265 拐かし
梅雨に入るようで、雨具を持って行くか否かの判断が迫られる季節になりました。
時間があれば、ぼんやりと雨宿りするのも風流なものだと思っております。
このお話が、そんな風流な時の暇つぶしのお役に立てれば幸いです。
「ちょっと外しますね」
ラウニとティマに給仕された昼食を食べ終わるとルシアは少しばかり恥ずかしそうにしながら立ち上がった。
「何かあったの? 」
ラウニに淹れてもらったお茶を飲みながらレヒテが不思議そうな表情を浮かべてルシアに尋ねた。
「・・・お花摘みです・・・」
ルシアは恥ずかしそうに言うと足早にトイレの方向に向けて歩き出した。
「ティマ」
「うん」
ルシアがトイレに向かうのを見たラウニは隣に控えているティマに短く声をかけると、ティマは頷いて気配を消すとルシアの後をトコトコと彼女の後を付いて行った。
「トイレの方向が違う気がするけど・・・」
ルシアの向かった方向を見ながらレヒテは首を傾げた。
「付き添いの者は、お付きと同じ扱いなんですよ。だからトイレも私たちと違うんですよ」
フレーラが少し寂しそうな表情を浮かばせながらレヒテに説明した。
「郷の大きさ、豊かさを考えればヤヅの郷の方がミーマスの郷より大きくて歴史もあるのに・・・、おかしいと思いませんか。ルシアさんも郷主の子ですよ。変ですよね」
フレーラは納得できないとレヒテに不満をこぼした。
「きつい言い方になるけど、彼女には勉強会に参加できる資格はない。それだけのことさ。ティッカ、ありがとう」
レディンは少し寂しそうにレヒテに言うと、お茶を淹れてくれたティッカに礼を述べた。レディンの言葉にティッカは無言で頭を下げて彼の言葉に応えた。
「うーん、そこは分かるけど、トイレまで使用人たちと一緒の所に分けるなんて・・・」
レヒテは、難しい表情でルシアの背中を見送った。
【お付きの人って言ってもお姫様みたいな人ばっかり】
気配を殺しながらルシアの入った個室の前で待機しているティマは次々と入って来るお付きの侍女たちを見て目を丸くしていた。そこに居るのは侍女のほとんどが、若く、美しい真人で占められていたからである。彼女らが身に着けている衣服も見るからにお金がかかっていることを見抜くことは、服飾の世界を少し齧っているティマにとって難しくはなく、さらにその作りを評価していた。
【あの縫い方だと、ほつれやすいのに・・・、あのボタン、キラキラしすぎて下品・・・】
ティマが勝手に批評していると、いつの間にかトイレの中にいるのは、個室に入っているルシアとティマと別の個室に入っているティマの知らない誰かだけになっていた。
【わー、お姫様だ】
個室から出てきたのは侍女の仕事着に身を包んでいるものの、下手な郷主の娘より気品が漂っていた。彼女は気配を消しているティマに気付くことなく鏡の前で美しい濡れたように艶のある黒髪を整えていた。
「ちょいと、アンタに用事があるんだ」
音もなくトイレに入ってきた3人の侍女が、鏡を前に身だしなみを整えている彼女の背後にたつと低い声で囁くと、その中の1人で茶色の髪をした侍女の1人がポケットに手を突っ込みナイフを取り出した。
「痛い思いをしたくないだろ」
彼女は凄んだ低い声で黒髪の侍女を脅した。しかし、黒髪の侍女は臆することもなく毅然と彼女らを睨んだ。
「随分と無粋なことを為されるのですね。どこの郷の方かしら? 」
「実力行使するよ」
彼女はナイフに臆することなく、堂々とした態度で襲撃者たちに対峙すると、襲撃者は彼女に手を伸ばした。
【助けないと】
ティマはポケットの中から、自分用に作ってもらった小さな剣を二つ取りだし両手に構えようとした時、個室の扉が開きルシアが出てきた。
「何をしているのですかっ」
個室から出てきたルシアはその場の異様な雰囲気を察し、襲撃者たちに鋭い声をかけた。
