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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第18章 事変
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234 食卓の上の足掻き

寒くなり、暖房費もかかるようになってきました。おかげで懐も真冬になっておりますが、このお話が少しでも気晴らしになれば幸いです。

 「お館様より、伝令っ! 全員、集団戦に移行せよ。集団戦に移行せよっ!! 」

 崖を飛ぶように駆け下りたネアは斬り結んでいる集団に対して大声で呼び掛けた。男同士の野太い気合やうめき声しかない中、少女の声は鮮やかに男たちの間を駆け抜けていった。

 「了解っ、こっちも集団で相手しろ。孤立するとやられるぞ」

 黒狼騎士団長は斬り結ぶ部下たちに命令した。その声を耳にした騎士団員は速やかに互いに背を合わせるような隊形をとった。

 「俺たちも倣うぞ。敵に背中を見せるな」

 波しぶき騎士団員たちも互いに背を預ける隊形をとり、ボーユたちと対峙した。

 「膠着しそうだな。直射で狙え、あの円陣の中に撃ち込め」

 沢の底での戦いをじっと見つめていたお館様は射手たちに前に出て、敵を直接射るように命じた。

 「味方には当てるなよ」

 「心得ておりますよ」

 鹿族の騎士団員は手で部下たちに合図を送ると彼らはさっとタカノ沢を見下ろせる場所に立ち、弓をつがえた。

 「あの灰色の連中だ。良い感じに固まっている。お前たちなら外さないはずだ。遠慮するな、たらふく矢を喰らわしてやれ」

 鹿族の男が部下たちの準備を確認すると大声で気合を入れた。

 「了解っ」

 「矢は奢りですかねー」

 「後で、矢の代金を請求してやりましょうよ」

 鹿族の男の部下たちは口々に軽口を叩きながらもその目は必死で斬り結んでいるボーユたちを捉えていた。

 「各個に撃ち方、はじめっ 」

 部下たちの軽口に少し眉間にしわを寄せることで応えると、鹿族の男は号令を発した。声が沢に響き、その声が消えないうちに矢がボーユたちに襲い掛かった。


 「ルッブ様も来ていたのか・・・、動かないヤツは狙いやすい」

 ネアは斬りあいの場から少し離れた場所で膝をつくと、そのまま膝撃ちの姿勢を取り、弩の狙いを最も元気よく剣を振り回し、ルッブと斬り結んでいる男に付けた。

 「・・・」

 ネアは深呼吸すると狙った獲物と弩の間に障害物がなくなる瞬間を待ち、静かに引き金を引いた。弩から放たれた矢は小さな風切り音をたてて目標の男の大腿部に深々と突き刺さり、男はいきなりの衝撃に動きを一瞬止めた。

 「うっしゃーっ」

 ルッブはその一瞬を見過ごすことなく、寝起きでまだ鎧もつけていない男を上段から袈裟懸けに斬り下ろした。

 「血路を開け、街道へ出るぞ」

 降り注ぐ矢を剣で払いながらボーユが声を上げると彼の近くにいた男たちがさっと街道に向かって振り下ろさる剣を気にすることなく駆け出した。

 「通行料を払ってもらおうかのう」

 駆けだした彼らの前に顔面に包帯を巻き付け、濁った眼でこちらを見るようにしている杖をついたエルフ族の女が立ち塞がった。

 「ふざけるなっ」

 男たちは怒声を張り上げ彼女を斬り捨てて街道へ向かおうとし、彼女を見ることなく剣で薙ぎ払った。

 「っ」

 本来なら力もない女一人ぐらい簡単に斬り捨てられる一撃であった。しかし彼は剣に異常な衝撃を感じた。

 「斬る相手から目を離すなと教わらんかったのか? 」

 彼の力任せの一撃をエルフ族の女、ラールが仕込みで綺麗に受け止め、呆れたような声を出していた。

 「まとめて面倒をみてやる。もし勝てたら、儂を好きにしていいぞ」

 ラールは凄惨な笑みを浮かべると仕込みを構え、相対する者たちの息遣い、足音に集中するかのようにゆっくりと首を傾げた。

 「目が利かんくせにっ」

 1人がラールに声を上げると素早く踏み込んで行った。その時、彼は腹部に彼女の仕込みの鞘が軽く振れたことに気付いた。

 「騒がしいから、すぐに分かるわい」

 ラールを身をかがめるようにして、逆手に持った仕込みで鞘で方向と距離を探った相手、今まさに斬りかかってきた男の腹に仕込みを深々と突き刺した。

 「糞っ」

 突き刺された男は己の腹に深々と刺さる仕込みを手が傷つくことも気にせず両手で握りしめた。これで彼女の武器を封じたつもりであった。どうせ助からない、そう思った彼の最後の反撃であった。

