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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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23 山津波と霧雨

異世界の通貨ってどうなっているのか、考えれば考えるほど難しいように思えます。

この世界と価値が同じようなモノってなんなのか・・・、ひょっとするとお酒あたりが近かったりするかもと根拠もなく思ったりしています。

 魔法を使える様になる、この新たな命題を自分に課したまでは良かったが、どうすれば良いのか全く見当もつかない、というのがネアの悩みのひとつになった。


 変換石と魔法の話を聞いた日、勉強後のお嬢の仕掛け人ごっこ・・・、これも間者ごっこと変わらない盗み食いのことであるが・・・、これに付きあわせれた後、ラウニに手を引かれながら食堂に向かうと既にフォニーが3人分の席を確保していてくれた。

 「ここだよー」

 フォニーが立ち上がり、手をこまねいた。やっと慣れてきたので、トレイに料理の載った皿を置いてフォニーが確保してくれた席につくのにもう苦労はなかった。しかし、食器を返すときはまだ背が届かないため、先輩の手を借りなくてはならなかったが。


 「難しい顔をして、お嬢との付き合いで沢山食べたの?」

 ラウニが考え事をしながら食事を口に運んでいるネアを覗き込むように尋ねた。

 「魔法って難しいのかな・・・」

 ネアは手にしたスプーンの動きを止め、ラウニを見つめた。

 「慣れれば楽に使えるようになるけど、下手に自分で最初から練習しようなんて考えちゃだめですからね」

 ラウニは諭すようにネアに説明した。そして

 「我武者羅に、自分流でやると、死ぬかもしかねません。死ななくても、身体がきかなくなったり、目が見えなくなったり、と危ないですからね。練習する時は、魔法のベテラン、魔道士の人と一緒にしないとだめですからね」

 「うち、自分流で魔法を使おうとしてぶっ倒れた子、見たことがあるよ」

 フォニーは白目をむいてぶっ倒れる仕草を見せた。それに、ラウニが一言

 「お行儀が悪い」

 と、小さくも鋭い声で叱り付けた。

 「はーい」

 つまらなそうに、フォニーは返事すると食事を再開した。

 「焦ってもダメなんだ・・・」

 一人で練習しようと企んでいたが、これは文字通り命に関わることなので慎重に学んでいこうとネアは決心した。

 「明日は、何曜か知ってますか?」

 いきなり、ニコニコしながらラウニが尋ねてきた。色にちなんだ日が6種類あることは習ったが、残念なことに今日が何曜なのか全く考えてもいなかった。

 「・・・」

 黙りこむネアに気にすることはないと微笑みかけながら

 「明日は、黒曜です」

 「そ、一番大切な日よ」

 ラウニの言葉の後にフォニーが続いた。何が大切なのか、何か特別な日なのか、ネアには全く見当がつかなかった。

 「明日は、お仕事しなくてもいい日なのです」

 「普通の女の子に戻れる日」

 ラウニもフォニーもにこやかに説明してくれた。

 【この世界は、5勤1休なんだ・・・】

 「町に行かないとね。お買い物、食事・・・、早く、明日にならないかなー」

 フォニーは遠い目をしながらニコニコしている。ラウニはだまっているが、その目は楽しい休日の事を考えている様子であった。

 「よ、お嬢さん方、明日の計画を立てているのかい?」

 衛士の制服を着た中年の真人がにこにこしながら尋ねてきた。

 「あ、ゴッシュさん、お疲れ様です。明日、何しようかなって、考えていたんですよ」

 ラウニがゴッシュと呼ばれる真人にニコニコしながら返した。

 「町にいくなら、ちょっと気をつけなよ。布の買い付けやら、商売に他所者が大量に町に入ってきてるからな。ケフのやり方を知らんのもいるだろうから。何かもめたら、すぐに俺達を呼ぶんだぜ」

 ゴッシュは挨拶代わりに片手を上げて食堂の奥の仲間が既に席についているテーブルに歩いていった。

 「ケフのやり方?」

 ネアは、ゴッシュの発した気になる言葉をラウニに尋ねた。

 「私たち、獣人・・・、エルフ族、ドワーフ族・・・、真人以外の人は普通、穢れの民って呼ばれて、蔑まされているのが普通なのですよ。でも、ケフはそんなことが無い。誰もがケフの郷の民、姿形で蔑まされない、これは代々のお館様が決めて、ずっと護られて来たことです」

