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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第22章 焦りと求めるもの
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298 厄介な連中

まだまだ、落ち着かない状況ですが、何とかUPしていく所存です。

 「姐さん、お疲れさまです」

 奥方様のお使いで特注品のボタンを受け取りに職人街に向かうネアを見つけたブレヒトたちが大きな声で挨拶をしてきた。

 「こんにちは、皆さん身体の方は大丈夫ですか」

 ネアは改めてブレヒトたちを見るとあちこちに傷跡や包帯を巻いていたりするものの、元気そうに見えた。

 「あの時は、修行不足と不意を突かれましたが、今後はそのような事がないように鍛錬しています」

 姿勢を正し、悔しそうに言うこの連中が、ズボンを脱いで可愛らしいのを見せて迫っている所をバトに散々笑われ、ネアに手にしたハサミで切ると言われた連中と同じ連中だとは信じがたいことだった。

 「今もゴリゴリエルマさんに鍛えてもらっています。姐さんからもエルマさんにお見舞いありがとうございましたと、我々が感謝していることをお伝えください。我々が眠っている時にそっと見舞い品を持ってきていただいたこと、我々一同、とてもとても感謝していると。嬉しさで初めて泣きました」

 ブレヒトたちはネアに一礼すると、現れた時と同じく唐突に去って行った。

 【完全にエルマさんの私兵と言うか舎弟だな】

 ブレヒトたちの背中を見送りながらネアはクスッ笑みを浮かべた。


 「よう、お館の嬢ちゃんだな。注文の品は出来ているぜ」

 職人街にあるドワーフ族が経営するボタン工房にネアが入るなり、親方が声をかけて来た。

 「こんにちは、いつもステキなボタンをありがとうございます。奥方様も、親方のボタンがあってこそ、デザインが引き締まるって、いつもお喜びなんですよ」

 ネアはお世辞や社交辞令ではなく本心からお館に挨拶をしていた。ネアはこの世界に来てから、本心からの言動ができるようになっていることに気付いていた。当初は戸惑ったものだが、今ではこれが普通に感じられている。

 「ネコの嬢ちゃん、嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか。これからも最高の品を作っていくって奥方様に伝えてくれよ。手をだしな。これは、駄賃だ」

 親方はニコニコしながら、小さな包みをネアの肉球の付いた掌の上にそっと置いた。

 「ありがとうございます」

 ネアは貰った小さな包みを両手で抱きかかえるようにすると、これもこの世界に来てから身についた心からのお礼を言うと丁寧にポケットに仕舞うと、親方の女将さんから渡してもらったボタンの入った袋を両手で受け取るとにっこりして一礼した。

 「これからも御贔屓にしてくれって、頼むぜ」

 親方はニコニコしながら手を振ってネアを見送ってくれた。


 「変わったな、イロんな意味で・・・」

 ネアはさっき貰った小さな包みを丁寧に開いた。中には大きめの綺麗な飴玉が1つ入っていた。ネアはそれを口に放り込むと、甘さと程よい酸っぱさが口の中に広がった。

 「うーん、口の形が変わったから飴玉を舐めるのも神経を使うよ。前みたいな感覚だとすぐに落としてしまう・・・」

 飴玉を口の中で転がしながらネアは自分がつくづく変わったと思っていた。変わったのは形だけではなく、前の世界では苦手だった甘味が、この世界ではとても美味しく感じられ事もその一つだった。


 「俺たちは傷つけられ、嬲られ、馬鹿にされ、家畜のように扱われ、全てを奪われて故郷を追われた。何故だ。何故、こんな目にあわされるのだ」

 小さな広場で空いた木箱の上に立った男が行き交う人たちに演説していた。その男はエルフ族でエルフ族特有の特徴がある両耳が引きちぎられたようになくなっていた。その彼の両脇を顔面に大きな傷がある虎族の獣人と、眼帯をしたドワーフ族の女性だった。ネアは少しばかり興味を持ってその場に立ち止まり、その男の言葉に耳を傾けた。

 「俺たちはここから、ずっと南、君らが聞いても知らないような郷から来た。噂で知っていると思うが、南の方は俺たち穢れの民に対する扱いは酷いモノだ。南では、このように話すことも、街中を自由に歩く事すら許されなかった」

