232 手を付ける
いきなり寒くなってきてましたが、お話の中は秋の始まりぐらいです。
獣人も天然の衣替えをする季節です。
「お主らがおらんと、あ奴らが警戒しよるでの。すまんが、付き合ってもらうぞ」
タカノ沢の入り口でテントを張ってヤヅからの部隊を待っているヨグサ親子にラールは頭を下げた。
「剣精様、非道をやらかす連中を退治できるならお安い事ですよ」
緊張の色はあるものの、好き勝手にこちらを扱き使おうとした連中にそれなりの目を見せるのに彼はためらいがなかった。
「そうかなー、ケフのお館様からお金貰ったんでしょ。それとさ、森で採れた珍しいモノを売る許可証とお店を出す権利、入郷税の免除もね。これで、逃げたら胴体と首が分離しても文句は言えないよね」
ハービアはそう言うと父親を楽しそうに見つめた。
「とどのつまりは銭じゃな。いくら綺麗ごとを並べようと行きつく先は銭。娘よ、正直なのは良いが、銭銭と口にしていると婿をとれんぞ」
ラールは包帯だらけの顔で笑い声を上げた。
「そこは、弁えてますよー。剣精様。・・・でも、顔がムズムズします」
ハービアは顔面のあちこちに紫色の甲虫が張り付いたような腫瘍だらけの顔をしかめた。
「しかし、化粧とは言え、まるでホンモノの腫瘍みたいだ。見ている方が痛くなってくるぞ」
ハービアの顔面の腫瘍はお館の美容師であるハトゥアの渾身の作であった。女に飢えた敵が彼女に襲い掛からないようにする偽装であった。
「儂も、目だけ出すと言うのは経験したことがないからのう」
ラールも顔面に包帯を巻きつけられ、その包帯のあちこちに血やら膿が滲んだような色が付けられ、その包帯の下がトンデモないことになっていると簡単に想像させるものであり、そこに彼女の濁った青い目が彼女の惨状を見た者に、想像から確信に進化させるために大きく役立っていた。
「そろそろ、取り掛かろうかのう」
ラールは森の方に顔を向け長い耳を少し動かしながらヨグサに告げた。
「そろそろ、先頭が到着しよるぞ。さすが獣人じゃな。あの数が潜んでおっても、気を向けん限り潜んどることを感じられんわい」
ラールは腕を組んでしきりに感心していた。そんな彼女を傍目にヨグサは大きめの鍋を急ごしらえの竈にかけると火を付けた。
「香草を大目に使って、匂いだけで腹が膨れそうなのを作りますよ。奴らが少しでも早く喰いたいって思わせるように。ハービア、そこで剣精様と一緒にじっとしていてくれ。病人を使うわけにはいかんからな」
暫くするとタカノ沢一面に美味そうな匂いが立ち込め、潜んでいる獣人たちは、敵と戦う前に己の食欲と戦う事になってしまった。
「隊長、ますます匂いが強くなってきましたね」
「アイツらが気を利かせたんだな。これで行軍もラストスパートがかけられる」
輜重隊の荷車の喪失などの不運続きでうんざりしていたボーユの顔に少し明るさが戻ってきた。
「もうすぐ、森を抜ける。川の音もする。もう少しだ。気を抜くな」
ボーユが後に続く隊員たちに声をかけると、大きな声が戻ってきた。
「元気があるのは良いが、これからは気づかれないように静かにするんだ。お楽しみの前の少しの我慢だ」
ボーユ率いる部隊はその言葉で水を売ったように静かになり、彼らがその場にいることを足音のみが物語っていた。
「攻撃は明日の早朝だ。アイツらには最後の朝となる」
昼過ぎにタカノ沢に到着したボーユはヨグサが準備したごった煮を描き込みながら隊員たちに告げた。
「攻撃隊長は俺の元に来い。臨時攻撃隊長もだ」
ボーユが声をかけると即座に彼の元に9人の男たちが集まった。
