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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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26 もやもやと面倒臭い人々

生きるということは、何かと面倒臭いことの連続です。

その面倒臭さを楽しめるか、楽しめないかで、いろいろいと視点が変わるんでしょうね。

 「ここじゃ、実戦を重視するから、素振りや基礎体力作りは最小限しかしない。まず、打ちあって己の力を知るといい」

 杖術を教えている小柄な真人の中年の男が初顔のネアに早速防具をつけるように命じた。この世界の防具は内側に綿を詰めた皮袋を詰め込んだようなフルフェイスヘルメットのような兜、キャッチャーが身につけるようなプロテクターと剣道の胴が不義密通を働いて産まれたような鎧もどき、兜と同じく綿を詰め込んだガントレットであった。

 「うっ」

 長年使用されてきたそれらの防具は独特の臭気を放っており、鼻の利くネアには少々つらいものであったが、この状況ではそれらの芳しい臭気を発する防具を身につける以外に選択肢は残されていなかった。

 「これは、こうやって、ここの紐はここで結ぶんだ」

 防具をつけるのに手間取っているネアに垂れた耳をした犬族の少年が親切に手取り足取り教えてくれた。

 「ありがとうございます」

 大き目の防具に身を固めたネアはその少年にペコリと頭を下げたが、その動きはロボットのようにぎこちの無い動きだった。

 【動きにくい、それに視界も悪い、一番ひどいのは臭いだな・・・】

 うんざりしつつ杖術の教官の前に立つと、その教官はネアを上から下までじっくりと見つめると

 「地稽古をするか。お前とは・・・」

 教官は居並ぶ騎士団員、騎士見習いたちを見てみた。背格好が近い者が望ましいが、生憎、ネアより大きい者ばかりであった。


 (こいつ、新顔のくせに団長に稽古をつけてもらうなんて、侍女か何かは知らないけど、気に入らない)

 ネアより少し年嵩の真人の少年は、ネアがガングに稽古をつけてもらっているのを見たとき、形容のしようが無いもやもやと気持ちになった。数年後、この少年はこのときの気持ちが嫉妬と呼ばれるものであることを理解するのであるが、今はまだその域には全く達していない。面白く無い思いで兜の奥からネアをにらんでいたが教官の地稽古の言葉を聞くと速やかに反応していた。

 「俺が相手になります。手加減ぐらいはできますよ」

 「そうか、怪我をさせるなよ。相手は年下、しかも女の子だからな」

 その教官の言葉に少年は口角を少し上げた笑みで応えた。勿論、兜をかぶっているからその表情は誰にも見えない、だからこその笑みであった。

 「かかってきな」

 年長者の余裕を見せつつも、徹底的に痛めつけてやる決心を胸に少年はネアに声をかけた。


 【随分と鼻っ柱の強そうなガキだな】

 ネアはヘルメット奥から自分と稽古をすることに名乗りを上げた少年を見つめていた。自ら名乗り出るところを見るとそれなりに腕に自信があるように見える。また、その口調から察するとどうも自分をしごきたいのであろうと推測できた。

 「お願いします」

 ネアは少年に対峙して軽く頭を下げた。その時、急な動きを感じてそのまま横に飛びのいた。

 「え?」

 さっきまで自分が立っていた空間の顔面の位置に少年の杖の先端があるのをみてネアは驚きの声を発した。

 「おい、相手がちゃんと構える前に打ち込むとは何事だ」

 教官が少年に厳しい口調で注意するが

 「戦場で、相手が構えるのを待つなんてヤツはいませんよ」

 空振りした少年はネアの咄嗟の動きに少し驚きつつ、ネアに杖の先端を向けた。


 (よけやがった)

 不意打ちの一撃で流れを掴むつもりだったが、それをかわされ、しかも身構えるネアをにらみつけながら少年は小さく舌打をした。しかし、アレはまぐれである。何故なら、目の前の猫はまだ防具を着こなすこともできず、さらにそのサイズは2まわりほど大きいときている。動作がすばやいと言われる獣人もその特性を発揮することはできることはないだろう。

