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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第20章 将来
288/342

268 へし折る

梅雨も明け、暑くなってきました。

冷たい飲み物が何よりもの御馳走に感じられます。

クーラーの利いた部屋でぼーっとする時の暇つぶしの一助になれば幸いです。

 「僕の審美眼は、誤っていないね。これだと、どこに出しても恥ずかしくない。うん、皆、僕の所に来られて良かっただろ」

 身体にぴったりとフィットし、装着者の曲線美が何よりのアクセサリとなるワンピース状の衣装を着せられ、壁に沿って一列に並べさせられた少女たちにヨーブは目を細めた。彼の中では彼女らの意思なんぞ関係なく、既に彼の元に来ることが決定されていた。

 「審美眼の前に、大層趣味がお悪い事をご自覚されていますか? 特に着る物に関しては絶望的であることを」

 キヌは今にも噛みつかんとする獣のような目でヨーブを睨みつけた。その声は静かであったが、その裏には、この部屋で赤々と燃えている暖炉より激しく怒りが燃え上がっていた。

 「これから、君たちにベッドの上で僕の美に対する想いを教えてあげるよ。こう見えても僕は体力があってね。君たちを平等に愛することができるから、嫉妬する必要なんてないから心配いらないよ」

 ヨーブはキヌの言葉を全く気にすることなく、とっておきの、糸を引くような笑みを浮かべた。

 「・・・ご自身が何を為されているか、承知されているのですよね。他の郷の家臣をその主に断りもなく、ご自身の郷の家臣にする。これは、大きな問題になりますよ」

 キヌは冷静にヨーブがしている事の危なさについて忠告を発した。

 「どこが問題かな? 君らは今よりずっといい暮らしができるんだよ。つべこべ言ってくるのがいたらお金を握らせたら納得するよ。君らの郷は揃いも揃って貧乏なんだから。ルナルの郷と言ってもも古いだけ、落ち目になってから長いからね」

 ヨーブは、世の中の問題の全てが金で解決できると信じていた。実際、郷にいた時に気まぐれで行った悪事の数々も金を握らして、ちょっと脅せば無い事になっていたからである。

 「ここに郷主の娘もいるんだけど、それでも問題ないの」

 他の娘たちと同じような衣装を着せられ並ばされていたルシアが呆れたように尋ねた。

 「郷主の娘と言っても、その郷も聞いたことがないような田舎で、しかも貧乏なんだから、問題ないよ。君も僕の元で贅沢を味わって暮らせることに感謝することになるよ」

 ヨーブは王都でも自分の思いのままに全てを進めることができると信じ込んでいた。

 その時であった。

 宿の最上階のほとんどを占めるスイートルームの扉を蹴破る音が響いた。

 「うちのキヌを迎えに参りました」

 そして、ヨーラの凛とした良く通る声が響いた。

 「若、奥の部屋にこいつらと一緒にお隠れ下さい。糞、あの若造、やっぱり口だけだっか。スペロ、ティボ、ファノ準備しろ。仕事の時間だ」

 ヨーブは軽冑に身を固めた護衛の騎士2人に娘たちを連れてくるように命ずると先頭に立って奥の部屋、ベッドルームに避難していった。


 「ヨーブ様にキヌを迎えに来たと伝えてもらえるかしら」

 奥に続く扉の前で幅広の剣を肩に担いで上体を遊ばせているウラーノにヨーラがにこやかに声をかけた。

 「嬢ちゃん、悪いがそれは出来ねえな」

 ウラーノはヨーラを上から下まで舐め回すように見つめるとにやっと笑みを浮かべた。

 「貴様、お嬢に失礼な」

 「リガン、おやめなさい」

 ヨーラはいきり立つリガンを宥めるとため息をついた。

 「先ほど、ケフの方が言われていた通り、礼には礼を持って応えさせて頂きますよ。貴方、郷主の第一子に剣を向けてタダで済むと思ってらっしゃるのかしら」

 「ああん、俺らはナルゴに雇われているだけで、家臣でも何でもない、あんたらの都合なんて関係ない。契約とおりに働くだけだ。で、イロイロと御託を並べられたが、結局、ここには、誰も来なかった。と、言う事になっている。今なら帰れるぜ。進む気なら通行券を買うこったな、お代は命で支払ってもらう」

