228 帰還に向けて
これから先もUPが不定期になりそうですが、折れぬ限り続けていく所存です。
生暖かく見守っていただければ幸いです。
「我々は、貴様らがその関を明け渡すことを要求する」
隊長はコービャの関からこちらを睨みつけている面々に堂々と声高らかに言い放った。
「私たちの事は気にしないで」
「後悔するぞ」
モーガとキリーンが隊長を睨みつけ、キツイ口調で唸ったが、彼はそんな事に気を取られるような男ではなかった。
【ふふん、注目されているな。ここで名を売っておくのも悪くない】
彼はにやりと笑みを浮かべると、徐に口を開いた。
「俺は、こんな関を護るだけのつまらん器ではない。行く行くは、さらなる力を手に入れ、郷の力を、名誉を高めていくことができる男だ」
隊長は、選挙前のどこかの泡沫政党ができもしない公約を並べ立てるように自分がどれぐらい優秀か、自分が中央、と言ってもヤヅ限定であるが、に上り詰めた暁には、コービャの関で雁首を並べている連中にも恩恵を与える心積もりがあることをとうとうと喋りだした。
「まただよ」
「時期と場所を考えることができないモノかねー」
「上役にもあの調子で言えたらねー」
ヤヅの関に詰めている者たちは呆れたように小声で互いに囁きだした。
「小物ってヤツでしょうか」
「絶対に友達になりたくないタイプだよ」
後ろ手に縛られた振りをしているラウニがつまらなそうに隣の退屈に苛まれているフォニーに囁くと、彼女はウンザリした口調で答えた。
「随分とご器用なんですね」
自分の演説に酔ってうっとりとしている隊長に拘束されている振りをしているモーガが優しく声をかけた。
「・・・で、あるからにして・・・、今、何と言った?」
隊長は自分の演説に横やりを入れたモーガを鬼の形相で睨みつけた。
「起きたままで寝言を言えるなんて、そんな器用な方を今まで目にしたことがなくて」
「は? 」
モーガは睨みつける隊長にいつものようにニコニコしながら答えた。その答えは隊長の想像の範囲の外であった。
「巡りの悪い人ですね。つまり、眠たい事をぬかすなってことですよ。それとね、貴方、口が臭いですよ」
驚きの表情を浮かべ、その表情が怒りの表情に進行している隊長に、ニコニコとしながらモーガは口にすると、辺りを見回し、キリーンに頷いた。
「見事な演説だったぞ。笑うのを堪えるのに随分と苦労したがな。・・・ランカ、鳴けっ!」
何かを言おうと口を開きかけた隊長を一瞥するとキリーンは声を張り上げた。その声を耳にするや、ランカ空を見上げて、遠吠えを始めた。
「狩りの開始ですな」
黒狼騎士団長が口にするのと、波しぶき騎士団員と残念トリオたちが抜刀したのはほぼ同時であった。
「コービャの関まで走りなさい。邪魔する者に慈悲はいりませんっ」
モーガが叫ぶとラウニとフォニーはレヒテとギブンを脇を固めようとしたが、彼女らはラウニたちより先にカータを抱えるランカとハーリンを護るようにして走り出していた。
「お護りするのです」
「言われんでもするよ」
ラウニとフォニーはレヒテたちを目指して走り出していた。
「繰り出せ、盾を構えろ、奥方様たちを早く迎え入れるんだ。邪魔する奴は斬れっ」
鉄の壁騎士団長が命ずると盾を持った騎士団員たちが関から走り出てきたそして、横一列に並ぶと大地に盾を突き刺すように立てた。盾の壁の中央あたりの門とも呼べるような隙間からさらに盾を持った者たちが置くかだ様たちの元へと走り出していた。
「最大射程だ、遠慮はいらん。奥方様たちに無礼があれば、気前よく打ち込んでやれ」
関の物見櫓に設置されたバリスタの傍らに立った黒狼騎士団長は眼下の状況とヤヅの関を交互にみながらバリスタを操作する騎士たちに射撃の準備を命じた。
「お前さんの間抜け面、楽しかったよ」
ランカが遠吠えを始めるとキリーンは自ら縄を解き、隊長ににやっとして見せるとその顔面に気持ちよく拳をくれてやった。
「ぶっ」
奇妙な音をたてて崩れ落ちる隊長を見届けることなくキリーンは妻と子を庇うように走り出した。
「暴れろっ、お館様の元には誰も行かせるな。ランカ、走れっ」
