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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第20章 将来
302/342

282 三柱の女神

暫く、UPが滞ることになりますが、エタった訳ではありませんので、

今まで同様に生暖かく見守って頂ければ幸いです。

 「彼は、一体?」

 ストラートの出現と異様な行動にヴィットは戸惑いながらも、彼を見て硬直しているラウニに尋ねた。

 「あの人は、野ざらし傭兵団の団長さんです。多分、悪い人じゃないと思います? 」

 ラウニは首を傾げながらヴィットに答えた。そんな彼女の様子を見て、ストラートは悲しげな表情を浮かべた。

 「お嬢さん、そこは疑問形ではなく、断言してください。以前の私はいざ知らず、女神様に出会えたことで、生まれ変わったのです。ここに居るのは、野ざらし傭兵団に引導を渡した元団長です。そして、今は一個の善良な信者です」

 ストラートはラウニに懸命に訴えた。彼女はその勢いに押され、ヴィットの影に隠れるように身を動かした。彼は、そんなラウニの姿を見てがっくりと肩を落とした。

 「多分、ケフに仇なす気はないことは何となく分かった。ところで、君が言う、女神様とは? 」

 「バトさんのことです」

 ヴィットは仮面から見える目に疑問の色を滲ませると、それを察したラウニが小声でそっと彼に伝えた。

 「え、バトが女神!?  ストラート、何か悪い物でも食ったのか? 」

 ヴィットは真面目な表情でストラートに語りかけた。

 「仮面のヴィットほどのお方が、お気づきになってないとは・・・、嘆かわしい・・・、あの方は、私の人生に光を与えて下さったのです。女神とお呼びする以外、あり得ません。あなた方は気づかれないのですか、あの方の素晴らしさを」

 「あー、分かった。うん、その強い思い、痛いほど分かった。態々、呼びたててすまなかった。ただ、あまりこの郷の住民を脅かさないで貰いたい。田舎ののんびりした郷だから、あー、その手の、何と言うか、行動で表す信仰には慣れてないんだ」

 「うむ、気をつけることにしましょう。しかし、ついつい法悦に浸ってしまいますからね。クマのお嬢さん、是非とも、このストラートが女神様に拝謁したいと申していたことをお伝えください。それでは」

 ストラートはヴィットとラウニ一礼すると詰め所を後にした。

 「バトの周りはいつも賑やかだな」

 「バトさんは人を引き付ける何かがあるみたいですね」

 「変り者ばかりだがな」

 ヴィットとラウニは互いに顔を見合って笑い声を上げた。

 

 「あら、フォニーちゃん、そこじゃ見にくいでしょ。こちらにいらっしゃい」

 黒狼騎士団の閲兵式の観覧席の貴賓席で、レヒテの後ろに控えているフォニーに真っ白な毛並みの狼族の婦人が親し気に声をかけてきた。

 「エイア様、お言葉には感謝しますが、恐れ多い事です。ご辞退させて・・・」

 「こんな時はね、子供らしく振舞うものよ」

 白い婦人はつかつかとフォニーに歩み寄ると、突然の事に固まっている彼女の手をしっかりと握って貴賓席の前の方に引っ張って行った。

 「レヒテ様、今日はフォニーちゃんを貴賓席に連れて来たのは良い事だけど、詰めが甘いわね。こういう時は、貴女の侍女としてじゃなくて、お友達として扱ってあげるのよ。とやかく言うヤツがいたら、そこは郷主のご令嬢という伝家の宝刀を抜いてちゃっちゃっと黙らせるの」

