表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第1章 おはなしのはじまり
3/341

03 水面に向かって

お話の舞台の説明と

やっと主人公の登場です。

 ターレの大地の西部に横たわるラマクの山脈の南の斜面に張り付くように佇むケフの街は小さな街である。凡そ100年ほど前にタブル・ビケットが王都での権力争いに巻き込まれ、当時、何も無い寒村であったケフに飛ばされたのが始まりである。標高の高さから、夏は涼しく、冬はそれなりに寒く雪も少なくない、これと言った産業も無い村であった。呑気かつ着道楽であったタブル・ビケットはここで獣毛、植物からの繊維、絹などの繊維産業の下地を作り上げるとともに、ラマク山脈からの豊富な水と温泉を利用しての染色、布の生産に力を入れ、2代目のボルロ・ビケットがさらに服飾関係にまで発展させ、繊維の街、服の街としてそれなりに名をなし、成り立ってきた。この街の特色は人口の構成に在るとも言える。初代タブルは亜人と言われるエルフ族、ドワーフ族等や獣の特性を色濃く持った獣人、その他の異形の者ども、つまり、穢れの民と言われる人々に対してわけ隔てなく付き合い、気が合えば友人となり、能力があれば登用する性格であった。これにより、彼がケフの寒村に左遷された時、多くの穢れの民が彼を慕って移住してきたこのため、他の国と比較して無辜の民と言われる真人の比率が低いことである。初代の人徳なのか趣味なのか議論されるところでもあるが、それぞれの種族の特性を活かしたことにより、街が辺境ありながらも何とかやってこれた理由である。


 3代目頭首である、ゲインズ・ピケットが南のスージャの関を何者かが突破し、南の国境であるドゥ河のほとりに広がるベクベ湿原を渡る唯一の街道を遮断し、スージャの関と連絡も取れない状態になっているとの報せを受けたのは三日前のことであった。

 「お館様、物見の報告によると敵は騎馬凡そ50、徒歩兵凡そ100、それとスージャの関にはピケットの旗が掲げられているとのことです」

 義父、つまりボルロ・ビケットに見込まれ、また彼自身がボルロに心酔したため、流浪の傭兵暮らしから、ケフの街に根を下ろし、この小国の貴重な戦力の一つとなっている「黒狼騎士団」の団長である狼族獣人のガング・デーラが黒い毛むくじゃらの顔に苦々しげな表情を浮かべながら小声で報告した。

 名は騎士団であるが、実際その主力は徒歩兵であり、騎馬は数騎のみである。構成も獣人が7割を占めており他の国ではあまりお目にかからないような騎士団である。これは、前身がガング・デーラが率いる「黒狼傭兵団」であったことによるものである。


 澄んだ水が湧き出すネーアの泉のほとりに騎士団200名程度を野営させ、明日のベクベ湿原の北に開いたコンセ草原での合戦に備えさせている。このネーアの泉のあるトスダの森からコンセ草原に通じる道は1本、しかもその道の幅は馬車が何とかすれ違える程度の幅しかない。敵がいるとされる場所まで後一日ぐらいはかかるであろう。


 「亡子の木か・・・」

 ゲインズ・ビケットはネーアの泉を見下ろすのに丁度良い小さな山の上に天に向かって突き刺すようにそびえる一本の木を見つめて呟いた。昔、子どもをあの場所で亡くした親がその子のことを忘れないようにと植えたと伝えられる木である。

 泉の周りで野営準備をしている若い騎士団員を見つめる。少なくともここの全員が家に帰ることはないであろう。明後日になるであろう戦いの後、あのような木が何本植えられるのであろうか。それを考えると戦の前の昂ぶりより哀しい思いが勝ってくる。

 王都で王に仕える側近である貴族であるアンデル家の三男として生を受けた彼は、持ち前の気さくさ、種族、階級をあまり気にしないという特異性を持っていたため、宮廷での仕事や生活が水にあわず、王都から離れた小国とのお世辞にも良いとは言いかねる縁談に二つ返事で乗ったのである。そのことについて後悔はしていない。このことは天地神明に誓えることである。

 彼は、儀礼と作法、書類のて、に、を、はや、物事を決めるための会議ための根回し、手柄の奪い合いと責任の擦り付け合い、壮麗な宮殿で繰り広げれる、あまりにも小さく、小汚い世界にはもう戻りたいとは思っていない。22歳で婿入りして10年経ち、二人の子どもにも恵まれ、様々な種族が和気藹々と暮らすこの小国が、己の生を受けた王都より愛おしく、なにより大切なものとなっていた。それは、ここにいる騎士団員全てに対しても同じように感じている。初陣になるであろうまだ幼さの残る若年者、ここに来たときより苦楽をともにした古参の者、小国の国民を懸命に護ってきた騎士団長に対しても変わりは無い。

 「できるものなら、皆を連れて帰りたいものだ・・・」

 きっと引き締めた口から漏れた呟きを耳にした者はいなかった。




 息苦しい、呼吸ができない、漆黒の中感じたのは溺れている時に感じるものと同じだった。少しでも早く水面に上がらないと、冷たい水の中必死で手足を動かした。

 水面を見上げる、ゆらゆらと光が波打っている。早くあそこに行かないと。



 「お、お館さま、あれを」

 騎士団長の長男であるルップが灰色の体毛を逆立てて泉の水面を指差す。まだあどけなさが色濃く残る10歳の狼族の獣人である。この戦いが彼の初陣になるのであるが、まだまだ無邪気に遊んでいるような年頃なのに、と不憫さを感じながらゲインズ・ビケットは彼が指差す方向を見つめた。ちょうど泉の水が湧き出していると言われている泉の中央辺りにバシャバシャと黒いものが水を跳ね上げ、もがいている。