 エルフ族の男が声を張り上げているが、その言葉を立ち止まって聞いている者の数は少なかった。

 「この耳を見ろ、目障りだと街中で通りすがりのヤツに押さえつけられ、もぎ取られた・・・」

 その男はそう言うと悔しそうに拳を握りしめた。

 「コイツの傷、逆らったという理由で顔面に焼き鏝を当てられた。彼女は流し目を送ったと言いがかりをつけられて、目を抉られた。こんな理不尽を俺たちはアジアをされてきた。俺たちは北には俺たちを受け入れてくれると言う噂を頼りにここに流れ着いた。そして、俺たちが感じたのは、何故、真人と共にあるかだ。彼らと我々は相容れない、南では我々の数が少なかった。しかし、ここは我々の方が数が多い。奪われてきた俺たちが、今度はそれを取り返すのだ」

 彼は、面倒くさそうにその場を通り過ぎる人たちに向けて熱く語りかけていた。

 【言っているベクトルが正義の光と同じじゃないか】

 ネアは彼の言葉を聞いて肩をすくめ、その場を立ち去ろうとした。

 「我々には真人にはない、爪がある、牙がある、技がある、知恵がある。ただ、数が少ないがために追いやられたのだ。今こそ、立ち上がる時だ。お前たちの敵はどこにいる? 隣にいる真人、そいつらが敵だ」

 彼は、道行く人たちの中から真人を選んで指さして吠えた。それを見たネアはため息をついて頭を振った。

 【ケフは外の敵に備えている最中なのに、こんな連中に構っている暇なんてないんだ】

 ネアは面倒な事を持ち込むなと言いたくなるのをぐっと堪えた。ここで文句を言ったところで、何の説得力もないと考えたからだ。

 「そこの、子供、貴様もそう思うだろう」

 誰も真剣に聞いていないと悟ったのか、いきなりネアに語りかけてきた。

 【子供にこんなこと聞いてどうするんだよ】

 ネアはそう言いそうになるのをぐっと堪え、その男を見て首を傾げるにとどめた。

 「貴様はまだ子供だから分からぬかも知れぬが、貴様の子どもが虐げられてることに不安はないのか。そう思うだろ」

 彼はネアを指さして大声をあげた。それに対してネアは肩をすくめるだけで通り過ぎようとした。

 「貴様っ、俺が話しかけてやっているのに、その態度はなんだ。貴様のようなヤツが真人をのさばらせるんだ」

 耳のちぎれたエルフ族の男の言葉を合図にしたように傷の虎族の男と眼帯のドワーフ族の女がそれぞれの得物に手をかけた。

 「ふっ」

 ネアはその様子を見ると、笑みを浮かべて軽く会釈した。この事がさらに彼の精神を怒らせることになった。

 「躾けてやれ」

 壇上の男の言葉を合図にしたようにネアに襲い掛かってきた。

 【子供相手にマジかよ】

 ネアはボタンの入った袋を落とさないようにしっかりと抱きしめ、その場から走り出した。

 「躾けてやる、止まれ」

 虎族の男が吠えたが、ネアはその言葉に従うつもりなんか毛頭なかった。しかし、相手はしつこく追いかけてくる。

 「子供相手になにするつもりだよ」

 ネアは背後について来る虎族の男とドワーフ族の女に呼び掛けた。

 「大人を馬鹿にするようなガキは痛い目に合わせて躾けなくちゃらないんだよ」

 ドワーフ族の女が声を張り上げた。その声には少しも戸惑いが混じっていなかった。ここで、子供に暴力を行使することは彼女にとっては正しいことであった。


 「ネアの姐さん、何かありやしたか? 」

 ネアが息を切らしながら走っていると正面からフラフラと歩いてきているハチと目が合った。

 「う、後ろ、絡まれてるの」

 ネアは息を切らしながらハチに説明すると、彼は無言でうなずき、そっとネアを己の巨体の背後に回らせた。

 「その子供を出しな。そうじゃないと痛い目を見るよ」

 「我らを侮蔑したその子供を躾けなくてはならないのだ。その子供をよこせ」

 背後にネアを匿うハチにドワーフ族の女と虎族の男は噛みつくような勢いで喚きたてた。

 「アンタら何者ですかい? 白昼堂々と小さな女の子相手に光物を振り回すなんざ、正気の沙汰とは思えやせんぜ」

 ハチは薄ら笑いを浮かべで相手を挑発するように言い放った。

 「貴様、真人の癖に、これ以上我々から掠め取ることは許さないよ」

 ドワーフ族の女は一声叫ぶと手斧を振りかざしてハチに突っ込んできた。その様子を見たハチは小さなため息をつくと、彼女の攻撃を身をかがめてかわし、その体勢から顎に掌底をあてがい相手の上体を後方にそらせながら素早く足を払い、彼女を後頭部から石畳に倒し込んだ。そこに剣を振り上げた虎族の男が突っ込んできたが、ハチはさっと飛び退いて剣を躱すと虎族の男と正対した。

