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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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22 まほうとふしぎないし

ファンタヂーと言えば、剣と魔法。王道の外せないアイテムです。

で、魔法の出番となりました。変換石はマクスウェルの悪魔を捕まえたようなものです。

物理的に無理なシロモノですので、魔法なのです。

 「間者ごっこ、お疲れ様」

 一足先に居室に戻っていたフォニーがニコニコしながらネアに声をかけた。

 「で、今日の報酬は?」

 「マフィンだったようよ」

 ラウニの言葉を聞いてフォニーは小さく舌打した。

 「うちの時は大きめのクッキーだったのに・・・、しかも、戻る時にお嬢のポケットの中でバラバラになるし、挙句の果てには欠片をお嬢と山分けにして・・・、うちもマフィン食べたかった」

 フォニーは自分のベッドに上向きに身体を放り出して天井を見つめた。

 「ネア、お夕飯食べられるかな?おなか一杯になってない?」

 ラウニがベッドに腰をおろして、椅子に腰をおろして早速、習ったばかりの文字の練習を始めたネアに声をかけた。ネアとしては、一日脳みそを酷使したため、あの程度の糖分ではまだ物足りないと騒いでいる成長真っ盛りの身体の声に従うしかなかった。だから、ラウニの問いかけに文字を書きながら頷いて答えた。

 「ネア、人が話をしているのに、その人の顔すら見ないなんて・・・、いくらお勉強が大事でも、そこは礼儀でしょ」

 ネアの非礼な態度にラウニの雷が落ちた。侍女としては、如何なる場合でも主人の言葉に反応しなくてはならないのである。その基本をネアに教え込もうとしているのであろう。

 「ごめんなさい・・・」

 【面倒臭いなー、しかも子供に叱られるとは】

 心の中で苦笑し、しっくりとはこないが、ここは素直に謝り、己の非を認めることにした。

 「これから、注意すること」

 「はい・・・」

 二人のやり取りをフォニーはヌイグルミのロロを抱きしめながら見守っていた。


 夕食とお風呂を済ませるとやっと侍女たちの自分の時間となる。本来なら、四六時中ついいなくてはならないこともあるのであるが、深夜のシフトは他のベテランの大人の侍女が引き受けてくれているため、彼女たちは三人そろって眠ることができるのである。


 「ネアってがんばりやさんね」

 寝間着に着替えてもノートサイズの黒板に文字を書いては消すの繰り返しをしているネアを見つめてラウニは感心と呆れが入り混じった声をかけた。

 「何も知らないから・・・、おトイレの使い方すら分からなかったぐらいだから・・・」

 ネアは皮肉を少し滲ませてラウニに答えた。今度はちゃんとラウニの目を見て答えていた。

 「がんばるのはいいけどさー、覚えることは他にもあるんだよ。髪の梳かし方、衣装にあった小物の選び方、尾飾りの選び方・・・、つまり、女の子らしい仕草や知識も覚えなきゃね。ネアはその辺り気持ちいいぐらいに知らないみたいだし」

 フォニーの言葉にネアはドキリとした。確かに文字も覚えなくてはならない。そして、今は女の子、この年齢の少女なら当然身につけている様々な知識も覚えなくてはならないのである。ネアの文字を書いている手がピタリと止まった。

 【文字より、そっち方が大変だぞ・・・、教科書も無いみたいだし】

 「それをどうやって勉強するか分かるかな?」

 フォニーがニコニコしながら聞いてきた。ネアは見当もつかず黙って首を振るしかなかった。

 「うちらから学ぶしかないんじゃないかな」

 フォニーはベッドに腰掛けているラウニの首もとに抱きつくようにしてその隣に腰を降ろした。

 「ネアは知らないことが多いけど、特に女の子としての振る舞いや常識はないわね」

 ラウニはフォニーの言葉に納得したのかしきりに頷いている。

 【当たり前だろ、今までやったことがないのに】

 ネアがこの身体になってまだ一月もたっていないのである。それを生まれてからずっと欠かすことなく、女をしている彼女たちとは知識も経験もないのは当然のことである。さらに加えるなら、今までそんな存在すら考えもしなかった獣人になっているのである。

