表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第20章 将来
287/342

267 突入

梅雨のじめじめより、暑さがきつくなってきたように思います。

元気に外で動き回るのも良し、クーラーの利いた室内で冷たいものでも口しながら過ごすも良し、

そしてその時の暇つぶしの一助になれば幸いです。

 「つまり、ナルゴの郷に鞍替えしろってことかい」

 ヨーラがレヒテたちを襲撃した頃24時間営業の酒場で、ニキビに顔面の半分を覆われた少年がウラーノを前に偉そうに足を組んだまま生意気な口を叩いていた。

 「いまの所の倍の手当てだ」

 生意気な若造を殴りつけたくなる衝動を抑えながら、ウラーノは少年にできるだけ穏やかな態度をとっていた。

 「確かに、今の所は安いからな。俺の配下10人とも面倒を見てくれるんだろうな。王都に行けるってだけで舞い上がちまってな」

 少年は素直に言うとバツが悪そうな照れ笑いを浮かべた。

 「今から来い、仕事はさっき言ったように、押し込んでくる奴らの排除だ。暴れるのは得意なんだろ」

 「ああ、俺たちゃ、危険だからな。ふざけた奴には誰だろうと噛みつくぜ」

 少年は自分が思う最大限の凄みを効かせた表情を作って見せた。その瞬間、ウラーノは少年の髪の毛を掴みにテーブルに押し付けた。

 「噛みつく相手を間違えるなよ」

 「な、なにを偉そうにっ」

 少年は押さえつけるウラーノのを手を振りほどこうとしたが、その腕は微動だにしなかった。

 「噛みつく相手を間違えるな」

 テーブルに押さえつけられ悪態をつく少年にウラーノは言葉を荒げることなく静かに警告を発した。

 「ああ、分かった」

 「言葉遣いがなってないな。こういう場合はどう言うんだ。おい」

 少年には見えていなかったが、警告を発しているウラーノの顔面には仮面をつけているかのように何の表情も浮かんでいなかった。

 「わ、分かりました・・・」

 少年は喘ぐようにウラーノ言うとおりに口にした。

 「俺は、身の程を弁えないヤツが嫌いでな。ふざけた口を利いたヤツを後悔させるのが好きなんだ」

 「・・・分かりました」

 テーブルから解放された少年が恐怖の色を滲ませながらウラーノの言葉に応えた。

 「分かればいい、危険な所は押し込んでくる連中に見せるだけでいい。もう一度言う。噛みつく相手を間違えるな」

 静かに因果を含まさせた。少年はウラーノに恐怖を覚え、逆らってはならない、怒らせてはならないと本能レベルで悟った。


 「皆、私らと同じで心配だったんだね」

 さざ波亭のホールに集まった家臣たちを拐かされた郷の跡継ぎたちが護衛を引き連れてきているのを見てレヒテが少し嬉しそうに口にした。

 「・・・そうとも言い切れないんですよ」

 自分と同じ気持ちの人たちがいると思っていたレヒテに、そっとノバクが耳打ちした。

 「え? 」

 「家臣を見殺しにしたと思われたら、誰もついて来なくなりますからね。次代の郷を担う者として家臣たちからもその力量を計られているんですよ。お嬢のように心から助けたいと思っている人がいないとは言い切れませんけど。だから、彼らに背中を預けるのは危険です。ここで信用できるのは・・・」

 ノバクの言葉を聞き返したレヒテに彼は注意を促した。

 「言われなくても、ここで背中を預けられるのは、ヨーラ様だけだよ」

 レヒテもそっとノバクにそっと囁いた。

 「あらあら、嬉しい事を言ってくれるのですね。流石、ケフの暴れ姫」

 レヒテとノバクがこそこそと話している中、いきなりヨーラが会話に割って入ってきた。

 「ヨ、ヨーラ様」

 「あらあら、そんなに畏まらなくてもいいわ。ぶっちゃけ、今回の殴り込みの主力はうちとケフになりますから。リガンの見立てによると、貴女をはじめ、ケフの方々はそれぞれ下手な騎士より数段上の力をお持ちとのこと。頼りにしていますわよ」

