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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第22章 焦りと求めるもの
341/342

319 前途多難

世の中はいろいろと騒がしい様でどこかの我儘な人のおかげで振り回されることもありますが、そんな時のちょっとした気休めになれば幸いです。

 「最近、良いのがないんだよね」

 露天商がずらりと並んでいるバーセンの自由市場でフォニーが尾飾りをつまらなそうに眺めながら、隣で退屈そうにしているネアにこぼした。

 「尾飾りどころか、ブラシの類やら毛皮を整えるトリートメントも手薄になってますからねー」

 ネアは市場をさっと見回すと目当ての商品が見当たらないことに少しばかり落胆した表情でフォニーに答えた。この市場だけでなく、ここ最近、バーセン全体の流通量が減少していた。これは凶作や流行病のためではなく、バーセンへの陸路による流通が滞りがちになっていることによる影響にあった。

 「お目当てがあったとしても、良い感じにお値段が良くなっているからね。だからさー、せくすぃーぱんつも中々手に入らなくなっているんだよね」

 白昼堂々と本来保護すべき部分の布地が欠落している装飾華美な布切れのようなパンツを手にしてバトは大げさにため息をついた。

 「貴女のパンツはどうだっていいんです。全ての物の値段が上昇しているんですよ。下がっているのはバトの株ぐらいでしょうね。毎日最低値を行進中ですから」

 バトの横でルロが大げさにため息をついて見せた。

 「バトの株価はどうでもいいけど、物価が上がり気味なのがシンドイよ」

 アリエラは自分の財布の中身を確認して肩を落とした。最近確かに地味にすべての物の価格が上昇しており、ネアたちがちょっとでも散在すると彼女らの財布は寒冷期に入り、週末まで寂しい思いをすることになってしまう状態になりつつあった。

 「隊商への無茶な臨検やら襲撃だっていう噂もあながちデタラメじゃないみたいですね。物騒になりました」

 ラウニは顔見知りの行商人の姿を探しながら呟くと、探していた行商人を見つけたのかにっこりしながら手を振った。

 「良かった、無事だったみたい」

 顔見知りの行商人の姿を確認したラウニはほっと安堵の溜息をついた。

 「バーセン近郊での商業活動を妨げる動きがあると言うのは事実ですから」

 ネアたちの買い物に荷物持ち兼護衛として同行しているルッブが声を落としてそっと話した。

 「その辺りの話はあちこちで()()()()()()から、ここまでにしましょう」

 ルッブの言葉にネアが声を落として返し、これ以上ここで話す内容ではないと表情に出して伝えた。

 「そうでしたね。今は買い物を楽しみましょう。そろそろ昼飯ですよね」

 ルッブはさっと表情と話題を切り替えると鼻をひくひくさせて、食べ物の匂いを拾いだした。

 「今日は、肉でガッツリと行きたい気分」

 「臭いがキツイのを食べると、後でお嬢とパル様にネチネチと詰められるかも・・・」

 フォニーの言葉にメムが不安げな声を出した。

 「それはあるよね。今日は、ルシア様の件での話し合いがカスター様の所であるから、動き回れないからストレスが大変な事になっているだろうから」

 「フォニー、他人事みたいに言っているけど、私たちがその影響をもろに受けるんですよ。多分、お嬢の機嫌は悪くなっているでしょうから、お菓子の類を忘れずに買っておかないと大変な事になりますよ」

 「貢物をしないとどんなとばっちりが飛んでくるか知れたものじゃないからね。下手すると尻尾の一本か二本は捧げなきゃなくなることになるかも」

 「尻尾は一本しかない・・・です」

 ラウニとフォニー、ティマがレヒテへの貢ぎ物を何にするかと相談しだすとネアは彼女らから少し距離を取り、市場の中を行き交う人たちの話に聞き耳を立てだした。先ほど口にした『その辺りの話』が気になってきたからであった。その行動の裏にはあの赤と白の鎧の狂信者連中と英雄と呼ばれるロクデナシについて心に引っかかっていた、と言うか何かが心の中で騒ぎだしたからであった。しかし、耳にしたのは今までの噂の範囲を越えないものであった。

