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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第17章 心機一転
236/342

218 作業

病気やら天候のせいで折角の夏が残念な事になっているようです。

こんな時はキンキンに冷えたビールを飲むことで少しは発散できるかなと思っております。

ちょっとした暇つぶしになれば幸いです。

 「ここで設営する。斥候を命じた者は、準備出来次第、カクラの町を偵察せよ。奴らの防御の切れ目を見つけるんだ。少々の威力偵察なら構わんが、無駄な戦闘は厳禁とする。明日の朝までに報告せよ」

 穢れの民からの解放しなくてはならないカクラの町から離れた森に両脇を固められた街道わきの広場に部隊は止まると、2番ことマースは目の前に整列した、斥候の志望者の6名の隊員に対して命令を下した。

 「了解しました」

 斥候たちはその場で鎧を脱ぎ、準備した平服に着替え足音を殺してカクラの町の方向に気配を殺して進んで行った。

 「飯は12日分しかないぞ。しかも、涙が出るぐらい美味い保存食がな。兵糧攻めはできないぜ」

 斥候を見送った2番に彗星は退屈そうに尋ねた。

 「力攻めです。門を打ち砕き、穢れどもを殺しつくすだけです」

 2番の答えを聞いて彗星は薄ら笑いを浮かべた。

 「それなら、偵察なんていらないんじゃないの。力攻めすればこちらの食い扶持がいくらか減って、兵糧攻めができるってか」

 「力攻めで減る人員を計算に入れても、今の食料では兵糧攻めはできません。我らは皆、死することを厭いませんが、徒にに損耗することは避けたいものですから」

 彗星が言葉に滲ませた皮肉を2番は気づく気配もなく、淡々と問われたことについて答えた。

 「死ぬことを厭わないか。立派な心掛けだよ」

 「ええ、我々はそこの連中と違って、全てを正義に捧げておりますから」

 2番ちらりとマテグを表情を変えることなく見た。マテグはそんな2番の視線をにやっと笑って肩をすくめてやり過ごした。

 「もちろん君も、正義のために全てを捧げているよね」

 彗星が2番の答えに呆れていると、背後からエイディがニコニコしながら声をかけてきた。

 「・・・そうだな・・・、そう言う事は口では何とでも言えるから、行動で示したいね」

 彗星が鼻先で笑って答えてもエイディの笑顔は仮面が張り付いたようにそのままだった。

 「ええ、行動で示されることを信じておりますから」

 彗星の態度が気に入らなかったのか、リューカが笑顔のままできつく彼に言葉を投げつけた。

 「ああ、精々期待しておいてくれ」

 彗星はくるりと背中を見せると片手を上げてその場から立ち去って行った。

 「エイディ様、明日は無制限に正義を行って頂きますので、もう、お身体をお安め下さい。天幕はあちらに準備できております」

 リューカが細い指で指した方向には小さなテントが一張建てられていた。エイディは無言で頷くと「ハウス」と命じられた犬のようにテントに入って行った。


 「丸太で作った柵と空堀以外の防御設備はありませんでした。見張りも付いておりますが、案山子の方がまだマシな状態です」

 「巡回警備もただ歩いているだけです」

 「警備に付いている者の装備や動きなどから、彼らが訓練を受けた騎士団員や傭兵ではないと推測します」

 翌日、朝早く帰ってきた斥候たちは、まだ燻っている焚火の前で、エイディ、リューカ、2番にカクラの町の状況を報告していた。

 「門を開けるのに手間はかかりそうか」

 2番はカクラの町を攻めるにあたり、最大の問題は町に入るための門であると考えていた。斥候の情報から、彼は中にいる連中のほとんどは素人、しかも烏合の衆であり、コデルの郷の騎士団員でも対処できるでろうと考えていた。

 「奴らは、町の外に大穴を掘って、そこに正当なカクラの町の住人の死体を捨てていました。土はかけてあるものの、浅く、虫の大量発生、臭いで分かりました。然るべき手を打たないと疫病の原因になるとも思われます」

 斥候の1人が町の外で発見したものについても報告した。あの光景をもし普通の者が目にしたなら暫くは食事も喉を通らない状態になることは明らかで、さらに繊細な者なら一生分の悪夢のネタに困らなくなることは間違えないぐらいの惨状であった。

