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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第3章 うごく世界
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46 知らないところで動いていたこと

気づくと師走になっていました・・・、物語の中ではまだ半年もたっていないようなのに。

遅々として進まず、物語を作る難しさを体感している次第です。

 タミーの機転によって何とか昼食と言う難関をクリアしたネアであったが、現実は更なる試練を準備していた。お昼休みの終わりを告げるようにホールの鐘が一つ鳴った。レヒテの部屋で気が進まないレヒテをなだめつつ、タミーをはじめとするベテラン侍女たちがレヒテにお出かけ用のドレスを着せ、髪を梳かし、そこに髪飾やらリボンを取りつけ、何とか郷主の娘らしい形に作り上げた。もとよりレヒテは親譲りの赤毛を他の郷主の娘から比べると随分と短くしている、と言っても肩口辺りまで伸ばしているのであるが・・・、高貴さと髪の長さが比例するような傾向のあるこの世界において異質と言えば異質な部類に入る存在であり、パルや街の裕福な商人の娘たちのほうがそれらしく見えると言っても過言ではなかった。

 「動きにくいし、締め付けられているみたい・・・」

 侍女たちの努力によってかわいくなった己の姿を姿見で見つめながらレヒテはため息をついた。

 「これも、お嬢の仕事ですから・・・」

 仏頂面を顔面に貼り付けているレヒテにネアはそっと語りかけた。

 「分かってる、でも・・・」

 溜まりに溜まっている愚痴を吐き出そうとした時、部屋のドアをノックする音がした。

 「いいわよ、入って」

 不機嫌そうにレヒテがノックに応えると

 「レヒテ様、一緒に参りましょうね」

 綺麗におめかししたパルがニコニコしながら入ってきた。

 「パルちゃん、私の代わりに・・・」

 「首に縄をつけて引きずってでも連れて行け、と奥方様から命じられておりますので、お覚悟をお決めください」

 レヒテは、パルに何とか助けを求めようとしたが、それは叶わぬことであることを思い知った。

 「待たせるとだめですよ。さっさと参りましょう」

 パルは有無を言わせずレヒテの腕を掴んで引っ張り部屋から引きずるように連れ出した。

 「ネアちゃん、これ、忘れないで」

 レヒテの後を追おうとするネアにタミーが奉仕会で振舞うためのクッキーやレヒテの日常の小道具が入れられたバッグを手渡してきた。

 「ありがとうございます」

 ネアはタミーに礼を言うとバッグをつかんで小走りでレヒテの後を追った。

 「奉仕会の集まりはお嬢にとって苦痛かも知れないけど、お供も結構キツイんだよね」

 タミーはそう呟くと同僚たちと顔を見合わせて苦笑した。


 お館の玄関には鉄の壁騎士団の衛士2人とメイド服姿のたれた耳の犬族の少女が待っていた。

 「お待たせしました。よろしくお願いします」

 パルは微笑みながら衛士2人に会釈すると、衛士はその場で音がしそうな勢いで気をつけの姿勢を取り、綺麗に敬礼した。

 「ネアははじめてね、この人はメム、「糸車」のメム、私が小さい時からずっと一緒なのよ」

 パルは垂れた耳の犬族の少女を紹介した。その少女は明るい茶色の毛並みのレトリバーを思わせる姿をしていた。

 「ネアさん、よろしくね。いろいろと噂は聞いているから」

 「メムさん、こちらこそよろしくお願いします」

 ネアはメムに挨拶しながら一体どんな噂なのかが気になった。

 【乱暴者とか大酒飲みとかだろうな・・・】

 ネアとしてはいい噂ではないであろうと覚悟しつつ、もし誤解があればそれを正さないといけないと言う妙な使命感を感じていた。

 衛士一人が先頭を、歩道の中央よりをパルその右となりにレヒテ、その後ろをそれぞれの侍女がつき従い、殿に衛士が一人ついていく奇妙なコンボイが教会と言う港を目指して進んでいった。幸い、暗殺者や暴漢、追剥等のUボートに遭遇することなく彼女らは教会にたどり着いた。