 「教えてください」

 ネアは先輩方にペコリと頭を下げた。

 「可愛い妹分のために、フォニー姐さんは一肌脱ぐよ」

 フォニーは自分の胸をトンと叩いて、任せなさいと偉そうに微笑んだ。

 「共に、どこに出ても恥ずかしくない淑女を目指そうね。・・・フォニー貴女も」

 ラウニは立ち上がるとネアとフォニーを交互に見つめて決意の言葉を述べた。

 【し、淑女・・・】

 今更ながらにネアは自分がもう、男ではないことを思い知った。

 それから、ホールの時計の鐘が9回鳴り響くまで、ネアはくしの使い方、髪の編み方、さまざまな小物の装着要領を先輩方から手取り足取り教えてもらうことになった。


 ホールの時計が9回鳴り終えると、侍女たちはそれぞれのベッドに潜り込み、御守のヌイグルミを抱きしめて眠りの世界に飛び込んでいった。ネアは先輩方の寝息を確認するとそっとベッドから抜け出し、黒板と白墨を手にとって部屋からそっと抜け出した。猫族という特性なのか、灯りは無いものの全く困ることはなかった。廊下を足音を殺してトイレへと向かった。トイレはその、出物腫れ物ところ構わずの特性上、一日中灯りが灯っている数少ない場所の一つである。ネアは個室に入ると便座に腰掛けて文字の練習を始めた。それは時計が1つ鐘をならすまで続けられた。


 翌朝、ネアはバケツを殴りつけるようなベルの音でたたき起こされると、半分夢の世界に意識を置きながらも、機械的にシーツを折りたたんでいた。

 「眠い・・・」

 幼い、育ち盛りの身体には夜なべの負荷はきついのか、ネアは襲い来る睡魔と懸命に戦いながら

 「・・・・」

 鏡を見ながら、昨夜先輩方から教えてもらったようにブラシを使って、髪と毛を整えた。

 「まだまだぎこちないけど、その調子よ」

 寝起きが悪いフォニーが眠そうな声でネアの手つきを見ながら声をかけて

 「ここのやり方はね・・・」

 ぎこちない手つきのネアの手を取りながらブラシの使い方を教えていった。

 「今日は、曇り空ね・・・、雨が降るかも知れないから、大き目のタオルをすぐ使える様に準備しておくこと」

 ラウニは肩からかけるような小さ目のバッグにタオルを丁寧に畳んで突っ込みながら二人に声をかけた。

 「湿気が高くなるから、ブラシも入れとかないとね。湿気ると髪や毛が変な形になるもんね」

 フォニーがラウニの言葉をつぐとブラシもバッグにつっこんだ。ネアはそれを真似て先輩方が必要だという物をバッグに詰め込んでいった。


 その日もまた、ネアはお嬢に付き合いつつ、新たな知識を吸収するためアルア先生の前にちょこんと座っていた。

 「ネア、眠そうね。やっぱり天気が悪いと猫族の人は眠くなるのかしら」

 その日、何度目かの欠伸をかみ殺していると、それを察したのかアルア先生はネアに声をかけた。

 「大丈夫・・・」

 ネアは睡魔を追い払いながら気丈に応えた。

 「そう・・・、で、ネアすごいわね、一日でこれだけ物にするなんて。」

 アルア先生は、ネアが昨日教えた文字をほぼ完全にマスターしていることに感心した。

 「お嬢もうかうかしてられませんね」

 ちらりとネアの横で退屈そうにしているレヒテに声をかけ

 「ちょっと休憩しましょう。ねあ、お茶をお願いするわ」

 アルア先生の言葉に元気良く返事し、ネアは図書室から飛び出した。向かう先は調理室、そこで熱いお湯の入ったポットと、お茶、カップ、クッキーなどをカートにつむとそっとカートを押して図書室に足を進めた。廊下を進んでいると外から雨が木々の葉を打つ音が聞こえてきた。室内は葉を打つ音が大きくなるのにあわせるように暗くなっていった。