「見られた」
襲撃者は黒髪の侍女の口を押えると、ルシアに飛び掛かった。それを察したティマが身を張ってルシアの前に飛び出したが、気配を消したままであったため、彼女の存在に気付かなかった体格の良い襲撃者に跳ね飛ばされてしまった。
「ん? 」
襲撃者は何か衝撃を感じたが気にすることなくルシアに襲い掛かり素早く口を布で覆った。
「コイツをどうする? 」
「ちぃと小便臭いが、それなりの上物だよ。ついでに連れて行くよ」
「しっかし、この薬、あっという間に意識を飛ばすんだね。扱いには注意するんだ」
黒髪の侍女にナイフを見せた襲撃者は、他の2人が手にしている布を見て肩をすくめた。
「そろそろだね」
黒髪の侍女の意識を奪い抱きかかえている襲撃者が低く呟いて、暫くするとホールの方から破裂音が響いた。
「行くよ」
爆発音を合図に彼女らはルシアと黒髪の侍女を抱えて爆発音で大騒ぎになっているホールに出て行った。
【痛いよ・・・、早く、ラウニお姐ちゃんに・・・、ダメだ、こんな状態じゃ声は届かないし、ルシアさんを見失っちゃうよ】
ティマは意を決すると気配を消したまま、痛む身体に鞭打って襲撃者の後を付けて行った。
「何の音? 」
護衛たちの控室で、ホールから響いた音に気付いたバトが椅子に立てかけていた剣を掴んで立ち上がった。
「行きますよ」
ルロも立ち上がり出入り口に向かおうとした。他の護衛たちも手に手に得物を掴んで立ち上がりホールに向かおうとした。
「動くなっ! 」
控室に大音声が響いた。その声の主は全身を派手やかな鎧で固めた男が背後に武装した衛士を控えさせ、出入り口をふさぐように立っていた。
「状況を確認中である。貴様らの中にこのどさくさに紛れて、良からぬことをしでかそうとしている者がいないと確信が得られるまで、我々に任されたい。気に入らないと言うのならば、実力を行使させて頂く。我らが気に入らず、剣を抜いた責は全て貴様らの郷主に帰することを覚悟されよ」
警備隊長らしき男の言葉に護衛たちは黙ったまま席に着かざるを得なかった。
「お嬢・・・」
悔しそうに席に着くバトが呻くような声を出した。
【あれ、こんな所を通るの? 】
襲撃者の後を付けていたティマは、彼女らがレヒテたちが使う通路ではない所を走って行くのを追いかけながら疑問を感じていた。彼女らが駆け抜けているのは、この会議館の従業員が使うような狭く、飾り気のない狭い通路で、それはまるで迷路のようであった。
【お外に出た】
暫く走ると、彼女らはどこから見ても荷物の搬入口のような所にいた。
「こっちだよ」
襲撃者の1人が手を振ると窓をカーテンで覆った黒い2頭立ての馬車がゆっくりと近づいてきて、彼女の前で止まると、さっと扉が開かれ筋肉を鎧の用に纏った男が降りてきた。
「なんだ、ソイツは」
彼は意識を失っているルシアを見て眉間にしわを寄せた。
「見られました。それなりの上物なので、おまけとして・・・」
「ふん、それぐらいいいだろう、さっさと乗せろ」
男はルシアを一瞥すると鼻を鳴らした。それを合図にしたかのように襲撃者たちはルシアと黒髪の侍女を馬車に押し込んだ。
「出せ」
御者席に上がった男が御者に一声かけると馬車はそろそろと動き出した。
【逃がさない】
ティマは動き出した馬車の後部に栗鼠族のならでは俊敏さと垂直移動力をもって張り付いた。
「皆大丈夫? 」
爆発音が響いたホールの中でレヒテは真っ先に近くにいたラウニ、そしてレディンとフレーラに声をかけた。
「ええ、誰も怪我をしていません」
「びっくりしましたけど、でも、ちびってないですから」
レディンとフレーラはそれぞれお付きたちを見てからレヒテに応えた。
「お嬢、ルシア様とティマを見てきます」
ラウニは立ち上がると、付き添いとお付きようのトイレに向けて走り出して行った。
