235 スパイスの利かない付け合わせ
寒くなってきました。妙な病気も新型を投入したようで折角の年末気分に水を差してくれていますが、このお話が暇つぶしのお役に立てれば幸いです。
ケフの騎士団員たちが大急ぎで準備を整えている頃、ケフの悪所にある酒場で真昼間から、脇に控えたハチに酌をしてもらいながら安酒を楽しんでいる風のご隠居様の姿があった。
「なかなか面白い話があったようだね」
ご隠居様はテーブルの対面に並んで座っているロクとナナの姿があった。
「ええ、先に潜らせた連中からの話だと、ご隠居様の読みの通りでしたね」
安酒の入ったカップを手で弄びながらロクが、流石ご隠居様とばかりに明るい声を出した。
「僕をおだてても、ここの酒を奢る程度しかできないよ。で、どれぐらい入り込んでいるんだい」
「バルンのヤツが雇った船員崩れが両手の指程、この界隈に入ってきているそうですよ」
ロクが辺りをさっと見回して声を潜めてご隠居様に報告した。
「ボーユだったっけ、彼の兵隊が攻めると同時にこの辺りで騒ぎを起こすってことか。なかなか良い手だね。但し、相手に気付かれていなければの話だけど」
ご隠居様は、自分の読みが当たった事にちょっとした満足を覚えると同時に目の前に危機が迫っていることに少し不安を感じていた。
「ここの顔役には既に話はつけております。顔役も常々、ご隠居様に目をかけてもらっているから、ご恩に報いたいと乗り気でしたよ。既に、彼の手の者があちこちで目を光らせています」
「流石、アニキだ。顔役と会えるなんて、顔の広さは海以上だ」
ロクの報告にハチが感動したような声を上げた。ロクはそんなハチに苦笑しながら続けた。
「実は、連中が泊っている宿も押さえています。アイツら馬鹿なのか、来るなりランプ用の油や薪を買い込んでましてね。それだけでも目立つのに、本人たちは誰にも気づかれていないと思ってい様ですよ」
ロクは俯いて小さく笑った。騒ぎを起こすために入り込んだ連中があまりにも残念だったからであろう。
「で、ルシア嬢のご両親については、あの子の話だと遠い場所と交易をはじめるために随分とヤヅを離れているようだが。まさかとは思うが、二度と帰ってこないことになっているのかな・・・」
ご隠居様は少し心配げにロクの横で黙々と呑んでいるナナに尋ねた。
「そのご心配はいりませんよ。ルシアちゃんのご両親は大丈夫ですよ。あの、自称、剃刀から聞きましたから」
ナナはにっこりしながらご隠居様に報告した。その笑みからあの「剃刀」のジルエがどんな目にあったのか想像に難くなかった。
「女の子たちにちょっと協力してもらって、剃刀と名乗るくらいから、切れ者かなと思いましたけど、色んな意味で切られたり、切れていたりする人ですね。すぐに鼻の下伸ばして、あれやこれやと勝手にしゃべって、聞きだすのに苦労しなかったようですよ」
ナナは哀れな存在を思い出して少しばかり同情を感じながら話し出した。
「ヤヅの権力者であるボーデン氏が耄碌したことを知ったバルンが自称切れ者を彼の元に送り込んだようです。言葉巧みにボーデン氏の手綱をとるためです。その時、後々手綱を横取りされないように、ボーデン氏の名のもとにルシアちゃんのご両親を追い払った形です。ルシアちゃんはボーデン氏が彼らの意のままにならなくなった時のための保険でした。ラゴでの襲撃も、今回のバルンの企みに気づいて、ボーデン氏がカーウィン様に知らせようとしたことへの警告の意味もあったそうです。ルシアちゃんがケフに来られたのはボーデン氏の考えであったようです」
「あのジルエと言う男、やはり後ろ盾があったわけだ。あの、バルンと言う男、衰え、弱気になっている老人の心の隙を突くタイミングを待っていたかもしれないね」
ナナからの報告を聞いたご隠居様はハチがなみなみと注いだコップの中の安酒をぐっと煽った。
