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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第3章 うごく世界
53/342

51 動き出す

寒さと雪に心が折られそうですが、何とか書いている状態です。

ネアたちもこれから冬の寒さに突入していきます。今回は秋晴れの下、楽しんでおります。

獣臭いと言われる獣人達ですが、実際のところ下手な真人より体臭はない、という世界です。

 ネアが悶々とした悩みのようなものを心の中で育ているうちに、いつの間にか黒曜日となっていた。いつもの如く、先輩方に着るものの選択から着こなし、身に付けるアクセサリーに至るまで事細かなアドバイスやらダメだしを喰らいながらネアは何とか外に行ける身なりとなっていた。お館に最初に来た時に着ていた緑のワンピースはすでにクローゼットの肥やしになりかけていた。今、着ているのはラウニのお下がりを手直した暖色系のスカートと白のブラウススカートに合わせたカーディガンである。どれも、ラウニやフォニーのお古であった。ラウニとフォニーがその服に袖を通す前は奥方様の子供のころのものだったと言う、とても由緒正しき衣服である。何とか、普通の女子っぽくなったところでお手当てと言う名のお小遣いを手にして街に繰り出すのである。先輩方の衣装も基本は奥方様のお古や子供服の試作品を少々手直したものであった。

 マーケットに足を運ぶと前回のこともあり、ネアは常に先輩方の監視下に置かれてしまう。常に手を引かれ、事あるごとに細々と注意され、やっと手を引かれなくなったと思ったら今度は先輩方が買った荷物を両手に抱えているという体たらくである。唯一の救いは、先輩方になんだかんだと奢って貰えることぐらいである。しかし、現在、2度目の育ち盛りであるネアにとっては何よりのうれしいことであった。

 「姐さん立ちも今日はお休みですかい?」

 ネアたちが露店の店先の粗末なベンチに腰掛けて何の肉か分からない串焼きをかじっている時、大きな声で声をかけてくる者がいた。

 「あら、こんにちは、ハッちゃんもお休みですか?」

 声をかけてきたハチこと「錨」のタロハチであった。片手に串に刺さった焼いた腸詰、もう片手にはアルコールらしきものが入ったカップを持ったフル装備状態でにこやかに次女達の前に立つと目線を合わせるように大男がしゃがみこんだ。

 「ここの食べ物はどれも美味くて、金がいくらあっても足りないぐらいですぜ。姐さん達も美味そうなもの食ってますね。こいつの次はそれに決まりだ」

 ハチは手にした腸詰を恐ろしい勢いで胃袋に収めると露店の大将である年配の真人の女性に早速串焼きを注文していた。

 「食欲が人の形しているみたいね」

 フォニーがハチの後姿を見ながら小さく笑った。ラウニもにっこりしながらフォニーの意見に同意し、ネアは小さくため息をつきながらハチの身体に似合わない天真爛漫さに感心していた。

 暫くするとハチが両手に串焼きを持ってネアたちの前に現れた。

 「で、姐さんたちはこれからどうなさるんで?よければ、このハチ荷物持ち、用心棒として同行させてもらいたいんですがね」

 いきなりのハチの申し出にラウニは少々困った表情を浮かべたが、先日のトラブルのことなどを考えると、ハチの戦闘力がどれぐらいか不明であるが、スキンヘッドの大男と言うだけで充分に威圧効果はあると考えた。

 「私は、ハッちゃんに来てもらいたいなと思いますが、フォニーとネアはどうかしら」

 ラウニがフォニーとネアに意見を求めている最中もハチは回答は決まっているとばかりに懸命に肉にかぶりついてた。

 「ハッちゃんとなら楽しそうだから、ウチは賛成」

 「荷物持つって言っているし・・・」

 フォニーはあっさりと賛意を示し、ネアも微妙ながらも賛同した。ラウニはこれらの意見を聞いて頷くと、未だに肉と格闘中のハチを見上げて

 「ハッちゃん、お願いしますね。物騒なこともあるから、そこは男らしく守ってくださいね」

 純粋に戦闘力と言う面で行けば、ラウニもフォニーも大の大人が子どもだとなめてかかると大火傷する実力を持っているし、ネアは先日で証明済みであるから最低限身を護ることは可能なのであるが、子どもであり何かと狙われる可能性を否定できない、無用のトラブルを呼び込まないためにもハチの同行はありがたいとも言える事であった。