 「死体の事は後でいい」

 そこにいる者たちにとっては、かつての住民のことは特に重要な問題ではなかった。2番は、今回の戦いで始末した連中の死体をそこに捨てるのも手であると考えていた。

 「・・・早速、作戦会議か」

 目をこすりながら彗星が現れ、彼らの輪に加わった。

 「門がどうとか言ってたが、夜明けごろに散歩がてらに町の近くまで行ったらよ。あいつら、外に木を伐り出る所だったぜ、それ以降はずーっと開きっ放しだ。夜は動物が入られないように閉めているんじゃねぇのか」

 彗星は実際に彼が見てきたことをエイディたちに話した。

 「並べっ!」

 2番が斥候に出した隊員を整列させると、一人ずつ顔面に鉄拳を喰らわして行った。

 「貴様らの目は節穴か、何故、誤った報告をしたんだ。言い訳は良い、理由を言えっ」

 2番並べた隊員たちを怒鳴りつけた。殴られた隊員たちは直立不動の姿勢のまま黙っていた。

 「貴様らの正義は、その程度か。良し、お前らに最初に斬りこむ名誉を与えよう。貴様らの命をもッて己の正義を証明せよ」

 「随分と御怒りだが、俺が見たのは朝だ。お前さんは朝までに帰って来いと言ったよな。こいつらが立ち去った後、門が開いて、それを俺が見た、そうじゃないのか」

 普段は表情を見せない2番が激昂しているのを面白そうに眺めていた彗星が2番に彼の言動が矛盾していると口を出してきた。

 「町の中の気配を感じられなかったから、門が開く時が近いことも分からないんだ。真剣に正義を実行しているなら、このような間違いは犯しようがない」

 2番の理屈は滅茶苦茶であったが、斥候に出た隊員たちは、2番の言葉を深く受け止めていた。

 「我らが至らないばかりに、この失敗、これからの戦いにおいて取り返して見せます」

 「我らの命、既に無きものと心得ております。如何様にもお使いください」

 「口にするまでもない当然の事だ。声をかけるまで待機だ」

 2番が命じると斥候たちはさっとその場から立ち去って行った。

 「作戦も何もナシだな。開いた門から斬り込んで行けばいい。で、何時おっぱじめるつもりだ」

 「昼食時、外に出かけている者が帰ってくるでしょうから、門は確実に開いているでしょう。英雄様が言われる通りでしたら」

 退屈そうに尋ねる彗星にちょっとむっとした表情を浮かべたリューカは少しばかり嫌味を滲ませて答えた。

 【こいつは、まだ感情があるのか・・・、で、あの馬鹿は・・・】

 彗星は先ほどから何も発言していないエイディを見て息をのんだ。あの、何かと出しゃばり、いつでも中心にいたい、我儘な子供の様な男が、ただ固まったような笑みを浮かべてうつろな目をして立っている姿がそこにあった。

 「リューカの言う通りだ」

 そんなじっとしているだけのエイディが200%の笑みを浮かべて大きく頷いていた。

 「お前、いつからそんなキャラになったんだ・・・」

 以前の姿を知っている彗星にとって今、目の前にいるのは別人にすら思えた。

 「僕はずっと前から、こうだよ」

 凍り付いた笑顔を張り付けたままエイディに彗星は幽霊を見るような視線で、リューカは忠実な飼い犬を見るような視線で見つめた。

 「俺たちは、あんたらの後ろに控えているよ」

 彗星はつまらなそうに言うとエイディたちに背を向けてさっさと去って行った。


 「彗星様、一番槍の名誉を彼らに譲られるのですか」

 つまらなそうな表情で戻ってきた彗星にハイリがどこか不安げに尋ねてきた。

 「一番槍?俺には何の意味もないね。最初に突っ込んで何の得があるんだ。今更、何も知らない所、敵が街替え前てる場所に何の情報もなく突っ込めるかって。自殺する趣味は持ち合わせていないからね」

 彗星はため息をつくと切り株に腰を降ろした。

 「ハイリ様、いくら相手が素人や烏合の衆であっても、奴らが構えている所に飛び込むのは余程目立ちたいか、死にたい者ぐらいですよ。戦は、生き残ってこそですよ。命がないと正義を為す事はできませんからね、・・・下手に殺されてあいつらの士気を上げたくはありませんからね」