「一つ、気がかりがあるんですよ。これは、確証はないのですが、バルンはあのラゴの村の一件以外にも、刺客を雇っているようです。そいつらが誰を狙っているのかは分かりませんが・・・」
ロクが不安そうな表情で声を潜めてご隠居様に不確定な情報について話し出した。
「多分、鑑札も複数持っているだろうね。事前に防ごうにも、情報が少ないとどうしようもない。しかし、刺客が狙うのは価値が高いモノ、つまり、僕たち、モーガやレヒテ、ギブンを狙ってくるんじゃないかな。エリグとバトたちに態勢をとるように命じておくよ。急な依頼に良く応えてくれたね。これは少ばかり少ないが、ケフの懐事情を察してくれ」
ご隠居様はロクの報告を聞くと、テーブルの上に硬貨が詰まった小袋を置いた。
「ご隠居様、俺たちは毎月、お手当をもらって、しかも店まで持たせてもらっているんですよ。こんなに頂くわけには・・・」
「そうですよ。貰いすぎです。このケフに置いてもらっているだけでも大感謝なのに」
ロクとナナはご隠居様の差し出した小袋を彼の方向に押した。それを見たご隠居様は首をゆっくり振ってにっこりとした。
「気にすることはないよ。ロクとナナはこの金額以上の仕事をしてくれた。ヤヅで人を動かすのにもお金がかかっただろ。その必要経費も込みだよ。受け取ってくれ。さ、ハチ、行くぞ。ここの勘定は僕のおごりだからね」
ご隠居様は立ち上がると恐縮する2人を残してその場から静かに立ち去って行った。
「ご隠居様・・・」
「どこまでも、お供させて頂きますよ。ご隠居様が嫌だって言ってもね」
ロクとナナはご隠居様が差し出した小袋を有難そうに見つめると、ロクが両手でそっと手にすると丁寧に自らのポケットにしまい込んだ。
「不届き者を退治するか」
「痛めつけてもいいけど、殺しちゃダメだよ。少しでも情報を吐かさないと」
「ご隠居様に良いネタを差し上げたいからな」
2人は互いに見合うと、席を立ち店から出た。そして、その姿は周りの風景に溶け込むようにその存在を消した。
「聞いた? 」
お館の雇い人たちの食堂で昼食を摂りながらフォニーがラウニとティマに話しかけた。
「何の事ですか? 」
ラウニが食事の手を止めてフォニーを見つめた。
「近いうちに大きな戦いがあるみたいだって、騎士団の人たち、黒狼騎士団も鉄の壁騎士団もざわざわしているからさ、ちょっと心配なんだよね」
フォニーも食事の手を止めて不安そうな表情で俯いてじっと自分の昼食を見つめた。
「ルップ様、ご出陣されるって、お姫様のお供の犬の人、メムさんが言ってたよ・・・です」
ティマがナプキンで口元を拭きながらラウニに知っていることを話した。
「成程、それで最近、落ち着きがいつもよりなかったのですね。心配ですからね」
ラウニが優しくフォニー言うと、安心させるようにそっと背中を撫でた。
「ネアも帰ってこない、噂では帰ってきたなんてあったけど、誰も見ていないし。もし、ルッブ様に何かあったら、うちは・・・、ヴィット様もご出陣されるんだよ」
俯いたフォニーが手にしていたスプーンを強く握りしめられプルプルと震えていた。
「ネアは私たちと約束しました。帰ってくると。奥方様とお嬢に命じられました。帰って来いと。フォニー、ネアが約束を破ったり、命令に背くと思えますか。あの子は絶対に約束を守るし、命ぜられたことは成し遂げます。私は・・・信じています。ネアはきっと帰ってきます。だって、皆が待っていることをあの子は知っています。ユキカゼも待ってますから」
ラウニは自分の不安を打ち消すように敢えて自信を持った口調でネアについて話した。そして、その思いを強く持とうとするように言葉を続けた。
「ルッブ様はお優しい方ですが、お強い方です。簡単に討たれるなんてことはあり得ません。それは、フォニー、貴女が一番承知しているでしょ。ヴィット様は絶対に帰ってこられます。あの方はとても、とても強い方です。絶対に無事に帰ってこられます」