「攻撃開始の時期は、奴らが朝、野良仕事に向かうために城門を開けた時だ。空が十分に明るくなった時期に出発しても間に合う。さっき、アイツら聞いた。散々脅したから嘘じゃないだろう。それとな、若い娘とエルフ族の女もいるが、病気持ちだ。手前の道具を台無しにしたくなけりゃ手は出さないことだな。で、許せんことにあいつ等に道案内させた3人は、一足早くケフでお楽しみらしい。どさくさに紛れて殺しても問題ないぞ」
ボーユがちらりとタカノ沢の入り口あたりにテントを張って佇んでいる2人を見てから、攻撃隊長と元輜重隊長である臨時攻撃隊長に注意を与えた。
「ちぇっ、つまらんな、アイツら、見つけたらぶっ殺す」
「命は惜しいからな、なーに焦らんでも明日の今頃は、抱き放題になっているさ。もちろん、先に楽しんでいたやつを始末してから」
「飯炊きより、暴れる方が良いってもんだ。分け前が減ってすまんな」
隊長たちはそれぞれ軽口を叩きながら部下たちが待っている辺りに戻って行った。
「雨が降る気配もない。テントはいらん・・・、と言うか、谷底か・・・」
ボーユは空を見上げてから肩をすくめると近くの岩に背を預けて座り込んだ。
「ちょいと休ませてもらう」
彼は周りの隊員に言うと懐からスキットルを取り出し、栓を開け中身を胃袋に流し込むとそっと目を閉じた。
「この化粧が効いたようじゃな」
ラールは包帯の上から顔を掻きながら、こちらをチラチラ見てため息をついている男たちの気配を探って口元を緩めた。
「こうしてなかったら・・・」
ハービアは自分の身が結構危険な目に遭いそうになっていることを知ってメイクではなく、本当に青ざめた顔色になっていた。
「見境のない、盛りが着いたヤツは儂が斬り捨てる。ま、命まで取っては、可哀そうじゃから、アレだけにしてやるがな」
ラールは仕込み杖を少し掲げて不敵な笑みを浮かべた。それを見たヨグサは股間に冷たい風が吹きつけたような恐怖を感じ、思わず前かがみになってしまっていた。
「奴らがここを発つのは、空が十分に明るくなった頃じゃ。声を潜めておってもまる聴こえじゃ。それを紙にしたためて、そこの藪に投げてやれ。さっきからこれが欲しくてならんのがあるようじょうからのう」
ラールは見えぬ目で藪の方向に視線を向けると口元を緩めた。そこには、既に黒狼騎士団の鼬族の騎士団員がラールたちとの連絡のために潜んでいたのである。彼は誰にも気づかれぬように気配を殺し、風景に溶け込んでいると確信していたが、目の見えぬラールの言葉に確信と自信は呆気なく崩れ去っていた。
「気にするな、普通はだれも気付かん」
彼の気持ちを察してからなのだろうか、ラールは彼をフォローするような言葉を口にしたが、その台詞が彼に止めを刺していた。
「ドンマイ」
無言の呻きを感じ取ったハービアは藪に向かって応援するように声をかけると、素早くメモした紙を丸めて藪に投げ込んだ。何かがかすかに動くような気配がしたことを感じとったラールは潜んでいた者がちゃんと仕事をしていることを確信した。
「空が明るくなってからか・・・」
タカノ沢の近くの窪地に隠れるように張られたテントの中でお館様はハービアが書いたメモを目にして呟いた。
「我々の行動開始は、タカノ沢の状況が見えるようになった時ですね。そうすれば、弓の誘導もできるし、奴らの準備が整う前に仕掛けることができますよ」
ネアは、テーブルの上に広げられたタカノ沢一体を示した地図の今まさに敵が集結しているであろう地域を手袋をしたような手でポンと軽く叩いた。
「既に鉄の壁騎士団は配置についています。この態勢で明日の朝まで待機します。それさですね・・・」
テントに入ってきたヴィットは配置完了の報告をすると、ちょっと言いにくそうに言葉を濁した。
「こんな楽しそうな事に読んでくれないとは酷いですね」
「借りを返さなくちゃならんのですよ」
ヴィットを押しのけるように2人の男が入ってきた。
「キリーン殿とフィッツァー団長じゃないですか。一体何用で? 」