 マテグも一番槍だとかには興味がない様で彼の部下たちにも不必要なぐらいの士気の高揚はみられなかった。ただ、一緒に付いてきた騎士団員たちが不安そうに武器や鎧の手入れをしていたのが対照的であった。

 「おーい、お前ら、そんなに気負うな。ヤバイことは、あの連中がやってくれる。お前らはやつらの取りこぼしの始末と飯の手配をしてればいいさ」

 この作戦に駆り出され、不安そうにしている騎士団員にマテグは気安く声をかけた。

 「手柄を焦ることはないぞ。こんな所でたてた手柄たてても評価は高くならないぞ」

 彗星は気安く彼らに声をかけると大きな欠伸をした。

 「もう一寝入りするわ」

 彼はそう呟くと、自分のテントにそそくさと入って行った。


 「成程、がら空きだな」

 茂みに部隊を潜ませ、そっとカクラの町を見た2番は彗星の言葉が正しかったことを確認した。

 「エイディ様、正義を行う時は今です。制限はありません。さ、思う存分、正義を為して来なさい」

 リューカは凍り付いた笑顔のエイディにそっと囁いた。その声を聞いたエイディに本当の笑みが浮かんだ。

 「正義を為す」

 エイディは短く叫ぶと、遊園地のアトラクションに向けて走り出す子供の様にカクラの町に駆け出して行った。

 「後れを取るなっ」

 2番が叫ぶと同時に茂みから駆け出すのと、他の正義と秩序の実行隊員が駆け出すのは同時であった。


 「な、なんだ」

 「閉めろっ、早くっ」

 門番に立っていたドワーフ族と犬族の男は雄叫びを上げて茂みから走り出てきたエイディたちを見て慌てて門を閉めようとした。

 「っ!」

 犬族の目の前でいきなりドワーフ族の男がその場に崩れ落ち、犬族の男が慌てて抱き起すとその胸には深々とナイフが刺さっていた。

 「0番、投げナイフも鍛錬なされたのですね」

 2番が見事なナイフの投擲を見せたエイディに感心したような声をかけたが、エイディからの反応はなかった。そこには、新しい玩具を目の前にした子供の様な目をして、次の獲物を物色しているどこか壊れた様な男の姿があっただけであった。

 「我々以外の動くモノは全て排除せよ。全てを永久に安全化するんだ」

 門に駆け込むと同時に門番の犬族の男の首をはねたエイディの後に続きながら2番が大声で叫んだ。


 「おー、はじまった、はじまった」

 彗星は花火を見物に来た者のように気楽に正義と秩序の実行隊がカクラの町に雪崩れ込んでいくのを眺めていた。

 「お前らはもう少ししてからでいいぞ」

 彗星は、正義と秩序の実行隊の後に引き続いて突っ込もうとする騎士団員たちを手で押しとどめた。

 「しかし、我々はお館様より命を受けてますので」

 「アイツらのペースで行くとキツイぞ。俺たちの仕事は戦うより、死体の運搬が主となるはずだぜ」

 彗星が顎でカクラの町を指すと大きな雄叫びが聞こえてきた。

 「あの叫びが悲鳴に変わりゃ、俺たちの出番さ」

 「我々は英雄様の指示に従います」

 騎士団員たちは彗星たちを見習ったのか少し肩の力が抜けたようであった。


 「ーっ!」

 エイディは騒ぎを確認しようと家から出てきたエルフ族の男を無言で斬りつけた。その男は何があったのかを理解する前に命を手放していた。

 「・・・」

 エイディは剣を引っ提げたままその男が出てきた家の中に踏み込み、辺りを見回した。そこには、今何が起きているのか理解できず、恐怖より驚愕に支配された母親とまだ学校で九九を習っているような男の子がいた。彼女らが目を見開いている中、エイディはつかつかと母親に近寄り手にした剣で胸を突き刺した。母親は自分の胸に深々と突き刺さる剣とエイディを見て叫び声を上げようとしたが、声を上げる前にこと切れていた。そして彼女の子どもは目の前で起きたことを理解する前にその命を刈り取られていた。