 「着眼は良しっ、合格じゃ。しかし、相手が・・・」

 彼女が武器を封じられたと見た2人の男が同時に、まだ何かを語っている彼女に斬りかかった。

 「悪かったとなっ」

 己の台詞を最後まで吐き捨てると彼女はさっと仕込みから手を放し、鞘で斬りかかる男の喉に鋭い突きを叩き込むと、地面を転がってもう1人から間合いを取った。

 「・・・」

 喉を突かれた男はその場で天を仰ぐように倒れると動かなくなった。己の刃を転がりながらかわされた男は立ち上がろうとしているラールに無言で必殺の一撃、彼女を脳天から真っ二つにする勢いで剣に全体重を乗せて打ち込んできた。

 「動きが大きいぞ」

 ラールはさらに地面の上をコロコロと転がり、己の仕込みを握りしめて絶命している男の傍に行くと仕込みを引き抜きながら立ち上がった。

 「しかも、殺気がだだもれじゃ。真っ暗闇でもどこにいるか分かるぞ」

 ラールは仕込みを逆手に持ち横に、鞘を逆手で前方を探るように構え、口角を上げた。

 「ただ斬るのみ」

 静かに構えるラールに男は電光石火の勢いで踏み込み斬りかかった。

 「そうはいかんぞよ」

 男が剣を振り下ろす前に、ラールはくるりと体を捻りながら男の腹に己の背を当てるように彼の間合いに踏み込んできた。

 「仕舞いじゃ」

 男の動きを我が身で制しながら、ラールは逆手に持った剣を背後の男に突き刺した。

 「えっ・・・」

 男は動きを止め、己を貫いたラールを驚愕の目で見ながら振り上げた剣を力なく落とした。

 「精進が足りなかったようじゃな」

 ラールは静かに男から体を離すと、仕込みを鞘に納めた。それと同時に彼女に貫かれた男はその場に膝から崩れ落ちた。

 「剣精ラールが相手になるぞ。名を上げたい者は儂を討ち取ってみるがよいぞ」

 突き刺した剣を抜きながらラールが名乗りを上げたが、ボーユたちは彼女の挑発に乗ることはなかった。

 「名を上げた所で、金にはならねーからな」

 ボーユはネアが射かけた矢を上体を捻ってかわすとラールに言い放った。

 「つまらん男じゃな」

 「ほざいてろっ」

 ボーユは吐き捨てるように言うと、飛んでくる矢を剣で叩き落した。

 「強行突破。俺に続けっ」

 ボーユは大音声を発すると円陣から飛び出し、街道に向けて走り出した。それに合わせ彼の部下たちも走り出した。

 「簡単に追わせねーぜ」

 いきなりの部隊の動きに攻撃の連携が崩れた黒狼騎士団員たちが追撃しようとする者たちの前を数名の男たちが立ち塞がった。

 「坊や、殿は、儂に任せて追いかけよ」

 黒狼騎士団長と斬り結んでいる男の1人を逆手にした剣で斬り上げながらラールは黒狼騎士団長に追撃を促した。

 「剣精様、お頼みします」

 黒狼騎士団長はラールに一礼すると走り出した一団の後を追いかけた。

 「ここは、通さん」

 ボーユたちの前を盾を構えた波しぶき騎士団員たちが立ち塞がった。

 「邪魔だ、どけっ」

 ボーユは壁の如く行く手を阻む盾を駆け上がるように蹴りつけるとその反動を利用して上に飛び上がり、彼らの後方の着地した。彼の一撃を喰らった騎士は衝撃のためその場から少し後ずさった。

