280 帰郷
これから師走にかけてUPが滞りがちなると思いますが、
折れたわけではありませんので、生暖かく見守って頂けると幸いです。
学者先生は「不屈」という言葉の意味を知らぬとみえる。
不屈とは折れた事がないという意味ではない!
折れてなお立ちあがる者を言うのだ!!
by 刀耳(超電磁空手家)
私は、簡単にポシっと折れていますが・・・
「ネア、うなされていたみたですけど、大丈夫ですか? 」
ラウニは、ミエルが朝早くから準備してくれた朝食を寝ぼけたような目で食べているネアにそっと声をかけた。
「うなされていましたか・・・、悪い夢を見た覚えはないんですけど」
ネアは自分の掌ぐらいある大きな乾パンをスープに浸すと小さな前歯で齧ると、きょとんとした表情でラウニを見つめた。
「明るくなりだした頃におしっこするために起きたけど、その時はニヤニヤしていたよ」
フォニーは柑橘系のジュースを飲んであまりの酸っぱさに顔をしかめた。
「ミエルちゃんのご飯は美味しいんだけど、このジュースはちょっと酸っぱいよね」
「あたしは好き」
ジュースを飲んで顔をしかめるフォニーの横でティマがジュースの入ったカップを両手で持った不思議そうにフォニーを見た。
「そのジュースはね、病気の予防のためなんだよ。長い間船に乗っていると、新鮮な食べ物が食べられないでしょ。そこから病気になるんだって。って、ミエルちゃんが言ってたよ」
「一瞬、すごいと思った私がバカでした。やっぱりバトはバトでした」
少しばかり自慢気に話したバトの横でルロがため息をついた。
「病気の予防のためなら仕方ないよね」
フォニーはそう言うと、ジュースを一気に喉に流し込んだ。
「どんどん寒くなってきたような気がする」
良く晴れた空の下、甲板で朝食後の短槍の素振りを終えたネアが手すりに身体を預け、身を乗り出すようにしながら呟くと、ぶるっと身を震わせた。
「ケフは王都より北にあるからね、空気も変わってきたよ」
「匂いも、変わってきましたよ」
ネアと同じく朝の稽古を終えたフォニーとラウニが海の上を渡ってきた匂いを読み解き、懐かしそうに湿った鼻先をひくひくさせていた。
「懐かしの我が家まで、後少しかな」
フォニーはそう言うと、船の船首の方に走って行って、まだ見えない陸地を見ようと背伸びした。
「フォニー姐さん、落ちたら永久に帰ることができなくなりますよ」
「ネアの言うとおりです。私たちは船や海に関しては素人なんですよ」
ネアとラウニは、はしゃぐフォニーを心配して危ない事をしないようにと声をかけた。
「大丈夫だよ。フォニーさんはそこまで鈍臭くないよ」
フォニーはネアとラウニの心配を鼻先で笑うと、さらに舳先の方に足を進めた。
「フォニーお姐ちゃん、危ないよー、怖いよ」
ティマは、フォニーのいる場所を本能的に怖いと感じ、泣きそうな声を上げた。その時、ネアの横を大きな影が音もなく通り過ぎて行った。
「皆、心配のし過ぎだって・・・・えっ! 」
船首像のさらに先に行こうとフォニーは、襟首を大きなごつい腕で捕まれ、ぐいっと引っ張られ、何が起きたか分からず目を丸く見開いた。
「なにさらしてるんじゃーっ、死にてぇんですかいっ」
フォニーの襟首を掴み、ネアたちがいる場所に引きずってきたハチは、彼女を目の前に吊るすように持ち上げると真剣な表情で大声を張り上げた。
「そんなに心配しなくても・・・」
「海の上じゃもっと悪い事が起きるって言われるぐらいですぜ、姐さん。本来なら、ぶん殴って、倉庫に閉じ込められるぐらいの悪さですぜ。フォニーの姐さんは聡明な方でやんすから、言葉だけで分かってくださると思いやすんで・・・、命を掛け金にする時は今じゃありやせんから。次、同じようなことをしでかすと、このハチ、この拳でお説教いたしやす」
ハチはフォニーの目の前に握りしめた拳を差し出し、真剣な表情で言うとそっと彼女を甲板に降ろした。
