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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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33 ご隠居様は知っていた?

劇的にお話を展開しようと思いながら、いつもの通りの日常が続きます。

ギルドへの登録、そしてテンプレートに絡んでくる中堅冒険者、ダンジョンでの戦闘、驚異的な魔力等々が実装されていないのは仕様です。

 食事の後片付けをしている侍女たちを傍目にご隠居様は釣竿を掴むとまた水辺に向かい、釣り糸を垂れだした。いつもの如く飄々とした表情を浮かべつつも、時折何かを考え込んでいるようにも見えた。


 護衛の凸凹コンビは掛け合い漫才をしながら、剣術の稽古をやったり、掛け合い漫才をしながら日光浴をしたりと、どちらにせよ賑やかに穏やかな時間を過ごしていた。


 「片付け終わったね」

 フォニーが手の甲で汗を拭うように額をこすった。ラウニはフォニーの言葉に頷くと昼食を食べる時に使用したシートの上にペタリと座り込んだ。フォニーもその横に腰を落とすとそのまま仰向けに寝転がった。

 「空が青いなー」

 そう呟くと、そっと瞼を閉じた。それを見たラウニはクスリと笑うと同じように横たわった。

 「綺麗な空」

 見上げると、抜けるような青空に刷毛で描いたような雲が二きれほど浮いていた。ネアも先輩方の横に腰を降ろすと青い空を静かな水面に映している池を見つめた。剣術の稽古をしようにも、木剣は持ってきていないし、勉強のための本も小さな黒板も持ってきていない。では、駆け足で体力を鍛えようにも、ご隠居様を置いてこの場から離れるわけにも行かない、特にこれと言ってやるべきことがないのである。穏やかな日差しの中、時間がトロトロと流れていく。隣の先輩方を見ると、穏やかな寝息を立てて、幸せそうに眠りの世界に突入しているのに気づいた。

 【こんなに、のんびりするのは何年ぶり・・・、否、何十年ぶりかな。】

 あちこちに穴の開いた記憶を辿りながらネアは小さく笑った。

 【あんなに必死に働いて、何もかも仕事に捧げて・・・、結局は前の世界に何の未練も感じない自分がいる。前の世界に大事な人とかいたっけかな】

 穴があちこちにボコボコと開いている記憶であるが、そこに会いたいと思う人や、帰りたいと思う気持ちは無かった。

 【何も無い、人生だったんだな。あんだけ生きていれば、大切な人の一人や二人がいても罰は当たらないのにな】

 青空をのけぞるように見上げながら、なんとも言えない寂しさや侘しさがこみ上げてきた。その気持ちは、時間とともにどんどんと大きくなってきた。この身体になってから時折経験してきたことだが、一度感情が昂ぶるとなかなか収まらず、逆に大きくなっていく現象がまた起きようとしていた。そして、その感情の波に捉われると最期は大泣きしてスッキリするまでが一つのコースになっていた。

 歯を食いしばって、何とか感情を押さえ込もうとしていると

 「こっちで一緒に釣らないかい」

 昼寝をするわけでもなく、何かを考え込んでいるように見えたネアにご隠居様が手招きした。

 「はい、ただいま」

 ネアは先輩方を起こさないようにそっと立ち上がると、馬車に積んである釣竿を手にしてご隠居様のモトへ駆け寄った。

 「今日は、お魚がどうもご機嫌斜めみたいでね」

 ご隠居様の横に置かれている水の入ったバケツに、草臥れた小魚2匹程度じっとしていた。

 「ここに腰を降ろして、餌はこのムシを使って、浮きから下の長さは・・・」

 ご隠居様は、腰を降ろしたネアの釣竿を取り上げると流れるような動作で仕掛けの調整から餌の取り付けまでをあっと言う間に終えて、にっこりしながら釣竿を手渡した。

 「釣り糸を垂れて、心を空っぽにするとイロイロと見えてくることもあるんだよ」

 ご隠居様はさざ波に揺れる浮きを見つめながら呟いた。ネアはその言葉に無言で頷いた。

 「君は、『まれびと』じゃないかい」

 いきなり、ご隠居様が耳慣れない言葉をネアに尋ねてきた。

 「まれびと?」

 何のことか分からず、ネアは鸚鵡返しをして首をかしげた。

 「まれびとってのは、この世界とは違うところから来た人のことさ。気を悪くしたらすまないが、君はその可愛い顔の後ろに、全然別の顔を潜ませているように見えるんだよ。それにね、お昼の前にボクが言った、動力付きの乗り物の話をしても君は疑問すら持たずにスラスラと答えてくれたからね。そして、彼女たちのことを自然に子供って言ったこともね」

 ご隠居様は、シートの上で黒と茶色のオイルサーディンのように並んで転がっているラウニとフォニーを目を細めて見つめると、その表情のままネアを見つめた。

 「・・・」

 ネアは、何と言っていいか見当もつかずただ黙ってご隠居様を見つめた。

 「婿殿、君たちが言うところのお館様からはじめて君の事を聞いたときに、ボクはちょっと疑問を持ってね。簡単に言うと、その年齢の女の子にしては妙に落ち着きすぎているってこと、それと、この世界の常識、特に女の子として持ち合わせている知識、さっきもオシッコする時随分と苦労していたようだけど、それが気持ちいいぐらい持ち合わせていない。でね、疑問に思ったのさ。そして、さっきの妙な連中に襲われた時も涙すら見せなかった。普通の君ぐらいの年齢の女の子なら暫くは恐怖で動けなくなっていると思うけど、君はもう、いつもと変わらない」

