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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
26/342

25 木のけん

ネアの前の仕事が何だったかが分かってしまうような・・・、と言うかバレバレですね。

 露店の茶店の縁台で先輩方と手を取り合って涙を流しながらネアは違和感を感じていた。

 【なんで、コレぐらいのことで大泣きしているんだ。まるで、子供じゃないか】

 と、心の奥で思いながらも、様々な感情が表出するため結局は声を上げて泣くという行為は暫くとめられそうにもなかった。

 「もう、今日は帰りましょう」

 ラウニが涙でぐしょぐしょになったハンカチでまだまだ湧き出す涙を拭きながら何とか声を発した。それにフォニーは涙を流しながら頷いて同意する。ネアは俯いて泣きながら首をたてに振った。

 「大変だったねー、怖かったねー、この飴あげるから、涙を拭いて・・・、女の子はね、涙より笑顔だよ」

 茶店の女将が鶉の卵ほどの大きさの飴玉を3人に手渡した。この優しさに、ネアは新たに涙がこみ上げてくるのを感じた。

 「あ、ありがと・・・」

 ネアはしゃくりあげながら何とかお礼の言葉を口にすることができた。ラウニとフォニーもなんとかネアに続いた。

 「さ、帰りましょ」

 「うん、今日はもう、たくさんな気分・・・」

 落ち込んだ様子の先輩に手を引かれながら、ネアはお館に向けて歩き出した。

 「お館まで、送るよ。変なヤツは近寄らせないから、安心しな」

 若い真人の衛士が1人、ネアたちを見つけると小走りで駆け寄ってきた。

 「ありがと・・・」

 それから、館までの道のりは護衛に来た若い衛士にとって少しばかりキツイ思いをすることになった。

 「今日は、何を買ったんだ?いいものあったか」

 などと、明るく声をかけても、3人とも頷くか首を振るだけで会話が成立しなかった。そして、声をかけないと、誰かがすすり上げ始めて、それに釣られて3人が涙を流しだすため、実りの無い問いかけやら一人突っ込みをやり続ける破目に陥ったためである。これが原因で彼は話芸の必要性を感じ、後に大物の噺家に弟子入りすることになるが、それは本筋とは関係ないので割愛する。


 お館にもどり、ルビクに戻ったことを報告に行くと

 「3人とも、奥方様の執務室にすぐに行け、何をしでかしたが知らんが、お前達が戻ってきたらすぐに顔を出すようにと言われてな」

 ルビクは3人の泣きはらした目を見て、何かがあったこと、それが奥方様の耳に入るようなことであることを察していた。それと、同時に監督不行き届きなどの叱責があるのではないかと気が気ではなかったが、子供に強く出たところで意味は無いし、噂では彼女らのほうが被害者らしいということなのである程度腹をくくっていた。後に、彼が一大決心をしてくくった腹であるが、それは全くの無駄に終わることになるのを知るのは次の日の昼になってからであった。


 「ラウニ、フォニー、ネア、戻りました」

 いつも作業に使っている椅子に深く腰掛けた奥方様が無言で侍女たちを見つめている中、ラウニが何とか言葉を発した。

 「・・・」

 ラウニの言葉を聞いた途端、奥方様は立ち上がり、3人をぎゅっと抱きしめた。

 「怪我はしてない?痛いところはない?」

 何らかの小言を頂くのではないかとびくびくしていた侍女たちにとってこの行動は予想外であった。

 「心配かけて・・・、ごめんなさい」

 奥方様に強く抱擁されながらネアは奥方様に大丈夫あることを伝えようとした。

 「私たちが目を離してしまって・・・」

 「買い物に夢中になってしまって・・・」

 ラウニとフォニーが消え入りそうな声で己の非を奥方様に伝えた。

 「まだまだ、遊びたい盛りたがら仕方ないこと。ステキなモノがあればそれに心が捉われるのも不思議じゃないこと。貴方達が無事で何より・・・」

 奥方様そう言うと彼女たちから身を離して

 「ラウニ、フォニー、貴女たちは初めてマーケットに行ったネアから目を離して、もうちょっとの所でネアを失うことになりかけました。ネア、貴女は初めてマーケットに行ったにもかかわらず、勝手に動いて、結局はぐれて貴女が大変な目にあうことなりました。貴女たちを雇っている私としては、これを見逃すわけには行きません。よって、明日から次の黒曜日までの間、レヒテと共に剣術の稽古をすることを命じます。稽古で集中力と身を守る術を鍛えなさい。これは命令です」