「ど、どこにも姿が、ルシア様もティマも見えません」
トイレから毛皮で見えないが人なら確実に真っ青に顔色を失った顔でラウニが駆け寄ってきた。
「どこにもいないの? 」
「ホール内を見回しましたが、おりません」
ラウニの言葉にレヒテはさーっと音をたてて血の気が引いて行くのを感じた。
「ルシアちゃん、ティマ、返事をしてっ! 」
レヒテはその場に立つと大声を上げた。しかし、彼女の声に応える声はなかった。
「キヌ、キヌ、どこですか? 返事なさい」
レヒテたちとは別の場所で、綺麗な身なりをした侍女と主人が誰かを探す声を上げていた。
「レヒテさん、私たちだけじゃないようですよ。ケネラ、あの人たちに誰がいなくなったのか、おトイレに行った時から姿を見たいないか確認してきてちょうだい」
「承知しました」
ケネラは放たれた猟犬のように声を上げている侍女たちの方向に駆けて行った。
「あなた方の所でもですか? 私はルナルの郷主、シンラ・エイザーの娘、ヨーラ・エイザーと申します。私のお付きの「霧氷」のキヌがあの騒ぎから見えなくなりましたの」
ケネラについてきたいかにも高貴な少女が真摯な態度でレヒテたちに声をかけてきた。
「ルナルの郷・・・」
彼女が名乗ったのを聞いたれレディンはその場に跪いた。レヒテとフレーラは何が起きたか分からないものの、レディンに合わせるように跪いた。
「私は、四郷の者じゃないですよ。あなた方と同じ普通の郷の者ですよ」
「畏れ多い、ルナルの郷と言えば、王が王都に来られる前から仕えられていた名家、我ら貧乏な田舎の郷に直々にお声を頂けるとは光栄です」
ヨーラの言葉にレディンはますます頭を深く下げた。
「そのような礼儀は好みません。郷の大小あれど同じ郷の民をこれから率いていく身としては同じです。それより、あなたたちも大切な人がいなくなったようですね」
ヨーラはレディンたちに立つように促すと近くの椅子に腰かけて優しく話しかけた。
「はい、付き添いのヤヅの郷の郷主バンデル・ボーデン様のご令嬢のルシア様と私の付き人「麦穂」のティマが姿を消しました。あ、申し遅れました。私は、ケフの郷主、ゲインズ・ビケットの娘、レヒテ・ビケットと申します」
レヒテはあらたまってヨーラに挨拶をした。ヨーラはそんなレヒテを見て少し笑みを浮かべた。
「貴女が、ケフの暴れ姫なんですね。こんな状態じゃなかったら、もっと楽しくお話しできたのに・・・」
「私も同じです」
ヨーラとレヒテが憔悴した表情で互いに見合っている時であった。
「お嬢、お怪我はありませんか」
「ふざけた事をしたのは何処のどいつですか。斬り捨てます」
護衛の控室から解放された凸凹コンビはレヒテの姿を見るなりすっ飛んできた。バトに至っては殺気を隠すこともせずに剣に手をかけていた。
「お嬢、変わりはありませんか。ここの衛士どもが我々を動かしてくれませんでしたので、遅くなり申し訳ありません」
ヨーラの元に軽冑を身に着けた若い男がやって来ると、彼女の傍らに跪いた。
「リガンよしなさい。キヌが姿を消しました。ヤヅのルシアさん、レヒテさんの付き人のティマさんも姿を消しています。建物の出入り口で怪しい者を見ませんでしたか」
ヨーラはリガンと呼んだ若い男にに尋ねると、彼は首を横に振った。
「控室の前の通路はここの衛士たちが見張っておりましたので、出て行った者はおりません。ここに来るまで誰にもすれ違わなかったので・・・」
リガンは困ったような表情を浮かべた。
「もう、こうやっている間にもキヌがおかしなことをされてないか、心配で心配で、そうでしょ。リガン、早くキヌを見つけて、手段は問いません。そして、こんなふざけた事をしやがった連中に地獄を見せてやります。生まれてきたことを後悔させてやります」