 「・・・」

 子供を斬り捨てたエイディは家の中をあちこち見てまわり、生きているモノがいないかを確認した。その家の中には彼が斬り捨てたモノ以外、生きたモノはいなかった。


 「正義のためにっ」

 斥候を命じられた隊員の一人が緊急事態を悟って槍を持って出てきた鹿族の男を掛け声もろとも斬り捨てた。

 「クソっ」

 鹿族の男の後ろを追っていた犬族の男はいきなり鹿族の男が斬り捨てたられた見ると考えるより先に、鎧の男に槍を繰り出していた。

 「正義のためにっ」

 隊員は槍を剣で払うと犬族の男に肉薄していった。

 「下がれっ」

 槍を払われ立ち尽くす犬族の後ろから槍を持った兎族の男が声をかけ、迫りくる隊員に槍を繰り出した。その槍の切っ先は突っ込もうとする隊員の勢いとあわさり、鎧を貫いていた。

 「・・・」

 隊員は己に突き刺さった槍とその槍を握っている兎族の男を交互に見ると

 「正義のためにっ」

 槍が突き刺さった隊員はそのまま走り出した。槍を手にしていた男は隊員に押されるように後退していった。

 「あっ」

 槍の突き刺さった男に押されるように兎族の男は壁を背にしていた。槍の石突きは壁に当たっている、これ以上、あの鎧の男は間合いを縮めることはできないと彼は考えた。

 「・・・正義のためにーっ」

 鎧の男は一声叫ぶとそのまま前進を始めた。一歩踏み出すと串刺しとなり、そのまま兎族の男の元に詰め寄った。彼にとって、身を貫くような激烈な痛みも正義の前には些細な事であった。そして、己の命さえも。

 「ーっ」

 自ら深く串刺さりながら駆けよって来る隊員に兎族の男の顔は恐怖でひきつった。さっと槍を手放して逃げれば不快なことから離脱できたのであるが、今の彼は、蛇に睨まれた蛙のようにただ槍を握りしめる事しかできなかった。

 「正義のためにっ」

 隊員は兎族の男にズルズルと自ら串のように槍を刺しながら近づくと剣を振り下ろした。兎族の男の脳天にめり込んだ剣を彼は満足げに見るとよろよろと男から離れた。

 「な、なんだよコイツ」

 槍を弾かれた犬族の男は槍を構えて槍が貫通した男を凝視していた。

 「正義のためにっ」

 貫かれたまま隊員は犬族の男に剣を構えて突っ込んで行った。

 「ーっ」

 犬族の男の無手勝流で突き出した槍は深々と鎧を貫いた。

 「正義・・・の・・・」

 2度目の攻撃に対して、先ほどの手が使えるほど彼の体力は残っていなかった。彼はその場に跪くと突き出た槍に身を任せるように項垂れたまま動かなくなった。

 「こいつら、何なんだよ・・・」

 犬族の男が呟いた時、背後にすっと人が立つ気配がした。驚いて彼が振り向くのと剣が脳天を砕くのは同時であった。

 「見事だったぞ」

 犬族の頭を砕いた2番貫かれ、跪いたまま息絶えた男を見て一言呟くと次の獲物を探して駆けだして行った。


 「随分と派手にやったなー」

 騎士団員たちが町のほぼ真ん中に広場に処分したこの街の住民たちを綺麗に並べていた。魚の干物を作るように並べられた死体を見ながら彗星はかつてこのような光景があったことを思い出していた。

 【俺もやらかしたよな。一人でやったけどな・・・】

 このような一方的とも思える殺戮であったが、嬲殺しに会った死体は一体もなかった。

 【殺す事だけが目的かー、そう言えば俺って随分死体に慣れたな】

 前の世界では考えられなかった光景を眺めながらぼんやりと考えていた彗星の視界にエイディの姿が入ってきた。彼はまだ少し遊び足りない子供の様な表情をしていたが、それなりに満足しているように見えた。

 【あいつ、純粋に殺すことが目的になったみたいだな・・・、ますます悪くなったんじゃねぇのか】

 「? 」

 エイディの姿を見ながら彗星が首を傾げた時、町の奥のほうから雄叫びが聞こえてきた。雄叫びの方向を見るとボロボロになった服を身に纏った獅子族の男を先頭にその両サイドを牛族、馬族をはじめ、重量級の男で固めた人の楔が彼らの方向に向かって突っ込んできた。