 ウラーノは低い声で警告を発した。

 「じゃ、そのお代の命はアンタらので支払うよ。バト、ルロ、アリエラ、彼らは家臣ではないので、手加減する必要はありません。不埒者が絡んできただけです。・・・こういう場合することは? 」

 「心をへし折る」

 残念トリオはレヒテの言葉を合図にそれぞれ剣を抜いた。

 「おい、スペロ、こいつらを始末しろ」

 ウラーノは面倒臭そうに残念トリオを見ると控えていたスペロたちに声をかけた。

 「なーんだ穢れの侍女が偉そうに」

 「潰す」

 「貰った分は働くかな」

 彼女らはそれぞれが抜き身の剣構え、その筋の者がするような脅すような目つきで睨みつけた。

 「今回は趣向を変えてみる。あの程度なら試すのに最適だから」

 バトはそう言うと剣と鞘を逆手にして構えた。

 「剣精様スタイルですか・・・、慣れないことして怪我しても知りませんよ。あのデカブツは私が排除します」

 ルロは斧を構えると、ティボに向けてウィンクして見せた。

 「じゃ、私は隅っこのちっちゃいの。うちのティマを追い廻したことを後悔させてあげるからね」

 アリエラは両手に短剣を構えるとファノに向けると、首少し振ってかかってくるように彼女に促した。

 「ふざけんなっ!」

 スペロが怒声を上げてバトに突っ込んで行くのを合図にティボ、ファノがそれぞれルロ、アリエラに斬りかかって行った。


 「デカい口を叩いたことを・・・」

 スペロは飛び込みさま、剣を横に薙いでバトを切り裂こうとしたが、彼女の剣は空を切ると同時に、背中に人の体温を感じた。

 「遅すぎるよ。そんなに反応が悪いと、殿方に飽きられるよ」

 バトはスペロに笑いながら言うと、ラールがするように背後に逆手にした剣を差し込むかわりに、尻相撲のように、尻で彼女を突き飛ばした。

 「殺す」

 突き飛ばされたスペロは、くるりと身を回すと突風のように突きを入れてきた。

 「だから、遅いって」

 バトはつまらなそうに言うと身体を捻ってまた己の背中をスペロの背中に付けた。

 「ベタベタと気持ち悪いっ」

 スペロが前に出て間合いを取ろうとするのに合わせてバトも同じように背中をつけたまま移動した。

 「剣精様スタイル、なかなか使えるね。でも、そろそろ飽きてきたから、お終いにするよ」

 バトはさっとスペロの背中を軸にくるりと身体を彼女の前に持って行くと、左手にした鞘を彼女の鳩尾に突き刺すように勢いよくねじり込んだ。スペロはうめき声を上げるとその場に崩れ落ちた。


 「へー、面白い得物を使いますねー」

 ハンマーを構えるティボにルロは楽しそうに声をかけた。

 「これで、アンタの背をもう少し低くしてやるよ」

 ティボは言葉が終わらないうちにハンマーをルロの脳天めがけて振り下ろしてきた。

 「動作が大きい」

 ルロは斧筋でティボの一撃を受けると、彼女の攻撃の欠点について指摘した。

 「武器とは、手にした物だけじゃない。身体全身で戦うのです」

 ルロは一声唸ると、ティボの膝に強烈な前蹴りを叩き込んだ。彼女の膝から鈍い音がするとその上体が揺らいだ。

 「授業料はいりません」

 苦痛に顔しかめ何とか姿勢を保とうとしているティボの側頭部にルロは斧腹を叩き込み、彼女を黙らせた。


 「あたいのスピードについ来られるかい? 」

 ファノはアリエラの周りを飛び跳ねながら移動しつつ、自慢とからかいが混ざり合った声をかけてきた。

 「ふーん、その程度で? 」

 両手に短剣を持ったままファノに冷めた目を向けた。

 「悔しかったら捕まえてみな」

 「なんで、そんなアホなことをしなくちゃならないの」

 アリエラは欠伸をかみ殺しながらファノに言い放った。

 「負け惜しみを、これなら、昨日のネズミの方がまだまだ素早かった・・・?」

 「ティマはネズミじゃない、栗鼠だ。間違えるな」

 ファノの目の前にいきなりアリエラが現出した。少なくとも彼女にはそう見えた。そして、驚きの表情を浮かべている顔面にアリエラの拳が叩き込まれた。それも、機関銃の射撃、キツツキが木をつつくように数発が連続で容赦なく叩き込まれた。これは、彼女の意識を刈り取るには十分であった。