波しぶき騎士団長のロッドは剣を抜くや近くにいたヤヅの騎士団員を斬り捨てながら大声を上げた。
「行くよっ、モタモタしてると取り残されるからね」
バトが抜刀して行き先を妨げようとしたヤヅの騎士団員を伐り伏せながらルロとアリエラに声をかけた。
「アンタこそ、良い男によそ見してやられても知らないからね」
「ティマちゃんに怖い思いをさせたヤツは殺すっ」
ルロとアリエラも鬼の形相で近づいてくるものを斧で叩き割り、短剣をねじ込んで行く。
「卑怯な手は嫌いだ」
組みしやすそうだと踏んだのかランカに襲い掛かろうとしているヤヅの騎士団員の前にナイフと短剣を手にしたヘルムが割り込んできた。彼は騎士団員が振り下ろした剣を短剣で受けると流れるような動きで鎧の隙間にナイフを差し込んだ。
「坊ちゃん、こういう場合は、早さが肝心でさぁ」
前に回り込んだ騎士団員の顔面に鉄拳を素早くねじ込ませながら、まるで何かの作業のコツを伝えるようにハチはヘルムに話かけると彼の背中を押しながら駆けだしていた。
「ち、畜生・・・」
ネアは銛を杖のようにしながらラマクの麓に広がる森の中をケフがあると思う方向によろよろと歩いていた。空腹と季節外れの水泳によって冷えた事、睡眠不足などが幼いネアの身体を蝕んでいた。
「帰るんだ・・・、誰もいない部屋じゃない、皆が待ってくれている場所に・・・」
よろよろと歩くネアの脳裏にラウニやフォニー、ティマの侍女な見習い仲間、レヒテやご隠居様たちお館様の家族の顔が浮かんだ。その時、今まで押し殺していた寂しさが、津波のようにネアに襲い掛かってきた。
「帰りたいよ・・・、寂しいよ」
ネアは大声を上げて泣きそうになったが、複素の裾をぐっと噛んで声を漏らさないようにしながら涙をボロボロと流した。暫くくぐもった泣き声が真っ暗な森の中に虫の声にかき消されるように続いていたが、その声も疲れたのかいつの間にか寝息に変わっていた。
「皆、怪我はないか。揃っているか? 」
奥方様一行を迎え入れたお館様の第一声であった。
「ええ、あの方たちの働きもあり、幸い怪我はしておりません。ですが・・・」
奥方様は少し気落ちしたような表情を浮かべながら問いかけに答えると目を伏せた。
「そうか、分かったよ・・・」
お館様は、関に逃げ込んでほっとしている一行を見回し、ハチ割れのネコの姿が無い事を確認すると寂しそうに呟いた。そしてキリーンの姿を見つけると彼の元に歩み寄った。
「キリーン・ザイエン殿、この度は色々と助けて頂き感謝を申し上げます。お供の騎士団員の方で怪我をされた方はありませんかな」
お館様はコービャの関に詰めている騎士団員からお茶を渡され、安堵しながら飲んでいるキリーンに頭を下げた。
「誰も怪我なんぞしておりませんよ。奥方様の舌を巻くような見事な作戦の賜物です。お礼を申し上げるのはこちらの方です」
キリーンはカップを脇のテーブルに置くと深々と頭を下げた。
「アレは、少しばかりお転婆が過ぎるとお義父殿から良く聞かされていましたので、そのお転婆が良いように作用したのでしょうね」
「状況を見据えた見事な采配でしたぞ。おかげで我々も誰一人欠けることなく帰還できそうです。不謹慎ながら、この作戦で久しぶりにワクワクさせて頂きました」
鎧を脱いだ波しぶき騎士団長がニコニコしながら脇から入ってきて深々と首を下げた。
「それは何より、ケフの都で暫く身体を休めて行かれるといいでしょう。歓迎しますよ。私は、彼らに少しばかり指示しなくてならないことがありますので」
お館様はキリーンとロッドに礼をすると黒狼、鉄の壁両騎士団長の元に足を向けた。
「奴らに礼儀と言うものを教えて良いでしょうか」
「直々に剣の稽古をつけてやりたくなりました」
両騎士団長はお館様の姿を確認すると憎々し気に睨んでいたヤヅの関からお館様に目を転じ、思いを口にした。
「本格的に戦うとなると、まだヤヅに残されているケフの民の安全が保障できなくなるぞ。どれぐらいの民がヤヅに止め置かれているのか見当もつかんが、少なくとも1名はまだヤヅに残っている」
お館様は射殺すようにヤヅの関所を睨みつけると、いきり立つ両騎士団長を宥めた。