 抱きしめていた時とは打って変わった事務的な口調で侍女達に命令を下した。そして

 「貴女たちに何かあったら、このお館の者が皆悲しむことを忘れないでね。・・・では、戻りなさい」

 そう言うと、奥方様は侍女たちに戻るように命じた。


 「ネア、あの連中を1人でやっつけたの?」

 食事もお風呂も終わり、いつもなら女子力を練成するための時間であるが、先輩方は蛭の出来事のためにベッドの上に座り込んで黙ってヌイグルミを抱きしめている状態であった。そして、ネアも何故かヌイグルミを知らずのうちに抱きしめていた。ふわふわのヌイグルミを抱きしめることにより少しは気持ちが楽に感じられたからである。そんな重い空気の中、ラウニがネアに問いかけた。

 「分からない、気付いたらああなっていたの」

 ネアはヌイグルミのユキカゼを見つめながら呟くように答えた。この時ばかりは、人の目を見て答えなさいの指導はなかった。

 「噂じゃ、稽古していないとできないことって聞いたけど」

 フォニーはヌイグルミのロロから目を上げてネアを見つめた。ネアはフォニーにただ首を振って答えるにとどめた。

 【身体というか、魂に刻み込まれているみたいだし、説明しようがないな・・・、オレの正体につながることにもなるし】

 落ち着いてきたネアは自分のやらかしたことが、自分の特異性をアピールすることになることを気にしていた。また、自分がどこか別の世界の記憶を持っていることが知られればややこしいことに巻き込まれそうになることを心配していた。

 その夜は、侍女たちは言葉も少なく、流石のネアも疲れからかホールの時計が9回鳴るのを聞く前にベッドの中で意識を手放していた。

 