 「はっ」

 身構える相手の顔面にさらに突きを素早く叩き込む。


 かわされた後に次の行動に素早く移る少年の動きを見てネアは後方に飛びのいて間合いをとった。

 【マウンティングしようとしているのか、このガキは。よかろう、それではこちらもそのつもりでいかしてもらう】

 間合いを取った後、ネアは少年をにらみつけ身体を半身にして杖を構えた。


 ネアの構えを見て少年は

 (心臓を差し出してくれるのか、こいつ本当に素人なんだ)

 と妙に感心した。ネアの構えは左半身を敵方に向ける構えであり、急所である心臓の前に自らの肉を持って防護するということができない姿勢である。それと同時に鏡に映った像とやりあうようで妙な違和感があった。


 【ま、普通なら急所を庇うよな・・・、サウスポーってのはそれなりに理由があるんだな】

 ネアは鏡像と対峙するやりにくさを感じながら、妙なコトを実感していた。

 「はっ」

 少年が素早いが、直線的な突きを入れてきたのを認めると、その切っ先を左に払って、身体を反転させながら石突きで相手の胴に打撃を入れた。


 「うっ」

 自分の刺突をかわして、胴に打撃を入れてきた小柄な少女を怒りと憎しみのこもった眼差しでにらみつける。

 「ふざけやがってっ!」

 構えも、動きも何もない、ただ力任せに相手を殴りつけたい、叩きのめしたい、二度とふざけたことができなくなるようにしたい、誰が強いのか思い知らせてやる。少年の頭の中はこれらの思いだけだった。そしてそれは、無駄な動きとなり、それが今度は隙を誘発する。そこを小さな猫は翻弄するように攻撃を入れてくる。子猫の攻撃を貰うごとに少年は冷静さを失っていった。


 【しつこいなー、コイツ、こっちはもう・・・】

 動きにくい防具を身にまとい、視界の悪い中の稽古である。まだ幼い身体には少々荷がきついようで息が上がってくる。だんだんと動きが悪くなってきているのが手に取るように分かる。ただ、それは相手の大振りな無駄な動きのおかげで相殺できているのであるが、これがいつまで持つのか、もう時間の問題と思われた。


 力任せに、杖を振り回し、攻撃を続ける。息が上がってくるが、そんなことは気にしない、兎に角目の前にいる猫を倒す、アイツに誰が強いか思い知らせない限り、この手を休めることはできない。

 意地とプライドが少年を突き動かしていた。相手もだんだんと疲れが出てきている。

 「どわっ」

 言葉にならぬ叫び声を上げて、自分より小さな女の子に思いっきり体当たりを喰らわせた。


 「っ!」

 動きが鈍ったところにぶち込まれた全力の体当たり、ネアはそのまま後ろに跳ね飛ばされた。

 「そこまでだ、やめろっ!」

 教官が二人の間に割って入ってくるが、少年はそんな言葉は耳に入らない。

 「そのガキに礼儀を教えていますので、途中で止めるわけにはいかないんです」

 ネアも息を切らしながら教官に続けさせてもらうように言葉を吐く。

 「何を言うんだ、これ以上は怪我を・・・・」

 「最期までやらしてやりなよ」

 剣術を指導していた熊族の教官が声をかけてきた。

 「こんな熱いの久しぶりだ、途中で止めるなんて勿体無いじゃないか」

 熊族の教官、あのスージャの関でルップの初陣を支援した男である。

 「本当に、やばくなったら、力づくで止めりゃいいんだ。お前も見極められるだろ」

 杖術の教官はその言葉に頷くと

 「再開っ」

 と一言叫んで二人の間から身を退かせた。


 つまらない邪魔が入った。あの猫をぶっ飛ばして後は止めを入れるだけだったのに。少年は倒れた後、起き上がろうとするネアの頭に蹴りを入れようとした。ネアはそれを再び倒れる形でやり過ごすと、ゴロゴロと転がって相手との間合いを取ろうとした。それを逃すまいと少年は追いかける。その時、ネアは手にした杖を少年の足元に投げた。杖は少年の足に絡まり頭に血が上がっている少年はものの見事に俯けに倒れる。