「うん、分かった。これから、気をつける。危ない事はしないよ」
フォニーは涙目になりながらハチに頭を下げた。そんなフォニーをハチは目を細めて見つめた。
「流石、聡明なフォニー姐さんだ。姐さんに何かあった時、どれだけの人が悲しむか考えてくだせぇ。勿論、このハチも思いっきり泣きやすぜ。船の上で元とは言え、船乗りが近くにいながら・・・、だからお頼みしやす。危ない事はしないでくだせぇ」
ハチはニコリとほほ笑むとゴツイ手で優しくフォニーの頭を撫で、一礼するとデッキブラシを手に取り、黙々と甲板をこすりだしていた。
「・・・」
海を渡る風号の船長のブレンは複雑なな表情でハチを見つめて、深いため息をついた。
「レヒテ様、ルシア様、ミエル嬢ちゃん、姐さんたち、海を旅することがあったら、俺たちを呼んでくださいよ。海がある限り、どこでも、この、海を渡る風号で馳せ参じます。姐さんたちの人生にいい風が吹くことをお祈りします」
ヤヅの港でネアたちを見送る船員たちは、涙を浮かべた目で彼女らにそれぞれが別れを惜しんでいた。補給のために寄った小さな港で少なくない金を出し合い、急いで職人に作らせた、小さな装飾品を船長が別れの挨拶しながら代表としてレヒテに手渡した。
「コイツは、どんなに海が時化ても港に帰る幸運を呼び寄せるメダルだ。裏には俺たちが祖国、海洋諸島連合王国の紋章が彫ってある。船乗りが信用した人間に手渡すものだ。港町で助けが必要になったら、この紋章がある酒場のオヤジにそれを見せてくれ、きっと力になってくれるはずだ」
船長はレヒテに頭を下げ、ケフの一行を見送った。そして一行の最後尾を歩くハチが前を通った時、知らずのうちに身体をピンと伸ばしていた。
「いい船でした。お気遣い感謝します。でも、俺は食いしん坊のハチでやんすからね。」
ハチは船長の耳元で小さい声で囁くと船長は直立不動のその場に残して、さっさと歩み去って行った。
「・・・」
船長はハチの姿が見えなくなると大きなため息をついて、がっくりと肩を落とした。
「・・・なんだ、見世物じゃねぇぞ。さっさと荷物を積み込んで出港の準備に取り掛かるんだ。港の使用料も馬鹿にならねぇからな」
不思議そうに船長を見つめる船員を怒鳴りつけると、彼はできるだけ感情を見せぬように堂々と船長室に向かって行った。
「お嬢様、雨女がいるんでしょうかね」
ケフのお館の前でレヒテたちを出迎えようとしている人たちの最もお館の門に近い位置に陣取ったパルとメムの上に大粒の雨が容赦なく降り注いでいた。パルが濡れないようにと大きな傘を差しかけているメムは雨合羽を着こみ、フードを深くかぶり、まるでテルテル坊主のよう姿であった。
「多分、雨女はメムでしょうね」
「えー、空気は読めませんが、雨を呼び寄せるなんてことはできませんよ」
パルはずっとレヒテたちが戻って来る方向を見たままつまらなそうに答えると、メムもつまらなそうに口を尖らせた。
「お嬢様、馬車の音がしますよ・・・、もうお気づきでしたか」
メムは垂れた耳を頭を振って頭の上に乗せると音のする方売を見つめ、少しばかり自慢気にパルを見たが彼女は既に音のする方向に耳をと目をしっかりと向けていた。
「お嬢様、さすがです」
メムはどこか寂し気にパルの後ろ姿に呟いていた。
「おかえりなさいーっ! 」
レヒテたちを待ち受ける列の最もお館離れた方向から拍手と大声が飛んできた。それを耳にしたパルは列から飛び出し、声のする方向に雨で濡れるのも構わず走り出していた。
「お嬢様、濡れますよー、足元がドロドロになりますよー」
差しかける主を無くした傘を手にしたテルテル坊主がその後を盛大に泥だとか水だとかをはね上げながら追いかけて行った。
「ネア、これをお嬢に」
