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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第3章 うごく世界
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49 主導はとられたまま

何と、初めての連投となりました。暴れ姫ことレヒテはレヒテなりに何だかんだと勘が得ているようですが、じっと沈思黙考できないのが難点なのですが。

 浴場は温泉旅館等で見かけられる家族風呂程度の大きさで湯船は大理石のようなもので作られ、かけ流し状態であった。それを見たネアの心に浮かんだ言葉は「贅沢」の一言だった。


 「早く入って」

 湯船の中でバシャバシャしながらレヒテが急かすが、侍女たるもの礼儀をわきまえていなくてはならない。

 「湯船に浸かるのは、身体を洗ってからです」

 ネアはブラシに石鹸をつけるとぎこちなく身体を洗いはじめた。できることなら、この毛皮を脱いで洗濯したいのであるが、残念ながらこの毛皮を脱ぐことはできないのでうんざりしながらの作業を続けるしかないのである。

 「いろんなブラシを使うのね」

 ネアの前に展開されているブラシを眺めながらレヒテが感心したように声を出した。

 「身体用、背中用、髪の毛用、毛のないところ用のタオルぐらいですけど、角のある人は角を磨くブラシ、髪の毛用に小さなブラシも使いますよ」

 「私たちはタオル一つで済ますけど、大変ね」

 レヒテはそう言うと、ザブンと湯船の中に潜ってしまった。レヒテのそんな姿を微笑ましく眺めていた。

 「ネアたちの毛の生え方って、お母様と逆みたい、大人になってもそこは生えないみたいね。タミーもネアと一緒だったし」

 レヒテの言葉にネアは苦笑するしかなかった。前の世界でも生えていないのにコンプレックスがあったり、逆にそのような身体を愛好する者がいたことは知っていたが、このように妙な毛の生え方(真人から見ればであるが)をネアもこの世界に来るまでは知らなかったことである。

 「ネアは白い手袋と靴下を履いているみたいね。フォニーは黒い手袋と靴下だったよ。でも、生えていないところは私たちと同じような色だった」

 湯船の縁に腕をおき、その上に顎を乗せ、足をバシャバシャさせながらレヒテがネアの模様についてしみじみとした感想を述べた。

 「毛の下の模様がみたいからって、身体の毛を全部剃れってのは、なしですよ」

 ネアはレヒテが言い出しそうな事を先に言って、その行動に釘を刺した。

 「ネアもダメか・・・、フォニーにもラウニにも頼んだにダメって・・・、レイシーさんもダメって、何でだろう・・・」

 レヒテは深いため息をついた。

 「お嬢は丸裸になれ、髪の毛を全部剃れって言われて、うん、いいねってそのとおりにしますか?」

 そんなレヒテにネアは身体を洗いながら嗜めるように、尚且つきつくならないように言葉を選びながらレヒテの邪悪な考えを阻止しようとした。

 「そうなんだ・・・、でも、この謎はいつか・・・」

 その場は納得したものの、レヒテの毛の下に対する好奇心はますます盛んになっていくように感じネアは思わず身震いした。

 そんな中、何とか身体を洗い終え、湯船に身を沈ませる。この館の温泉の湯加減はネアにとっては絶妙の温度であり、湯に浸かるだけで一日の疲れや嫌なことが全部流れていきそうな気分になってくる。入浴はネアにとって日々の楽しみの一つとなっていた。目を軽く閉じてお湯を満喫しているネアは視線、主として自分の胸へのものに気づいた。目を開けるとそこには胸を凝視しているレヒテの姿があった。

 「ないね・・・、私と一緒だ・・・」

 どうやら、胸の大きさについて何かしらの思いがあるらしくため息つきながら己の胸に手をあてているレヒテをネアは不思議そうに見返した。

 「まだ、小さいですから・・・、それにお嬢も大きくなれば・・・」

 「・・・だよね。そうだよね。何か嫌な予感がするんだけど、私の思いすごしだよね。ネアはどうなるのかな」

 レヒテは何かを己に言い聞かせると、ネアを興味深そうに見つめた。ネアは確かにハンレイセンセイからは大きくなると予言されているが、ここでそれを言っていいのか悩ましい思いをすることになった。

 「どうでしょうか」

 ここは無難に乗り切ることに徹しようとした。

 「私の予感は大きくなると出ているよ」

 レヒテは手を突き出すとネアの胸に手を置いた。

 「ーっ!!」

 いきなりのことにネアが戸惑っているのを見つめながら

 「この感触は大きくなる。それも、タミー以上になる・・・」

 長年、男として生活してきたので、女性の胸に対しては好ましく思っており、しかも大きいのはそれなりの魅力があると心と身体が思い込んできたため、その対象が己の胸となると気分は複雑であった。お金が大好きな人がお金になりたいかと言うとそうではないのと同じ理由である。つまるところ、鑑賞したり味わったりするもので、鑑賞されたり、味あわれたりするものではないことが常識であったためである。

 「大きくですか・・・」

 レヒテの手をそっと己が胸から離しつつネアは呟いた。自分の将来の姿がどうなるかと想像すると恐怖とも不安とも言えぬ思いが身を包んでいくのをネアは感じた。


 レヒテは、風呂から上がると用意されていた下着、寝間着を一人で見事に着こなしていった。レヒテが一人で着衣できるかの思いは杞憂になった。しかし、寝床に就くときは不安は現実のものとなっていた。

