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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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29 大いなる穢れ

知らないと言うことは、時には意図してやることより悪質になるモノだと思っていたりします。

ルップは見ての通り、武人と言うより芸術家タイプです。その性格のため苦労していきます。(確定)

穢れの民に対する風当たりは結構厳しいです。この辺りの人種間のいざこざは絶える事が無いと思われます。

 「穢れの民って言葉、好きじゃないです」

 カップをテーブルに置きながらラウニが呟いた。

 「生きていることが悪いことみたいに言われているようで・・・」

 伏せ目がちに呟くラウニにその男は

 「ああ、嫌な言葉だな。話ができる相手に言う台詞じゃないな。俺もその言葉は使わないようにするよ」

 背後の席の長身痩躯の銀髪の男はそう言うと自分のカップを口元に運びお茶を一口、喉に流し込んだ。

 「ねぇ、お嬢ちゃんたち、最近、さっきの嫌な言葉を吐き散らす、いけ好かない連中の厄介に巻き込まれたりしたことはない?」

 化粧は濃く、身にまとう布は薄い、ケバ目のグラマラスなおねーさんが彼女たちににっこりしながら尋ねてきた。

 「ここでは、見ないよ。第一、ここでそんなこと喚いたら、大変なことになるよ」

 フォニーの答えにおねーさんはうなずいた。

 「実はさ、わたしら、ボウルのお店を継ぐことになったのよ」

 「ボウルのお店・・・、お菓子屋のボウルさんのお店?最近、ずっと閉まっていたからもう、辞めたのかと思ってました。ボウルさんは病気かなにか・・・」

 ラウニが何かを思い出すように上を見上げて、はっと気付いたようにおねーさんに問いかけた。

 「ボウルさんは、ドワーフで髭モジャだから分かりにくいけど、随分とおじいさんだったのよ。で、引退して、故郷に戻ったの」

 「そして、俺たちがその店を継ぐことしたんだ。店の名前は変えずに、ボウルのお店のままだ。お嬢ちゃんたちご贔屓にな」

 その2人は立ち上がると、ウェイターにお茶代とチップを手渡し、ネアたちに軽く手を振って立ち去っていった。

 「・・・穢れの民?」

 よく耳にするが、何故自分たちが穢れているのかさっぱり分からないネアが、意を決して先輩方に尋ねた。

 「昔々、世界には獣人、エルフ族、ドワーフ族もいなくて、真人だけだったという話、その頃の人は空を飛び、遠くの風景や音をお家の中にいながら見聞きすることができて、人の代わりに仕事をする人形だとか、それはスゴイ技術を持っていたと言われています」

 ネアの疑問にラウニが訥々と語りだした。

 「人は、夜を昼のように明るくし、病も老いも克服したってね。お話でよく聞かされたなー」

 フォニーがこんな話も知らないの、と言う表情でネアを見つめた。

 「フォニーの言うとおり、人々の生活は大変便利になったそうです。でも、一つの国を焼き払い、毒で後々生き物が住めなくなるような武器を使ったり、空から隕石を降らしたり、と人同士で殺し合いをするようになったそうです。そして、やってはならないこと・・・、生命すら作り出したそうです。それを見た神様はとてもお怒りになって、人々から様々なもの、武器や技術を取り上げて、罪の大きさに応じて人々の姿を作り変えられた。罪が大きいほど人から離れた姿にされた・・・、そんなお話です」

 ラウニはそう言うとため息をついた。

 「うちらは、生まれながらして罪に穢れている・・・、罪人の子孫ってことになるのよ。真人は無辜の民って言われて、罪が無い人の子孫ってこと・・・、グルトなんて、真人だけど罪だらけだよ。このお話をまるまる信じている困った人もいるからね・・・」

 フォニーもつまらなそうにネアに説明した。

 「変な話・・・、罪としてなら、なんで私たちって、真人より力が強くて、素早く動けて、耳も鼻も利くだろ、罪だったら真人より何もかも負けていないとダメなんじゃないかな・・・」