 【・・・】

 ネアは天真爛漫にラウニに同行を許されて喜ぶハチをみながら、ハチの真意を考えていた。

 「ハッちゃん、ご隠居様は?」

 ネアはいつもハチが付き従っている、痩躯の人影を探しながらハチに問いかけた。

 「今日は、ご隠居様から暇を頂いたんで、思いっきり羽を伸ばしてこいってね。しかも、あっしのためにお小遣いまで・・・、ありがたいこってす」

 そう言うとハチは軽く目を閉じて手を合わせた。

 【ご隠居様の命を受けてではないのか・・・、すると、偶然出くわしただけ?そもそも、ハチって密命を受けて動くとかできるのかな?】

 ハチには悪いが、彼の性格的なモノを考えるとどう見積もっても、ただ同行したい、あわよくば何か奢って貰いたい程度の答えしか思い浮かばなかった。

 「じゃ、これから尾かくしを買いにいきますから、付いてきてくださいね」

 両手の串焼きをペロリと平らげたハチはうれしそうな表情を浮かべると

 「合点ですぜ」

 と、ネアの隣に置いてあった荷物を掴み上げた。

 「こっちは、準備完了、いつでも付いて行けやすぜ」

 「じゃ、おねがいしますね。さ、行きましょ、いいモノは早く売り切れるから」

 ラウニは立ち上がるとネアとフォニーを急き立てて歩き出した。その後をフォニー、ネアが追いかけ、最後にハチが荷物をもって付いてくる。ネアは物珍しそうにあちこちの露店をきょろきょろと見ているハチを見上げて声をかけた。

 「獣人に使われているみたいで、ごめんなさい」

 自らが申し出たとは言え、獣人の後を荷物を持ってついて来ることは真人としてはキツイのではないかとネアは心配になっていた。実際、真人が獣人や亜人に使える例は多くないし、あの黒狼騎士団のデーラ家でさえ真人の使用人は片手の指にも満たないのである。

 「年齢の数より、飯の数って言うでしょ。姐さんたちはあっしとっちゃ、大先輩ですからね。後輩としては当然ですぜ」

 ハチはネアの心配を鼻で吹き飛ばすようににこやかにズレたことを答えた。

 「そうじゃなくて、真人が獣人のお供っておかしくない?」

 「え?獣人も真人も亜人もみな人ですぜ。こう見えても、このハチ、そんなチンケなことでごたごたぬかすような小せい男じゃありませんぜ。あの、ご隠居様も相手が男か女かぐらいしか気にされませんぜ。種族なんてどうだっていいんですよ。相手が姐さんたちみたいな可愛くてお美しい方なら、なにを気にすることがあるんで?男冥利につきるってやつでしょ」

 このハチという男、呑気なのか馬鹿なのか、それとももとより彼の言うとおりそんなチンケなことなんぞ気にしないのか、それともこれらの要素を混ぜ合わせているのかネアには判断が付きかねたが、本人がきにしている気配もないのでいらぬ心配であると割り切ることにした。