 「新しい話は転がっていませんね」

 ちょっと残念そうな表情を浮かべているネアにルッブが苦笑しながら話しかけてきた。

 「・・・何か嫌な感じがするんですよね。うっすらと纏いついて来るような感じがするんです」

 ネアは戸惑いながらルッブに自分が今感じている不安について説明しようとした。

 「バーセンに向けられている殺気かな・・・。時々、うっすらと感じる事があるから、ネアも感じませんか」

 ルッブは顎に手を当てて考えながら、ネアに小さな声で尋ねてきた。

 「私は押し殺した殺気みたいなのを街中で感じる時がありますよ。南から流れて来た没落農場主かその辺りのが発していると思っていましたけど」

 「それだけじゃないように感じるんですよね。僕の杞憂だったらいいんだけどね」

 ルッブはそう言いながらもどこか不安そうに辺りを伺っていた。

 「ん? 」

 ネアはルッブに自分も杞憂であってほしいと返そうとした時、あの英雄と邂逅した時に感じた様な嫌な空気が漂ってきたように感じられ辺りを見回した。

 「あれかな? 」

 ネアが嫌な気配を感じた方に目を向けるとそこには到着したばかりの隊商の姿があった。

 「ちょっと臭いますよね」

 ルッブはネアにそっと確認するように言うと目を細めてその隊商をしっかり観察しようとした。

 「ちょっと確認してきますよ。姐さんたちにはその旨よろしく伝えて追い下さい。何かあればケフ流のおもてなしをお願いしますね」

 ネアはルッブにそう告げると、気配を感じた隊商の元に駈けて行った。ネアは駆けながらそっと胸元のボタンを少し外し、同年代より少女より大きく、さらに現在成長中の胸を強調できるようにした。


 「おじさん、新しいブラシとか尾かざりあるかな? 」

 到着したばかりで荷ほどきの指示と護衛の傭兵たちへの支払いを行っている隊商の幹部とみられる小太りの中年男にネアは上目遣いで媚を売るように尋ねた。

 【うぇ、いつやってもこれはキツイ・・・、しかし、やらねばならない・・・】

 笑顔とは反対にネアは内心で吐き気と自己嫌悪と懸命に戦っていた。

 「お嬢ちゃん、悪いねー、獣人用のアイテムは没収されたんだ。エライ損失だよ。でも、どうしてもと言うなら・・・」

 中年の男はいやらしい目でネアの胸を見つめながら下品な笑みを口元に浮かべた。

 【普通のおっさんの反応だな】

 ネアは自分の胸が男に対してどのように影響を与えるかを身をもって知っているため、相手の素性を知るためにあえて胸を強調することがある、この場合もそうである。決して、彼女の趣味や性癖から来る好意ではなかった。多分。

 「お嬢ちゃん、残念だったな」

 隊商の護衛としてその場にいた傭兵がネアを見ることなくぶっきらぼうに言い放った。

 【胸を見てこない・・・、穢れが嫌いなのか、それともその手の趣味か】

 「ここの花街は真人もいるんだよな。どうも毛むくじゃらやら耳が尖っているのは萎えてしまうからよ」

 傭兵は隊商の幹部に小声で尋ねていた。それを耳にしたネアはこの傭兵が自分たち穢れの民に対して嫌悪に近い感情を持っていると推測した。

 【穢れ嫌いの人間がバーセンに来るような商人の護衛につくなんて。ひょっとすると・・・】

 ネアは傭兵に少し媚びた笑顔を向けるとさっさとルッブの元に足を進め、すれ違いざまに

 「あの傭兵、すこし臭いますね」

 と一言低く囁いた。

 「分かった。マイサに連絡する」

 ルッブはネアの言葉に短く返すと、興味なさそうに当たりの露店を冷やかすと左手を少し上げてクルクルと回しながらワッフルの様なものを食べてご機嫌なフォニーたちが居る場所にゆっくりと歩き出して行った。

 「ここで会ったのも何かの縁ですよね。ルッブ様、何か奢ってくださりませんか」

 どこからともなくマイサがルッブの横に立っていた。彼女はニコニコしながらルッブの手を取った。

 「そうだねー、あのワッフルを奢るよ。傭兵の彼には内緒だよ」

 ルッブは小銭をマイサに手渡しながら例の傭兵を目で示した。

 「そうですねー、ワッフルが食べられなくなったら大変ですからね」

 マイサはにっこりしながらルッブに言うと現れた時と同じようにすっと姿を人ごみの中に溶けるように消えて行った。


 「その顔、何か見つけたみたいだね」

 戻ってきたネアを見つけたバトが面白そうにネアに話しかけた。ネアはバトの言葉に黙って頷いて答えた。

 「ここで話すべきことじゃないようですね。バト、貴女の場合は人前で話す事じゃない事ばかり口にしていますけど」

 ネアの態度から察したルロがこれ以上この話題に触れるな、とバトの行動に釘を刺した。それを見ていたラウニたちは何かを悟ったらしく、敢えて今までの休日を楽しむ勤め人の姿を保っていた。