馬車は出迎えの行列の最前列で止まった。本来なら、お館のエントランスまで移動する予定であったが、レヒテの我儘でここからお館まで歩くことになったのである。勿論、歩くのは言い出しっぺのレヒテと巻き添えを喰らったネアであった。それを予見していたのか、エルマが既に馬車の停止位置に傘を持って控えていた。彼女は馬車の扉が開き、ネアが顔を出した瞬間にさっと彼女に大きな傘を手渡した。
「承知しました。・・・お嬢、こういう時は、馬車で最後まで移動するのが良いと思うんですけどね」
ネアは馬車から降りてくるレヒテに傘を差しかけながらむすっとした表情で囁いていた。
「皆、雨の中待ってくれているんだよ。それに応えないとダメでしょ。ネアには悪いけど付き合ってね」
レヒテは思いっきり雨を降らす曇天とは正反対の晴れやかな笑顔でネアに言い放った。
「レヒテ様ーっ」
群衆がお帰りなさいを叫ぶ中、にこにこと笑顔を振りまきながら歩くレヒテにネアは雨が当たらない様に傘を差しかけながら懸命について行っていた。普通のお嬢様なら豪雨の中を歩くとは言わないし、歩いたとしてもしずしずとゆっくりと決められた動線を移動するのが普通であるが、レヒテはそうではない。水たまりに足を突っ込むことも、水撥ねがかかろうが、雨にぬれようがお構いなしに、声をかけられたらその方向に移動して握手したり、抱き合ったり、と忙しなく動き回るモノだから、傘係としてのネアは振り回され、すっかり雨に濡れ、ふわふわだった毛皮も濡れたモップのようになり、少しばかりみすぼらしい姿になっていた。
「レヒテ様ーっ、おかえりなさーいっ」
郷の人々と再会を喜んでいるレヒテの元に白い塊が突進してきた。それは、飼い主を待ちわびた犬のような勢いで走ってるパルであった。
「パルーっ、ただいまー」
レヒテと彼女の長年の友人であるパルはがっしりと抱き合って、再会の感動を味わって行った。ネアはそんな2人に雨が当たらない様にと自分が濡れるのも構わず傘を差しだしていた。そこに傘を担いだテルテル坊主がドタドタと走り込んできてネアの代わりに大きな傘を2人に差し掛けた。そして、鼻をクンクンとさせると、そっとパルの耳に口を寄せた。
「再会の感動中ですけど、お嬢様、濡れた犬の臭いがしますよ」
「ーっ」
メムの忠告に耳の先を真っ赤にしたパルが、何の躊躇いもなく彼女のマズルを鷲掴みにしてブンブンと振りまわした。
「・・・お嬢様、そんなに活発に動かれますと、ますます臭いがっ」
ひとしきり振り回された後、メムは涙目になりながらもメムに忠告をしようとしたが、マズル掴みのセカンドシーズンが開始される事態を呼び込んだだけであった。
「メムさん・・・」
パルにマズルを掴まれて振り回されるメムをネアは悲しそうに見つめながら呟いた。
「これを見ると、帰って来たって感じになるよね」
レヒテはマズルを掴むパルと掴まれているメムを見ながら感慨深く呟いていた。
【ケフの風物詩なのか・・・】
ネアは微妙な表情で白と茶色の主従を眺めていた。
「ただいまー」
お館の自分の部屋に何とか辿り着いたネアは自分のベッドの上にちょこんと鎮座しているユキカゼに意識せずに声をかけていた。
【ヌイグルミに声をかけるなんて、変わってきたんだな】
ネアは自分の思わぬ行為に少しばかり眉間にしわを寄せた。しかし、その懸念も次々と自分のヌイグルミに声をかける同居者たちの声にかき消さ背れてしまった。
【俺は、ネアになったんだから、それが自然で普通な事】
ネアは自分に言い聞かせながらも、無意識にユキカゼを抱きしめ頬ずりしている自分に苦笑していた。
「辿り着きましたよ・・・」
ネアたちが戻ってから半月ほどしてからの夜遅く、お館の前に、心身ともにクタクタになったマイサがふらふらしながら何とか立っている姿があった。
「マイサ様、ここがケフのお館なんですね。ここに、姫様が」