「しかし、アイツらは奥方様にトンデモない無礼を働いております」
「ミオウも黙っておりませんでしょう。奴らの作戦は人質が逃げたことにより失敗しております。ここで戦を仕掛ければ、ヤヅを陥落させることも可能ではないかと」
両騎士団長はお館様の判断が気に入らないようで、すぐにでも攻め込むべきと口を合わせてきた。
「どの位の頭数で、何日闘うのだね? ミオウの参戦は? 舐めたことをされたのはミオウも同じだ。彼らと歩調を合わせなくてはならん。戦の準備にどれぐらいの時間と金が必要になる? 頭を冷やせ」
お館様は猛る彼らに厳しく告げるとじっとヤヅの関を睨んだいた。
「こんな舐めた事をした、落とし前は必ずつけてやる。悪ふざけの代償は安くないことを教育してやる」
お館様は感情を抑え込んで呟くと関の騎士団員に警戒しつつ、いつもの態勢に戻るように両団長に指示を与えた。
「朝か・・・」
泣き疲れて一晩を明かしたネアは疲れた身体を起こして辺りを見回した。彼女の目に、朝の光に照らされ、良く茂った木々の間を貫くようにして通る一本の道、限りなく獣道に近い道が飛び込んできた。
「方向はあっている」
ネアはコンパスもGPSも地図すら持たなくても、何となくケフの方向が分かっていた。その感覚は枕元のどこにスタンドのスイッチがあるか見なくても操作できる、あの感覚に似ていた。
「帰る、皆が待っているから」
ネアは自分に言い聞かせると思い足を踏み出していた。
「は、早く報告しないと、これは大変な事なのだ」
深い森の中で、全く思い通りに事が行かないことに苛つきつつ、誰も聞いていないのに口にしているのは、ヤヅに駐在する大使であるディブ・ファーガットであった。姓は持つモノの、随分前に没落しており、今ではフルネームではなく、「せせらぎ」のディブで通すことの方が多く、因みに今年28歳になったばかりかつ、独身の男である。彼は、式典に参加される奥方様を迎えに出ようとしたところ、現地の騎士団と名乗るゴロツキに脅され、大使館とは名ばかりの共同住宅の一室に閉じこもっていたが、街の様子と隙を伺い、誰に見られることもなくそっと脱出したまでは良かったが、街道は既にヤヅの騎士団に抑えられており、仕方なく入った山道で方向や自分のいる位置の見当を失い、苔むす屍になるのも時間の問題となっていた。
「空腹で野垂れるのか、それとも獣の餌に・・・」
彼は天を仰ぎ、芝居がかった身振りで己の身の不運を嘆いた。その時、彼の耳に草をかき分けるような音が届いた。彼は息を殺して音のする方向をじっと見つめていると草むらが肉食獣の獣の顔がにゅっと突き出てきた。
「お、俺は美味くないぞ」
彼はそう言ってポケットから小さなナイフを取り出して構えた。
「人がいる、と思ってきたら、迷子でしたか・・・」
獣はため息をつくと草むら勝て姿を表した。それは侍女の服を着た猫族の少女であった。
「獣が喋ったーっ。た、助けて・・・」
ディブはその場にへたり込んで、命乞いを始めた
「失礼な、私は人ですよ。獣人ですがね・・・」
ディブの態度にその獣人はムスっとして答えた。
「獣に失礼と言われ・・・」
「私には、「湧き水」のネアって名前があります。失礼ですよ」
疲れ切ったネアは反論するのも億劫そうに答えるとへたり込んでいるディブを呆れたように見下ろしていた。
「湧き水?・・・ネア?、ひょっとして君が今噂の「ケフの凶獣」か・・・」
ディブはネアを指さして驚愕の表情を浮かべた。
「それは気に入らない名前ですが、そうですよ。お館に仕える侍女見習いです」
ネアはそう告げると、深いため息をつき、肩を落とした。
「そうか、申し訳ない。僕はヤヅで駐在大使を仰せつかっているディブ・ファーガット・・・、と言うより「せせらぎ」のディブと呼ばれることが多いけどね。早くケフに戻らないといけないんだ。道をしっているなら教えてくれないか」
ディブは立ち上がると、ネアに早く戻らないといけないと焦ったような表情を見せた。
「大使なら、他の職員の方は? 在留しているケフの民の安全は? まさか、見捨てて1人だけ逃げて来たのですか? 」