 彼女はパルと一緒に目を輝かせて整列した騎士団員を見つめているレヒテにやんわりと忠告した。

 「うっかりしてた。ごめんねフォニー、気づかなくて。エイアも気づいてくれてありがとう」

 レヒテは白い婦人に頭を下げた。そんな彼女の様子を見てエイアはにっこりとほほ笑んだ。

 この白い狼族の婦人は、訓練場で指揮を執っているガングの妻であり、整列しているルッブの母親であり、デーラ家の直系であるとともに、真の長であった。

 「メムがパル様の横で堂々と見学していたのは、空気を読まないってことだけじゃなかったんだ」

 フォニーはメムの横に立つとそっと囁きかけた。

 「私だって、弁えていますよ」

 フォニーの言葉にメムはうーっと小さく唸って牙を少し見せた。

 「そう言う事にしておくよ」

 フォニーはメムに小さく笑って答え、そして視線を閲兵式に目を転じた。整列した団長以下の騎士団員に対して、商工会の会長がお祝いの言葉を長々と述べていた。

 「傍で聞いているだけでもツライよね」

 小さな声でメムがフォニーに囁きかけてきた。その声に横にいたパルの耳がピクリと動いたのをフォニーは見逃さなかった。

 「そう言う事は言わないものよ」

 フォニーは鋭くメムに囁くと、形だけでも会長のお話に耳を傾けた。

 「ね、フォニー、あの人、野ざらし傭兵団長だよ」

 フォニーが数えることも止めた欠伸をかみ殺す作業をしている時、レヒテが彼女の肘を指でつつきながら視線でストラートがいる方向を指してきた。

 「いますね・・・、バトさんを追いかけて来たのでしょうか」

 「それ以外は考えられないよ。全くの勘だけど、騒ぎが起こるような気がする。あ、動き出した。どこに行くんだろ」

 「大ごとにならないことを祈ります」

 レヒテとフォニーの主従は互いに見合って小さなため息をついた。


 「お師匠様、こんなに食べられないよ・・・です」

 ケフの中央にある広場に面したカフェで目の前に山盛りにされたパフェらしきものやパンケーキにこれでもかと増加装甲や新機能を詰め込んだ物を目の前にして、ティマは助けを求めるようにアリエラに訴えていた。

 「たくさん食べて、元気よく育ってもらいたいの。でも、ちょっと多かったかな」

 ティマの言葉にアリエラはスウィーツたちが観閲式を行っているようなテーブルの上を改めて見て、内心やらかしたと後悔していた。

 「それ、全部アリエラ持ちだよ、と言うのもキツイから、私たちが食べる分だけは払うよ」

 「舞い上がるのも考えモノです。師匠らしく、冷静に行動するべきだと思いますね」

 バトとルロは呆れたような表情でアリエラを見つめると

 「ティマちゃん、食べたい物を教えて、残りは私らが胃袋に入れるから」

 バトの言葉に従って、ティマがテーブルの上の色とりどりのスウィーツから、モンブランを思わせるケーキを一つ選びだした。

 「これが一番食べたい」

 ティマをそれを自分の前にドンと置いて嬉しそうにアリエラを見つめた。それを確認するとバトとルロは自分の食べたい物を手にした。

 「それでも余るね」

 バトがテーブルの上に誰も手を付けずに残っているすスウィーツたちを見つめた。

 「お金は兎も角として、勿体ないですね」

 ルロも残念そうに残ったスウィーツたちを眺めて寂しげな表情を浮かべた。

 「これは、良さげな匂いがしておるな」

 バトたちが余ったスウィーツをみつめていると、すーっと手が伸びてきてカップケーキをしっかりと握った。

 「えっ? 」

 アリエラたちがその手の主を確認すると、そこには、ラールとエルマの姿があった。彼女らは最初からそこに居たように非常に寛いでいるように見えた。

 「私は、これを頂きますね。お代は払いますから、心配なく・・・、ええ、剣精様の分も」

 シフォンケーキを手にしたエルマがニコニコ顔のラールを見てため息をついた。

 「食べ物は、胃袋に納められてこそ、成仏するんじゃ。残すと化けて出よるぞ」

 ラールは手で探ることなくフォークを手にすると、迷わずカップケーキに突き刺した。

 「剣精様は、目が見えないのに・・・」

 ティマがモンブランのようなモノを食べる手を止めて、不思議そうにラールを見つめて呟いた。

 「お主ら晴眼者は光で物を視ておるが、儂は、光以外を視ておるのじゃ。お主も鍛錬すれば視えるようになるかもしれんぞ」

 ラールは一口、カップケーキを口に入れると見えぬ目を嬉しそうに細めた。

 「エルマ様は光以外を視ることができるんですか? 」

 ラールの弟子であるエルマにティマは子供らしい直球で尋ねてきた。

 「お師匠様のように力の流れや温度の違いは視えないですね。そのような能力は生まれながらの才も必要だと思いますよ。でもね、皆が嘘をついているのは見抜くことはできますらね」

 エルマは優しくティマに答えると、凄みのある笑顔をバトたちに向けた。

 「つまらん小細工は通じないと心して置け」

 「Yes ma’am! 」

 「よろしい」

 エルマの言葉に残念トリオは立ち上がり直立不動の姿勢でエルマに答えた。

 「休みの日までやるとは、無粋じゃのう」

 ラールは少し顔をしかめたものの、食べる手を止めなかった。

 「私には無理かな・・・です」

 「やってみる前から諦めると勿体ないぞ。やってみてダメならダメと割り切れば良いのじゃ。それを事を起こす前からウジウジ思い悩んで、時を失することになると、後悔しか残らんようになるからのう」