 ひととおり、自分の思うところを述べるとご隠居様はニコニコしながらネアを覗き込んだ。

 「・・・、お察しのとおりです。私は前の世界の記憶を持っています。でも、その記憶はあちこちが虫に喰われたように穴だらけで、自分の名前すら忘れている有様です。そして、身体についてですが・・・」

 ネアは辺りを素早く見回した。

 「この世界では年寄りと言われる年齢の男でした。気持ち悪い存在です。このことは、今はじめてご隠居様にお知らせしました。今まで黙っていて申し訳ありませんでした」

 ネアは釣竿を置くとご隠居様に向かって土下座のような姿勢をとった。

 「頭を上げて、ボクはそのことでキミを咎めることはしないよ。キミがまれびとってことは、ボクとキミだけのヒミツさ。それに、コレを周りが知ったら徒に混乱するだけだしね。・・・キミは気づいていないかもしれないけど、君の前の世界で培った知識や落ち着きは、今のキミの身体に影響されているようだよ。昼前のボクの問いかけに、簡単に答えてしまっていたからね。これからは、前の世界の経験や知識はちょっと控えて、身体にあった言動をしていくほうがいいよ。そうじゃないと・・・」

 ご隠居様は少し考えて

 「目を付けられているようだからね」

 ネアは頭を上げるとご隠居様を見つめた。

 「秘密にして下さって、感謝します。ありがとうございます。・・・あの、誰に目を付けられているのですか」

 ネアの言葉にご隠居様はちょっと顔をしかめて

 「詳しいことはまだ分からないけど、正義の光・・・、あのデルクがかぶれたヤツ、連中が動いていると言う噂もある。それと、この郷を良く思っていない連中も少なからずいる、そんな連中からすれば、まれびとでメラニ様の遣わした子猫であるキミはイロイロと利用価値があるんじゃないかな」

 ご隠居様はそう言うと再び水面の浮きを見つめだした。

 「この話はここまでだよ。ボクにとってネアはかわいいネコの少女でしかないからね。おっさんみたいなことはナシだよ」

 ご隠居様は目を細めて笑うとネアの頭をゴシゴシなでまわした。

 「いま、女の子らしさを学習中ですから、おっさんの部分は出なくなっていくと思います」

 「いい先生が2人もいるからね。彼女たちも随分と苦労して、あの年齢にしては重いものを抱えているからね」

 「重いものですか」

 「ああ、コレについてはボクから話すんじゃなくて、彼女たちから聞くといいよ」

 「ええ、その内、話してもらえると思ってます」

 それから、2人は黙って釣り糸をたれた。


 結局それからの釣果はネアとご隠居様が小さな魚を一匹ずつ釣り上げてお仕舞いとなった。釣り上げた魚を池に戻し、先輩方に手取り足取り着替えを手伝ってもらい馬車に乗り込んだ。

 「皆、乗ったかい?」

 御者台の後ろに陣取ったご隠居様が侍女たちに問いかける。

 「乗りました」

 ラウニがフォニーとネアの顔を確認して元気良くご隠居様に答える。

 「出します」

 ルロが手綱を取り、馬車を動かしだした。

 「忘れ物無いよね」

 バトが振り返りながら侍女たちに聞いた。侍女たちは口をそろえて

 「ありません」

 と元気良く答えた。


 お日様は傾きだした頃、乗り物によってぐったりしているクマ、馬車の振動でお尻を痛めつけられたネコ等々をの乗せた馬車はケフの都の門に辿り着いていた。人が動き回る街の通りをゆっくりと馬車はお館を目指して進んでいく。時折、ご隠居様に気づいた夜の蝶や窓の女性たちがにこやかに声をかけたり、手を振ってきた。ご隠居様はその都度彼女たちに「今度行くよ」などと一言をかけて手を振りかえしていた。

 「モテるんだ」

 ネアはぼそっと呟いた。それを耳にしたフォニーがご隠居様の背中を見つめながら

 「だって、カッコイイし、お話していて楽しいし、おいしい物奢ってくださるし・・・ね」

 とネアの耳元で囁いた。

 「フォニーにとっておいしい物を奢ってもらうことは大切なことですからね」

 ラウニがフォニー見つめて小声で囁いた。

 「餌付けされた?」

 ネアもフォニーをニコニコしながら見つめると

 「ネアも随分と可愛げがなくなってきたみたいね。そんな小憎たらしいことどの口が言うのかしらね」

 とにっこりしながらネアの口元をつまんだ。

 「お嬢さん方、懐かしの館についたが、馬車はバトとルロに返してきてもらって、キミらはボクと一緒に黄金の林檎亭で夕食しよう。それと、バトとルロも返し終わったらすぐに来てくれよ。今日、キミたちがいなかったら大変なことになっていたからね」

 ご隠居様は馬車が止まると、ヒラリと飛び降りて、侍女たちが馬車から降りるのに手を貸してやり、彼女らの先頭に立って黄金の林檎亭に向かって歩き出した。


ご隠居様は何かを知っている人です。彼はそのために独自の情報網を作り上げました。若くして隠居したのもこのためと思われます。何を知っているか、ってとなると女性騎士団員の3サイズや夜の街のアレやコレやです。勿論、ついでに知っていると言うことになっていますが・・・。

駄文にお付き合い頂き、ありがとうございます。これからも、生暖かく見守ってやってください。

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