 「休日にしょうもないことをするような無粋な連中はケフ流のおもてなししてあげないといけませんね」

 露店を冷やかしながらラウニが低く唸るように呟いたのを耳にしたネアは先ほどの傭兵が、人気のない所で鉢合わせすることがないことを思わず願ってしまっていた。そんな自分に気付いたネアは人知れず苦笑を浮かべていた。



 「その胸も役に立つ時があるんだ」

 ネアから市場で見た傭兵について聞いたレヒテの開口一番だった。ネアはあの怪しい傭兵の存在より自分の胸に重点を置くようなレヒテの言葉は嫉妬からきたものだと理解することにした。

 「それだけで、その傭兵を怪しいとするのは聊か乱暴な気がしますが、怪しすぎました」

 いつも情報を交換している休憩室に当然のように居座り、フォニーが淹れてくれたお茶を飲みながらマイサが話し始めた。

 「彼の名は「激流」のレント。偽名だと思われます。最近姿を見せだした傭兵の様で、本人は北の方から来た、と言っているようですが、実際話したところ、ケフやヤヅやミオウの位置関係が把握できていないようでした。あの後、商工会で新たな護衛の仕事を斡旋してもらっていましたから、バーセンを発つ隊商に付いて行くんでしょうね。あ、その後、食事でよった食堂でウェイトレスにこれを渡していました」

 マイサは小さな紙きれをレヒテに手渡した。レヒテはその紙切れを開いて中に書かれていることを目にすると眉間にしわを寄せた。

 「これって・・・」

 「隊商の大まかな移動経路と通過時刻ですね。そのウェイトレスがよそ見している間に頂きました。どうせ捨てられるモノでしょうから」

 「そのウェイトレスもグルというか、何かの組織の一員でしょうかね」

 レヒテに無言のまま紙きれを渡されたネアはそこに書かれている情報を見ながら首を傾げた。

 「随分となれたやり取りでしたから、バーセンにその2名以上がいると見て間違いないでしょう」

 「どこの隊商が狙われるのか分かるかい? 」

 ルッブがマイサに尋ねた。その横でこの場で一番の責任者であるレヒテは退屈そうな表情を浮かべていた。

 「ハッサン商会、房中術に関する商品を主として商っているいかがわしい商人です。・・・尻尾を持つ者のための特殊な下着を商っています。バーセンでそれなりに稼いだようで、ケフであらたにアヤシイ商品を作らせるみたいですね」

 マイサができるだけ平静を装いながら、際どい表現にオブラートを被せてルッブの問いかけに答えていた。

 「そんなモノを扱う商人まで狙うとは、向こうは穢れ関連だったら何でも良いみたいですね」

 ネアは呆れたような表情を浮かべた。そのよこでレヒテの表情がますます険しくなっていっていた。

 「ボーチュージュツ? 特殊な下着? ネアはその商人がどんなものを商っているのか分かっているみたいね」

 「生きていくには直接関係ないような、趣味的なモノですよ。お嬢も大人になれば分かります」

 ネアはしつこく問い詰めて来そうなレヒテにこれ以上聞くなと言わんばかりにピシャリと言い放った。

 「ねぇ、パルは何か分かる? 」

 「何となく、スケベに関するのではないかと・・・」

 レヒテはパルの見解を聞いて難しそうな表情を浮かべながら頷いた。それから、ネアをジトっと見つめた。

 「ネアは、()()()()()んだ・・・」

 「それなりですかね」

 ネアはレヒテの視線をしれっと受け流しながらマイサに視線を向けた。

 「襲撃者は誰になるんでしょうかね。ワーナンの騎士団か狂信者か、商品の押収ですませるのか、命の押収まで行くのか」

 「この隊商は商品を作るための金銭を運んでいますからね。後腐れがないように被害者や目撃者を消す方向と考えられますね」

 マイサはそう言うと軽く手を合わせ、旅立つかもしれないハッサン商会の会頭、従業員のために祈った。

 「それはちょっと気が早いよ」

 レヒテがマイサの祈りに横から邪魔を入れ、この場にいる全員をじっと見まわした。

 「今までの襲撃とか臨検、これってバーセンに喧嘩を売っていると思えない? 」

 レヒテはそう言うとニヤッと笑みを浮かべた。

 【何か良くない方向に動き出したぞ】

 ネアはレヒテの言葉にネアはレヒテの判断が軽くないことを知らせようと口を開いた。

 「売られた喧嘩は買う事、喧嘩は相手の心を折って勝利とする。そして、買った喧嘩は必ず勝つ・・・ですか。相手はそれなりの手練れだと思われます。喧嘩は買っても返品できませんよ。よく考えてください」