 いつもの場所にいつものように犬族の若い男が店を広げていた。

 「お、お館のお嬢さん方、今日はいいのを取ってあるんだよ。お得意様価格にしておくよ」

 彼はネアたちを見つけると威勢のいい声をかけてきた。そして、彼女らについてくる大男をみつけてちょっとギクリとした。

 「そっちの旦那は?」

 彼は店頭の商品を早速品定めしている侍女たちの背後にニコニコしながら突っ立っている大男に遅め遅め声をかけた。

 「あっしですかい?あっしは、姐さんたちのお供ですよ」

 何の屈託もなく応えるハチに店主も「そうですか」と応えるのが精一杯だった。

 「いいのある?」

 ネアはいきなり背後から声をかけられて驚いて振り向くとそこにはニコニコしたメムがいろいろと荷物を抱えて立っていた。

 「メムさん、こんにちは、あ、パル様こんにちは」

 ニコニコ顔のメムの背後に白い影を見つけてネアは深々と頭を下げた。

 「こんにちは、今日はお休みでしょ。あらたまったことはいいですよ」

 パルはにこやかに言うと店先に並べてある商品を見だした。

 「パル様、こんにちは」

 「こんにちは」

 白い影に気づいた先輩方も深々と頭を下げた。パルはそこに黄金色の頭をみると一瞬表情が強ばったように見えた。

 「ラウニさん、フォニーさんこんにちは。いいモノ見つかりましたか?」

 「今、物色中です。いいモノが多くて目移りするんですよね」

 ラウニがにこやかにパルと話している横でちょっと強ばった笑顔でフォニーがそのやり取りを見つめていた。

 「お嬢様、フォニーさんは尾かくしの目が利くとルップ様が仰っていましたから、いい機会ですよ。彼女に素敵なモノを見繕ってもらっては?」

 メムがにこやかにパルに提案をした。もし、メムに読心術があれば、即座に「空気を読め」のツッコミが白い頭と黄金色の頭の中から聞こえただろうが、悲しいかなメムにそこまで器用な能力は無く、どちらかと言えば空気を読むことすらどこか苦手な方であった。

 「えっ!?」

 フォニーとパルの口から驚きの声が上がった。二人にとんでもない無茶振りをしたメムは何が起きているか理解できずにニコニコとしていた。

 「・・・どれがいいかしら?」

 ひきつった笑顔でパルがフォニーに話しかける。

 「パル様の毛並みを考えると、これはいかがでしょうか・・・」

 ぎこちなくフォニーが答える。そんな2人のやり取りを見て苦笑するラウニとこの状態を引き起こしたメムを非難がましく睨みつけるネア、そしてハチは目をこれ以上開けられぬというぐらい見開いてパルを見つめていた。

 「どうしたの?」

 ハチの表情に気づいたネアが小声でハチに尋ねた。

 「お美しい・・・、こんな人がいたなんて・・・」

 ハチはどうもパルに心奪われたようでその場に固まっていた。尾かくし屋の露店の前で引きつった笑顔でやりとりする2人、固まった大男、何も分からずニコニコしている侍女、それを呆れつつもにこやかに眺める侍女、そしてこの状態をどうしようかと深いため行き着きつつ頭を抱える侍女と見事なドラマが展開されていた。この均衡はすぐに崩れることになった。

 「おい、邪魔だ、デカブツ」

 肩で風切る風のチンピラぽい流れの傭兵がハチにぶつかって文句を垂れた。しかし、ハチはそんなことどこ吹く風でパルに見とれている。

 「ハゲっ、耳ついてんのかよ」

 擦り切れた厚めの皮ジャケットに安っぽいショートソードを佩いた見事な金髪の傭兵崩れは割りと整った顔をしかめてハチに詰め寄った。その状況に気づいたネアは素早くご隠居様からいただいた棒をそっと握り締めた。

 「ああ、聞こえてんのかよ。ケモノつかいさんよー。獣臭いのは勘弁だが、あの白いのなら買うぜ、一晩いくらだ?」

 この傭兵崩れの言葉にハチがはじめて反応を示した。

 「なんて言った?」

 ハチは傭兵崩れを睨みつけた。

 「あの白いのの値段だよ」

 傭兵崩れはすくむことなくハチに詰め寄った。この空気に気づいたパルが振り向いた。それに合わせてフォニー、ラウニ、あのメムですら傭兵崩れとハチのやり取りを凝視していた。

 「上物を揃えてるじゃねーかよ。蚤はついてないよな」

 「・・・、姐さん、お嬢さま、ここで暫くお待ちください。このハチ、この男とちょいと話し合ってきますので」

 ハチはパルに頭を下げると、傭兵崩れに付いて来る様に身振りで示し、人通りのない小道に足を進めた。その後をニタニタしながら傭兵崩れが付いていった。

 【アイツ、勝てると思ってるのか、ご隠居様に襲い掛かろうとした時、隙だらけだったのに】

 ネアは無言でハチの後を追おうとすると背後からハチを案ずる先輩方の声がした。

 「ハチさん、大丈夫かしら」

 「パル様ここでお待ちになってください。ハッちゃんを助けに・・・」

 パルの言葉に頷いたラウニがネアたちに声をかけてハチと傭兵崩れが入っていいた小道に向かおうとした時、何事も無かったようにハチがぷらぷらと出てきた。血相を変えたネアたちをみつけると笑いながら

