場から消えたように見えた。現実は高速で目の前の犬族の男に斬りかかっていったために見えなくなったように感じられただけであった。頚動脈を切裂き、隣の牛だかなんだか分からないのの大きな腹に剣をねじ込んだ。ここまでの仕事をするのに然程時間は必要なかった。

 「こいつ、早いぞっ!」

 「ヤバイのが来たぞ、腕に覚えのあるヤツはさっさと来いっ!」

 ゆっくりと血に濡れた剣を驚愕の目で彗星を見つめる獣人のどてっ腹から引き抜くと彼はにたりと笑った。

 【弱すぎる、こいつら雑魚だー】

 「来なよ」

 彗星は挑発するように取り囲む人間離れした連中に人差し指でクイクイと曲げて招く仕草をした。これにはそれなりの効果があったらしく、気の短いのが3人ほど一斉に怒声を発しながら突っ込んできた。彗星は、最初に突っ込んできたヤツの膝を蹴り付けると蹴られた男の膝は本来曲がる方向とは逆の方向に綺麗に曲がりその場に悲鳴を上げながら転がっていった。その次に来たのの飛び出た鼻っ面に剣の柄を思いっきり叩き込みその男の口吻を見事に叩き潰し、最後に来たのには剣をフルスイングで胴体に叩き込んで上下に分割してやった。

 「もお終いか?」

 膝を抱えてのたうつ男の頭を踏み潰して彗星は取り囲む連中に笑いかけた。そうしながらも内心、自分がこんなに残虐な人格をしていたのかと不思議に思っていた。


 「随分と派手に暴れてるじゃねーかよ」

 苦笑している彗星にいきなり声がかかった。何を言っているかは分からぬが水生は声の方向を見た。そこには、灰色の巨大な塊があった。

 「今度は熊かよ」

 本来なら熊なんぞと遭遇したなら恐怖を感じるのであろうが、今の彼は多少歯ごたえのありそうな獲物としてしか認識できなかった。

 熊族の男は、この気持ちの悪い笑顔でこちら見つめる真人の男を見ていると怒りがふつふつと湧いてきた。この集落のリーダーとしてそれなりに切り盛りしてきたのであるが、こんなヤツのために自分達の商いが危機にさらされることは我慢がならなかった。すでに自分の兵隊が片手ほど潰されているこれだけでもこの男の罪は万死に値するものだった。

 熊族の男は部下にお気に入りの斧を持ってこさせるとそれを片手でつかんで彗星に向けた。その斧は巨大な鉄の板に木製の握りがついているだけにも見えた。刃先ついてはあまり関心が無いようでなまくら刀ですら名刀に思わせるほどであった。しかし、その重量、大きさはそれらの欠点を埋め合わせ、その上お釣りまで渡してくれていた。


 「ぐっ!」

 大上段から振り下ろされた斧を剣で受け止めたとき凄まじい衝撃が彗星の両腕に走った。さっと飛び退いて間合いを取ったが腕の痺れはとれなかった。

 「へー、受けたか、もう次はないぜ」

 熊は大音声の咆哮をあげながら彗星に突っ込み体当たりを喰らわした。さすがの彗星も思いっきり跳ね飛ばされ大地に叩きつけられた。巧く受身が取れず息が詰まる、立ち上がろうにも足に力が入らない。

 「死ねやっ」

 大地に横たわる彗星の上に巨大な斧が閃いた。終わった、と彼は思ったが、終わりは来なかった。

 「!」

 さっきまでは周りの動きがスローモーションのように見えていたが、今は静止画になっている。そしてなにより、さっきまでの身体全体の痛み、両腕のしびれも綺麗になくなっていた。彼は素早く飛び降りると静止した熊の首めがけて渾身の力で剣を振り下ろした。骨を断ち切る手応えを感じた途端にいきなり手応えが無くなった。剣先はすでに熊の首の下にあった。その時、急に時間が流れ出した。熊は恐怖と驚きの色を目に浮かばせて落下しながらちらり自分の胴体を見た。巨体と頭を結合していた部分から大量の血を撒き散らしながら巨大な音を立てて倒れた時、彼を取り囲んでいた獣たちは一斉にその場から逃げ出した。そもそも、この熊に対しての忠誠など微塵も持ち合わせていない連中だった。ただ、この熊が怖いのと、報酬をもらう相手だったからに過ぎない。この熊がいない以上、一番に優先するのは手前の生命であることは彼らにとって常識であった。

 「ボス倒したら、クリアってわけね・・・」

 彗星は倒れている熊の死体を足先で蹴って辺りを見回した。粗末な小屋が何件も建っている。その中から飲食店風の建物を見つけるとさっさその中に踏み込んだ。そこは彼の予想とおりの何かの食物を提供する店であったようで、返り血だらけの身体を気にすることもなく人気の無い厨房に入り込むとすぐに口にできそうなパンらしきものを手にとって口に運んだ。鍋に入っている何の肉か分からないモノを煮込んだ料理を柄杓のようなスプーンでかき込み、水がめの水に顔をつけて飲み込んだとき、この世界に来て初めて人心地ついたように感じた。

 「次は着替えと武器を頂くとするかな」


 「ありゃ、すごいな・・・」

 彗星の暴れっぷりを少し離れた物陰からじっと見ていた男がいた。年齢は今年で32歳になる痩躯の真人の男である。名を「日陰」のヒグスと言った。密輸、窃盗、強請、ときおり強盗を働く職業的犯罪者であった。

 「言葉が通じないのは難儀だが、取り込めたら・・・、いい手駒になるな」

 うっすらと無精ひげが生えた顎をさすりながら、あの男をどうやって引き込むか考えていた。

 「アイツに会うサイズの服を探して来い」

 彼は隣で恐怖を滲ませながら彗星の動きを見つめていたたった一人の子分である「吹き曝し」のフッグに命じた。フッグは黙って頷くと音も立てずにその場からいなくなっていた。このフッグなる男も親分のヒグスと同じ職業的犯罪者であった。言葉数が少なく、表情も乏しく何を考えているかさっぱり分からない浅黒い大男であるがヒグスの命令は確実に遂行し、気も利くので親分のヒグスもなにかと世話をしてやっており、ヒグスより2つほど年齢が若いにも拘らずその関係は親子のようにも思われた。


 「お前は・・・」

 腹が膨れたので、店を出ようとした彗星の前に痩せた男が手に服らしきものを持ってニコニコしながら立っていた。


 「俺とお前は と も だ ち だ」

 ヒグスは驚いている彗星と自分を指差してゆっくり語りかけた。

 「と も だ ち」

 相手に分かるようにゅっくりなんども「と も だ ち」と繰り返した。

 「ト・・・モ・・・ダチ?」

 彗星は初めてこの世界の言葉を口にした。その言葉を耳にしたヒグスはにっこりすると

 「そう、ともだちだ。これにさっさと着替えなよ」

 そっと手にした着替えを彗星に差し出した。

 「なんだか、よく分からないけど、敵じゃないようだし・・・」

 彗星は戸惑いながらもヒグスから新たな服を受け取った。

身体ごとやって来たまれびとは兎に角巨大な力を持ち合わせています。ネアのように記憶(魂?)のみでやって来た存在はそこまでの力は持ち合わせていません。まれびととしての能力でいけばネアより彗星の方が上です。まれびとを味方につけると純粋に戦闘力はアップすためまれびとは人気者でもあります。

駄文にお付き合いいただいた方に改めて感謝を申し上げます。

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