ヨーラは苛正しげにリガンに不穏な言葉を吐くと壮絶な笑みを浮かべた。そして、その不埒者の行き先のことを考えるとその場にいた者たちは同情すら覚えた。
「あのー、我が郷の使用人も行き方知れずなんですよ」
「買い物に出たまま戻って来ないんです」
レヒテたちがヨーラの笑みにぞっとしていると、彼女の周囲に家臣たちが行方不明になっていると言う郷の子息たちが3名ほど集まって来ていた。
【山の手の立派な宿だ・・・】
馬車が着いたのは、金さえあれば泊まれる立派であるが品格に少しばかり欠けた宿の裏手であった。ティマは馬車から飛び降りると物陰にそっと潜んで、ルシアたちがどこに運ばれるか確かめようとした。
「坊ちゃんが戻ってくるまでに着替えさせておけよ」
ガタイがいい男が御者台から降りてくると襲撃者の3人に命令するとさっさと宿の中に入って行った。
「あーあ、こんなのに手を付けられるぐらいなら、アタイらに手を付けて下さらないかな」
キヌを抱いて運びながら大柄な襲撃者が愚痴をこぼした。
「こんな素人臭いのより、凄いサービスできるのにね」
もう一人の襲撃者もルシアを抱き上げながらため息をついた。
【あんたらより、ルシアさんの方がずーっと素敵だよ】
ティマは、襲撃者たちの勝手な言い分に腹を立てながらその後を付けて行った。
「ルシアさんとティマが」
宿に着いてレヒテから話を聞いたケフとヤヅの面々は同時に声を上げた。
「私が付いていながら・・・」
顔色を失ったラウニはそれだけ言うとレヒテの前に崩れ落ちるように座り込んで涙を流し続けた。
「この失態、万死に値すると存じております。ルシア様とティマを命に代えて取り返します。お仕置きはその後いかなりと、お申し付けください。自ら、このそっ首掻っ切る覚悟はできております」
「いかなる処分も厭いません。しかし、この手でお助けさせてください。下手人を全てこの命に代えて葬り去ります。ご処分はその後で如何ほどでも」
バトとルロも悲壮な表情で己の決意をレヒテに訴えていた。
「糞っ、こんなことになるなら私らも・・・」
「ルシア様に何かあれば、我々も後を追う所存」
カイとクゥも怒りと悲しみを押し殺し、己が決意を口にしていた。
「助け出すことは認めますが、死ぬことは許しません。死ぬことで全てが解決することはありません」
レヒテは凛とした態度でラウニ、バト、ルロに言いつけた。
「お嬢、ルシアさんが捕まることはあり得る事ですが、ティマを捕まえることができる者っているでしょうか。寝込みを襲うならいざ知らず、あのような場で控えている時は、大概あの子は気配を消しています。気配を消したティマを捕まえるなんてできませんよ」
状況を聞いてしばらく考え込んでいたネアが口を開いた。
「じゃあ、なんでティマもいないのよ」
ネアの言葉を聞いて暫く考えていたフォニーが疑問を投げかけた。
「騒ぎがあった時にあわせて、連れ去ろうとしたなら、お嬢の所に行っている間に見失うと考えたのじゃないですか。連れ去る方も何か聞かれたなら、怪我人だって誤魔化すことができます。あの子は、犯人たちに気付かれないように付いて行った、と私は思います。あの子なら、その内戻ってきてルシアさんたちがどこにいるか、私たちに知らせに戻ってくるはずです。不埒者はティマという強敵に気付かなかった、相手がどこにいるのか分かれば、ケフ流で奴らに思いっきり教育してやりましょう」
ネアはフォニーに自分の考えを述べると皆を安心させるように少し笑みを浮かべた。
「師匠の私が言うのもなんだけど、あの子には戦うより、情報を持って帰ることに重きをおいて教えて来たの。きっと、ティマは戻ってくる。私は信じている、・・・そしてこんなふざけた事をさらした連中にはそれ相当の思いを味合わせてやります。バト、ルロ、落ち込んでいる暇はないよ。これから、カチコミの準備だよ」