 畏まるレヒテたちにヨーラはニコニコとした笑みを浮かべて答えた。

 「あの馬鹿に目に物見せてやりましょう。死ぬまで忘れないぐらいにね」

 ヨーラはこともなげに恐ろしい事を口走ると、辺りを見回した。そして、深呼吸すると声を張り上げた。

 「それでは、皆さん、ご家臣を迎えに行きましょう」

 彼女の声にホールが一瞬ざわめいたが、そんな事を気にすることなくヨーラは堂々と歩き出した。その後をレヒテが続き、2人を護衛するようにルナルとケフの護衛が後に続いた。


 「皆さん、夜分にごめんなさいね。うちのキヌを迎えに来ました」

 黄金の渚亭に入るや否や、ヨーラはイエッカ家に仕える者たちににこやかに話しかけた。イエッカ家の者たちは蜂の巣をつついたように、ある者はウラーノ達用心棒への連絡に、ある者はどうしていいか分からず立ちすくみ、少しばかり知恵があると自称していた連中は逃げ出した。そんな様子を見ていたハチは静かに深呼吸すると少し前かがみの姿勢をとって声を張り上げた。

 「お控えなすって、お控えなすって、・・・早速のお控え、ありがとござんす。軒下3寸借り受けましての御仁義、失礼さんにござんす。手前、霊峰ラマクの麓、ケフの郷よりまかり越した「錨」のタロハチと申す若輩者でござんす。このタロハチ、ナルゴの郷のご家臣の方々にもの申し上げる失礼、ごめんなすって。我ら、この場にお世話になっておりやす、こちらに控えておられるお兄いさん、お姐さんのご家臣を迎えに上がりやした。以後、万事万端、宜しくお頼申します。粗忽物故、礼儀には礼儀で応えさせて頂く無礼、ごめんなすって」

 ヨーラの背後に控えていたハチが慌てるナルゴの郷の使用人たちに大音声で仁義らしきものをきった。その言葉を聞いた綺麗な身なりをした、背の高い男がハチの前に仁王立ちになった。

 「ふざけた事をするな。道化を雇う気はない帰れ」

 男は野良犬を追い払うようにハチに言ってのけた。その言葉を聞いたハチは黙ったまま男の顔面を片手でアイアンクローの如く掴んだ。

 「礼には礼を持って答える、ご無礼、ごめんなすって」

 ハチはそう言うとそのまま男を掴み上げた。掴み上げられた男は悲鳴を上げジタバタしていたが、ハチはそれを気にすることなく、ゴミを捨てるように片手で投げつけると、男は受け身も取らず床に落下し、沈黙した。それを見た何人かの使用人たちはその場から立ち去って行った。

 「ハッちゃん、口上、かっこよかったよ」

 まだ残っている使用人たちを睨みつけているハチにレヒテがそっと囁いた。その言葉を聞いたハチはレヒテを見て、さっきとは全く違う、嬉しそうな笑みを見せた。

 「あっしらの世界で、他の船に世話になる時の口上を少しばかりアレンジさせてもらいやした。これで、あっしらの目的も知ってもらえたでしょうから、どんどん行きやしょう」

 レヒテたちは残っている使用人を睨みつけながらホールの奥にある上の階に続く大階段に向かって足を進めた。ルナルとケフの後を恐々ついて来ていた他の郷の護衛たちは、怯えあがっているナルゴの郷の使用人たちを見て少しばかり安堵していた。

 「どこの連中かと思ったら、貧乏ものたちが我らの金品を狙ってきたか。用件があるならそれなりの礼を尽くせ。でなければ、この場で死ね」

 軽冑を身に纏った男たちが10名程度ホールに雪崩れ込んでくると、レヒテたちに威嚇するように大声を浴びせてきた。この声にレヒテたちの最後尾にいた連中が小さな悲鳴を上げた。