 ラールはそう言いながらチラリとエルマに見えぬ目を向けた。


 「わが女神様、ここに居られましたか。ご尊顔を拝謁でき、恐悦至極でございます」

 ティマたちが他愛のない雑談をしながらスウィーツを味わっている時、いきなり大声が広場に響いた。

 「なんじゃ? 」

 ラールはそう言うと視えぬ目を声のした方向に向けた。その方向には王都で浅からぬ因縁があったストラートが五体投地している姿があった

 「あの人ですか・・・、バト、どうするのですか? 」

 エルマは、ストラートを石をひっくり返した時にその裏に蠢ている虫を見る目で彼を見つめながら硬直しているバトに尋ねた。

 「ど、どうするも、こうするも・・・」

 いきなりのストラートの出現にバトはただ戸惑っていた。ルロもアリエラも硬直し、ティマに至っては泣き出しそうな表情になっていた。

 「邪魔なら、斬ろうかのう」

 ラールはそっと杖を握りしめ、立ち上がろうとした。

 「え、えええ、な、なんと・・・、奇跡、これ以上の悦びが世にあろうか」

 ストラートはバトたちを見ると、感動のあまり涙を流しだした。

 「な、何を言っているのですか? この人は・・・」

 「斬ろう」

 ストラートの行動にエルマは嫌悪を通り越して正体不明の生物を目にしているような気分になり、ラールは仕込みを抜刀しようとしていた。

 「麗しい女神様が三柱もおられる。ケフはまさに天国・・・、神の国はここにあった」

 ストラートは蹲ったまま歓喜に打ち震えていた。

 「今、この男、三柱と抜かしよったな」

 「バトいがいの2人・・・、この子たちは既に王都で彼に会っていますから・・・」

 ラールとエルマは互いに顔を見合わせ、身体全身が粟立つのを感じた。

 「やはり斬ろう」

 ラールは仕込みをついに抜刀し、ストラートに斬りかかろうとした。

 「剣精様っ、こんなのでも切れば罪になります。押さえてください」

 バトはストラートとラールの間に立って両腕を広げて立ち塞がった。

 「嗚呼、何と神々しい・・・」

 ストラートはバートの献身的な行動に、ラールの勇ましさに感動し、歓喜に打ち震えていた。

 「怖い・・・」

 ティマは、そんなストラートを見ると恐怖のあまりアリエラにしがみついた。

 「ティマちゃん・・・」

 アリエラはストラートへの嫌悪より、ティマがいきなりしがみついてきてくれたことへの歓喜に打ち震えていた。

 「・・・そのような所でへたり込んでいると、道行く人たちの迷惑になります。さ、立ちなさい」

 エルマは倒れたまま悦びのあまりピクピクと震えているストラートに屈みこんで優しく声をかけた。

 「嗚呼、なんとお優しい言葉、染み入ります・・・」

 ストラートはエルマの呼びかけにも法悦に浸るだけで立ち上がることもしなかった。そんな彼を見ていたエルマの表情に苛立ちが滲み出てきた。

 「優しく言っている間に従うのが長生きするコツだぞ」

 しゃがみ込んだエルマは少しドスを利かせた声で囁いたが、ストラートは歓喜に痙攣するばかりだった。

 「人が優しく言っているうちに動かんか。あ、立て、立ってそのままこの場から立ち去れ。ネズミの糞の価値もない貴様に、このエルマ様が直接命じてやっているんだ。感謝して、そのまま立ち去れっ」

 遂に、エルマがストラートを怒鳴りつけた。その迫力に思わず彼はその場にばね仕掛けのように立ち上がり、エルマに手を合わせ深々と頭を下げた。

 「お言葉、有難く頂きました。紫の女神様」

 ストラートの言葉を耳にしたエルマに驚愕の表情が爆発的に浮かんだ。

 「見たのか・・・」

 「そのとおりでございます。紫の女神様、神々しっー」

 ストラートの言葉を聞いたエルマは彼が言葉を言い終わらないうちに猛烈に殴りつけていた。殴りつけられたストラートは数歩分吹っ飛び、そのまま崩れ落ちて動かなくなった。

 「短気は起こすな。こやつは鍛えておるから死にはせんだろうが、ちと手を出す時期と場所を考えよ。しかし、あれほど大地の気は重要じゃと言っておったのに、あのような無粋なモノを未だに穿いておるとはのう。色は分からぬが、紫と言えば一般的なモノの色ではないのではないか」