 「真人風情が偉そうに」

 「子供を襲うやつに言われたかないでやんすね」

 ハチは虎族の男に不敵な笑みを浮かべた。それを見たネアに焦ったような表情が浮かんだ。

 「ハッちゃん、殺しちゃダメだからね」

 「難しい注文でやんすね。やってみやすがね」

 ネアの言葉に苦笑しつつハチは身構えた。

 「こっちも暇じゃねぇんでちゃっちゃと終わらせくれやせんかね」

 「ああ、終わらせてやるっ」

 虎族の男は力強く踏み込むと、ハチに向かって飛び出した。

 「読んでくれって言うぐらいの打ち込みでやんすね」

 大上段からの渾身の一撃を薄紙一枚で躱すとハチはニヤッと笑い、彼の顔面に拳をめり込ませた。

 「ーっ」

 虎族の男はうめき声を上げてその場に膝から崩れ落ちた。

 「脳みそ揺すっておきましたから、暫くは動けやせんぜ、さ、さっさと行きやしょ」

 ハチはそう言うとネアを抱きかかえて走り出した。


 「困った人たちが来たものですね。これからは、演説だとかをしていたら、そこには近づかずに、できれば逃げなさい。面倒な事に巻き込まれかねません」

 お館に戻ったネアとハチから話を聞いた奥方様は工房にいた者を集めて注意を伝えだした。

 「前回の喧嘩を売ってきたバカもそうだけど、最近変なのが増えてきたよね」

 フォニーが心配そうな表情を浮かべていた。その横でラウニも黙って難しい表情を浮かべていた。

 「無害なバカならいいんですけど、危険なバカは何処でも迷惑以外何者でもないですからね」

 危険なバカに遭遇し、あわやと言う目に遭ったネアは諦めたようにため息をついた。


 「今までは穢れの民を排斥する運動について見張ってきたが、最近は真人を排斥しようとする連中も湧き出して無視できなくなりつつある。先日もネアがその手の連中に絡まれ、怪我を負わされそうになったが、ハチのおかげ事なきを得ている次第だ」

 ボウルのお店での定例会でご隠居様が難しい表情でネアの身の上に起きた事件の概要について説明しだした。

 「細部は、私から。この事件の首謀者はエルフ族の男、南の方の出身としか言いませんが、彼の両耳は引きちぎられており、彼の言っている言葉が全部が嘘とも断定できない状態です。ネア嬢を襲った虎族の男、ドワーフ族の女はケフに流れてきてから、エルフ族の男と知り合ったようです。虎族の男の傷は、街中で言っていた理由ではなく、喧嘩でついたモノでした。ドワーフ族の女の目もくりぬかれたのではなく、眼病を患った結果の者でした。彼らはエルフ族の男の言うとおりにしていれば当面の金が約束されていたそうです」