 「我々はこの建物を警護します。お帰りの時は侍女殿を通じて連絡を頂ければすぐに参ります」

 衛士はレヒテに敬礼すると協会の出入り口に狛犬のように陣取った。

 「ありがとう、心強いよ。それと、これあげるね」

 レヒテは衛士たちにいつの間にかポケットに隠し持っていたキャンディをそれぞれに一つずつ手渡した。

 「ありがとうございます。これで、百人力ですよ。ひょっとするとドラゴンでも退治できるかもしれません」

 衛士はにこにこしながらキャンディを受け取ると大切そうに制服のポケットにそっとしまった。

 【自然体で人を惹きつける才能があるみたいだな・・・】

 ネアはキャンディをもらった衛士の表情をみながらレヒテの行動について考えた。少なくともレヒテは人によって態度を変えることはしない、そして相手が誰であれ見下すことも無い、この姿勢が暴れ姫と仇名されながら郷の民に人気のある所以であろうとネアは思った。


 「ネア、クッキーをお願い」

 「はい」

 教会に入るとネアはバッグからクッキーの包みを取り出してレヒテに手渡した。

 「メム、私たちは2階のホールで会議をしていますから、何かあったらすぐに連絡してね」

 レヒテとパルは侍女に言葉をかけると、正面玄関の大きな階段を上がっていった。2人の姿が見えなくなるまで見送っていたネアにメムが声をかけてきた。

 「お付きの待機室に行きましょ、初めてだから案内するね」

 メムはネアを先導するようにゆっくりとした足取りで待機室に向かった。


 「遅くなってごめなさいね、ここにクッキーがあるから後でみんなで頂きましょうね」

 レヒテはとびっきりの作り笑顔とぎこちない所作で席につくと、集まった会員たち10数名を見回した。ここにいる少女はパルのような郷の重臣の娘、大きな商店の娘、医師や宮司の娘、大きな牧場の牧場主の娘など、親が一定以上の納税、郷内での発言力のある者、名誉職の者たちで占められていた。そして、ケフも例外でなく、その多くが真人であった。他の郷では真人以外がこのような場にいることは滅多になかった。

 「ここの集まりって、ケモノ臭いと思わない?」

 最近、ケフに赴任してきたワーナンの郷の外交官の娘が不服そうな表情を浮かべてパルと牧場主の娘の耳がピンとたった白い兎族の娘を見ながら、隣の席にいるケフで一番大きな宿屋の娘に小声で話しかけた。

 「・・・、貴女の香水の匂いのほうがキツイけど・・・」

 声をかけられた娘は彼女に目を合わせることなく言葉を返した。同意を得られないと思った外交官の娘は大きなため息をついた。

 (またか・・・)

 パルの耳には外交官の娘の声がしっかりと聞こえていたが、そ知らぬふりで本日の議題について話し出した。


 メムに連れられて待機室に入ったネアは自分と同じような使用人が思ったより多くいることを、部屋の中には20人を超える自分と同じようなメイドのような服を着た少女たちがそれぞれテーブルごとにグループを作って談笑しているのを見て痛感した。

 「あ、メム、こっちよ」

 小さな角を生やした鹿族の少女が手招きした。メムは立ちすくんでいるネアの手を引いて鹿族の少女のいるテーブルに着いた。そのテーブルには鹿族の少女をはじめ、自分と同じような猫族、犬族、真人などの雑多な種族の少女たちが5名ほどお茶を飲みながら談笑しているところだった。