 「続くぞ」

 ボーユの後に続いた隊員は後ずさった波しぶき騎士団員を盾ごと蹴りつけ突破口を拡大し、遂には波しぶき騎士団で構成された防衛ラインを突破し、彼らの後ろに進出した。

 「俺たちの動きが読まれていたのか? 情報を売りやがったのか? 」

 「そう考えるのが妥当です」

 「糞っ、だから先導を雇うのは嫌だったんだ」

 ボーユは、必死で駆けながらも、時間を気にするあまり、森の突破の先導を船員崩れに任せたバルンに悪態をついた。

 「準備つっても、1日の差しかないのによ。あの馬鹿、焦りやがって、何もかも台無しにしやがった」

 街道に辿り着くと、取り合えずヤヅに向かって走り出したボーユたちは息を切らしながらも、ここにはいない男について悪態をついていた。

 「この辺りから森に入って・・・」

 街道を暫く走り、追手がいないことに気付いたボーユは足を止めて辺りを見回した。

 「これだけか・・・、随分と喰われたな」

 彼について来られた部下は10程度であった。

 「気持ちがいいまでの敗北だ・・・」

 多分、この世にいないであろう部下たちの事を思い出してボーユはため息をついた。

 「かかれっ」

 状況は、ボーユが感傷に耽ることを許さなかった。いきなりかかった号令とともに、四方から目の細かな網が彼らに向けて投げかけられた。それと同時に白いサーコートを纏った集団が彼らを囲んだ。

 「状況は敗北の域を超えていると思われますよ。無駄に命を落としたいのであれば、抵抗してもらって結構ですよ。そうでない場合は、大人しく縛について頂きます」

 剣を構え歯をむき出し、怒りを隠そうともしないボーユに仮面をつけた大男が落ち着いた声で話しかけてきた。

 「くっ・・・」

 「貴方が命を落とすのは仕方ないとして、部下の方々にも同じことをせよ、と命じますか」

 歯を噛みしめ、殺す勢いで睨みつけるボーユに鉄の壁騎士団長は落ち着いた声で説得に当たった。

 「情けか・・・下らん、お前ら、逝くぞっ!! 」

 ボーユの一声で部下たちは網を手にした剣で斬り裂きだした。

 「仕方ない・・・、望みをかなえてやろう」

 鉄の壁騎士団長がちょっと落胆したような声とともに手をさっと振ると、街道の両脇の茂みや森の中から無数の矢が彼らに襲い掛かった。ボーユたちが完全に沈黙状態になるのにそんなに時間はかからなかった。


 「そうか、指揮官は討ち死にしたのか」

 かつて「暗礁」のボーユと名乗っていた者と彼の部下たちは街道わきにめざしの如く綺麗に並べられ、鉄の壁騎士団員たちが彼らの所持品を検分している、そんな様子を見ながらお館様は無言のままじっと死体を見つめる鉄の壁騎士団長に確認するように尋ねた。

 「この男が指揮官かどうかはまだ分かりませんが、確実にこの部隊を指揮していたのを見ております」

 鉄の壁騎士団長は残念そうにお館様に報告した。お館様はそんな彼の大きな背中を労うようにポンポンと叩いた。

 「ヴィット、部下たちに怪我はないんだな」

 「剣精様、黒狼騎士団、波しぶき騎士団の活躍で彼奴らは随分と疲弊したようですから、楽なモノでした」

 「無事が何よりだからな・・・」

 お館様は誰に言うとでもなくポツリと呟いた。


 「血は止めたよ。でも、これは・・・」

 つばの広いサファリハットのような黒い帽子と大きなマントで日光を防ぎながらハンレー医師はタカノ沢に拵えられた急作りの病床の上で呻く犬族の黒狼騎士団員の左腕をさすりながら、ジングル医師に声をかけた。ハンレー医師が止血した彼の左掌は親指以外で何とか皮一枚でつながっている指以外はなかった。手の甲は綺麗に削られ骨が見えており、見るだけでも痛くなってくるような惨状を示していた。

 「可愛そうじゃが、生命に関わってくるからのう・・・、このままだとお主の左腕は遠からず腐って来る。その毒が全身に回り、お主も死ぬ。左掌を先に死神に差し出すか、左掌と共に逝くか。お館様は、郷の民の生命が失われることを何より悲しまれる。心は、決まったな」