 「・・・?」

 目を凝らすとどうもその正体は子どものように見える。そう思った瞬間、素早く身にまとっている鎧を外し泉に飛び込んだ。


 息は何とかすることができた。しかし、身体が水の中に引き込まれていく。何とかしないと、引き込まれまいとあがいている時、襟首辺りをぐいっと掴まれる感触がした。何度か、襟を引っ張られたことはあるが、それは今まで感じたことのない感触である。そのままグイグイと力強く引かれて、ついに芝のような草が生えている硬い地面に引きずり上げられたと感じるが、溺れた時に飲んでしまった水にむせてしまい、それ以外に気を向けることはできなかった。


 「お館様、無茶をなさらないで下さい」

 黒狼騎士団長、ガング・デーラがゲインズ・ビケットに怒鳴りつけるように苦言を呈していた。

 「すまん、つい身体が動いてしまった。」

 自分の足元でむせ返っている黒い背中に手袋、靴下を履いたような白い毛を持つ猫族の獣人の子を見ながら頭を下げた。

 「軽々しく動かれれて、何かあれば全軍に影響が出ます。・・・でその子は?」

 ひとしきり苦言を呈しようとしていたがお館様の足元にうずくまる子どもを見て

 「ルップ、速やかに身体を拭くものとお前の着替え一式もって来い。」

 自分の息子に命じると身体をかがめて咳き込む猫族の子どもの背を優しく撫でた。


 温かい、背に感じる手の感触と乾いた布で包まれて何とか人心地ついて目を開けた。そこには灰色の毛むくじゃらな顔が心配そうに見つめているの飛び込んできた。

 「い、犬ぅ?」

 なんで犬がいるんだ、それより・・・

 「犬?、犬って失礼な、僕は狼族だ、それに僕が犬だったら、君は猫じゃないか」

 なんと、その犬が喋った、それに犬にしては服も着ているし、それに自分の身体を拭いている布を持っているのも前足ではなく毛むくじゃらではあるが、手であった。

 「な、なに、ここ・・・は・・・」

 様々な疑問が頭の中に湧き上がり、質問しようと一つしかない口に集中し、何一つ言葉にならなかった。

 「君、大丈夫かい?名前は?」

 今度は完全な人が声をかけてきた。映画で見たような西洋風な鎧をつけ、赤茶けた口ひげを蓄えた男が頭を撫でてきた。

 「だ、大丈夫・・・」

 何とか応えようと苦しい息の中、言葉を出すが、そこで大きなことに気付いた。

 「名前・・・」

 今まで随分生きてきたにも拘らず名前が出てこない、自分の名前が思い出せない。河に落ちたときに頭を打ったのだろうかと、そっと頭を触る。しかし、いつもと何か違った。自分はこんなに髪を伸ばしてしなかった。それにこの感触は?と恐る恐る頭に出っ張っている者を触る、自分はこんな大きな耳をしていただろうか。

 「名前を聞いているんだが、どうかしたか」

 声をしたほうを見る、さっきの灰色より大きな犬・・・、狼族らしきものがやはりかがみこんで尋ねてくる。悪い冗談か何かに嵌められているのか混乱しながら、名前を失念した。頭を打ったのかもしれない、病院に行きたいと伝えようとしたが、口から出た言葉は

 「わからない・・・」

 聞かれたことに的確に答えるために頭の中で様々な言葉を使って言葉を組み上げるが、口にできるのは子どもでも知っているような言葉と子どものような声であった。

 何が身に起きたのか、それにここはどこなのか、こいつらは何者なのか、自分の置かれている現状が何一つ分からず、疑問ばかりが大きくなっていく。


 助け上げたのは猫族の子どもであった。ガング・デーラはその子どもの眼をじっくりと見つめる。混乱しているが意識はしっかりいるようである。しかし、自分の名前すら分からない状態である。何故、泉の真ん中で溺れていたのか、何処から来たのかを聞こうとしても無駄であることが明確であった。混乱している子どもを立たせ、歳の近そうな息子のルップ・デーラの服を着せようとしたときガング・デーラは頓狂な声を上げた。

 「女の子だったのか?すまぬ」

 そう言うと、猫族の子どもからそっと目をそらして、下穿きやらシャツを手渡すと、

 「その歳だから、自分で着られるな」

と言って背を向けた。


 名前も分からず、言葉も思うようにならず、しかもまる裸であることだけでも充分にショックであったが、この黒い狼が言った、女の子、の言葉に我が耳を疑い、そっと身体を見下ろす。白い毛の生えた身体、そして、あるべき所にあると思っていたものは、そこには存在していなかった。

 一体に何が起こったんだ、俺はどうなったんだと口にしようとしたが、出てきた言葉は

 「なんで?」

 簡単な一言だけだった。

 

不定期、気が向いた時連載です。

長く生暖かい目で見てやってください。

ご意見ありましたら、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おかしな文章だらけな上に人称も滅茶苦茶で面白くない。
[気になる点] ない。このことは天地神明に誓えることである。  彼は、儀礼と作法、書類の【て、に、を、はや、】物事を決めるための会議ための根回し、手柄の奪い合いと責任の擦り付け合い、壮麗な宮殿で繰り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