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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第16章 前へ
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206 法則

今年の連休はどこか消化不良な感じですか、このお話が少しでも暇つぶしのお役に立てれば幸いです。

 「嬢ちゃん、妙な感じって何だ? 」

 リックがネアの指さす方向を見て首を傾げた。ネアが示した方向には、宿からずいぶんと離れた場所に小屋が一見ぽつんと建っているだけであった。

 「屋根の雪の感じがちょっと妙に感じるんですよ。最近、キツイ雪が降っているでしょ。だったらあの屋根の雪もっと積もっているように思うんですね。私の考えすぎかな・・・」

 口元に手を当ててネアがその小屋をじっと見て呟いた。

 「確かに嬢ちゃんの言う通りだ。屋根の雪がちょっとばかり少ない感じがする、と言って調べに行くと逃げられるのがオチか・・・。急襲するのも手か・・・」

 リックはネアの言葉に頷きながら、あの小屋に対してどう対処するかを考えながら難しい表情を浮かべていた。

 「急襲して、そこにいた人が関係のない人だったら、こっちが悪者ですよ」

 ネアの言葉にリックは渋い表情になった。

 「しかし、奴らが刺客だったら・・・」

 「リックー、早く来てよ。クゥが待っているよ」

 悩んでいるリックにカイが早く来るように促してきた。

 「ああ、分かった」

 リックは苛ただしそうに怒鳴ると再び考え込んでいた。そんなリックを見てネアはポンと手を打った。

 「刺客かどうかは分かりませんが、どんなのがいるかは分かるかもしれませんよ」

 「え、なんだって」

 リックはネアの言葉に思わず聞き返していた。


 「警備の方針を変更する。警備対象を広げることにした」

 リックはホールで待っていたカイとクゥに低い声で今後の方針について話し出した。

 「警備対象を広げる? 」

 リックの言葉にカイが首を傾げ、その横でクゥが納得したような表情を浮かべていた。

 リックたちが警備について小声で話し合っているのを脇目に見ると、ネアは先輩方ににっこりした表情で話しかけた。

 「雪もやみましたから、お外で思いっきり身体を動かしませんか」

 昼食後寛いでいるラウニたちにネアは楽しそうな表情を浮かべて午後からの行動の提案をしてきた。

 「雪合戦は痛いからパス」

 フォニーが全く気が増らないという感じで答えるとソファーにぐでーっと沈み込んだ。

 「雪ダルマですか。宿の前にこれ以上置くと邪魔になりますよ」

 ラウニは新たに雪ダルマを設置する場所が無い事を告げていた。宿に来た時に勢いに任せて作り上げたのがS、M、L、LLと四つサイズ既に宿の前に鎮座していたからである。

 「裏の雪原をどこまで行けるかって興味ありませんか。ラスコーさんにきいたらあそこは牧草地みたいで、井戸も池も川もありませんから。走り回っても危険はありませんよ。ソリもありますからね。これで、雪原を本能の赴くままに駆けるんですよ」

 ネアが楽しそうに語るのを聞いたフォニーが怪訝な表情を浮かべた。

 「ネア、裏があるよね」

 「ネアの言動が不自然ですね」

 フォニーとラウニにじっとりとした目で見つめられ、ネアの笑顔が引きつった。

 「雪の中を走るのって、たのしそう・・・です」

 そんな中、ティマだけは目を輝かせてネアの次なる言葉を聞こうとしていた。

 「こほん、姐さんたちが睨んだとおり、これはあくまで表向きですよ。本当の所は雪原にある小屋の偵察です。あの近くまでソリで遊んでいるふりをしながら行きます。そして、そっと中を覗きこんで、どんなのが何人ぐらいいるかを確認するのが目的です」

 ネアの提案の裏の意味を知らされて、やっとラウニとフォニーは興味のある表情を浮かべた。

 「どこに耳があるか分かりませんから、小さな声でお願いします」

 ネアはそっと声を落とすとラウニたちは身を乗り出した。

 「裏の雪原に小屋がありますよね。あの林との境に建っている小屋です」

 ネアが雪原の方向を手で示すと、ラウニは何かを思い出そうと軽く目を閉じてから、かっと見開いた。

 「あ、ありましたね」

 「あの小屋に人がいるようなんです。その人たちが刺客なのか、それとも別の人なのかは分かりませんが、どんな人が何人ぐらいいるか探りたいんです」

 ネアは辺りをそっと見回すと小さな声で雪遊びの目的を囁いた。その目的を聞いたラウニの表情が曇った。

 「それって、危険じゃないですか。私たちは子供なんですよ。いくら、訓練していると言っても大人の男の人に敵いませんよ」

 「ケフの凶獣の基準をうちらに当てはめてもらうと困るよ。でも・・・」

 ラウニとフォニーは互いに見合い、そして意を決したようにネアを見つめた。

 「でも、ルシアさんのためなら」

 「毛皮の一枚でも脱ぐ覚悟はできているよ」

 「・・・ティマもガンバル・・・です」

 侍女見習いたちはルシアのために危険を冒すことを厭わないという決意を表明してくれた。しかし、ネアの表情は晴れることはなかった。

 「言い出した私が言うのもなんですけど、とても危険なんです。ひょっとすると・・・、一番危険な役目は私がします。でも、ティマにも頑張ってもらわないと上手くいきません。作戦はこうです・・・」