 「姐さん方、ここはあっしらが持ちやす。ヘルム坊ちゃん、思いっきり暴れやしょう」

 「言われなくてもそのつもりだよ。ハッちゃん、殺しちゃダメだからね。ミエル、下がって」

 レヒテたちが階段を駆け上がるのを見届けると、ヘルムは鞘をつけたままソードブレイカーとナイフを構えた。

 「分かった、お兄ちゃん、ハッちゃん怪我しないでね。・・・戦えない人は私と一緒にいてね」

 この光景にしり込みしている他の郷の護衛たちに下がるように促した。

 「あの、2人で大丈夫なのかな・・・」

 ミエルの元に駆けこんできた護衛らしき少年がポツリとこぼした。

 「あんた、護衛でしょ。なにやってんだか・・・、私らは喧嘩しているんだよ。びびったらその場で負けなんだよ」

 ミエルは彼にため息交じりに言うと、自分の懐から鞘をつけたままナイフを取り出した。


 「坊ちゃん、剣精様のお言葉とおり、相手を良く視てくだせぇ」

 ナルゴの郷の護衛たちを殴りつけながらハチがヘルムに声をかけたた。

 「良く視えるね。まるで止まっているみたいだ」

 斬りかかってきた護衛たちの剣をソードブレイカーではじくとナイフを持った手で殴りつけながらヘルムはハチに答えた。

 「しっかし、他の郷のお方たち、一体何のためにお勤めなさってるんでしょうね」

 「さぁ、立派な装備をされているようなんだけどね」

 ハチとヘルムは何をするでもなくただ立ちすくんでいる護衛たちを蔑んだような目を向けた。

 「お前ら、どこの騎士団だ」

 簡単に部下がのされているを目にした護衛たちの頭がハチたちに抜き身を構えながら尋ねてきた。

 「あっしは、ご隠居様の下男でさぁ」

 「僕は、お館の警備隊の見習い」

 ハチとヘルムは、まるで稽古をしているかのようにナルゴの護衛たちをいなしながら、息も切らさずに答えた。


 「思った通りでした。ケフとヤヅ以外はダメですね」

 ヨーラは自分について来ているのが、ルナルの護衛とケフの家臣、ヤヅの警備会社の社員だけであることを確認してため息をついた。

 「全く、形だけの護衛たちです。あの中に騎士団に所属している者がいるのですから、情けない話です」

 リガンはヨーラの言葉に肩をすくめた。

 「あたしでも戦うのに」

 ティマがヨーラたちのやり取りを聞いて口を尖らせた。そんなティマを心配そうにアリエラが見つめていた。彼女は葛藤していた。可愛い弟子を危険な場所に行かせたくないという思いと、ケフの郷の家臣として彼女に職務を全うさせることを強いる思いであった。

 「ティマ、お嬢の言葉を思い出すのよ。死んじゃダメって、強いヤツとは戦っちゃダメ。強い奴はお師匠様が始末するから。だから、注意しながら暴れて、相手の心をへし折ってやりなさい」

 アリエラはティマの頭を撫でながら、彼女が戦いの場に飛び込むことを肯定した。しかし、もし、ティマが傷ついたなら、彼女を傷つけた者にはそれ相当の思いを味合わせる決心もしていた。


 「騒がしいと思ったら、どいつもこいつもふざけた面しやがって・・・」

 ヨーラを先頭に進んでいると、廊下の正面から十数名の若いのを従えたニキビ面の少年が肩でを風を切りながら現れて、馬鹿にしたような声を出した。

 「間抜け面にふざけた面って言われてもねー」

 少年の言葉を聞いたフォニーがクスクス笑いながら彼らを指さした。

 「イヌの癖に生意気こいてんじゃねーぞ」

 少年はフォニーを睨みつけて怒りの声を張り上げた。そして従えていた少年たちにさっと手を上げて合図した。その合図を確認した少年たちはそれぞれの武器を構え、ヨーラたちと対峙した。

 「お嬢、こいつらは私たちで何とかできますよ。粋がってはいますが、まだまだひよっこですよ」

 ネアは彼らに対して身構えたレヒテに背後から伝えた。

 「そうですねー、この程度ならお釣りが来ますね」

 ラウニが手首を回しながら笑みを浮かべた。そんな様子を見た少年たちはますますいきり立ち、口々に何かを喚いていた、それが悪態であることはくみ取れたが、彼らが具体的に何を言っているのかその場にいた誰も分からなかった。