 「っ」

 ネアはぱっと飛び起きると少年の背にまたがり、細い腕を少年の首に回した。腕はその細さから防具の隙間にきれいに入り、直に少年の首に巻きついた。ネアは回した手をもう片方の手でてこの原理を利用するように締め上げ始めた。つまり、裸締めである。


 「まずいっ」

 教官はネアたちのもとに走りよると、ネアの背中を叩いて

 「止めっ!」

 と短く、鋭く叫んだ。しかし、ネアは締め付ける手を弱めることはなく、少年は当初もがいていたが、その内動かなくなった。それを確認して、ネアは腕を解いた。そして立ち上がると

 「っ!」

 熊族の教官がネアを殴りつけた。ネアはその場に尻餅をついて倒れてしまった。

 「貴様っ、殺す気か」

 真人の教官が少年を抱き起こし、少年が生きていることを確認するとほっと小さなため息をついた。

 「落としただけ。アイツこそ、こちらを潰す気で来たから・・・」

 ぼそぼそと呟きながらふらふらとネアは立ち上がり、熊族の教官を兜の奥から睨みつけた。

 【アイツが、暴走した時に止めるのが普通だろ。こうでもしないと俺がボコボコにされていたんだぞ】

 ネアは言いたいことが喉の奥にたまっていくのを感じたが、言葉にできるのはそれほど多くはなかった。


 「お前っ、あれだけ暴れて、挙句の果てにのされるとは、稽古が足らんぞ」

 意識を何とか取り戻し、朦朧としながらも少年は教官の叱責を耳にしていた。

 「次こそ、潰します・・・」

 呻くように口にした言葉に教官は大声で

 「馬鹿者がっ、味方同士で潰しあってどうするつもりだ。追い詰められれば、鼠ですら猫に噛み付こうとするもんだ。この場合は猫だったが・・・。もう一つ、頭に血が上がってると判断が鈍るぞ。もっと落ち着け・・・。先に仕掛けたのはお前だからな。先に仕掛けて返り討ちにあった。これがどういうことか良く考えろ」

 教官は少年に医務室に行くように命じ、彼の今日の稽古は終わりだと告げた。少年は不服そうに教官の言葉に従って練兵場を後にしたが、その時恨めしそうにネアを睨み付けていた事をネアは確認していた。

 【あの手のヤツは後で絶対に絡んでくるぞ、面倒臭いヤツってのはどこの世界にもいるんだな・・・】

 目の前に仁王立ちしている熊族の教官を見上げながらネアはあの少年のことを考えると少し気が重くなるのを感じていた。


 「お前、あれは殺しの術に通じているぞ。どこで習ったんだ」

 騎士団長と同じようなことを聞いてきた教官にネアは首を振って

 「分からない・・・」

 と一声答えるだけにとどめた。

 「気管じゃなく、頚動脈を締めたのか。危険だが見事な動きだった。喧嘩には使うなよ。お館様の使用人同士での殺し合いなんて洒落にもならんからな」

 苦笑しつつ、熊族の教官は真人の教官に小さな声で

 「あの子の動きは要注意だ。覚えてないようだが、攻撃する技が身に染み付いているように見える。無茶な追い込みはしないほうがいいぞ」

 「そうだな、目を放さないようにするよ」

 教官たちがゴニョゴニョと会話をしている間、ネアは息を落ち着かせようと深呼吸などをしていた。

 「君、すごいのに喧嘩を売ったね」

 先ほどの親切な犬族の少年がネアに小声で話しかけた。

 「スゴイ?」

 「うん、アイツ、グルトって言うんだ。落石のグルトって呼ばれているけど、本人は稲妻のグルトと呼んで欲しいようだけど・・・。そ、アイツ、結構根に持つタイプだから気を付けたほうがいいよ」