 ちょっと複雑な表情を浮かべたラウニがネアに説明した。子供といえども、獣人であるというだけで嫌な思いは少なからずしてきているのであろう、とネアは想像した。

 「お金があっても、物を売ってくれないとか、店に入るなとかね・・・、そんなこと言うやつに決まってブサイクなんだよね」

 何か思い出したのか、フォニーがプリプリしながらラウニの後に続いた。

 「・・・いきなり叩かれたりするの?私のものを持っていかれるとか、牢屋にいれられるとか・・・」

 先輩方にネアは不安に思ったことを尋ねた。

 「うーん、ケフの郷では聞いたことはありません。ここは、真人以外の人が多いから、そんなことをすると・・・」

 「俺達が黙っちゃいねーよ」

 盗み聞きしていたのか、奥の衛士たちが声をそろえてネアの不安を消そうとしてくれた。

 「そんな不埒なヤツは、ここの空気を吸わせるのも勿体無いからな」

 「ケフの郷に居る限りは安心できますよ」

 ラウニはネアの不安を取り払おうとするようにその問いに答えた。

 「でも、都会の郷ほどキツイって言うから、遠くに行く時は注意しないといけないからね」

 フォニーが注意を促した。

 「だから、明日は町に行っても安心だよ。あのおっちゃんたちがガッツリ見張ってくれているからね」

 「おっちゃんじゃねぇー、おにいさんだ」

 奥から笑い声と共にちょっとした突っ込みが入った。それらの暖かなやりとりにちょっと安心したネアであった。



 食事の後は、いつものように入浴と自分たちの部屋での髪の手入れ、衣装の選び方、着こなし方、リボンや尾かざりの選び方、お茶の淹れ方などの俗に言う女子力を向上させる特別授業が、講師二人、学生一人で行われた。綴り方や年中の行事については何とか頭に入るが、これだけは心のどこかが拒絶するのか、なかなか飲み込むのが難しかった。

 【これは、未経験の分野だし、元は男だからなー、でも、この姿で生きていかなくちゃならんからな・・・】

 ネアは、半ば必要性、半ば諦めの境地で先輩方の女子会的なトークに耐えつつ学びに徹した。そして、ホールの時計が就寝を告げ、先輩方の寝息を確認するとそっとノートサイズの黒板を持ってトイレに向かった。ベッドの上に、ユキカゼが寂しそうに一匹でたたずんでいた。


 「いつまで寝てるの、折角のお休みなのに」

 黒曜の朝はあのうるさいベルが鳴らないので、睡眠不足と相まってネアは夢の世界でゆっくり寝ていたが、それもラウニの無慈悲な言葉によって現実に呼び戻されることになった。

 「あ、お仕事・・・」

 ガバっとベッドから飛び上がるとネアは素早くシーツを畳み、いつもの仕事着に袖に腕を通そうとした。

 「今日は、こっちでしょ」

 フォニーがネアがこの屋敷にはじめてやってきたときの緑のワンピースを手にしていた。

 「これ、あまり良く無いわね・・・、帰ったら、お古だけど、私の服やフォニーのをあげるからね」

 「でも、この尾かざりをつけて、リボンを・・・」

 何とか服を着込んだら、今度は先輩方がよってたかって小物を身につけさせたり、髪を編んだり、解いたり、リボンの色、つける位置をあーでもない、こーでもないとまるで着せ替え人形で遊ぶようにネアを飾り立てた。

 「・・・」

 先輩方の作業が終わり、己の姿を姿見で見てネアは黙ってしまった。そこに映っているのか、どこから見てもかわいい少女でしかなかったからである。

 【いつになったら、この姿に慣れるんだ・・・】

 「可愛くなった、これで町にいっても恥ずかしくない」

 ラウニは自分の選んだ黄色いリボンをしげしげと見つめて満足げに頷き

 「この尾かざりが似合っているしね」

 フォニーも自分の見立てに満足しているようであった。先輩方が満足しているならそれで良し、ここで女子供を悲しい思いにさせるのは男のすることじゃないと、ネアは歯を食いしばりながら、にっこりと微笑み