 ネアはテーブルの上に積み木を小屋の一つに見立てて置くと、作戦の内容について細かに語りだした。


 「ガキどもか・・・」

 小屋の隙間から宿を監視していたネズミを思わせる小男が小さく呟いた。髭もじゃが言っていた子供がこれだなと彼は認識すると彼女らの動きを目で追った。

 「何か、変わったことがあったのか」

 リーダーがネズミを思わせる小男の言った言葉に反応して、隙間だらけの壁に顔を近づけた。

 「ガキが2匹か・・・、熊と狐か・・・、あの宿は動物の飼育小屋なのか・・・」

 彼の目に入った光景は大きなソリを狐と熊の獣人の子が互いに交互に乗せあってソリを引いて遊んでいる光景だった。

 「ふん、ガキは悩みが無くていいな。こんな宿に泊まる恵まれたガキは特にな」

 「穢れの癖によ・・・」

 リーダーは吐き捨てるように口にすると興味なさげにストーブの前に戻って行った。ネズミを思わせる小男は、自分の子供時代のことを思い出しながら、子供たちを妬みが滲んだ目で睨みつけていた。


 「やっぱりね」

 背負った荷物の上から、白いシーツをすっぽり被り、雪景色に溶け込むように林に沿って静かに小屋を目指して移動しているネアは林の中に不自然な窪みが続いているのを見つけて確信を得ていた。

 「お酒の匂いが残っている・・・」

 ネアと同じような姿のティマも小さな鼻をひくひくさせながら臭いを拾っていた。

 「・・・足跡からすると、少なくとも2名以上が動いている。ティマ、気配を消して」

 「はい・・・」

 ネアに言われ、ティマは軽くを目を閉じて神経を集中させるとすっと今まで彼女がいた空間がぽっかりと穴が開いたような感覚をネアは感じた。

 「流石だね。こうやって見ていないとティマが居るって分からないよ」

 ティマの持って生まれた遁術の能力は、何かと問題が多いアリエラの下で確実に鍛えられ、彼女は意識して気配を消せるようになっていた。

 ネアたちは林内の足跡と重ならないようにそっと林と雪原の境目を移動し小屋を目指していた。

 「冷たいけど、何かあったら伏せてね。このシーツで目立たなくなっているけど消えたわけじゃないから。いざとなったら、私の事は気にしないで逃げてくださいね」

 遁術は透明になったりする能力ではなく、あくまでも気配を消すモノで、いくらティマでも相手の視界に入れば見つかってしまう。しかも、足跡まで見つかれば追跡されて捕まってしまい、最悪命を落とすことも可能性としては小さくないのである。だからこそ、ネアはティマの動きに非常に気を使っていた。

 「・・・」

 ネアの真剣な表情にティマは頷くと身を低くしてネアの後ろに付いて行った。


 「ラウニーっ、今度はラウニの番だかね。熊族の力を見せつけてよ」

 まっ平らな雪原を白いを息を吐きながらソリを引っ張っているラウニにフォニーはソリの上から元気よく声をかけた。

 「ソリを引くのは本来イヌの役目です」

 ラウニはソリの上ではしゃいでいるフォニーを見ることもなく唸り声のような声を上げた。

 「うちは、イヌじゃないからね。キツネだから」

 「どっちも似たようなモノです」

 ソリの上からフォニーがムッとした表情でラウニに言い返していた。


 「うるせーガキどもだな・・・、殺るか」

 「俺たちの居場所を知らせるのか、やめろ」

 ひょろ長い男が弓を手元に手繰り寄せようと伸ばした手をリーダーが抑えて低い声で制止した。

 「ちっ」

 弓に手を伸ばそうとしていた男は舌打ちをしてリーダーに従った。

 「下手にガキに手出しするとこれからの仕事がやりにくくなる」

 髭もじゃが寝袋に入ったまま、つまらなそうに寝返りを打った。

 「今夜、ぶっ殺すからいいじゃねーかよ」

 ネズミに似た小男は隙間からラウニたちを見つめながら舌なめずりをしていた。


 「ティマ、良く聞いてね。これをお腹に敷いて、ソリみたいにして林の中に入って、そして隠れるところが見つかったら、そこで私が合図するまでじっとしていてね。合図したら、そこから小屋に向けて雪玉を投げつけて。絶対に見つかっちゃダメ、中の人が出てきたらすぐに隠れる事、いいね」