 「分かった、ありがと」

 少年に軽く頭を下げると

 【やっぱり、面倒臭いヤツだったか・・・】

 「ところで、君も騎士になりたいの?」

 少年の問いかけにネアは首を振って

 「お嬢を守るための力と技術が必要だから」

 「お嬢を守るって・・・」

 少年がチラリと剣術の稽古をしているグループを見た。そこには、1人で3人を相手に暴れ回っているレヒテお嬢の姿があった。

 「言いたいことは分かるけど、侍女としては・・・、それに悪い人も生きているから、あまり酷いことにしたくないし・・・」

 ネアも疑問に思っているが、そこは仕事であると割り切り、オーバーキルを防止するためにもこの稽古が必要であると認識した。

 「侍女なら、仕方ないね」

 ネアの複雑な心境を慮ったのか犬族の少年は兜の奥で微妙な表情を作りながら頷いた。



 「お嬢は、ケタ違いだわ」

 レヒテの稽古の様子を眺めながらフォニーはその動きに舌を巻いていた。無駄が多い動きだが、それをカバーする瞬発力と力、そして尽きることが無いように思われるスタミナ、果たしてこの方がこの郷の姫なのかとつくづく不思議に思えてくる。

 「優しすぎるルップ様より、騎士団長に向いているかも・・・」

 稽古の手を止めて、お嬢の暴れっぷりを鑑賞していたフォニーの背後から突然声がかかった。

 「フォニーさん、お稽古に付き合って貰えるかしら」

 涼やかな声にフォニーが振り返ると木剣を手にし、防具に身を包んだパルがにこやかに立っていた。

 「パル様、どのようなお稽古ですか?」

 「地稽古です。それ以外無いでしょ?扱う武器が違いますからね。さ、早く構えなさい」

 パルは、フォニーの言葉など聞く耳を持たぬという態度で木剣を構えた。

 「お願いします」

 戸惑いながらもフォニーも剣を構え、2人は対峙した。周りの目は派手に暴れるお嬢に釘付けになっているため、二人が剣を交えようとしていることに気付く者はいなかった。

 「やっ」

 パルは両手剣を正眼に構え、鋭く打ち込んできた。

 「っ」

 両手剣の重い一撃をフォニーは左手にした短剣で払い、右手にした片手剣で体勢を崩したパルに打ち込もうとした。

 「あっ」

 相手の胴に叩き込む片手剣が相手の両手剣にはじき返され、バランスを崩しかけたフォニーの胴にパルの蹴りが飛び込んできた。バランスを崩しながらも何とか後方に飛び下がると今度はなぎ払うように両手剣が飛んでくる。それも後ろに跳ねて何とかかわし、やっと構えることができた。


 気持ちいいくらいにすばしっこい、体勢を崩しながらも飛んでかわすその動きにパルは感心すると共に、さらにもやもやとした感触が心の中に広がっていくのを感じた。

 「いつまで、逃げ切れるでしょうかね」

 自分と間合いをきって構えるフォニーに挑発するように声をかけた。

 「わざとお外しになられてたものかと・・・」

 フォニーは相手を睨みつけ、食いしばった口からお返しとばかりに挑発の言葉を吐いた。

 力で打ち合っては、狼族に利があり、速さに関しては狐族に利があるが、タフネスにかけては圧倒的に狼族に利がある。つまり、パルに勝つにはフォニーは手数で攻める必要があるのであるが、相手につけ込むような隙は見当たらない。パルにしてもフォニーに一撃でもあたえれば勝てるのであるが、相手の動きについていく事ができない。それぞれが積んでいる状態での稽古である。時間とともに狼族であるパルが優勢になってくる。何とかパルの攻撃をいなしながらフォニーはチャンスを窺っていた。伺うは敬語

 「ごめんなさいね」

 パルが大上段から渾身のそれも今までに無い剣速の一撃を放ってくる。それを右手にした片手剣受け流すと、片手剣を手放した。パルはいきなり手ごたえをなくし、バランスを少し崩した。

 フォニーは、バランスを崩したパルを左手の短剣で刺突しようとした。

 パルはバランスを崩した時、フォニーが懐に飛び込んでくるのを目にした。素早く両手剣を手放すと拳を作って突っ込んでくる相手の顔面に叩き込もうとした。

 「そこまでっ!!」

 お互いの一撃が交差する直前に大音声が練兵場に鳴り響いた。

 「「!」」

 今まで打ち合っていた二人が目を丸くして声の主を見た。

 「その稽古、殺気が漂っていたぞ」

 声の主である、騎士団長が腕組みしながら二人に近づいてきた。

 「2人とも、その身体は自分のものだけでは無いことを考えろ。互いに何があるかは知らんが、果し合いがしたければ俺は止めはせん。その時は、稽古ではないぞ。互いに命の取り合いになる。そこを覚悟することだ」