 ラールは怒りのため肩で息をしているエルマを宥めるようにその背中を軽く叩いた。

 「紫色かー、結構大胆な感じ」

 バトが思わず感想を漏らすと、エルマは殺意が籠った視線を投げつけてきた。それを見たバトはその場に身を小さくした。

 「こやつがくたばっておる内にずらかるぞ。エルマ、儂らもこやつに女神に認定されたようじゃからのう」

 「はい、そうしましょう。皆、お会計をさっさと済ませなさい。面倒な事に巻き込まれる前にここから立ち去ります」

 エルマは自分たちが食べた分をバトに押し付けると、口笛を吹いた。

 「マダム、ここに」

 どこからともなく、ブレヒトたちが現れ、エルマの前に跪いていた。

 「そこの男を気付かれないように見張りなさい。どこで何をしているか、後日、報告に来ること。いいですね」

 「Yes ma’am! 」

 エルマが命じると彼らは一斉に立ち上がり、ローマ式の敬礼をすると、現れた時のようにさっと散って行った。

 「お師匠様、行きますよ」

 「中々、有望な駒を持っておるな。あの犬の子、後数年経つといい感じになりそうじゃな」

 「ごちゃごちゃ言ってないで、行きますよ」

 むっとしてエルマはラールに言い放つと、彼女を引っ張るようにしながらその場から立ち去って行った。

 「私たちも早く逃げないと、面倒な事になるよ」

 アリエラが怯えるティマを抱きしめて立ち上がった。

 「お会計は私たちがしてきますから、バトは早く逃げて、……リンゴの所で会いましょう」

 ルロがバトの耳元で小さく囁くと彼女は頷き、エルマから預かった代金と自分の分の代金をルロに手渡すと、脱兎のごとくその場から走り出し、街の雑踏の中に消えて行った。

 「さっさと支払って、さっさとトンずらしましょう」

 ルロはバトから預かった代金を手にするとアリエラから代金を取り上げ店の中に入ると鼬族のウェイトレスに手渡し、アリエラを急かすようにしてその場から足早に立ち去って行った。


 「盲目の女神、紫の女神、そして光の女神。何という幸運なのだろうか」

 春の芽吹き亭に戻ったストラートは腫れた顔を気にする事もなくマイサに話しかけていた。

 【剣精様とバトにあったみたいね。紫の女神って・・・剣精様と一緒におられるエルマさんの事かな】

 うっとりとしながら話すストラートの言葉を聞きながらマイサはウンザリとした表情を浮かべていた。

 「アンタ、エルフ族なら皆女神様なの? 」

 「まさか、今まで多くはありませんが、エルフ族の方と仕事や閨を共にしましたが、女神様ではありませんでしたよ。女神様たちは女神様たちなのですよ。偶々、女神様たちがエルフ族ということだけです」

 ストラートはマイサの疑問に当然の事とばかりに答えた。

 「アンタの言う女神様の一柱は、剣精様だと思うよ」

 「あの剣気、只者ではないと思っていましたが、あの方が剣精様なのですね。噂は耳にしていましたが可憐な女神様ですね」

 昼間の事を思い返しながらうっとりと話すストラートを見ながらマイサはため息をついた。

 「灰汁の強いエルフ族だったら女神様なのかな。間違ってもアルア様には言い寄らない事。いいね。あの方は宰相様の奥様なんだからね。そんなことしでかしたら、もう二度と女神様を拝めなくなるよ」

 マイサは真剣な表情でストラートに注意を促すと彼は微笑みながら頷いた。

 「我が信仰はあの三柱の女神様に捧げられています。それ以外にはあり得ません」

 「このケフには結構エルフ族がいるからね。妙な事をしたら騎士団に退治されるからね。そうなっても知らないからね。絶対に巻き込まないでね」

 マイサは何度もストラートに確認した。その都度彼はにこやかに頷くのであるが、彼女が安心することはなかった。

ストラートが暴走しています。その暴走にエルマとラールまで巻き込まれています。

彼はそれなりの腕はありますが、ラールには多分、秒殺される程度でしょう。

エルマにも歯が立たないと思われます。バトにも怪しい状態でしょう。

彼は信仰を貫くことができるのか、新たな宗教が立ち上がるのか。

(本筋とは関係の無い事ですが、多分)

今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

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