 次の日、つまり黄曜の朝、いつもの仕事着に着替えようとしたネアをフォニーが止めた。

 「今日からは、剣術のお稽古だから、これを着るの」

 フォニーは、ネアのクローゼットにいつの間にか仕舞いこまれていた、白い柔道着を思わせるような厚手の服をネアに手渡した。

 「今日は、奥方様に挨拶したら、お嬢と一緒にお館の裏にある練兵場に行きます。そこで騎士団の方から剣術を教わります。今週担当は・・・」

 ラウニは何かを思い出そうとするようにちょっとか考え込んで見せた。

 「今週は、黒狼騎士団が担当のはずです。良かったねフォニー」

 ラウニの言葉にフォニーは尖った口を更に尖らせ、言い返した。

 「鉄の壁騎士団だったら良かったのにね」

 「黒狼?鉄の壁?」

 【黒狼はスージャの関で戦った騎士団だったよな、鉄の壁ってなんだ】

 耳慣れない言葉にネアは首をかしげた。

 「ケフの郷は二つの騎士団があるんです。一つは鉄の壁騎士団、もう一つは黒狼騎士団」

 「黒狼騎士団はね、盗賊や攻めて来る郷があれば、そこに駆けつけて悪いヤツラを退治する騎士団。とっても強いの」

 フォニーが自慢げに黒狼騎士団を簡単に説明した。

 「鉄の壁騎士団は、このお館を守っている衛士、街の中で悪いことをする人たちを捕まえたり、襲ってくる敵から街を守る騎士団なのです。強いけど優しくて・・・」

 ラウニがうっとりしたような目をした。

 【緊急に展開するのが黒狼騎士団で、警察や防衛を主に担当するのが鉄の壁騎士団なのか】

 「ケフの郷はこの二つの強い騎士団に護られているんですよ」

 「そんなに大きくないけど、強いよ」

 先輩方の大雑把なケフの郷の防衛システムの説明を受けてネアは何故か騎士団に興味が湧いてきた。



 練兵場はお館の裏側、つまり北側のラマクの山脈を削って平地にならしたサッカーコート4面程度の広さのグラウンドであった。

 いつもなら嫌々勉強に向かうお嬢がこの日は何故か楽しげに早足で練兵場に向かう様子を見ながらネアは、お嬢は身体を動かすことが好きなのだと確信した。

 練兵場には、暫くぶりに見る国狼騎士団長、ガングとその息子のルップの姿が見えた。そしてその隣に真っ白の人影も見えた。

 「団長、おはよー」

 レヒテは練兵場につくなり、団長に呼びかけ駆け寄った。

 「お嬢、いつも元気ですなー」

 呼びかけられた団長は呆れつつもレヒテに敬礼の動作を行った。ルップとその横にいた白い狼族の少女も団長の動きにならった。

 「おはようございます」

 ルップの姿を見たためか、フォニーはいつもより元気に挨拶したが、その隣の白い狼族の少女を見たとたんに少し表情が硬くなった。

 「お、ネアは初めてだったな。この子は、俺の娘のパルだ。よろしくな」

 団長は真っ白な狼族の少女を紹介した。

 「パル・デーラです。ネアさんですね。よろしく」

 パルは、郷主の娘であるレヒテよりお嬢様らしくしっかりした口調と優雅な動きで挨拶をした。

 「ネアです。湧き水のネアです。何も分からないけど・・・、よろしくお願いします」

 ネアはにっこりと微笑むパルに精一杯のおじぎをして見せた。

 「フォニーさんもお元気そうね」

 パルはにっこりしながら、少し硬い表情のフォニーに声をかけてきた。

 「パル様もお変わりなさそうで幸いです」

 フォニーも引きつった笑顔で応えている。その横でラウニが小さくため息をついてるのをネアは気付いた。


 「ネアよ、お前さんのことはイロイロと聞いている。あの時も驚かされたが・・・」

 「あの時?」

 団長が稽古を始めるにあたり、ネアに声をかけたがその言葉にパルが早速興味を示してきた。

 「あ、それは、お館でちょいと目にして・・・・、それより、そこにある木剣から好きなのを選べ」

 団長は、乱雑に篭に突っ込まれた木剣というより棒切れを指差した。

 「・・・」

 ネアはかごに近づくと、それぞれの木剣を手にして吟味し始めた。そして

 「コレにします」

 ネアが手にしたのは己の背丈より少し短い棒であった。

 「噂では、何かの心得があるとも聞いているが、俺が相手してやろう」

 団長も篭から木剣を引き抜くと篭が邪魔にならない位置に立った。

 「好きな時に打ち込んでこい、手加減はいらんぞ」

 手にしたばかりの木剣を吟味しているネアに団長は声をかけた。その声を聞いて練習していた騎士団の団員がいっせいに2人に注目した。

 「・・・」

 ネアは団長から5メートルほど離れた位置に立ち、団長に一礼すると

 「っ」

 流れるような動きで木剣を左半身を前にするような形、ライフルを手にしているような姿勢になった。

 (この子、慣れているのか・・・、それにしても妙な構えだ)

 剣を構えながら団長はネアの一連の動きを見て疑問を感じた。ネアは槍を構えるようにして、じっと団長の目を見据えている。そこには6歳の少女とは思えぬ落ち着きのようなものがあった。

 「打ち込めないか、それでは、こちらから行くぞ」

 動かないネアに団長は黒き疾風となって大上段からネアの脳天に木剣を振り下ろそうとした。勿論、本気で打ち据えるのではなく寸止めである。

 「!」

 団長の剣は寸止めする前に何かにぶつかった。ネアが木剣を両手で持ち上げ、その中央部で団長の一撃を受け止めていたのである。

 「・・・っ」

 団長の一撃を受け止めたネアは顔をしかめた。本気ではないにせよ、一撃の衝撃は大きく手がずしんとしびれた。

 「ーっ」

 団長の一撃を受け止めたネアはそこから団長の剣を押し返そうとしたが、相手はピクリとも動かず、さらに第2撃を打ち込むために剣を引いた。ネアはその動きに合わせて木剣の右手側、ライフルでいうところの