 ヴィットはひっ捕らえた男たちから聞きだしたことを淡々と説明した。その言葉にネアは少し首を傾げた。

 「そう言えば、エルフ族の男の名前や職業は分かったのですか? 」

 ネアの質問にヴィットは首を横に振った。

 「ひっ捕らえ、様々な事を聞いたモノの何も答えませんでした。そして、我々が目を離したすきをついて・・・、隠し持っていた毒を煽りました」

 ヴィットの言葉にその場にいた者は言葉を失った。ネアもあの男にどんな秘密があるのか、命を賭してまで守るべきモノだったのかと疑問が次々と湧いてきた。

 「これで、一つだけはっきりしたことがありますな。その男は駒の一つ、背後に棋士がいると言う事ですな」

 コーツはそう言うとお茶を一口飲んだ。

 「今度は何のゲームを始めるつもりだ。俺たち穢れの民を焚きつけて何をしたいんだ」

 ガングが眉間にしわを寄せながら唸った。あの男の真意は何処にあるのか誰にも見当がつかない状態だった。

 「全く根拠はないんですけど、私の推測をお話していいですか? 」

 暫く考えてからネアがご隠居様に発言の許可を求めた。

 「何だね? 言ってくれないか」

 ご隠居様はネアの申し出を受け、彼女に言葉を続けるように促した。

 「正義の光が絡んでいるのでないかと思います。あの男の言葉を聞きましたが、言っていることは違うのですが、言っている内容は真人と穢れの民を置き換えると正義の光を信奉している連中と同じような感じだったんです。正義の光からすると穢れの民が流れて行く我々北部の郷は脅威に見えるかも知れません。そうであれば、北部に住んでいる者たちが一枚岩でなく、内部で揉めていれば安心できると思うんです。上手くいけば内乱状態で、自ら手を下さずとも潰すことができますよね。正義の光が裏にいたとしたなら、それを知りつつ穢れの民を焚きつけているあの男は、私の読み通りなら穢れの民からすれば裏切者です。勿論、正義の光からしても居てもらっては困る存在になるでしょう。どのみち、彼が生きていける道は随分と少なく、細いモノしか残っていなかったのでしょう」

 ネアは自分の推測を一気にしゃべった。彼女の言葉にその場にいる者たちは難しい表情を浮かべながら頷いていた。

 「マイサや俺たちももっと耳を澄まして、情報を集めないと・・・、とは言っても手が足りないのが問題だな」

 ロクが少し困った表情になっていた。彼の手駒としてマイサが増えたが、当初より増員されたのは彼女だけなので、ロクたちもオーバーワークになりかけて来ているのだった。

 「そうだね。エルマの私兵を使うか。普通の少年たちだが、基本はエルマが叩き込んでいるから、使えると思う。僕からエルマに話をしてみるよ」

 ロクたちの悩みをご隠居様はブレヒトたちを使って解決しようとしていた。

 「彼らにも報酬を払い、ロクたちからも訓練を受ければ、頼もしい戦力なるぞ。これは楽しみだ」

 エルマとブレヒトたちの意志を無視して勝手に話が転がりだしていた。ネアはその様子を見てエルマが機嫌が悪くなって、そのとばっちりを受けないか、そこが大きな心配だった。


 「ケフの郷も騒がしくなってきたね」

 定例会からの帰り、異国情緒あふれる衣装の集団が酔っ払って奇声を発しながら練り歩いていたのを見たご隠居様は眉をひそめてネアに話しかけた。

 「ここで新たに縄張りを作るとか、舐められないためだとかで虚勢を張っているのも少なからずいるんでしょうね。私もケフの凶獣を斃して名を上げようとしているバカのおかげで迷惑しましたよ」

 ご隠居様の言葉にネアはため息交じりに答えた。彼女にとって名声を上げるために強者に挑むという精神は理解の範疇を超えていた。そんなヤツが増えるのかと思うだけでネアの心は重くなった。

 「ネアを襲った連中もバカなヤツらだ。何もしなければエルマとハチに命を奪われることも無かったのに。ネアの言うとおりバカだよ」

 ご隠居様は寂しそうな表情を浮かべ、酔っぱらっている異邦の連中を眺めていた。

 「あの中からもバカな考えを起こすヤツが出てくるかも知れない。ケフで金を稼げなかったら、簡単に外道の道に転げ落ちる。外道に堕ちた者は日の当たる所に連中を憎む。アイツらのせいで本来受け取るべき利益を奪われたと逆恨みするからね」

 ご隠居様はとても悲しい目をしていた。ネアはご隠居様の過去に何かあったのかと推測したが、それを聞くのはとても失礼な事のように感じられた。

 「ご隠居様、このケフに流れてくる人の中でバカは極一部だと思いますよ。バカばっかりだったら、ケフのような田舎に辿り着けませんよ」

 ネアはご隠居様を元気づけるように明るく言った。

 「そうだね。ネアの言うとおりだ。可愛げのあるバカは良いが、害のあるバカは、彼らには悪いががいが出る前に排除しなくちゃならないだろうね。これからのケフにはバカの1人ひとりに付き合って、矯正していくなんて余裕はなくなるだろうからね」

 割り切ったように言うご隠居様の表情は何処か寂しそうにネアには見えた。

ターレの地の南方では穢れの民に対する処遇が厳しすぎるため、南の方に逃れていく人たちが少なくありません。特にケフなどの田舎の豊かでない郷は、慢性的な人で不足なため、避難してきた人たちは貴重な労働力となるため基本的には歓迎されるのですが。ネアが言うところのバカもそれなりに入ってくるのが頭の痛いところです。

今回もこの駄文にお付き合い頂きありがとうございます。

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