 ジングル医師は脂汗を滲ませ、荒い息をしている男に鋭く言い放った。つまり、左掌を斬り落とすと。

 「ウェル、暴れないように押さえつけろ。これを咥えさせろ」

 ジングル医師の命令にウェルはさっと男を押さえつけると彼の左腕を病床からはみ出すようにして固定した。それを見たハンレー医師が固くまかれたタオルを男の大きな口の中につっこんだ。ジングル医師は斧を手にして、狙いを定めた。

 「それは、儂がやる。痛みを感じる暇はないぞ」

 そんな彼らにいきなり涼やかな声がかけられ、医師たちが声の主を確認しようと視線を動かすと同時に患者の原形をかろうじて保っていた左掌は手首から綺麗に離れ、大地に落下していた。

 「止血じゃ」

 「言われずともするさ」

 両医師は吸血種族の血流を操る力と職人技をもって速やかに処置をはじめ、処置が終わったのは、患者が押さえつけているウェルの力が強くて落ちるのと同時であった。

 「手足を斬り落とす仕事なら儂が引き受けるぞ。生き残った敵の首も吝かではないがのう」

 冗談なのか本気なのか良く分からないことを言いながら、ラールは近くにあった石に腰を掛け、ポケットに手を突っ込むと黒い布を取り出し、それを目隠しのように顔に巻き付けた。


 「女神の慈悲だ」

 取りあえず確保され、生き残った20人ほどの敵は例外なく全員どこかに手傷を負っていた。武装解除され、四周を黒狼騎士団員たちに包囲され、どこか諦めたような表情で殺される瞬間をじっと待っていた。そんな彼らにいきなりかけられた言葉であった。

 「戦いを放棄した者には、手当を。如何様な状態になっても戦いを続ける者には最後の刃を。さぁ、選べ」

 座り込むボーユの海兵団の生き残りたちに黒狼騎士団長は静かに問いかけた。

 「女神様の慈悲により、戦いを放棄した者の命は奪わん。ただ、女神様の御心を裏切り、踏みにじった者には、我々と女神様により償いをさせられることになる。逃げ切れると思うな。生まれたことを後悔することになる。覚悟せよ」

 敗残兵を睨みつけ、一声吠えると全体が見渡させる大きな岩の上にポンと飛び上がった。


 「彼は治療所へ、武器と防具、書類は没収させてもらうよ。それ以外は、持っていていいよ。財布も取り上げない」

 あちこちで座り込んだり、横たわっているまだ収容されていない海兵団員たちを回収するように命じながら、ルッブは虚ろな表情を浮かべている敗残兵たちに声をかけていた。

 「おい、金目を巻き上げないのか」

 黒狼騎士団長の横にいつの間にか立っていた波しぶき騎士団長が不思議そうに声をかけた。

 「デーラ殿、小遣い稼ぎをさせないのか」

 「戦った者への敬意と女神様の慈悲だ。戦えない者から剥ぎ取ったら、山賊だろ。俺たちは山賊じゃない。勿論、フィッツァー殿もそうだろ」

 黒狼騎士団長ガング・デーラはにやっと笑って当然の事と言い放った。立派な事を口にはしているが数年前までは山賊と同じことをしていたことを敢えて口にしなかった。

 「ああ、勿論だ。誇り高き波しぶき騎士団は山賊まがいの事はしない」

 虚を突かれた様な波しぶき騎士団長ロッド・フィッツァーはさっと辺りを見回した。

 「むっ」

 そして彼の部下が既に息絶えた敵の懐を探っている姿を目にして、表情を硬くした。

 「何をしておるっ!! 」

 彼は手近にあった小石を自分の部下に投げつけた。石は狙い違わず彼の頭を直撃し、彼はその場に崩れ落ちた。そして、怒りが籠った目で自分の上司を睨みつけた。

 「騎士団の誇りを忘れたのかっ」

 「ケフで呑み散らかしたツケを忘れれたんですかーっ」

 頭をさすりながら涙目で返された言葉に波しぶき騎士団長は顔をしかめた。

 「ぐっ、しかし略奪は認めん。ツケは俺が・・・、俺が面倒をみるっ」

 彼は嫌な汗が肉球を湿らせていくのをひきつった表情を浮かべながら感じていた。

 「すまんね、俺の所はこれが普通になったんだよ」

 金の工面に頭を捻り始めた同業者を同情たっぷりに宥めると、ついさっきまで鉄火場を飛び回っていて、今は負傷者の看護にあたっている、事の発端となったネアを複雑な表情で見つめた。