 「彗星様、あそこ」

 彗星の横に控えていたハイリが突っ込んでくる一団を指さした。彼女の指した方向には子供を連れた母親やまだ戦うには幼い子供たちが必死で走っているのが見えた。

 「エイディ様、正義をっ」

 事態を察知したリューカが声を張り上げた。その声に無言で剣を抜くことで応えたエイディに満面の笑みが浮かんでいた。

 「抜刀っ、一匹残さず処分だ」

 2番が叫ぶと正義と秩序の実行隊員たちは一糸乱れず剣を抜いた。

 「どきやがれーっ」

 獅子族の男が真っ先に突っ込んできたエイディを両手剣で勢いをつけて薙ぎ払おうとした。

 「ーっ」

 エイディはそれを顔色一つ変えることなく薄皮一枚でかわし、獅子族の男の腕を切り裂いた。

 「止まるなーっ、進めーっ」

 獅子族の男は他の者に先に行かせるように命じ、己はエイディと対峙した。

 「いつまでも好きなようにはさせんっ」

 獅子族の男は腕の痛み、流れる血を無視してエイディに斬りかかった。


 「アイツ、動きが良くなってるなー、前とは別人だわ・・・、はい、そこまで」

 彗星はエイディの動きを眺めて彼の腕が上がっていることを認識しつつ、突っ込んできた馬族の男の槍を小脇に挟むとにやっと笑って彼の腹に剣を差し込んだ。馬族の男は何かを言いかけてそのまま動かなくなった。

 「俺のことは良い、早く行けっ」

 牛族の男が斧を振り回しながら女子供に声をかけた。声をかけられた十数名の戦えない者たちが鎧の集団を勢いをつけて抜けようとしたが、そうはいかなかった。

 「正義のためにっ」

 「正義のためにっ」

 正義と秩序の実行隊員たちは相手が女子供でも容赦なく剣を振るって行った。

 「この子だけでも・・・」

 「正義のためにっ」

 何とか我が子を助けようとする母親が命乞いの台詞を言い終える前に11と穿たれた鎧を着た男がその頭を短い角ごと叩き割り、彼女に縋り付いて恐怖に震えている子供を思いきり蹴飛ばした。うめき声を上げて転がる子供を9と穿たれた鎧を着た男がその子の喉を踏み抜いた。

 「く、糞っ」

 次々と守ろうとしていた者が殺されるのをエイディと斬り結びながら獅子族の男は目の当たりにしていた。

 「お前だけでも殺すっ」

 獅子族の男は防御も何もせず大上段に剣を構えてエイディに叩き込んだ。

 「つまらないなー」

 エイディがこの虐殺の中で初めて口にした言葉であった。彼は退屈そうにそう言うと渾身の一撃をひらりとかわして獅子族の男の背後に回ると足の腱を剣で引っかけるように切った。

 「ーっ」

 いきなり足に力が入らなくなり獅子族の男はその場に転倒した。そして彼の目に飛び込んできたのは、今日最後から2番目の犠牲者となる、まだ生まれて間もない赤子が石畳に叩きつけられる光景だった。

 「糞っ」

 エイディは赤子が動かなくなるのを確認すると獅子族の男の首に剣を突き刺した。

 「エイディ様、今日のお勤めはこれまでです。素晴らしい正義でした」

 返り血を浴びているエイディにリューカが声をかけると彼は剣を納め、満足したような笑みを彼女に見せた。


 「・・・」

 命乞いをする者、子供、赤子を容赦なく処分していく光景を目にしたハイリは複雑な表情を浮かべていた。今まで、穢れが何をされようが全く気にならなかったのであるが、自分の愛する存在を必死になって護ろうとする姿を見ていると、なにかもやっとした気持ちが湧いてきているのを感じていた。

 【あいつらは人ですらないのに・・・】

 ハイリは初めて感じた気持ちに動揺する姿を見せないようにすることで精一杯になっていた。

 「あんまり気持ちのいい仕事じゃないな・・・」

 「ええ、そうですね・・・」

 ハイリは、つまらなそうに言う彗星の言葉に同意する言葉を口にしていたことにその時は気づかなかった。

 

カクラの町を占拠していた穢れの民は総勢でも100人はおりません。そこに、正義と秩序の実行隊30名、騎士団は輜重隊を含めると80名、そして彗星たち20名、戦力的に圧倒しています。しかも素人相手ですから勝って当然の戦いです。

正義と秩序の実行隊は志望などにより欠員がでると自動的に人員が補充されます。これから規模が大きくなっていくようですが、人員の確保が問題になってくるかもしれません。

今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。また、ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

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