「ネアお姐ちゃんは嘘はつかない。ルッブ様とヴィット様はとてもお強い。だから、心配しないの。皆、元気で帰ってくる・・・から・・・です」
ティマが自らを奮い立たせるため、無理やりに元気よく己に言い聞かせるように言葉を口にした。
「そ、そうだよね。うん、それ以外ないもんね。あ、早く食べないと時間が無くなっちゃうよ」
フォニーは2人に気付かれないようにナプキンで口を拭くように見せながら滲んだ涙をそっと拭きとった。
「お仕事かい? 」
ネアがタカノ沢で弩で粗末なモノを避けて矢を放っていた時から少しばかり経った頃、ケフの悪所とも言われる貧民街の一角、そこに大量の薪を背負った男にロクは楽し気に声をかけた。
「っ! 」
薪を背負った男は答えるかわりに片手剣を抜いて横なぎにロクに斬りかかった。その斬撃をロクはさっと飛び退いてかわすと、懐から小さなナイフを素早く取り出しながら男に投げつけた。ナイフは綺麗に男の剣を握った手に突き刺さり、悲鳴を上げて彼は剣を取り落とした。
「さ、来てもらおうか」
手を押さえていた男が顔を上げると周囲をいつの間にか、人相が悪そうな連中に囲まれているのに気づき、この状況を認識した男は「これに見合う金は貰ってない」と呟いて大人しくロクたちに捕縛された。
「コイツで最後みたいね」
船員崩れを数珠つなぎにして引っ張ってきたナナは手から血を流している男を見てロクに話しかけた。
「最後だ」
ロクは落ちたナイフをさっと振って血を払うとそれを懐に戻しながらナナに答えた。
「コイツも縛っちゃって」
ナナは引き連れてきた人相の悪そうな連中に軽く声をかけると彼らは「承知しました。姐さん」と吠えるとテキパキと慣れた手つきでその男を縛り上げ、数珠の一つにしてしまった。
「安心しろ、すぐには殺さないよ」
ロクは不安そうに引きずられていく男たちに、ニヤニヤとしながら彼らの不安をあおるような言葉を口にした。
「意地が悪いね」
「嘘はついてないぞ」
そんなロクをナナはからかうように指でつつくと、ロクはむすっとしたままいつものように答えると、
「さ、店を開けるぞ。子供たちが待っているからな」
とナナを急かしてその場からさっさと立ち去って行った。
お館の正門付近から何かが衝突したような大きな音を耳にしたのは、ご隠居様が今回の戦の後、どのようにヤヅと有利に交渉を進めるか、王都への報告をどうするか、等をソファーに深く腰掛けて考えていた時であった。
「ロクの懸念していたことが的中したようだ」
ご隠居様は身を起こすとすぐさま控えていた兎族の侍女を呼びつけた。
「ナクリ、3点鐘だ。まず、自分の身を護ることを第一に行動するんだ」
「承知いたしました」
ナクリはペコリと頭を下げると、正しく脱兎の勢いで部屋から飛び出し、鐘をつくための索がある警備室に向かった。
「ご隠居様より、3点鐘です。遊びや冗談ではありません。訓練でもありません。マジで3点鐘です」
「了解っ」
警備室で寛いでいた警備員は索に飛びつくと、躊躇うことなく3点鐘をつきだした。
ケフのお館には、使用人をたたき起こすことを主たる目的で使用されている音の悪い鐘があるが、本来の目的は警報を発するためのものであり、3点鐘は、暴力に関係する事案に置いて最大級の非常事態を告げる意味を持っていた。
「ラウニお姐ちゃん、これ何? 」
3点鐘を耳にしたティマが不安を隠しもせずにラウニに尋ねた。
「今、お館が襲われているってことです。武器を準備しなさい。奥方様を何としても守り抜くのです。自分の事は後回しです」
ラウニは緊張した面持ちで今打ち鳴らされている鐘の意味をティマに説明すると、緊張した面持ちのフォニーを見つめた。
「うん」
フォニーは頷くと奥方様の執務室(工房とも言われている。)の出入り口正面に椅子を持って行くと自分自身を障害物にするように座り込んだ。