ネアはディブに掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。その剣幕にディブは後ずさりした。
「たった一人で何ができると言うんだよ。ヤヅの郷にはケフだけじゃない、ミオウの郷からも、ワーナンの郷からも人が来ている。他の郷の大使はあっという間に拘束されたんだよ。ケフは僕一人だから、気にもされず後回しにされたようなんだよ。だから、逃げ出せたんだよ」
ディブはここまで一息で言うと、肩で息をしながらネアを睨みつけた。
「好き好んで1人で逃げ出すと思っているのか。こんな中、ぞろぞろ大人数を引き連れて移動できると思っているのか。僕にできることは、ヤヅの状況をいち早くお館様に報告することしかないんだよ」
彼は拳を握りしめると俯いて己の非力を恨むように声を絞り出した。
「・・・言いすぎました。謝罪します。私も早くお館に戻らないといけないんです」
ネアはペコリとディブに頭を下げた。
「僕の苦しい心の中を少しでも知ってもらえたらいいんだ。それより、ネア、君はケフへの道、知っているかな」
ネアがあっさりと非を認めたことに少し肩透かしを食らったようで、一瞬ポカンとした表情になったが、すぐさま、自分が今、一番重要であることをネアに尋ねた。
「漠然とした方向は分かりますが」
ネアはディブの問いかけにケフがあると思われる方向を見つめたが、その視線の先は木があるだけだった。
「地形的には僕もネアの意見に賛同するよ。ただ、この道が正しいのか・・・」
「戸惑っていても時間は経過します。ここは腹を括るしかないですよ」
ネアは杖にしている銛で獣道ような道を示すと、疲れた足取りで歩きだした。
「おい、待ってくれ、こんな森の中、女の子一人で行かせられないよ」
ディブは己の心細さを建前と言う理屈で覆い隠し、ネアの後に付いて行った。
「見てください。この木、ついさっき誰かが皮をはいだみたですよ」
ネアは大木の大人の目線より少し下に付けら傷を指さしてディブに声をかけた。
「樹液を採集するための傷とは違うし、この木の樹液を使うなんてことを聞いたこともないよ。ネア、あそこにも同じような傷がつけられているよ」
ディブが指さす方向には真新しい傷の入った木が立っていた。そして、その先にも傷がつけられているような木が見えた。
「道標みたいですね」
「これを辿って行けば、少なくとも人家がある所に行けるはず・・・と思う・・・だったらいいな」
ディブのはっきりしない願望を聞き流しながら道標に沿って歩いていると、いつの間にかあたりが暗くなり、夜が来たことをネアたちに教えてくれていた。
「今日も野宿か・・・、お腹空いたな・・・。食べ物ないかなー、お風呂も入りたいし、温かいお布団に潜り込んでー」
今日も野宿と決めてネアとディブが木の根元に腰を降ろして疲れを癒しだすと、彼はぼそぼそと呟きながら現実逃避モードに入って行った。
「心配しなくても、もうどれも楽しめませんよ」
意地悪くネアは呟いたが、それはディブの耳に届いていなかった。
「ん? 」
ディブの現実逃避の呟きをうんざりしながら耳にしているネアの鼻腔を何かを煮るような、食べ物の匂いが刺激した。
「人がいる? 」
ネアは匂いをした方向を見つめるとそれは、木の皮をはいだ道標の先からだった。
「ディブさん、人がいますよ。食べ物の匂いがします」
ネアは呆けているディブに一声かけると臭いの方向に向かって走り出した。
「・・・できたよ」
むすっとした表情の歳の頃16歳ぐらいのボーイッシュな真人の少女が鍋をかき混ぜながら声を出した。
「やっと飯かよ。ちっ、こんなごった煮ばかりでよ」
その声に反応したのは3人の船員崩れともチンピラとも山賊の幼虫とも言い難い男どもだった。
「飯はこれだし、こっちはお預けと来たもんだ。やってられねーな」
人相の悪いのが少女を好色そうに舐めるように見つめると、彼女の父親らしき男が彼の視線に割り込んできた。
「娘に手を出したら、道案内は終わりだ。お前らを置いて去って行く。そう言う約束だったよな」
「ふん」
父親らしき男を鼻先でわらいながらチンピラもどきが少女がごった煮をよそった椀を差し出してきたのを受け取った。