 「お嬢、おやすみなさい」

 ネアは、レヒテの私室の片隅にこしらえられた簡易寝台の前に立ち深々とベッドに入っているレヒテにおじぎするとヌイグルミのユキカゼを抱いて布団にもぐりこもうとした時であった。

 「ネア」

 レヒテがネアを見つめて、自分の横をポンポンと叩いた。

 「?」

 ネアは首をかしげてレヒテを見つめる。またレヒテがポンポンと叩く、これが数回繰り返され、やっとネアはレヒテの行動が、ネアにここに来いと命じているものであると理解した。ネアはユキカゼを抱いたままレヒテに近づいた。

 「わっ」

 いきなりネアは尻尾を掴まれて、ベッドに引き寄せられた。

 「尻尾を掴むのは止めてください」

 少々むっとしながらネアはレヒテを睨みつけた。

 「だって、ネアは気づかないじゃないの」

 レヒテは口を尖らせてネアに抗議した。こうなると、もうレヒテに逆らわないほうが良いとネアはため息をつきながらレヒテの言いなりにベッドに入った。

 「ラウニ姐さんやフォニー姐さんも一緒に寝られたのですか?」

 自分の横に寝ているレヒテに尋ねるとレヒテは頷いた。

 「でね、いろいろとお話しするんだよ。どこのお店のクッキーが美味しいとか、尾かざりはどんなのが流行っているとか、私には尻尾は無いけどね。だから、羨ましいの」

 レヒテとはそう言うとそっとネアの尻尾を掴んだ。

 「うっ、尻尾は敏感だから、掴まないで下さいって・・・、私はここに来てからまだ短いですから、お店のことも尾飾りのことも分かりません・・・、お嬢が聞きたいことに答えられないと思います」

 「ううん、ネアには私の話を聞いてもらいたいの。私・・・、ネアって大きくなったら何になりたい?」

 レヒテは子供らしい質問をネアにぶつけてきたが、この世界についてはやっと知り始めた状態、その上、身体は女の子、しかも獣人、今の状況でも飲み込むのにやっとなのに、将来の展望なんぞ考えられないというのが正直な話であるが。

 「侍女としてお嬢についていきます」

 何とか、無難と思われる答えを口にしたが、レヒテはその答えに不満があるようでむっとした表情になった。

 「ネアはそうなんだ・・・、私がどこかよそのお家にお嫁に行っても付いてきてくれる?でも、ネアもお嫁さんになって・・・、お母さんになって・・・、それでも?」

 レヒテはレヒテなりに将来について不安に思うところがあるのだろう。普通に考えればビケットの家はギブンが継ぐのが普通であり、レヒテはどこかの郷主になる人物と有無を言わせずに結婚させられるのであろう。しかし、自分が母親になることは今まで考えたこともなかった。レヒテの言葉によって気づいてしまったのである。前の世界では父親にすらなれなかっのに、この世界では母親になる可能性があるのである。ネアはそっと己の下腹部を撫でた、この毛の生えていない皮膚の下に子を宿す器官、子宮が存在するのである。それを認識した途端にネアはブルッと全身の毛が逆立ってしまった。それは、嫌悪とも恐怖とも期待とも付かぬ感情であった。思わず、ユキカゼをぎゅっと抱きしめてしまった。

 「どうしたの?」

 レヒテが覗き込むようにしてネアにちょっと心配そうな顔で尋ねてきた。

 「・・・考えたこともなかったから・・・、私、お母さんになるのかな・・・」

 戸惑いを感じつつ思わず、ネアが呟くと

 「ネアならいいお母さんになれるよ」

 と、レヒテが明るく慰めにも何にもならない、と言うより追い討ちをかけるような言葉を口にしてくれた。

 「ありがとうございます」

 ネアはその言葉にとりあえずお礼を言うと、そっと目を閉じた。

 「っ!!」

 ネアが眠ろうとした時、背後からレヒテがぎゅっと抱きついてきた。

 「ネアにはヌイグルミがいるけど、私にはいないから、ネアを抱いて寝るの」

 滅茶苦茶な理屈で抱きついてくるレヒテに呆れつつも

 「そっと抱いてくださいね。キツイと寝られないから」

 「分かったよー、おやすみなさい」

 レヒテはそう言って眠りに入っていったが、その夜裸締めに会うこと2回、ラリアット3回、回し蹴り3回、耳を齧られること数え切れずで朝を迎えることになったのである。


 「おはよー、ネア」

 やっと眠ったと思ったら朝となっていた。そしてあろうことか、主であるレヒテが先に起床していると言う失態をやらかしてしまい、ネアは挨拶もそこそこにさっさと着替え始めた。その時、ドアをノックする音がしてタミーが朝食が乗ったカートを押して入ってきた。

 「おはようございます。お嬢。・・・、ネア、夜は大変だった見たいね。でも、このミスを取り返すチャンスはあるからね」

 ニコニコしながらカップにお茶を注ぐとタミーはネアの髪にそっとブラシをあててくれた。

 「取り返す?」

 「ええ、奥方様のお帰りが明日になったからね。今夜もネアはお嬢と一緒だから」

 「・・・」

 うんざりしつつも、寝間着のまま元気に朝食に食いついているレヒテを見つめてネアは小さなため息をついた。

ネアがやっと将来について考え始めるきっかけを得ました。ずっとおっさんとして生きてきた上、親になることすらできなかったのでレヒテの言葉は衝撃だったようです。

駄文にお付き合い頂きありがとうございます。

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