アリエラはそう言い放つと俯いたままのバトとルロに檄を飛ばした。
「・・・このバトさんの涙、安くないからね。ちゃんと払ってもらうから・・・」
バトは涙を手の甲で拭うと立ち上がった。
「ティマが戻ってきたら教えてください。奴らに礼儀を教えてやりますので」
ルロも立ち上がるとバトともに、武器を準備するため自分たちの部屋に戻って行った。
「私たちも、準備しましょう」
クゥもカイに告げると、カチコミの準備のために部屋に戻って行った。
「いいねー、思わぬこともあったようだが、様々な郷から集めた美女、こんなコレクション誰も持ってないぞ」
水着を思わせる衣装を着せ、ずらりと並べた少女たちを見回して太った少年は満足そうな笑みを浮かべた。
「貧乏な郷で仕えるなんてつまらない事しなくても、僕が良い服、良い食べ物、良い手当を出すんだ。皆、満足しているはずだよ。そうだよね」
彼はずらりと並んだ少女たちににこやかに、本人は爽やかと思っているが、傍から見る限りでは糸を引きそうないやらしい笑みを浮かべた。その笑みに少女たちは顔をしかめた。
「何か勘違いされているかもしれないようですが、私はヤヅの郷、郷主バンデル・ボーデンの娘、ルシア・ボーデンです。郷主の娘に対するこの働き、タダで済むと思っていませんよね」
水着のような服を無理やり着せられたルシアは怒りを隠すこともせず少年に喰いつかんばかりに睨みつけた。
「ヤヅ? 聞いたことないな。どうせ田舎の貧乏な郷だろ。勉強会に呼ばれることもない付き添いだろ。それに比べて僕はナルゴの郷主、タルフ・イエッカの長男、ヨーブ・イエッカだよ。君の貧乏な郷に少しばかり、と言っても君の郷には大金だけど、融通することはできるんだぞ。悪い話じゃないよ。今よりいい生活ができるんだからね」
少年は自らの素性を自慢そうに彼女らに話した。ナルゴの郷は彼の父親の代で偶々、郷内でそれなりの量の翡翠が見つかり、その事でいきなり裕福になった成金の郷であった。持ち慣れぬ大金は身を持ち崩す、その言葉を親子で実行しようとしているような郷であった。
「・・・虫唾が走ると言うのを、今初めて実感しました。こんな生物がいるなんて・・・」
キヌが嫌悪の表情を隠しもせずにヨーブに投げつけた。
「強がっているがいいさ。もう、君たちの運命は僕の手の内にあるんだからね」
少年はそう言うといやらしい笑みを浮かべた。
「ルシアさん、もう暫くの我慢です。助けを呼んできます」
ティマは物陰から気配を消したままそって出てくるとルシアの耳元に囁くと部屋から出て行った。
「早く、助けを呼ばないと」
気配を消して宿の廊下を走るティマの横をいきなりナイフが飛んで行った。
「っ! 」
ティマが思わず振り返ると、そこには襲撃者を指揮していた男がにやりと笑いながら立っていた。
「妙な気配がするとおもったら、デカいネズミかよ」
「・・・」
男の言葉にティマは身構えるとポケットに手を入れた。
「ネズミじゃないよ。栗鼠だからね」
ティマそう叫ぶとポケットの中の小銭を廊下のランプに投げつけそれを壊した。宿の廊下がいきなり暗くなり、男は目を凝らした。
「っ」
その隙を利用してティマはその場から走り出した。
「おい、ネズミが紛れ込んでいるぞ。とっ捕まえろ。殺しても構わんぞ」
走るティマの背後の暗闇から男の怒声が響いてきた。
郷の力の関係は単純には、富がある方が強いことになります。しかし、昔から続く由緒のある郷や特殊な物品の産地、技能を持っているとその限りではありません。但し、四郷は別格です。
王都で、公共の場所での表立った刃傷沙汰はご法度ですが、それ以外の場所では見て見ぬふりになることも少なからずあります。
今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。