 「リガン、あの方が退屈されているようです。お相手してあげなさい」

 ヨーラはウラーノの部下と斬り結んでいる残念トリオを見ていたリガンに声をかけた。

 「そうですね。あの方も退屈でしょうし、と言うか勝負は見え見えですが」

 リガンは腰に佩いた細身の剣に手を添えながらウラーノの間合いに踏み込んで行った。

 「っ! 」

 ウラーノは警告も何も無しに、いきなりリガンに斬りかかったが、彼はその攻撃を身を捻っただけでかわした。

 「それなりに使えるのか」

 「ええ、少し、剣術を齧ったことがありましてね」

 リガンは柄に手をかけたまま、正眼に構えるウラーノにニヤッと笑ってみせた。

 「剣を抜け」

 「そのご心配は無用です」

 ウラーノは剣を抜く気配のないリガンに声をかけるが、彼は一向に剣を抜く気配がなかった。

 「腰抜けかっ」

 ウラーノが剣を上段に振りかぶり、ネアたちならその場から吹き飛ばすような勢いで剣を撃ちつけようとしてきた。

 「今抜きましたよ」

 今、まさに振り下ろさんとしているウラーノ懐にリガンは一足で飛び入り、電光石火の如く剣を抜きながらその柄頭をウラーノ顎に突き上げるように打ち込んだ。歯が数本、宙を舞い、そしてウラーノは真後ろにそのまま倒れて行った。

 「カイ、行きますよ」

 「了解っ」

 カイとクゥはその一瞬を見過ごすことなく、ウラーノが塞いでいた扉を開け、ヨーブの寝室に飛び込んだ。

 「え」

 それは、寝室と言うには余りにも広く、そしてその中央に趣味の悪い天蓋で飾られた巨大なベッドが鎮座しているのを見てクゥは顔をしかめたが、すぐさまルシアの姿を探した。

 「カイ、クゥ、待ってたよ」

 飛び込んできた彼女らの姿を認めたルシアが大声を上げた。

 「なんだ、お前らは・・・、それなりの美をもっているな。末席だが、君たちも僕の所で贅沢に暮らさないかい? 」

 護衛に両サイドを護られ、部屋の外で何が起きているか、知ることも知る気もないヨーブがにやにやとカイとクゥに声をかけてきた。

 「ルシア様を迎えに来た。お前には用はない」

 クゥがきっとヨーブを睨みつけ、言葉少なに自分たちの目的を告げた。

 「どこの騎士かは知らぬが、無礼を働いてタダで済むと思っているのか」

 軽冑をつけた護衛が3人、寝室からさらにどこかに続くであろう扉をひらいて入ってくると抜刀した。

 「わたしら、騎士じゃないよ。ジーエイ警備の警備員さ」

 「なーんだ、警備員か。それなら、僕は君らが手にしている報酬の倍以上と三食昼寝付きの生活を与えることができる。どうだい、悪い話じゃないだろ? 」

 ヨーブはお得意の糸を引くような笑みを浮かべながらカイとクゥに語りかけてきた。

 「私らの報酬は、ルシア様の笑顔」

 「そして、お優しい言葉」

 カイとクゥは抜刀して、護衛を睨みつけた。

 「私らを雇いたいなら、ルシア様以上の笑顔を見せてみな」

 「多分、と言うか、絶対に無理ですね」

 カイとクゥは互いに言い合うと軽冑を纏った護衛たちに斬りかかって行った。

 「カイ、クゥ、この気持ち悪いのは殺しちゃダメ。でも、心はどれだけへし折ってもいいからね」

 解き放たれた猟犬のように飛び掛かる2人に、ルシアは声をかけた。

 