入ってきたのはヤヅの郷主と波しぶき騎士団長であった。2人は白々しいお館様の言葉ににやっと笑って返した。
「アイツらにやられっ放しと言うのは、面白くありませんからね。ふざけた事をするとどうなるか、バルンのヤツに教育してやらないとダメでしょ。この作戦、ミオウも一枚かましてもらいたいですな」
「街道側からの斬り込みは、我ら波しぶき騎士団が受け持ちますぞ」
ミオウとしてもヤヅに対して一矢報いたい気持ちがあったのであろう。その熱意は暑苦しいぐらいであった。
「この作戦は、公言してはおらんのですが」
お館様は、内心どこでこの情報が漏れたのかと焦りを感じながらも、不思議そうな表情を浮かべるだけにとどめた。
「ヤヅを懲らしめるための会談をしたいと、思ってお館を尋ねたら、なんと既に作戦中ではないですか。それならばと思いましてね」
キリーンは悪戯っぽく笑みを見せた。
「波しぶき騎士団、徒歩戦ならば15人、俺を合わせて16人が参戦できますぞ。陽動ぐらいはお手の者ですぜ」
ロッドは灰色の毛におおわれた顔に不敵な笑みを浮かべた。
「デーラ殿の姿が見えませんが、何処に? 」
ロッドはテント内を見回して、黒い影が無い事に気付くと疑問を口にした。
「黒狼騎士団長は既に、部下とともに配置についている。君、ガングに攻撃開始の時期と波しぶき騎士団が街道側で大騒ぎしてくれるという事を伝えてくれ。くれぐれも見つからないようにな。危なければ引き返しても構わんぞ」
お館様は、テント内に待機していた鼠族の黒狼騎士団員に伝えた。
「承知いたしました。ええ、危ない橋は渡りません。見つかると元も子もありませんから。・・・それと、女騎士が敵に捕まるとどんな目に遭うかも心得ておりますので」
お館様を安心させるように彼女は笑みを浮かべると、音もなくその場から走り去っていった。
「状況は刻々と変化する。それに合わせて作戦も柔軟に変化させる・・・。フィッツァー様、敵の意匠は灰色で統一されています。くれぐれも同士討ちにはご注意ください。あ、剣精様もおられますので、むやみに近寄ると斬られる可能性がありますからその点もご注意ください」
ネアは、いきなりの闖入者の出現に、大きく尻尾をふりながら感情とは裏腹に落ち着いた口調で波しぶき騎士団長に注意事項を説明していた。
「お、なんだこのチビは。ここは子供のいる場所じゃねぇぞ」
波しぶき騎士団長はいきなりネアに話しかけられ驚きの声を上げた。そして、誠に常識的な事を口にしていた。
「この子は特別でね。頭の回りは早いし、事を起こすときには容赦しない性格だよ。噂で「ケフの凶獣」って耳にしたことがないかい? この子がその凶獣だよ」
お館様がネアの肩をポンと叩いてキリーンと波しぶき騎士団長にネアを紹介した。
「ケフの凶獣・・・、大の男2人を電光石火で血だるまにして、騎士見習いを2度に渡って沈め、名うての傭兵を一騎打ちで倒し、レヒテ様を襲おうとした暴漢をこれまた電光石火でぶちのめし、あろうことか死に行く枕元で暴言を吐いたと言うあの凶獣が・・・」
どうも波しぶき騎士団長は世事に詳しいようでケフの凶獣にまつわる噂話をいくつか上げて、魔物を見るような目でネアをみつめた。そんな彼らにネアは
「その二つ名、嫌いなんです。迷惑しているんです」
と自分がそんな危険な存在でないことを主張したが、その言葉は彼らには響きかなかったようであった。
「しかし、どう見ても普通の子にしか見えん・・・、ビケット様、誠でしょうか? 」
「随分と脚色されているようだけど、大筋ではあっているよ。この子が正真正銘の「ケフの凶獣」さ。でもね、この子より恐ろしいのがうちの館にはいるからね」
信じることができないとばかりにネアとお館様を交互に見る波しぶき騎士団長にお館様は笑いながら答えた。
「すると、今回の最終目的は、バルン殿の心をへし折るってことですな」