 「お茶をお持ちしました」

 ネアが図書室に入ると、図書室の中もすっかり薄暗くなっていた。

 「灯りが必要ね」

 アルア先生はそう言うと、図書室のロッカーの一つを空けて中からランプのようなものを取り出した。それは、油壺の代わりに大きな黒い碁石のようながはまっている妙な形のものであり、この世界に来てから何度も目にしているものであった。アルア先生はマントルの代わりについているカットされたガラス球のようなものが嵌められた筒状の下にある虫を思わせる脚部を開いて、石をつかむようにセットした。すると、そのガラス球がいきなり明るく輝きだした。

 「・・・」

 ネアは不思議そうにそのランプを見つめていると

 「ランプよ。知らなかった?」

 アルア先生はネアの表情を読み取って尋ねてきた。それにネアは無言で頷くと

 「そう、じゃ、まずは魔法からお勉強しましょう」

 【マホウって、あの魔法か?】

 ネアは御伽噺の魔法使いを思い出して、まさかと半信半疑でアルア先生を見つめた。

 「そうね、見るのが一番ね」

 アルア先生は、クッキーの下敷きとなっているレースペーパーのすみっこをちょっと破りとると、それを指先でつまんだ。

 「見ててね」

 いきなり室温が少し下がったような気がしてネアを身体を小さく震わせた。それと同時にその小さな紙片が燃え出した。

 「火の魔法、これが一番良く使われているの。自分の周りにある熱を一点に集中させる、ちょっと寒く感じたのはそのためよ。これは、自分の体温も使うから、魔力がそんなに無いと低体温症になるから注意が必要ね。そこで、この石を使うの」

 アルア先生はランプにセットされている石を指差した。

 「この石は変換石と言って、熱をどんどん吸収して、魔力にして溜め込むの。ちょっと触ってごらんなさい」

 ネアはアルア先生に促されてそっとランプにはめ込まれている石を触った。

 「冷たい」

 「そ、変換石は常に周りの温度より自分の温度を低くしているの。そして、少しずつ熱を魔力に変換して溜め込んでいくの」

 アルア先生は自分のポケットからランタンに取り付けられているものより小ぶりの石を取り出した。

 「さっき言ったように、熱の魔法を使う時、体温を使うのは危険だから、この変換石に貯められた魔力を使って熱を上げるの。そうすれば体温を使うことなく安全に熱の魔法を使用できるわけよ」

 とても現実として受け止められそうになく、ネアはポカンとしていたが重要なことが気になってきた。

 「どうやってへんかんせきを作るんですか」

 ネアの問いにアルア先生は苦笑した。

 「それは、分からないの。この変換石を作ることができるのは、王都の王族しかいないから。この石を砕いても中に何かの仕掛けがあるわけでも無いし、この石自体になにかの仕掛けがあると思うけど・・・。いろんな魔道士が再現しようとしたけど、今まで誰も成功していないの」

 「不思議ですね」

 ネアはしげしげとランプの変換石を見つめた。

 「それと、魔力の灯りは熱を持ってないから、このランプから火事になることはないし、やけどすることも無いからね」

 レヒテはそう言うと光っているガラス球のようなものを指先でつまんだ。彼女の説明のとおり、そのかわいい指先が火傷を負うことはなかった。

 漫画的な表現だとネアの頭上には大量に?が湧いているように表現されるような状態であった。

 「だれも魔法が使えるの?」

 「ちょっとした練習が必要ね。ちょっとずつやら無いと、低体温症になりかねないから、独りで練習しちゃ駄目よ」

 アルア先生はネアの性格を知っているのか、先に釘を刺してきた。

 「分かった・・・」

 【どう練習するのか皆目見当がつかないよ・・・】

 アルア先生の言葉に従うことを誓い、やっと休憩のお茶の時間が始まったのであった。

 

駄文にお付き合い頂き、毎度ありがとうございます。

ブックマーク頂いた方、評価を頂いた方、感謝の極みです。

遅々として前に進まぬお話ですが、長い目で生あたたく見守ってやってくだされば作者としては幸いであります。

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