「フォニーちゃん、あんたは小さいから、盾には不向きだよ。アンタは入ってきたのを始末する側にまわっておくれ。小さい子を先に逝かせるわけにはいかないからね」
奥方様に職人として雇われているオバさんたちがフォニーを脇に追いやると出入り口にずらりと椅子を並べ、どっしりと腰かけた。
「皆、必ず生き残りなさい。狼藉者の全てを叩き折ってあげなさい。生まれてきたことを後悔させなさい。レヒテ、ギブン、郷主の子として恥じない行動をするのです。分かっていますね」
奥方様からははいつものほんわかとした雰囲気はなく、凛とした口調と態度になっていた。このことがますます今お館が置かれている状況がただ事ではないことをその場の皆に思い知らせていた。
「ティマ、これは喧嘩です。負けられない喧嘩です。勝つためには? 」
ラウニは自らの武器を確認すると緊張した面持ちのティマに尋ねた。
「敵の心をへしおるっ」
「そうです。情けはいりません。手心を加えることができるなんて、エルマさん程度じゃないとできないんです。ネアは良く、喧嘩する時に「手加減はできません」って言っていましたよね。ケフの凶獣と言われているあの子ですらそうなんですよ。全力で戦いましょうね」
ラウニはティマの心強い言葉に頷くと、彼女を安心させるように優しく頭を撫でた。
「ネアが帰ってくる場所を護らなきゃね。帰ってきてお館がなかったら、ネアが悲しむよ」
フォニーはラウニたちに言うと窓の外を見た。
「お客さんたち、エリグさんたちに思いっきり歓迎されているようだよ」
「行けっ、そこです。エリグさん」
「がんばれー」
「うちらも、負けていられないね」
フォニーの言葉にラウニたちは窓から離れると出入り口の近くに控えた。
「突っ込んだ馬車から、賊が侵入っ」
警備員が大声で叫ぶ以前に、エリグは大きな音を聞くとすぐさま正門に向けて走り出していた。
「敵襲っ、侵入者を排除せよっ。抜刀っ!!」
エリグは大声を上げると、剣を引き抜いて馬車から躍り出てきた集団に問答無用に斬りかかって行った。
「賊の数、8、お館に侵入させるな」
父に続いてヘルムも剣を抜くと叫びながら馬車から躍り出た一団に斬りかかって行った。
「騎士団は出払っている。残りは騎士団以下の案山子だ。落ち着いて行動しろ」
侵入者のリーダーらしき男が部下たちに指示を与える。部下たちもリーダーの指揮に従い、慌てることなく斬り結んでいた。
「ちっ、訓練されている。3マンセルで戦え。敵は訓練されている」
襲撃者は皆真人であり、訓練はされているものの、身体能力に勝る獣人たちの比率が高い警備部隊にてこずっているようであった。そこにさらに、エリグが集団戦に移るようにしたため、襲撃者はさらに難しい状況に追い込まれていった。
「あら、今日は休診日ですよ」
診療所の扉が開く音を耳にしたレイシーが確認に行くと、そこには全身黒ずくめの、いかにもな男がナイフを構えて立っていた。
「用事がないなら帰ってくださいね。これから洗濯しなくちゃいけませんから」
つまらなそうにレイシーが言葉をかけるとクルリと背を向けた。そこをチャンスとばかりに黒ずくめがナイフを腰のあたりに構えてレイシーの背中を刺そうと体当たりするような勢いで踊りかかってきた。
「掃除に手間がかかるのよね」
レイシーは仕込み杖をさっと抜くと振り返りもせず後方に剣を突き出した。
「さっさと帰れば良かったのに・・・」
剣をさっと引き抜いて崩れ落ちる黒ずくめを見下ろして彼女はため息をついた。
「まだまだ、腕は錆びてないみたいね」
レイシーの剣は襲撃者を貫いたらしく俯けに倒れているその背中に黒い染みが広がって行っているのを見て彼女は満足したように頷いていた。
「あら、見かけない顔だよ」
「普通は、覆面なんてしていないでしょ」
「俗にいう、賊ってやつですよ」