 「ネアです。はじめまして、よろしくお願いします」

 ネアは彼女たちにペコリと頭を下げた。

 「この子が、あの・・・」

 「男の子じゃなかったの」

 テーブルのあちこちから驚いたような声が上がった。

 「な、なにか・・・?」

 できるだけ相手に誤解をもたれぬようににっこりしながらネアは首をかしげた。

 「大の大人、しかも男二人を一撃で葬り、街のゴロツキ10名をあっと言う間にのして、大人ですら飲み干せないようなキツイお酒を一気飲みしたって言う、ネアよね?」

 鹿族の少女が危険な肉食獣を見るような表情を浮かべて、恐る恐るネアに尋ねてきた。

 「え、なんですか?それって・・・」

 思ったとおりの悪評であることにネアは読みが当たって安心したり、これから先のことを考えて暗澹たる気持ちになった。

 「メムだったら、お館に近いから、詳しいこと知っているんじゃないの?」

 鹿族の少女の隣の真人の少女が身を乗り出してメムに尋ねた。

 「お館で暴れたとか、喧嘩したなんて話は聞かないよ。私もこの子と会うのは初めてだけど、全然乱暴なところはなかったよ。で、本当のところはどうなの?」

 メムをはじめとするそのテーブルについている少女たちの視線を感じてネアは口の中がからからになっていくのを感じた。

 「マーケットでは襲われかけて・・・逃げただけ。ゴロツキと喧嘩したことなんてない・・・、男の子と喧嘩したことはあったけど・・・、お酒については・・・、ジ、ジュースと間違えて・・・」

 しどろもどろになりながらネアは噂の火消しをしようと自分が関わった事件について7掛け程度で話をした。

 「普通の女の子が大人の男をやっつけたりできないよね。しかも、こんな小さい子が」

 メムはネアをしげしげと見つめて納得したように呟いた。

 「私たちも、どんな大きくて怖い子かなと思ってたけど、普通の小さい子だもんね」

 この調子で行けば、自分はケフのアブナイ子リストから外されるかも知れないと期待した。

 「でも、アルア先生がね、ネアって子は勉強がすごいって言っているのを聞いたことはあるわよ」

 メムがにやっとしながらネアに尋ねてきた。

 「あれも、まぐれです・・・、それに、わたしそんなにすごくないですから・・・」

 ネアは俯いて小さな声で応えると黙り込んでしまった。これは、ネアの作戦であった。この世界に来てから、自分の強みは何かと考えた時、幼い女の子であることが強みであると理解したのである。つまり、泣きそうになっている小さな女の子に追い討ちをかけるヤツはまずいない、居たとしても周りから悪人にされてしまうからである。ここで、ネアはその理論が正しいか確認することにしたのである。

 「ご、ごめんね、悪気はなかったの・・・」

 メムがあわてて取り繕い、他の少女たちはあわてて話題を変え、最近流行の髪飾について話し出した。俯いたネアの前にそっと差し出されたお茶のカップをみると、そっと手を伸ばして一口すすった。


 「季節に合わせて雪の結晶柄がかわいいと思うけど」

 「でも、冬だからお花で明るくするのはありと思うよ」

 ネアは何に対して、どのような議論がなされているのか理解しようと務めたが、それは無駄な努力となった。彼女たちは一体、何を論じているのか、分からないながらも興味のあるような表情で外国語のような話を聞いていた。

 「ネアちゃんは、どう思う?」

 鹿族の少女が親しげに尋ねてきた時、ネアは脂汗が流れるのを感じた。何についての感想を求められているのかさっぱり見当がつかない、しかし、ここで黙り込むとまた妙な噂になるかもしれない、しかし、とんでもないことを答えるとキケンな子からアブナイ子にクラスチェンジしそうに思えたので、できる限り当たり障りのないように答えようとした。

 「私だったら、毛の色に合わせるかな・・・」

 ネアは引きつった笑顔を浮かべながら何とか答えを口にした。

 「そうねー、私の毛の色だったら」

 「真人だったら、髪の色に合わせるのもいいわねー」

 ネアは何とかやり過ごしたとほっと胸を撫で下ろした。

 【お嬢、速く終わらせてください】

 ネアは天井を見上げてため息をついた。

主人には主人の、使用人には、使用人のそれぞれの苦労があるのです。ケフのような大きくない郷でも小さな行き違いや勝手な思い込みが発生します。大きくなるとさらに複雑になるのでしょうね。

更に厄介なことに、当事者たちは決して誤ったことをしているとは思ってないことにもあるのでしょう。

駄文にお付き合いいただいた方に感謝申し上げます。

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