 「お嬢さんたちだけに任せるわけにはいきません。5人、ここに残れ、あいつらをのしてやれ。心をへしおってやれ」

 リガンは部下の護衛に声をかけると彼らはくすっと笑い声を上げた。

 「心をへし折るか」

 「ここはケフ流でいくぞ」

 ルナルの護衛たちは鞘をつけたまま剣を構え、ネアたちの前に出た。

 「行かせねぇ」

 少年たちを無視して進もうとするレヒテに少年の1人が斬りかかったが、その剣は彼女に届くことはなかった。

 「ふざけるのは顔面だけしろ。ここから去れば命まで取らん。でなければ、お前の 男 の証、斬り落としてくれる」

 バトは、少年の剣を鞘をつけたままの剣で受けると、何の感情も込めずにその少年に言い放った。

 「バト、こんなのはあの子たちに任せましょう」

 少年たちに目も向けずレヒテはバトに先に進むように促した。自分たちを無視して進むように促すレヒテに少年の人がキレた。

 「殺すっ」

 少年の1人が叫び声を上げてレヒテに斬りかかった。しかし、それはあまりにも予備動作が大きく、今からここを斬ります、と宣言しているようなモノであった。

 「私が対処する」

 レヒテを守ろうとする残念トリオにレヒテは動かないように命じると、大きく振りかぶって斬りかかってくる少年をつまらなそうに見つめた。

 「デカい口を叩くと・・・」

 「黙れっ」

 レヒテは振り下ろされた剣を少し身体をよじってかわすと、一言吠えて、少年の顔面に拳をめり込ませた。彼女は少年の動きが止まったことを確認すると徐に顔面から手を引き抜いた。

 「郷主の娘直々に殴られたことを名誉と思いなさい」

 レヒテは、グズグズとその場に崩れ落ちる少年に冷たく言い放つと足を進めた。

 「何度も言うけど、死ぬことは許さないからね」

 彼女は少年たちと睨みあっているネアたちに言う足早にルシアたちがいるとされる方向に足を進めて行った。

 「流石、暴れ姫、噂とおりですね。頼もしく思いますよ」

 ヨーラはレヒテの一撃を見て笑い声を上げた。

 

 「さぁ、どうします? ここで不具者になる覚悟はおありで? その分の補償もついてるというなら、ケフ流のおもてなしをさせて頂きますよ」

 ネアは少年たちを挑発するように言うと、エプロンドレスの裏側からシャフトを取り出すと一気に伸ばした。

 「あ、忘れてた、うちら手加減ってできないから」

 フォニーはにこやかに彼らに呼び掛けると短剣と片手剣を鞘をつけたまま構え、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

 「畜生共が偉そうに、ガキだろうが女だろうが関係ねぇ、潰しちまえ」

 少年が一声吠えると、他の少年たちは手に手に得物をとって襲いかかってきた。しかし、数に物を言わせた連携も何もない、稚拙な攻撃だった。

 「うりゃー」

 「今からなにをするか説明するんですか」

 大きく振りかぶってナイフを振り下ろしてくる少年の腕を掴んだラウニが呆れたような表情になっていた。ラールの教えとおりに彼の動きを視ているとまるで彼が止まっているように彼女の目に映った。そして必殺の一撃を放つと彼が思っている腕を確実に掴んだ。

 「え? 」

 腕を捕られた少年は目を見開いて、獣人であれど、自分より確かに年齢下の少女に渾身の一撃を止められた少年は戸惑っていた。そして、戸惑いは物理的な衝撃で上書きされた。

 「もう少し、鍛錬されるといいですよ」

 「っ! 」

 少年の腹部にラウニの拳が貫くようにめり込んでいた。少年はそれを確認する同時に意識を失った。

 「ねぇー、じっとしてても、何も始まらないよ」

 フォニーが鞘をつけたままの剣を両手に持って今にも襲い掛かって来そうな少年に苦笑していた。

 「年齢下の女の子にぴびってんの? 」

 「毛皮にしてやるっ」

 フォニーの言葉に少年は身を低くして、地を這うように飛び込んできた。

 「奇をてらっているのは良いけど、それだけだね」

 フォニーは少年の突進を身を捻ってかわすと、素早く彼の背後に回り込み鞘をつけたまま彼の後頭部を殴りつけた。彼はそのまま床に崩れ落ちた。

 「1人退治」

 フォニーはにこりとすると、次の獲物を物色しだした。


 「おい、何時でも来いよ」

 ネアが対峙していたのはウラーノに今朝スカウトされたニキビ面であった。彼は自分の身軽さをアピールすようにぴょんぴょんと妙なステップを踏みながらネアを睨みつけていた。