 「ネアの言うとおりです。だから、このお話が間違っていると言う人もいます。お館様をはじめ、このケフの住人でそのお話を信じている人は少ないでしょうね」

 「あまり、面白くないお話・・・」

 【真人に優位性を与えるために造られたような話だな。いずれにせよ、獣人は身の程を弁えていないとやられるってことだな】

 ネアはつくづく、ケフの郷に湧いて良かったと思わずにいられなかった。

 それからの侍女たちの話題は次の休日にどこでおいしいものを食べるかと言う、たわいないものにシフトしていった。


 「兄様、どちらへ?」

 嵩の高い荷物をもって屋敷からこそこそと外に出ようとするルップを目にしたパルは低い声で兄を呼び止めた。

 「え、あ、ちょっとな」

 パルに呼び止められたルップはギクリとして足を止めたが、ひきつった笑顔であいまいな答えを返すとさっさと外に出ようとドアに手をかけた。

 「私もついて行きます。来るなと言うなら、ここで兄様に大声でいってらっしゃい、と声をかけます」

 にっこりしながらパルはルップを半ば脅迫してきた。

 「分かったよ。大人しく付いてくるならいいよ」

 ここで押し問答しても始まらないことを心得ているルップは肩をすくめると妹に付いて来いと手招きした。屋敷を出るとルップは荷物を抱えて広場へと足早に歩き出した。パルもそれに後れまいとスカートが足に纏いつくのを気にしながら兄の後を追った。広場に辿り着くとルップは広場に面した人の少ないオープンテラスの一角のテーブルに着いた。そして、徐に抱えていた袋からスケッチブックやパステルを取り出した。

 「兄様、お父様からそのようなことは慎むように言われていたのでは?」

 パルは心配そうに兄に声をかけた。父である騎士団長から慎むようにと言われているが、その真意は「禁止」であるためであった。

 「絵を描くというのは、精神を落ち着けるとても大切なことなんだよ。父上は馬鹿にされているが、これと笛はやめないよ。もし、騎士としてダメなら吟遊詩人になっても良いと思っているんだ」

 ルップは真っ白なスケッチブックに手早くあたりを付け行きながら妹の批難がましい言葉に応えた。

 「ここは、ハーブティとビスケットがおいしいお店なんだ。僕とお前の分を注文してきてくれないか?御代はボクが持つからさ」

 「私は勝手に付いてきたのに、それぐらい払えます」

 「いいよ。ボクも話し相手が欲しかったんだ。小銀貨2枚あれば、流行の尾かくしが買えるぞ。尾かくしの見立てはフォニー殿が良い目を持っていると聞いているから、今度、彼女が休みのときに一緒に買いに行くといいんじゃないか」

 ルップはスケッチブックをにらみながらパルに注文してくることを促した。しかし、尾かくしのことについては蛇足だった。

 「そんなことでフォニーさんの手を煩わせることもありません。あの方も暇じゃないでしょうし」

 「・・・そうか、お前とフォニー殿は結構気が合っているように見えるんだけどなー」

 その言葉に、パルは絶句した。どこをどう見たら私たちが仲の良いお友達に見えるのか、兄様の目は飾りかと言いたくなるのをぐっと堪え、兄の言うとおりにお茶とビスケットを注文するため、手持ち無沙汰にしているエルフ族のウェイトレスに声をかけた。

 「あ、デーラのお嬢様、いらっしゃいませ、奥にもっと良い席がありますが」

 ちょっとあわてたウェイトレスにパルはにこやかに

 「あの席がいいんです。お茶とビスケットのセットを二つお願いします。・・・、あまり気を使わなくていいですよ」

 最後の言葉に笑顔をそえてウェイトレスに注文を済ませると、周りのことなど全く見えていない兄が懸命にスケッチブックに何かを描きこんでいた。そんな兄の姿を見つつ、パルは注文したお茶とビスケットを待つことにした。兄は話し相手と言っていたが、没頭しだすと兄は人の言葉なんぞ耳に入らなくなってしまうことは充分に承知している。絵を描いている時の兄は、練兵場で悲壮感溢れる兄ではなく、本来の兄の姿であると彼女は思っている。また、そんな兄の姿が好きであった。