 「お嬢様の身分を話したら、やっこさん、非礼を詫びて、血相を変えて逃げて行きましたぜ」

 とこともなげに話し、ネアたちを安心させようとした。

 「そうですか。なにごともなくて良かったです」

 「ウチ、ハッちゃんがタコ殴りされてるんじゃないかと心配したよ」

 大丈夫、大丈夫と笑うハチの拳に小さい返り血がついているのをネアは見つけたが、ハチが何も無かったと言っているのでこれは、ハチなりの男としての美学であろうと察すると黙っておくことにした。

 【コイツ、荒事を生業としているのを一撃で熨したのか・・・、じゃ、前のあの隙だらけの姿はなんだったんだ?】

 不思議そうに見つめるネアに気づいたハチはこれ以上聞くなといいたげにウィンクして見せた。

 「ハチさん、お怪我はありませんでしたか?」

 戻ってきたハチにパルが心配そうに声をかけると、ハチはさっきまでのリラックスした態度から一変して固まりながら何とか口を開いた。

 「ご、ご心配、あ・・・ありがとうございます。あの男にちゃんと・・・言い聞かせておきましたので、二度とお嬢様に無礼は働かない・・・と思います」

 ハチは、ガチガチになりつつも何とかパルに答えるとまたその場で直立不動で固まってしまった。


 それぞれがお気に入りの尾かくしを手に入れたところでパルがその場にいる者に一緒に昼食でもしないかと尋ねてきた。勿論、ネアとラウニは賛同し、フォニーも微妙な賛意を示したので一行はマーケットの近くの食堂に向かうことにした。パルの後を4人の侍女たちがつき従い、その後をギクシャクとした足取りで大男が付いていった。昼食は先ほどの不埒者をうまくいなしてくれたお礼と言う事でネアたちとハチは奢って貰うことになった。いつもならどんな料理でも一瞬にして胃袋に収めてしまうハチが妙に緊張しながらぎこちなくゆっくりと食事する姿をネアたちは笑いを堪えながら見つめていた。

 「・・・、居たらしいよ」

 隣のテーブルで行商人風の真人の男達が何事かを話しているのがネアの耳に飛び込んできた。

 「まさか?マジなのか?」

 「ああ、なんでも山賊を一人であっと言う間に片づけたらしい」

 「只の強いヤツじゃないのか」

 「全く言葉が通じなかったという話だからなー、マジでまれびとじゃないのかな」

 そこで交された言葉の中に「まれびと」の単語を聞いたネアはギクリとした。

 「恐ろしいほどの力を持っているみたいだぜ。でかい岩を投げつけたとか・・・」

 「で、そのまれびとはどこに居るんだ?」

 「王都のずっと南でやったみたいだぜ」

 【アイツ、来ていたのか。ご隠居様も言っていたがもうどこかの郷が動いているかも知れないな】

 ネアは知らずの内に表情が強ばってくるのを感じた。

 【アレが力を手にしたのか・・・、ヤバイな】

 この事についてはお館に戻り次第ご隠居様に報告しないといけないとネアは思った。

 そんなネアの危機感などどこ吹く風でテーブルではネアの付いていけない女子トークと固まっているハチがおりなす平和な風景が展開されていた。


あのハチに何かが起きたようです。これから、どうするのかちょいと楽しみのようですが、間違いなく苦労します。そして、もう一人のまれびとの存在、コイツをどう関わらせられるか、難しいところであります。勿論、お話の都合上、誰もギルドに冒険者として登録しません。この世界では冒険者的な仕事を生業にしているのはフリーの傭兵が専らです。それと、ステータス情報は表示されませんので、誰がどれだけ強いかは明確に判断することは難しいです。

今回も、この駄文にお付き合い頂きありがとうございました。

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