銃床部を殴りつけるように相手の脇に打ち込もうとしたが

 「あっ」

 団長はさっと跳び下がりネアの一撃は空振りになってしまった。

 「杖術か・・・、面白い」

 相手が自分の娘より幼いにも拘わらず、団長は初めて目にする武器の扱い方に軽い興奮を感じていた。にも拘らず

 「ならば、これではどうかな」

 団長は斬撃から刺突に動きをかえ、鋭く剣を突き刺してきた。

 「っ」

 ネアは木剣の左側、ライフルで言うところの銃口がわでその突撃を払おうとしたが、逆に自分の攻撃が簡単に払われ、その衝撃で木剣を手放してしまった。

 「ここまでだな」

 木剣をさっと収めた団長が声をかけた。ネアは団長に頭を下げ

 「ありがとうございました」

 とお礼の挨拶をすると弾き飛ばされた木剣を取りに駆け出した。

 「ネア、こっちに来い」

 木剣を手にしたネアに団長が手招きをした。

 「ネア、あれはどこで学んだ」

 団長は疑問に思ったことを口にした。知らない流儀であれば是非とも知りたいとも思っていた。

 「分かりません」

 ネアは、しっかりと答えた。

 【銃剣格闘術なんて言えないし・・・、じゅうけんかくとうってなんだっけ・・・・】

 答えながらもネアの頭の中は混乱し始めていた。手にした記憶が雪のようにすーっと消えていくような感覚を味わっていた。

 「面白い戦いかただな。お前は杖術か短槍を習うのが良いな。初めてにしては良い動きだった」

 団長は、ネアに杖術を学んでいるグループを指差して、そこで練習せよと命じた。

 「他の者は、腕が鈍ってないか。俺が確認してやる」

 ラウニとフォニーを見ながら団長がニタリと笑った。ちょっとばかり強めにしごいてやる腹つもりである。

 「じゃ、うちが行きます」

 フォニーは片手剣型の木剣と短剣型の木剣を手にして団長に正対した。フォニーの基本的な戦い方は右手にレイピア、左手にソードブレイカーの二刀流である。

 「フォニーか、その格好もだんだん様になってきたな」

 フォニーがさっと攻撃の姿勢をとったのを目を細めて見ると

 「打ち込め」

 短く、フォニーに命じた。フォニーは姿勢を低くして団長の足を取りにかかろうとし、素早く剣を横に払ったが、全く手応えも何にも感じられなかった。

 「鍛錬しているようだが、相手の動きを予測しろ、それともっと速さが必要だな」

 気付けばフォニーの後頭部に団長の差し出した木剣の先端があった。

 「参りました」

 フォニーはさっと剣を引いて下がると

 「お願いします」

 今度はラウニが手に何も持たず団長と正対していた。ラウニの基本的な戦い方は、格闘であり殴る、蹴るが専らである。ラウニは熊族のならではの瞬発力をもって団長に殴りかかったが、あっさりと足を払われた。そのままこけるかと思われたラウニであるが、綺麗に前転しながらダメージを受け流してさっと立ち上がり団長をにらみつけようとした時、その目の前に団長の木剣切っ先が向けられていることに気付いた。

 「参りました」

 「速さはいいが、直線的だ、動きが読みやすい。二人とも鈍っていないようだな、それぞれのクラスで稽古してこい」

 団長に自分達の出来を判断して貰った二人は、剣術と格闘のグループにそれぞれ向かっていった。

 「パル、お前も剣術のクラスで稽古して来い、ルップ、お前には特別に稽古をつけてやる。さっさと防具をつけて来い」

 「はいっ」

 ルップは今から始まる地獄を思って絶望的な気分になった。パルは先に剣術のクラスで素振りをはじめたフォニーをキツイ眼差しで見つめた。

 「何か、もやもやします」

 パルはフォニーを見たまま小さく呟くと両手剣型の木剣を手に足早に進みだした。

 


新たなキャラのパルが登場しました。新キャラが人外ばかりなような気がしますが、きっと気のせいでしょう。話芸に目覚めた衛士の彼は後に古典の噺や創作の噺で名を上げます。しかし、本編と関係ないので彼のサクセスストーリーは割愛となっています。

駄文にお付き合い頂いた方、ブックマーク頂いた方に感謝します。

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