 レヒテの言葉にネアはケフで言われている喧嘩についての教えを口にし、短慮はしないように促した。

 「そう、誰か知らないけど、私たちに喧嘩を売って来たのよ。これを買わないって事はないよね」

 ネアの思いはレヒテには通じなかったようだった。ネアはこの中で一番の良識を持ち合わせていると思っている

 「おもてなしをして差し上げましょう」

 レヒテの言葉に、パルが静かに力強く答えた。それを聞いてネアは天を仰いだ。

 【我らの良心と思っていたけど、根っこはケフの人なんだな】

 ネアは恨めしそうに拳を握りしめやる気を充実させているパルを見て小さなため息をついた。

 「お嬢様、飢えた狼の目になっていますよ」

 そんなパルにメムが小さな声で突っ込み、いつもの如く彼女にマズルを鷲掴みにされるお約束を眺めながらネアはどうやって戦うかと考え始めていた。


 情報の共有の場で隊商への襲撃らしきものがある事を予想したネアたちは、店を早じまいし、それぞれ襲撃者排除のための武器、食料、薬品などを手分けして準備していた。その中、ネアはバーセンを中心とした地図をテーブルの上に広げでじっと見つめていた。

 「いつもの街道を使って移動するのか。隊商の護衛は10人、その内レントとそのお友達が3人」

 そしてマイサが手に入れた隊商の移動経路とおおよその日程を地図の上に書き込みながらブツブツとひりごとを呟いていた。

 「襲撃者の数が不明だからね。こっちが数でやられることが怖いね」

 いきなりルッブが地図を良く見ようとして身を乗り出してきた。ネアの悩んでいる問題点の一つが、敵の勢力が見当がつかない、というモノであった。

 「相手がどれぐらいの戦力なのか全く見当がつかないですからね」

 「臨検なら騎士団の1コ10人隊ぐらいかな。それ以上だと機動力がガタって落ちるからね。食事とか宿泊だとかが大規模になって来るし、盗賊だと護衛の傭兵と渡り合わなきゃならないから、護衛の3倍程度は欲しい所になる。だとすると30人程度か・・・」

 ルッブがブツブツ言いながら敵の勢力を見積もりだした。ネアは彼の独り言を聞いて自分の見積もりの思考過程と大差ないことに小さな驚きを感じていた。

 「勢力について、今の情報が少ないまま悩んでいても始まりませんから、過少に見積もらないため、30人程度と仮定して考えて行きましょう」

 「となると、山賊相手と考えるのが良いかな。となると、襲撃場所が問題となって来る。で、基本的な事だけど、隊商にずっとくっついて行くなんて方針はないよね」

 「そんなことしたら、護衛の傭兵と同じになりますよ。襲撃者を遠ざけるって言うならそれなりに効果はありますが、隊商の動きに最初から最後まで付き合う事になりますからね。現実的じゃない」

 ネアは腕組みし、唸りながら地図を睨みつけていた。隊商が移動する経路は大きな街道を辿ってケフに向かうと言う、冒険することなく、着実に安全な道を使用する安全を重視しすぎているような面白みのない経路であった。

 「こうなると、どこで襲撃されるかだけど。昼間は目が多いし。僕が山賊だったら野営している時を狙うね。この隊商は出来る限り町で宿をとるみたいだけど、2日目だけはどうしても野営しなくちゃならない」

 ルッブがさっと地図の上の一点を指で指した。そこには、森の中の開けた土地が記されていた。

 「夜の闇と木々に隠れて接近して、一気に襲いかかるですね。それが順当でしょう。護衛にお仲間がいれば、最適な場所に野営させるように誘導することもできるでしょうから」

 ネアは野営地に適している場所を指で示した。

 「隊商の動きが情報通りならそうだろうね。こっちもどう動くかが問題になって来る」

 ルッブはううんと腕を組んで考え込んでしまった。隊商にずっと付きっきりと言うのは目立ちすぎるし、本来の目的である襲撃者を駆逐する、には向かないと言うのはレヒテですら分かるだろう。

 「ここまで来て言うのもなんですが。これ、フーディン様に報告してから行動しないとマズいですよね」

 今まで、実動することのみを考えていたネアがふと顔を上げてはっとした表情を浮かべた。今計画中の荒事はやらかしたら、それの成功、失敗に関わらずネアたちの身分を隠さないとバレた際の影響は不愉快な方面にしかないことは明らかだった。