 「警備員如きが、身の程を思い知らせー」

 護衛の騎士が何かを言い終わる前にカイの掌底を顔面に喰らって沈黙してしまった。

 「警告も何もなー」

 文句を口走りながら、カイを背後から斬りつけようとした護衛の騎士も台詞を言い終わる前に、クゥの鞘をつけたまま剣劇を脳天に喰らって沈黙してしまった。

 「お前ら、女如きに後れをとっ」

 護衛の騎士たちの長らしきものは2人による前らかの回し蹴り、背後から脳天への一撃を喰らって、その場に沈んでしまった。

 「残るは、あんただけ」

 「ルシア様に働いた無礼、身を持って償ってもらいます。ルシア様、コイツに酷い事されませんでしたか。・・・こんなヤツの子孫が世にはびこったら」

 あっという間に護衛を潰され、呆然としているヨーブの腕を背中の方向にねじり上げながらクゥが残酷そうな表情を浮かべた。

 「斬り落としても、死なないって聞いたから、試してみようか」

 カイがクゥに取り押さえられているヨーブの股間を短剣でそっと撫で上げた。

 「た、助けて、おい、金なら、金なら・・・」

 ヨーブが恐怖のあまり、泣きそうな声を上げていた。

 「キヌ、大丈夫?」

 「ルシアちゃん」

 人生最大の危機を迎えているヨーブの寝室に、ヨーラとレヒテが雪崩れ込んできた。

 「お嬢」

 「レヒテ姐様ーっ」

 主従と友人同士は互いにひしっと抱き合って声にならない声を上げていた。

 「ソイツが、今回の悪党か。みるからに粗末なモノを持ってそう。これで縛り上げようよ。新たな扉を開けるかもしれないよ」

 レヒテに続いて入ってきたバトがクゥに取り押さえられているヨーブを見てにやっと壮絶な笑みを浮かべた。

 「ナルゴの郷のヨーブ・イェッカ殿、私の大切な家臣にふざけた事をしてくれやがりましたね。キヌ、コイツに何かされましたか」

 暫く抱き合って落ち着いたヨーラが改めてキヌに尋ねた。

 「恥ずかしい格好させられた以外は、ナニもされていません」

 キヌは、バトに亀甲縛りで縛り上げられたヨーブを汚物を見るような目でチラリと見てからヨーラに答えた。

 「もし、何かされていたら、私がナルゴの郷ごと滅するつもりでいましたから」

 妙な姿に縛り上げられたヨーブは、冗談でもなく本気で語られたヨーラの言葉に恐怖し、すんでの所で失禁しそうになっていた。

 「ヨーブ殿、ルナルの郷は一時の繁栄はありませんが、今でもナルゴの郷など蹂躙できる力を持っていることを知っておくべきでしたね。レヒテさん、ここは私とキヌで彼といろいろとお話しますので、席を外して頂けるかしら」

 ニコニコしながら話しかけるヨーラの迫力にレヒテたちは頷く以外なかった。

 「ここの扉の前に立ち塞がっていたのは如何しましょうか? 」

 ヨーブの身の上にこれから何が起こるかを想像して、僅かばかりの同情心を持ったリガンが未だに起き上がらないウラーノを見てヨーラに判断を仰いだ。

 「縛り上げておいてください。誰も許可なく解かないように、あの爆発騒ぎは彼らが何らかの関与していると思いますからね。下の階にいたゴロツキはそのままでもいいでしょう。日が昇ってから王都の衛士に引き渡しましょう」

 ヨーラは倒れているウラーノをチラリと見ると面倒くさそうにリガンに彼らの処置を命じた。

 「ヨーブ殿は、郷主のご子息という事でキツイお叱りだけで済むかもしれませんが、彼らは・・・、雇われる相手を間違えたんですね。かわいそうに。今回の騒ぎの何もかもを擦り付けられるでしょうね」