 騎士団長の言葉に2人は互いに剣を収め、そして軽く礼を交わした。しかし、言葉にできないもやもやが消えることはなかった。


 「随分と綺麗になった」

 格闘を指導しているドワーフ族の老人は目を細めてラウニの形を見て感心したように唸った。

 「心を落ち着け、身体を制御するんじゃ。決して戦いに心を奪われてならん。戦いは手段であり、目的ではない。そこを忘れんようにな」

 ひたすら、形の稽古を続けるラウニに教官は心の在り様を説いていた。

 「・・・」

 様々な技の形を正確に、力の強弱を制御しながらラウニは無心の境地に至ろうとしていた。元より争いを好む性格ではないが、何かに背中を押されたなら、自分は教官の言う戦いを目的とする者に落ちることは自分の性格なのでよく理解している。だからこそ、実戦的な稽古より、精神を鍛えるようなこの稽古が気に入っているのである。

 ただ、今日の稽古で気に入らないのは、稽古をつけてくれるのが鉄の壁騎士団ではないことであった。

 「この教官も素晴らしい人なんだけど・・・」

 1人、形の稽古をしながら鉄の壁騎士団の騎士団長を思ってため息をつきそうになる。

 「おい、気が散っとるぞ」

 細かな動きを見逃さない教官の叱責が飛んでくる。

 「はいっ」

 ラウニは自分の思いをねじ伏せるように気合をこめて稽古を続けた。

 「・・・心は、別の場所か・・・、素直になれば良いものを・・・、面倒臭い子じゃ・・・」

 ラウニの稽古を見つめつつ、教官は小さなため息をついた。


  昼前に侍女たちの稽古は終了し、疲れた身体と心を引きずりながら館に向かう侍女たちであったが、その先頭を歩くレヒテはとても晴れ晴れとした表情をしていた。

 「身体を動かすってのは気持ちいいもんだよね」

 「はぁ、そのようで・・・」

 侍女たちは、どうも脳みそが筋繊維で構成されていそうなお嬢を羨ましそうに見つめて小さな声で応えた。きっと、筋肉で考える限り、世の中に面倒臭いことは発生しないのだと彼女らは認識を新たにした。



 「・・・・」

 練兵場から家に戻る馬車の中、パルの表情は冴えなかった。何故、フォニーに突っかかっていったのか、何故あそこまで戦いに熱くなったのか。彼女自身、フォニーを嫌う理由は無いのである。逆に、フォニーの自立した生活などは憧れでもあるが、何故か彼女を目の前にするともやもやとしたものを感じるようになったのである。多分、フォニーも自分に対して同じように感じているのかもしれない。

 「果し合いか・・・・」

 騎士団長の娘とお館の侍女の果し合いなんて、身分的にどう考えてもありえないカードであるが、彼女自身にとってはありえないとは思えなかったのであった。

 「もやもやします・・・」


 「やっぱり、むいていないのかな・・・」

 父親である黒狼騎士団長に散々しごかれたルップは練兵場の大地に横たわり流れて行く雲をみつめて呟いた。打ち込まれた後がずきずきと痛み、叱責の厳しい言葉が心を締め上げる。自分の剣の才能のなさに自分でもため息が出そうである。

 「・・・」

 滲んでくる涙を洗い流そうと練兵場の横を流れる小川に歩き出した。


 ケフの郷に小さなもやもやがあちこちに湧き上がっていたが、レヒテお嬢だけがもやもやを感ずることなく、肉体を酷使した後の心地よい疲労感に浸っていた。

レヒテお嬢の強さは天性のものです。その強さの源は力任せです。

フォニーとパルの確執はこれからも続きそうですし、ネアは面倒臭そうなヤツにロックオンされてしまいました。

この駄文にお付き合い頂いた方、ブックマークいただいている方に感謝します。

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