 「ありがとう」

 スカートの裾を持ち上げて見様見真似のお辞儀を披露した。そのぎこちなさがウケたのか、先輩方は口々にカワイイを連発した。

 「でも、わたし、お金持ってない・・・」

 町に行くとなれば、それなりに出て行くものがあるが、裸一貫でこの世界に飛び込まされた・・・、湧いて出たネアにはそれがなかった。

 「きょうは、お小遣いの日よ。ルビクさんにお小遣いを渡してもらうの。早くしないと、おもいっきり並ぶことになるから」

 ネアの言葉に、何かを思い出したのかフォニーが二人をせかしだした。

 「そうね。早く行かないと、ちゃんとネアの分のお小遣いもあるから」

 館の3階にある使用人たちを管理している事務室の前には既に列ができていた。様々な人種からなる雑多な列であるが、どの表情も明るいということでは統一されていた。ネアたちもその列の最後尾に並んだ。


 「次は?」

 事務室のカウンターの向こうにじんどっている綺麗なスキンヘッドの初老の小男が、何かの台帳をにらみつけながら声をかけてきた。

 「おはようございます。ルビクさん、私は山津波のラウニです」

 「熊族のね」

 ラウニの言葉にその顔を確認することもなくルビクは台帳をパラパラとめくって

 「中銀貨1枚と小銀貨5枚」

 と呟くと、金庫の中から綺麗な硬貨をカウンターの上のトレイに並べた。

 「確認したら、ここにサイン」

 ルビクは台帳のラウニの欄を指差し、ペンを手渡した。自分の名前とお小遣いの金額を記入された欄の横にラウニは丁寧な文字で自分の名前を通名と一緒に書いてルビクに手渡した。

 「盗まれんようにな」

 ルビクは、現金を手にしたラウニに声をかけ

 「次は?」

 「ルビクさん、おはよー、うちは、霧雨のフォニー」

 「朝から元気がいいな」

 台帳をにらみつけながら苦笑すると

 「中銀貨1枚に小銀貨3枚、ここにサイン、無駄遣いはするなよ」

 「しないよ。うちが買うのは必要なものだけです」

 フォニーは自分の小遣いを手に取りしっかり数えるとニコニコしながら台帳にサインした。

 「必要なモノね・・・、次は?」

 「おはようございます。ネア・・・、湧き水のネアです」

 「ああ、今週入った猫族の子だな」

 ルビクは初めて台帳から顔を上げてネアを見た。

 「ネアは・・・、中銀貨1枚」

 カウンターのトレイに銀貨が1枚置かれた。

 「ここにサインを、書けなければ丸じるしでもいいぞ」

 ルビクの言葉に頷きながらも、夜なべの成果を発揮させるべく、ネアは丁寧に自分の名前を通名と一緒に示された欄に記入した。

 「小さいながらも、しっかりした文字を書くもんだ」

 ルビクは感心しながら、次の使用人の対応を始めた。

 「私のお金・・・」

 【前の世界は銀行振り込みだったから、手渡しとなるとそれなりに感動があるもんだ】

 この世界で初めて稼いだお金を手にとってしげしげと見つめて、それを就職祝いとして奥方様から頂いたポシェットに丁寧にしまいこんだ。


 「こんな町なんだ・・・」

 ラウニとフォニーに手を引かれながらネアは改めて自分の住んでいる町を目にした。前に住んでいたところはどんな町かなんて気にもしなかった自分を思い出して小さなため息をついた。

 「どこに行く?」

 フォニーがネアの手を引きながらラウニを見て尋ねると

 「勿論、マーケットよ。ネアに必要なモノを買わせないと。それと、商品の目利きの練習もかねて」

 「それ、いいね。うん、猫族に合うモノってどんなものかなー」

 二人の会話から察すると、そこにネアの意志が入り込む余地はなかった。そして、ネアは連行される宇宙人のような構図でズルズルと人ごみでごった返す混沌の中へと引きずられていった。

やっと、ラウニとフォニーの通名とおりなを書くことができました。

ラウニが「山津波」、フォニーが「霧雨」です。

主人公の「湧き水」ってちょっと弱い感じがしなくもなかったりしたり・・・・

この駄文にお付き合い頂いた方、ブックマーク頂いた方感謝しております。

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