彼女の横に控えて、畏怖の目つきでお館を凝視しているのは、何故かバトを姫として一方的に崇め奉る、野ざらし傭兵団長のストラート・ラシアであった。
「ええ、ここがバトさんの勤務場所兼住まいですよ。それとね、あの人は、街エルフですよ。族長の娘とか、古の王国の姫でもありませんよ。ただの町娘ですからね」
マイサはため息交じりに、無駄だと知りながらストラートの思い込みを訂正しようとした。
「何を仰いますか。私にとって姫様は姫様なのです。いいえ、女王様かもしれません。出自などあの方の前では些細なことです。あの方に心身ともにお仕えせよ、と私は天啓を受けたのです」
ストラートの目には信仰に目覚めた者に通じる輝きがあった。彼の身に起こったことは、普通なら一目ぼれと言われる現象である。彼の症状は、古の言い回しでは「お医者様でも草津の湯でも惚れた病は治りゃせぬ」と言われるモノのさらに悪性に分類されるモノであった。
「シモエルフって言われているのもご存知なんですよね」
疲れ果て、じっとりした目で既に何度も確認している事項を再度確認するためマイサはストラートにうんざりしながら確認した。
「シモエルフ、素晴らしい称号ではありませんか。いいえ、ハイエルフを越えた忘却の彼方に追いやられた古のエルフかもしれません。あの方がどんな称号を得られようと、私の信仰が揺らぐことはありません」
溌溂とトンデモないことを口にするストラートにマイサはため息をつく以外になかった。
「ルナルの郷のエイザー家のご息女とスタムの郷のサムジ家のご子息と親しくなったか。レヒテが吹かした訳ではなかったな」
自身の居室で、ネアから王都での報告を聞きながらご隠居様は頷きながら笑みを浮かべた。
「お嬢は、嘘をつかれる方ではありませんよ」
己の孫に対して信用していないような言葉を口にしたご隠居様に、ネアは少しムッとしながら抗議した。
「レヒテが嘘を言っておると言ったわけじゃないよ。自分は相手の事を友達だと思っていても、それが片思いだったってことは良くあることだからね。マイサの報告、ネアの言葉これで確信を得たよ。それに、ワーティの郷のジャッシュ家、ミーマスの郷のサミリ家とも親しくなったというじゃないか。ジャッシュ家もサミリ家も大きくはないが、北部と言われる地域にある郷で、位置的にも近い、しかもこれらの郷の考え方は我々に近いと言うじゃないか。サムジ家の次期郷主は兎族の女性を妻に迎えようとしているなんて、これは凄いことだよ」
ご隠居様は自分を落ち着けるようにネアが淹れたお茶に口をつけた。
「命で山を削って生計を立てている者に、種族がどうだとか言っている余裕はないとのことでした。この考え方は貧しく小さな郷に多いように思えましたが、逆に近隣の大きな郷にすり寄るため、その郷の方針をそのまま飲み込んでいるような郷も少なからずあるようです」
「処世術は一つじゃないからね。郷を囲む状況、郷内の状況、それぞれあるだろうから、それは仕方のない事だよ。ケフやヤヅのように近くに敵対的な大きな郷がないだけでも幸運であるとおもうべきなんだろう。ケフも建郷してから、どこかで舵を取り誤っていたら、どこかに飲み込まれていたかもしれないからね」
ネアの言葉にご隠居様は少し寂しそうに言うと、小さなため息をついた。
「我々に近いかどうかは判然しませんが、ナルゴの郷の次期郷主はエイザー家のヨーラ様の支配下になられてしまいました。ヨーラ様がどのような方法でそうなされたのかは分かりませんが、イエッカ家は暫くはエイザー家の言いなりになるでしょうね」
ネアはヨーブの醜態を思い出しながら、面白そうに口にした。
「そうだねー、戦することもなく、小難しい策略を巡らすこともなく、ヨーラ殿は一つの郷を見事に支配下に置かれた、これは、どんな郷主でもできる事じゃない。間違ってもエイザー家を敵に回しちゃいけないよ。ヨーラ殿が舵取りを為されている間はそんな事はないと思うけど」