お館様と波しぶき騎士団長の会話を聞いていたキリーンがニヤッと笑いながらお館様に尋ねた。
「当然の事ですよ。勿論、共通言語をもって対話してからですがね」
何をいまさらそんな事を聞くのかと不思議そうにしているお館様を見てミオウから来た2人はひきつった笑みを浮かべた。
「共通言語で対話って? 」
「お館様、共通言語ってコレでしょ。これでの対話ってことは・・・」
お館様の言葉を聞いた、キリーンと波しぶき騎士団長はケフが思いのほかに戦闘的な郷なのではないかと、今までの認識を改めることにした。
「お館様、ケフとはできる限り剣を交えんようにしないとなりませんな」
「ケフは服飾の郷と思っていたが、戦闘郷だと認識したよ」
波しぶき騎士団長とキリーンは互いに小声で話し合い、間違っても今回の作戦を瓦解させるようなヘマをしでかした時、どうなるかを考え、この作戦に参加すると口にしたことを少しばかり後悔していた。
「沢が見渡せるようになったら、攻撃開始です」
木々に隠れるように身を低くしてタカノ沢で野宿している敵を見下ろしながらネアは小声で隣のお館様に話しかけた。
「彼が、攻撃開始、矢の誘導を行います。彼に命じて頂ければ、攻撃は開始されます。射手は全員、ここから沢の距離を掴んでいますので、30名程ですがまとまった攻撃ができると見積もってます」
ネアの言葉に頷くお館様に彼女は少し離れた場所で旗を背中に背負い、伏せて敵を見張っている鼠族の騎士団員を指さしながら、今後の行動について口にした。
「ネアの目には見えているようだが、俺には見えんな・・・、彼は見えているのか」
「見えたら、合図してくれますので、まだ見えないと思います」
「攻撃が開始されたら、俺は彼の横に陣取る、あそこが一番全体が見られるからな。ネア、伝令を頼むぞ」
お館様は、伏せたまま隣のネアに命じると、彼女は短く「了解」と答え、じっと敵を凝視し続けた。
「っ! 」
黙ったままいるお館様に向けて鼠族の騎士団員が握り拳を突き出した。
「見えるか、よし、朝から思いっきりサービスしてやれ」
お館様は小声で呟くと、大きく振りかぶって指を敵に向けた。これを確認した鼠族の騎士団員は背負っていた旗を高々と差し上げた。そして、一拍の後、ネアたちの頭上を矢が飛んで行った。
「石だらけの上で寝るって拷問かよ・・・」
「愚痴るなよ。今日は女の腹の上で寝られるぜ」
ボーユの海兵団の隊員たちは口々に文句やら、多分、今日約束されているだろうご褒美について話ながら欠伸をしたり、用を足したりしだした。
「小便なら離れた所でしろよ」
隊員の1人が用を足している仲間に文句を吐いた後、そのままその場に倒れてしまった。
「? 」
彼らが何事が起きたかと互いに顔を見合わせていると彼らに次々と矢が突き刺さって行った。
「敵襲っ」
誰かが悲鳴のような叫びをあげ、その声を聞いた隊員たちは武器を手に取ると素早く物陰に身を潜めた。
「少しばかり遠かったようだな」
鼠族の騎士団員が旗を振って射手に矢が少し遠くに落ちたことを伝えた。それを確認した射手たちは狙いを修正し、第2射を放った。矢は伏せている隊員たちの真上から雨の如く落ちてきて、彼らの背中や足、運の悪い奴には頭に突き刺さりだした。
「森へ退避しろ、態勢を立て直せっ」
慌てる隊員たちにボーユは怒鳴りつけ、武器を手に掴むと矢をかいくぐって森へと向かった。
「っ! 」
森に向かって走っていた隊員たちが急にバタバタとその場に崩れ落ちだした。
「まさかっ」
矢は森の中から、彼らの侵入を拒絶するように次々と放たれてきた。運の悪い者はあっという間に身体全身を簪で飾り立てたようになっていた。
「森に入るな、待ち伏せされている。糞っ、街道に向かうぞ」