 「そう・・・」

 ネアはつまらなそうに呟くとぱっと踏み込む真似事をしてみた、そうすると彼は大げさにまで飛び退き彼女のリーチでは届かない所に身を置いてニヤニヤと見つめてきた。

 「ふーん、こんな子供にびびってるんだ・・・、お前の腕では妥当な判断だよ。そこだけは褒めてあげる」

 ネアは自慢げにステップを踏んでいる少年を蔑んだ目で見て吐き捨てるように口にした。

 「畜生の癖にデカい口叩きやがって」

 少年は真っ赤になって錨言葉を吐きだしたが、ネアはそれを薄ら笑いで聞き流した。

 「獣人は大概が口が大きいですからねー、あんたのイチモツが小さいのと同じこと、まさかそれで、女を抱こうなんて思ってるの? 」

 ネアは少年を完全に怒らせにかかっていた。少しばかり自信過剰になっている少年にとって子供、しかも女子からの侮蔑は看過することができなかった。彼は、言葉にならない言葉を吐き散らしながらネアに襲い掛かってきた。

 「っ」

 彼の動きをじっくり視ていたネアは彼が次に何をするのか手に取るように見えてきた。そこで彼が次に着地する地点を読み取りその場に飛び出し、シャフトを廊下に突き刺すように固定した。

 「あっ」

 少年は着地しようとした先にネアが立てたシャフトがあることに気付いたが、それは聊か遅すぎた。彼の足はシャフトに邪魔され、おかしな方向にまがりながら、確実に足首をくじくように着地した。激痛に叫び声を上げる少年のくじいた足首をネアは容赦なく足で払うと、彼は立っていることができず倒れて行った。その一瞬にネアは少年に身体をぶつけるように密着させると彼の頭を片手で押さえ、こける勢いにあわせて彼の頭を廊下に叩きつけた。軽快な音をたてて頭を強打した少年はそのまま動かなくなった。それを見届けたネアは、すぐさま次の獲物を探し出した。


 「えっ」

 ルナルの護衛と戦っていた少年はいきなり足が払われ、自分のバランスが崩れるのを感じて驚きの声を上げた。

 「おにいさん、今だよ」

 気配を消したティマが少年の足を素早く払い、彼と戦っていたルナルの護衛に声をかけた。

 「おう」

 ルナルの護衛はバランスを崩した少年の肩に鞘をつけたままの剣でおもいっきり叩きつけた。少年は悲鳴を上げるとのその場に蹲ってしまった。

 「あれ、さっきの子は・・・」

 少年を強かに打ち付けた護衛はさっきまでいたティマの姿が見えなくなっているのに首を傾げたが、すぐさま隣で戦っている同僚の応援に回った。

 「斬り捨てていいんだったら、ここまで苦労はしないんだけどな」

 この場で戦っている少年たち以外の全員が思っていることを彼は口にして小さなため息をついていた。

 

ネアたちがついに、かちこみました。ヨーブがやっている人攫いですが、こういう時は使用人が逃げたと処置するのが面倒ごとが生じないやり方です。しかし、それをやってしまうと使用人たちからの信用を一気に失ってしまいます。大きな郷であれば郷主やその家族の判断の前に家臣の判断でそう処分されることも珍しくありませんが、ケフのような規模の場合はそんな事はできません。また、それをしれっとやれる郷はお金も規模も大きな所に限られます。だから、レヒテやヨーラ以外の人たちは、危ない目に遭うと分かりながらも救出に顔を出さざるを得ないのです。ただ、助け出そうとした、その事実だけが大切なのです。

今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