お館の廊下を警備のために巡回してたバトたちは黒ずくめに覆面の3人の賊と対面していた。侵入した賊たちは、侍女たちが悲鳴を上げるものだと思っていたが、彼女らから返されたリアクションに侵入者たちは軽い戸惑いを覚えた。しかし、そこはこの手の仕事で飯を食ってきている連中、言葉を発することもなく抜刀すると3人で一斉に襲い掛かってきた。
「動きが単純だと、絶頂できないんですけど」
「掃除する身にもなってくださいね。絨毯に血がつくと・・・」
「奥方様やお嬢、そしてティマちゃんに指一本触らせない」
バトは隠し持っていた短剣、ルロは手斧、アリエラは両手にナイフを構えるとうんざりした表情で襲い掛かって来る侵入者に斬り込んで行った。
「遅いっ」
「踏み込みが甘いっ」
「気迫が足りないっ」
侵入者は彼女らに一斉に襲い掛かり、そして一斉に、そして一瞬に致命傷を受けて斃されてしまった
「口ほどにもない、と言うか、何も言わなかったけど、これでいいんだよね」
バトが倒れている男を剣先でつついてその死亡を確認しながらルロに尋ねた。
「みんな見たことない顔ですから、これでいいんですよ」
ルロは一人一人覆面をはいで顔を確認すると、彼ら全員が賊であると判断し、自分たちの行動に問題が無い事を確信することにした。
「相手がさ、誰であっても、勝手に入ってきて襲い掛かってきたんだから、当然の事をしたまでの事ですよ」
アリエラもこれ以上この事について考えることは止めた。
「じゃ、引き続き、警備を実施」
彼女らは深く考えることを放棄して、確実に今、襲い掛かって来る脅威に対処することに全力を傾けることにした。
「言っちゃ悪いけど、その服、全く似合ってないよ」
ルーカが見慣れない侍女に声をかけた。声をかけられたのはルーカと同い年ぐらいのスラリとした美人の部類に入る真人の女性であった。
「そっか、最近、雇われた侍女って貴方のことだったんですね」
ドキリとしている彼女にタミーがにこやかに声をかけると、その侍女らしき人物は落ち着いた表情で彼女を見返した。
「そうなんです。奥方様に呼ばれたのですけど、お部屋が分からなくて」
新顔と言う侍女の言葉にタミーはにこやかに頷いた。そして、ちらりとルーカを見た。その刹那、いきなりルーカが彼女に駆け寄り、有無を言わせず拳を彼女の鳩尾にめり込ませた。
「最近雇われたって奴はいないんだよっ」
殴られた女はさっと飛び退くとルーカから距離を取った。
「もう一つ、喧嘩に勝つことの条件、言えるかなー」
タミーがじわりとその女に近づきながら親し気に声をかけた。いきなりの問いかけに女は身構えながら、じわりと後ずさった。
「心をへし折るんだよっ」
タミーは言葉が終わらないうちに駆け出し、相手の顔面にに対応する暇も与えずに強烈な頭突きを喰らわした。タミーの攻撃を喰らった女は声を発することもなく、妙に変形した鼻から盛大に鼻血を吹き出して、その場に倒れた。
「姑息な事は嫌いなんだよ」
ルーカは倒れた女の髪を掴んで立ち上がらせると、彼女の腰に手を回して綺麗なバックドロップを決めた。固いお館の床に強かに叩きつけられた女が立ち上がることはなかった。
「縛り上げておくかな」
ルーカとタミーは手慣れた様子で意識を手放した侵入者を縛り上げるとそのまま廊下に転がして、次の獲物を探し出した。
ケフ、特に郷主の周りの使用人たちはそれぞれ戦闘訓練を受けており、特に郷主一家の身の周りのお世話をするような仕事をする使用人たちはエルマからきつく扱かれています。
特に、ルーカとタミーは下手な騎士団員より戦闘能力が高く、護衛任務もこなせます。この2人と残念トリオを撃破するにはそれなりの腕が必要なってきます。彼女たちを倒してもエルマが控えているのですが。ケフの郷は見かけによらず戦闘的な郷になっています。
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