 「兄様、何をお描きになってるの?」

 兄のスケッチブックを覗き込むと、そこに噴水を中心とした広場の風景とそこを行きかう人々の姿があった。


 「ここの温泉は最高よね。空気もいいし」

 ルップが懸命にスケッチブックと格闘している傍らに湯治に来ているらしい貴族風の中年女性が3名席についた。

 「でも、折角の空気もなにか獣臭いのよね」

 その仲の一人のでっぷりした熟女がわざとらしく手で顔の前を仰いだ。その視線の先にはルップたちの姿があったことは誰の目にも明らかであった。

 「お茶を三つ、あら、貴女はマシね」

 エルフ族のウェイトレスに注文した小柄な女性は彼女がエルフ族あることを確認するとちょっと顔をしかめた。

 「貴女たちいい加減にしなさいよ。ここは、私たちの郷と違って穢れの民が幅を利かせているのよ。下手なことを言うとかみ殺されるわよ」

 背の高い、リーダー格の女性が二人を嗜めた。確かに獣人が多いのは目障りであるが、下手に面倒なことに首を突っ込みたくないと言うのが本音であった。

 「放し飼いの犬もいるのに?」

 太った女の言葉は勿論、パルの耳にも届いたが、彼女も面倒なことは避けたいので黙っておくことにした。

 「でも、可愛い子犬ね。あの白い子なんて、まるでヌイグルミみたい。お家に飼いたいわ」

 小柄な女性がパルを見て素直な感想を述べた。その言葉を聞いたパルはむっとしたがここは我慢することにした。

 「お待たせしました。お茶とビスケットのセット二つです」

 むすっとしているパルの前にエルフ族のウェイトレスがカップと手のひらほどのビスケットの載った皿を置いた。

 「パル様、他の席をご用意しましょうか?」

 「いいえ、この席がいいんです。兄様がスケッチするにはこの席が一番みたいですから」

 「申し訳ありません」

 恐縮するウェイトレスにパルはにっこりしながら答えた。彼女はなにも悪くない、悪いとすれば、このケフの空気を読んでいないあの三人なのであるから。むすっとしながらパルはカップを口に運んでお茶を一口飲んだ。

 「兄様、冷めないうちに・・・」

 「ああ、そうだね」

 2人のやり取りを見ていた三人組は顔を合わせて

 「カップから飲むのね、てっきりぺろぺろと舐めるのかと思ってたわ」

 「あの口で器用に飲むものね」

 と勝手なことを口にしだした。それを耳にしたパルは頭に血が上るのを感じた。

 「無痴から来る無礼に一々腹を立ててたら、いくつ腹があっても足らないよ。聞き流すのが一番さ。あまり酷いと衛士が来るから・・・」

 三人組の言葉に対して顔色を変えることなくルップは自分の考えを妹に述べるとお茶をすすってビスケットをかじった。

 「良い味しているよ。お館様好みの甘さを抑えた漢のクッキーもいいけど、ここの甘いビスケットも好きだなー」

 むすっと黙り込む妹と正反対に飄々としている兄であった。ルップの言葉を耳にした三人組も元々悪意があって話していたわけではなかったので黙りこんでしまった。


 お茶を飲み終えた三人組がそそくさと席をたち、ルップも一通り描き終えるとぐぅっと背伸びしながら

 「こんな感じになったよ」

 描き終えたものを妹に見せた。

 「広場ね。いつ見ても綺麗・・・、どこかで見たような・・・・」

 「噴水の前の三人はさ、お館の侍女殿たちさ。あの三人それぞれ大きさも形も違うから面白いんだ。性格も違うしさ」

 「そうね・・・」

 パルは描かれた三人組の中の尖った耳と太い尻尾を持ったシルエットをじっと見つめた。

 「遅くならないうちに帰ろうか。そっと帰るんだぞ。大声でただいまー、はなしな」

 ルップはそう言うとパルにウィンクして見せた。

 二人が勘定を済ませて、広場に出るとルップが絵に描いたような三人組が仲良く手をつなぎながら歩いているのがルップの目に入ってきた。


それぞれの、お休みの過ごし方です。子供は子供なりに苦労しているものなのです。

お家に飼われている猫や犬も気楽そうに見えて、それなりに気を使ったり、見えない苦労をしているかもしれません。

駄文にお付き合い頂いた方に感謝します。

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