 「あ、そうだよ。ごっそり抜け落ちていたよ。気づかせてくれてありがとう。本来なら言い出したお嬢がやるべきことなんだうろけど、あの性格だから・・・。パルもしっかりしているようで基本はお嬢と同じだし・・・、ネアだけが頼りです」

 ルッブは深々とネアに頭を下げた。そんな彼に頭を上げるように促しながらネアはささっと身だしなみを整えた。

 「ルッブ様、御髪が乱れています。服も乱れていますね。身だしなみを整えましょう」

 ネアがテキパキと準備を始める様子を見たルッブの表情が引きつった。

 「僕たちでフーディン様に報告に上がるつもり・・・だよね」

 「お嬢にフーディン様から釘を刺して貰わないと、大騒ぎして何もかもダメにしてしまうと思うんですよね。さ、これで良し。行きますよ。できれば、お嬢を拉致して連れて行きたいですね」

 ネアはルッブの服の乱れを直すとドアの前に立った。そして、じっとルッブを見つめた。

 「侍女と言えどレディファーストですよね」

 「お嬢様、どうぞ」

 ネアの言葉にルッブが苦笑しながら恭しくドアを開けた。そんなルッブにネアはにっこりとほほ笑んで会釈した。その後、すぐに真顔に戻りさっさとフーディンの屋敷に向けて足を進めだした。


 「つまり、隊商を襲撃する野盗らしきものを君らで撃退するって事なんだね。どこまで君らは血の気が多いんだ。ま、私が言える立場じゃないけどな」

 カスター・フーディンは何故自分がこの場にいるか今一つ理解しきれていないレヒテに話しかけたが、その実は彼女の手綱を取るようにその横に控えているネアにため息交じりに尋ねていた。

 「私たちの仲間が襲撃の予定を耳にしましたので、できるものなら連中を生け捕りにして背後にあるものを少しでも明らかにすることを目論んでいます」

 「そう、ネアの言うとおりです。悪い奴らに生まれてきた事を後悔させてやるつもりです」

 ネアの言葉に続いてレヒテが楽しそうに話し出したが、それを聞いてカスターは彼女があまり深く考えていないことを確信した。実際、レヒテはカスターの元にネアたちが移動中にパルと呑気にカフェでお茶を飲んでいる所を偶然発見され、強引にここまで引きずられて来たのである。

 「勇ましい事は後で良い。この計画をぶち上げたのはレヒテ嬢だね。ぶち上げるだけぶち上げて、後は投げっぱなしスープレックとは感心しないねー」

 カスターは威勢だけは立派なレヒテに少し厳しい表情を向けた。

 「スープレックスは割と得意です。多少の体格差なんて問題なしです」

 レヒテが胸をトンと叩いて自信満々に答えるとカスターは頭を抱え、ネアはがっくり肩を落とした。

 「血が確実に流れる状態でありながらその責任者たるレヒテ嬢がこうでは話にならないよ。いいかね、私が主導してこの撃退計画を作成するぞ。君らだけでは危なっかしくて見ちゃいられないよ」

 頭を抱えながらカスターはレヒテに自分たちもこの計画に参加することを告げた。

 「イクル、いるか、この跳ね返りたちが暴走しないように見張っていてくれ」

 「承知いたしました。あの程度の腕で襲撃者を撃退しようなんて、身の程知らずですね。その思い上がり、徹底的に叩き治します」

 カスターに呼ばれたイクルはいつも糸のように細めている眼を開き、ルビー色の瞳でレヒテを睨みつけた。

 「時間の余裕がそんなにないからね、物理的に鍛えるのは効率性を重視してくれ」

 「承知しました。覚悟してくださいね」

 イクルはネアとルッブに凄みのある笑みを見せつけた。

 「こんな作戦ちょちょいでいけるのに・・・」

 レヒテは少々納得しかねると言うに少しむくれていたが、イクルが無言で見つめてくるのを感じて口を閉ざした。

 「世の中、楽そうに見える事が一番厄介なんですよ」

 頬を膨らませるレヒテにネアが静かに言い放つと彼女はこくりと首を縦に振った。

 「何かをする時にそれが楽な場合は罠にはまっていると見て良いってギブンが言ってたからね」

 イクルの視線をあまり気にすることなくレヒテは能天気にあっけらかんと言い放った。

 

レヒテは考えるより先に動いてしまうタイプです。

それのおかげで回りが振り回されてしまいますが、良くも悪くも彼女自身に悪意がないために周りからは良いように解釈されていますが、本人にはそこまでの自覚はないようです。

今回もこの駄文にお付き合い頂きありがとうございます。

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