ご隠居様は面白そうに話をしながら、内心ヨーラの手腕に脅威を覚えていた。彼女は、家臣からも慕われ、郷の大小、富の有り無しで相手を見ることなく、相手の内心を見て判断し、買収しようとしたらその時点で敵と認定する、味方にすれば心強く、敵に回ればこれ以上に厄介な存在はないであろうとご隠居様は判断していた。
「ご隠居様、実は、バトさんに新たな家臣と言うか、信者ができてしまったのですが」
「ああ、マイサから聞いているよ。あの不愉快な連中に探りを入れていたら、命を狙われたらしい。そんな彼女を助けたのも彼らしいよ。ネアも目にしただろ。あの英雄、どうも彼は、周りから煽てられ、祀り上げられているらしい。そして、あの正義と秩序の実行隊も彼の扱いに困っているらしいよ。彼は英雄として独立した存在で、正義と秩序の実行隊の命令系統の外にいるようで、彼を動かす権限をもっている者はいないようなんだ。かろうじてコデルの郷の郷主の弟であるナトロ・へリントン殿の依頼でのみ動いているようで、それも完全にコントロールできているようではないらしい。彼に大きな影響を与えているのは、正体不明の導きの乙女だけとのことだよ。ひょっとすると、彼は我らの脅威になる前に消されるかもしれないね。ま、希望的な憶測だけどね」
ご隠居様は、マイサから報告されたことを手短にネアに語って聞かせた。
「そうですか。マイサさんも気づかれなければもっと情報を手に入れることができたかもしれませんね」
ネアは少しばかり残念そうに言うと、ご隠居様の表情が曇った。
「彼女が気づかれたと言ったが、彼女は英雄の元に潜入なんてしていないよ。ただ、そこの使用人に酒場とかで話を聞いていた程度らしいんだけど、規律を守るためと言って勝手に警邏していた正義と秩序の実行隊の隊員に英雄の身の回りを世話している使用人と話をしている所を見られたかららしいよ。使用人たちが言うには、正義と秩序に関わる者が酒場で呑むなんて言語道断らしいよ。で、そこで、マイサは怪しいヤツ認定され、王都を散々追い回されたようだよ。で、そんな彼女を救ったのが野ざらし傭兵団長のストラート・ラシア殿だったという事だ。マイサは彼を護衛にする代わりにケフまでの道案内をするという契約をしたらしいよ。彼女の置かれた状態から察すると仕方のない事だけど。バトには恨まれるかもしれないね」
「奴ら、自分たちの仲間も締め付けているんですか。ますます、関わりあいたくないですね。ところで、ラシア様はこれからどうされるんでしょうか」
ネアは、ご隠居様から聞いた正義と秩序の実行隊の行動に嫌悪を覚えながらも、あの拗らせた傭兵団長がこれからどうするかが気になった。
「ジーエイ警備の嘱託として働けるようにリック君あてに紹介状を書かしてもらったよ。彼からすると、カイもクゥも彼の信仰対象のお友達だから変な事はしないと思うからね」
ご隠居様の言葉からすると、ケフで彼と遭遇する可能性が非常に高くなるとネアは判断した。
「バトさんの心労が激しくなりそうですね」
ネアはあのシモエルフが精神的に疲れ果てることを心配しつつも、何か面白いことになりそうだと少しばかり期待して、思わず笑みが浮かんだ。
「随分と黒い笑みを浮かべるんだねー」
そんなネアを見ながら、ご隠居様は肩をすくめた。
野ざらし傭兵団長がケフにやってきました。
野ざらし傭兵団は、独立採算制で大きな仕事がある時に傭兵団として行動し、それ以外は個々人がフリーで仕事している状態です。ですから、傭兵団長と言っても、そこまで権限がある訳でなく、大きな仕事の時、少しばかり分け前が多い程度です。剣の腕はそれなりにありますが、人生において大きく歯車のかみ合わせが狂ったようです。
今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。