「ん? なんだ」
その時、いきなり草が揺れ、暗がりから幼さが十二分に残る獣人の少女が杖をつきながら現れた。
「道の迷っています。ケフまでいきたいのです。それと良ければ、食事を分けて頂けませんか」
ハチ割れのネコ属の少女が人相の悪い男に頭を下げると、その男は粘着力の高そうな笑みを浮かべた。
「ちょっと小さいが、楽しむことはできそうだな」
「ははは、子供だが毛深いぜ」
「只で飯食おうなんて、甘いことを言っているんじゃねーよ」
人相の悪い中でも特に人相の悪い男がネアに歩み寄るといきなり彼女の頬を張り飛ばし、その場に倒れされた。
「おとなしくしてりゃ、すぐに殺しゃしねーよ」
そいつはネアの肩をを押さえつけ、服を脱がそうとしだした。
【え、これって、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ】
ネアは反撃を試みようとしたが銛はさっきの一撃で手の届かぬところに転がっている、ナイフを使おうにもポケットに手が届かない。この時、ネアは男が恐ろしいと心底感じた。この世界に来るまではのしかかる方にあった立場が今は力なくのしかかられ、これからされることを非力に待ち受けることしかできない事実を考えると泣き出しそうになった。しかし、このまま何もせずに蹂躙される気は毛の先ほどもなかった。
【お前の一物を道連れにしてやる】
ネアは涙で濡れた目でのしかかる男を睨みつけた。
「おい、何をしているんだ。そんな小さな子に」
少女の父親がネアにのしかかる男を引き離そうと掴みかかったが。他の男たちに引き離された。ネアは一瞬手が自由になるとのしかかる男の頭をそっと両手ではさんだ。
「おにーさん、あのね。青い木の実の中には毒がある物もあるんだよ」
ネアはそう告げると、発火の魔法を使いだした。変換石がないので熱はのしかかる男と自分のを使う。
「冷たっ、おい」
男が身を離そうとするより早く、ネアは両手の中央、つまり挟んだ男の頭の中に奪った熱を集中させた。本来ならこんな離れた場所で火種を作りだしたりはしないが、このまま何もしなくて貞操が汚されるなら、イチかバチかの賭けに出たのである。
「おっ」
のしかかってくる男が一言発するとぐたりとネアの上に崩れ落ちてきた。
「このガキ、何しやがった」
「めちゃくちゃにしてやる」
残りの2人が剣を抜いて横たわるネアに突き刺そうとした。
「やめるんだ」
やっと追いついたディブが大声を発して男の1人に飛び掛かったが、秒で殴られ動かなくなった。
「希望の騎士様が役に立たなかったようだな」
「元より、アイツには何も期待してないよ。子供相手に剣を抜くって、恥を知れ」
ネアはのしかかる男の死体から抜け出すとさっと立ち上がり、汚れたエプロンの裏からシャフトを取り出して一振りでそれを伸長させた。
「さぁ、来なよ。相手になってやるよ」
ネアはよろよろしながらシャフトを構え、剣を抜いた男たちを睨みつけた。
「相手になってやるか、面白れぇ」
男の1人がネアに斬りかかろうとした時、彼の顔面に握り拳程度の石が当たった。
「人が寝ようとしているのに、五月蠅いぞ。男2人がかりで子供を殺めようとは情けないねー」
暗がりの中から凛とした涼やかな声がすると杖をついた姿が現れた。
「なんだ? 」
「お前、臭いぞ。不細工な面なのであろうな、目が見えずとも声と臭いで分かるぞ」
男をからかうように声をかけたのは目隠しをした正義の女神を思わせるエルフ族の女性だった。彼女は黒い布で目を覆い杖で辺りを探りながらも口元には男たちを蔑んだような笑みを浮かべていた。
ラマク山脈は火山活動でできた山脈です。そのすそ野は広く、うっそうとした森が広がっています。
それらの森は不可侵なものとされ、開拓させれていません。開拓するにも土地は痩せ、木が多すぎるから、労力に見合わないとされているからですが。木の実やキノコの採集、狩りのために分け入る人たちは少なくありません。
今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。