 「何度言えば分かるんですか。殺しません。そして拷問もしません」

 ネアは手傷を負い、野戦病院のように負傷者が並べられている一角で、頑なに治療を拒み、すぐに殺せと喚く男に呆れたように同じことを繰り返していた。

 「な、何が殺さないだ。俺は知っているぞ、お前が、マイ・サンを狙ったことを」

 彼は、太ももの内側についた傷をネアに見せつけた。

 「最初から、そこを狙ってましたよ。あなたの貧相なブツは狙うには小さすぎましたので」

 恨みがましいことを呻くけが人は、ネアの一言で心まで傷つけられ、涙を浮かべたまま何も言わなくなった。

 「小さくても、貧相でも、あるってことはいい事です。失ったら二度と戻ってきませんから」

 ネアは大人しくなった怪我人の心の傷を知らずのうちにえぐりながら、肉体の怪我にたいして、効き目は兎も角、沁みることは天下一品の薬をぐいぐいと塗り込み、その上からきつく包帯を巻きつけた。

 「はい、できました。傷口はちゃんと消毒しておいてくださいね。小さくても、貧相でも生きれいれば、いいことはある・・・かな、少なくとも可能性は高くなりますから」

 笑顔で吐かれる言葉は、怪我人の心に塩どころか、タバスコ、ワサビなどの香辛料を塗り込むような作用が生じていた。脂汗と涙を浮かべる怪我人をじっくりと看るとネアはにっこりした。


 「さ、火を付けて、盛大に煙を上げてください。後、難民役はこの火が消えてから、出発すること。食事はそれまでに済ませて、給水所は設けています。くれぐれもバレないようにして下さい。バレると全てが瓦解します」

 ケフの都の郊外にうず高く積み上げられた、燃える事が共通点のガラクタやゴミをケフの宰相ハリーク・ノスルは見上げ、そしてそれらに火を付けるように命じた。最初は燻っていた火は、わずかな間に火柱を上げて燃え盛りだした。その熱に彼は少し後ずさった。

 「どんどん、燃やしなさい。この都が燃えているように」

 焚き火は黒い煙と焦げた臭いを青い空にまき散らしながら燃え盛っていた。

 「これで、騙されるといいのですが・・・、火の粉が街で火事を起こさないように見回りを厳にしてください。火事で落ちたなんて洒落にもなりませんからね」

 ハリークの心配をよそに、火はますます燃えあがり、火の粉を盛大に吐き出していた。


 「終わったのか」

 「そうみたい・・・」

 戦場の隅で魂の盗りあいを目の当たりにしたヨグサとハービアの親子は青ざめた表情で互いに見合っていた。知らずのうちに流れ出た脂汗のためか、ハービアのメイクは剥げ、ますます質の悪い病気に罹患しているような見た目になっていた。

 「危険な事に巻き込んで済まない。しかし、君たちのおかげで奴らを嵌めることができたよ」

 お館様は、少しばかり虚ろな表情になっている親子に近づくと彼らに頭を下げた。

 「滅相もございません」

 「あ、頭をお上げください」

 親子はお館様の謝罪に手を振ったり、辺りを見回したりとおたおたとしたコメディじみた動きをしだしていた。

 「これは、俺の気持ちだ。君らのおかげで助かった。今夜は、館で寛いで行ってくれ。こんな状態だから馳走までとはいかんがね」

 「勿体ない事です」

 親子は跪いて首を垂れた。そんな彼らを見るとお館様は髭面に笑みを浮かべて野戦病院へと歩いて行った。

 「ケフの郷の民になるってのもありだよな」

 「私、あのお館様になら側室になっても・・・、側室になりたい」

 「それは、ちょっとな・・・」

 思わぬお館様の言動に感動しすぎた娘に父親はどう接していいのか分からず、頭を抱えることなっていた。


 

この世界での軍事的衝突は小規模なモノになってきます。特に田舎の人口も少なく、これといった産業もなく、お金もない郷と郷の間の戦はこじんまりとした戦いになります。ケフの郷も例外ではありません。ましてや、大部隊を長距離移動させることは巨大な富を持つ郷でも簡単にできる行動ではありません。戦をするには何かとお金がかかるので、小競り合いが精一杯なのです。

今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

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