 ヨーラはそれだけ言うと、手でキヌと自分以外は出て行くように示した。

 「では、我々は宿に戻ります」

 レヒテはペコリとヨーラに頭を下げると寝室か退室していった。

 「さ、宿に戻ってお祝いしよう」

 レヒテは寝室で見つけた毛布をそっとルシアにかけてやると優しく背中を抱いて宿に向かって歩き出した。

 「動いているヤツがいたら、〆て行くよ。完全に心をへし折ってやらないとね」

 「勿論ですよ。二度とふざけたことができないようにしてやります」

 レヒテの言葉にバトが嬉しそうに答えた。


 「そりゃ、微妙な空気になるわな」

 怖気づいて宿のホールから動かなかった主人とさらわれた使用人たちのギクシャクとしたやり取りを見ながらハチがため息をついた。

 「立派な鎧や剣をお持ちなのに、何もされませんでしたからね。私でも2人はぶっ飛ばしたのに」

 ミエルもギクシャクしとしたやり取りを、ただ突っ立ってバツが悪そうに眺めている護衛たちを呆れた目で見ながらため息をついた。

 「お嬢、お怪我はありませんでしたか、ルシアさん、だいじょうぶですか。このホール一帯は制圧したので安全です」

 ヘルムはルシアをそっと抱きながら現れたレヒテに気付くとさっと走り寄って報告した。

 「ありがとう。皆怪我一つしていないから、さ、帰りましょう」

 レヒテはヘルムたちを労うと宿に帰ることを告げた。

 「宿に戻ったら簡単なお食事を準備しますね」

 元気なレヒテとルシアを見て安心したミエルはニコニコしながら先頭をたって歩き出した。

 「これから、戦勝祝いでやんすよ。悪の手からルシア様を連れ戻し、その情報を怖い思いをしながらも持ち帰ったティマの姐さんの働きに感謝する宴は必要でやんすよ」

 「そうだよ。厄落としにぱーっといきましょ」

 ハチの言葉にバトが乗ってきた。彼らの言葉にケフの一堂で異を唱える者はいなかった。


 「レヒテ様、ルシア様、おはようございます」

 翌日、講義を受けるために会議室に入ったレヒテたちを見つけたヨーブが凄い勢いで駆け寄ってきてレヒテたちに深々と頭を下げた。

 「えっ」

 余りの事にレヒテとルシアのその場に固まってしまった。しかし、ヨーブは爽やかな、と言っても、今までと同じ気持ち悪い笑みを浮かべ、にこやかに話しかけてきた。

 「今までのご無礼、お許しください。ルシア様、いかなるお仕置きも受ける覚悟ができております」

 ヨーブは土下座する勢いで頭を下げ、レヒテとルシアは思わず後ずさりした。

 「ヨーブ、ステイ」

 いきなりヨーブに声がかかり、彼はその場で金縛りにあったように固まった。

 「ルシアさんやレヒテさんが困っているでしょ。後でお仕置きです。さ、行きなさい」

 ヨーブに命令したのはヨーラであった。彼女は飼い犬に諭すようにヨーブに命じると笑みを浮かべそして、優雅にレヒテとルシアに挨拶をしてきた。

 「おはようございます。アレについてはちゃんと躾をしましたから、もう安心ですよ」

 「お、おはようございます。一体何をなされたので・・・」

 「ヨーラ様、おはようございます。レヒテ姐様、それは聞いちゃダメだよ。きっと怖い事になるから」

 レヒテがヨーラに昨日何があったのかを確認しようとしたのをルシアが止めに入った。

 「ふふ、イイ女には秘密がつきものと言うでしょ。さ、今日のお勉強が始まりますわよ」

 ヨーラは親し気に微笑むと彼女らを自分の近くの席に案内した。

 「ルシアちゃん、私、今、とても怖い」

 「私も・・・。あれって完全にへし折られていますよね」

 暴れ姫と星詠みは目の前にいるのは、少女の姿をした名状し難きものだと認識し、ぶるっと身震いした。

 「へし折るなんて生易しいものじゃないよ。壊されているよ」

 レヒテは、にこにこと席に着き、ノートなどを準備しているヨーブを見て身震いした。

 

この世界では犯罪に対する取り締まりは、結構ゆるいです。

地位や名声、財産があれば大概の事は有耶無耶にして、被害者は泣き寝入りとなることは少なくありません。

中途半端に豊かな郷の郷者とその一族は性質が悪くなりやすい傾向にあります。もし、悪事がばれても、適当な者に罪を擦り付けて、それでお終いとなることも珍しくありません。

ウラーノ達は非常に残念な例です。

今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

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