ボーユはまだ4割程度残っている兵力を引き連れて180度回頭すると、街道の方向に向かって走り出した。その時、彼らの進む方向から遠吠えが響いた。
「剣を抜けっ、来るぞ、混戦に持ち込め、混戦になれば矢は飛んで来ない」
ボーユの言葉に反応した隊員たちは抜刀すると遠吠えのした方向に駆け出していた。
「決して、剣精様に近づくんじゃねーぞ。ぶっ殺されたかったら好きにしろ。ただし、敵を3人以上叩き斬ってからだ」
遠吠えをした後、細い道を賭けながら波しぶき騎士団長のロッドは吠えるように部下たちに怒鳴った。
「自ら猛獣の咢に突っ込む勇気なんてありませんよ」
ロッドの言葉に部下たちは軽口で返す。波しぶき騎士団ならではの光景であった。
「抜刀っ、見つけ次第、斬り捨てろっ」
「応っ」
ロッドの命令にそれぞれが走りながら剣を抜いた。
「暴れろっ!! 」
「応っ!! 」
波しぶき騎士団の16人は抜刀し向かってくる敵に杭を打ち込むように突っ込んで行った。
「あの声はフィッツァー殿か。よし、我らも繰り出す。行くぞ」
ロッドの遠吠えを聞いた黒狼騎士団長のガング・デーラは猛々しい笑みを浮かべると、剣を振りかざした。
「繰り出せっ!! 」
彼の号令の下、黒狼騎士団は森から滲み出るように敵に襲い掛かった。
「くっ、円陣を組め、対尻尾だ」
襲い掛かる敵が獣人であることを悟ったボーユは部下たちに大声で命令した。その言葉に、部下たちは3人1組となり、突っ込んでくる波しぶき騎士団、黒狼騎士団に対してとぐろを巻くように円陣を組んだ。
「ほー、3人で1人か。なかなか手堅いことをしよる。ふふ、一つ、遊んで来ようかのう」
ラールはヨグサたちに茂みに隠れるように手で示すと、ゆらりと立ち上がり、剣と剣がぶつかり合う音を拾った。
「あちらかのう。ハービア、敵に獣人はおるかの? 」
「敵は真人だけです」
「そうか、じっと隠れておれよ」
ハービアにそう告げるとラールは杖をつきながら、今、正しく命の取り合いをやっている場所に向けて歩き出した。
「矢で減らしましたから、いまの所、戦力は互角。あ・・・、剣精様が動き出しました」
腕組みをして戦場を睨んでいるお館様の横でネアは、今の状況を命じられたわけでもなく逐一報告していた。
「不味い、奴ら、3人で1人にかかってきています。あ、1人、波しぶき騎士団の人が斬られて、後退しています。我らも集団としてかからないと、各個に撃破されてしまいます」
「ネア、彼らに集団戦闘に徹しろと伝えて来てくれ」
お館様はネアに戦っている騎士団に伝えるようにと命じてきた。
「了解っ」
「これを持って行け」
お館様は、駆けだそうとするネアに弩と矢筒を手渡すと、ポンと背中を叩いた。
「怪我をするなよ。無茶はするな。お前に何かあると、レヒテやモーガに何をされるか分かったもんじゃないからな」
「ご安心ください。ケフの凶獣、行ってまいります」
ネアはにっと笑うとお館様にさっと敬礼すると、急斜面を駆け下りて行った。
「自ら凶獣を名乗るか・・・、アイツ、暴れるつもりか・・・、ネアの事だから馬鹿な事はしないと思うが・・・」
お館様は、切り立った崖を駆け下りて行くネアの背中を見ながら苦笑した。
ボーユの率いる部隊は、個人の戦働きは重視されず、部隊として任務を遂行できることが重視されています。イメージとしては、近代の軍事組織に似た性格を持っています。
この世界の軍事的衝突は地味なモノです。特にケフとヤヅのような辺境でお金のない郷同士の戦いは、戦の準備をした時点で経済に打撃を受けるのでおいそれとちょっかいをかけるわけにはいかないのですが、攻め込まれれば全力で排除するのが常識です。その際、どこで互いに手打ちにするかが難しい所です。何事も引き際が大切なのです。
今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。