 ネアは小屋から100歩程度離れた所に来ると、ティマに背負ったいた小さなソリを手渡した。それは、スノーボートかアキオを思わせるようなソリであった。

 「うん・・・」

 ティマは緊張した顔でネアから小さなソリを受け取るとその上に腹ばいになるとそーっと林の中に消えて行った。物陰にティマの姿が消えるとネアにはどこにティマが居るかさっぱり分からなくなっていた。

 「私も・・・」

 ネアはもう一枚、背負っていたソリを雪原にそっと置き、その上に伏せるようにして乗り込み、できるだけ雪の上に後を残さないように林に沿ってそっと小屋に向けて進みだした。

 「・・・」

 ネアは小屋の壁にくっつくぐらいに近づくとシーツを身体全体に被せるようにして、屋根から落ちた雪の塊と同化した。そして、シーツの隙間から手を出すと、軽く林に向けて振った。


 「なんだっ」

 小屋の扉にいきなり何かがぶつかる音がした。小屋の中の全員がさっと武器を取り身構えた。全員が息を殺していると、再び何かが扉にぶつかる音がした。

 「・・・」

 リーダーは何も言わず、手でサインを出すと、部下たちは頷き、さっと扉の横に武器を構え、いつでも外に押し出せる位置についた。

 「ーっ」

 リーダーがそっと扉を開け辺りを見回した。そこには何もいなかった。

 「気をつけろ、何かがいるかも知れん」

 リーダーは低い声で部下たちに注意を促し、辺りを見回し、姿勢を低くするとそっと林の方向に近づき、気配を伺った。

 「誰もいねえぞ」

 「そんなことあるかよ」

 「あそこのガキが・・・、ソリで遊んでいるか・・・」

 「気づかれたか・・・」

 リーダーが不思議そうに唸ると、部下たちは、それぞれの思いを口にしながら、リーダーの後を追うように小屋から出ようとした。

 「来るなっ、ガキに気付かれる。足跡も残る。宿から見えちまうぞ。・・・木から雪でも落ちたんだろ・・・」

 リーダーは無理やり自分に自分に言い聞かせるように呟くとひょろ長いのから小屋の中にあった箒を借りて自分の足跡を消しながら小屋に戻って行った。


 「声の質は4種類・・・、いずれも男か・・・」

 ネアは小屋の影で耳をそばだてて中の様子を伺っていた。その姿は完全に屋根から落ちた雪に同化しており、近くに寄らないとそこに居ることすら分からない状態だった。雪と同化しながらネアは小屋の中に少なくとも4人がいると確信していた。

 「・・・」

 ネアは男たちが小屋の中に引っ込むのを確認するとティマに戻るように手で合図した。その合図に答えるかのように小さな雪玉がネアの近くに飛んできた。

 ネアの合図を理解したティマは寝そべったままスノーボートを動かして小屋から離れて行った。ネアは引き続き中の状態を探ることにした。

 「くそっ、呑気そうに遊びやがって」

 ラウニとフォニーがソリを引っ張って遊んでいるのを見たネズミを思わせる小男がムカつくのを抑えることもせずにぼやいていた。

 「それも、今夜までだろ。短い命だ。精々楽しませてやれよ」

 ひょろ長いののネズミを思わせる小男を宥める呆れたような声がネアの耳に届いた。

 【今夜か・・・、しかもご丁寧に皆殺しか。少なくとも時期は分かった。これ以上は危険だな・・・】

 ネアはこれ以上いると身体が寒さで強張って、動けなくなると判断し、音もたてずにそっと小屋から離れて行った。


 「姐さーん、私たちもソリで遊びたーい」

 「あたしも載せて・・・ください」

 そっと宿に戻り、シーツやらソリを片付けたネアとティマは雪原でソリ犬のようにソリを引っ張っているフォニーと、彼女を叱咤激励しているラウニに手を振りながら声をかけた。

 「ガキが増えやがった」

 ネアとティマの姿を確認したネズミを思わせる小男は唾を吐くように言い捨てた。

 「心配しなくても、一思いにゃ殺しはしない」

 彼は貧相な顔に、今夜自分がすることを想像してにやけた笑みを浮かべた。


 「何勝手なことしてんだっ。・・・でも、ありがとよ。今度からは、そんな危ない事はしないでくれよ。こっちの寿命が縮む。・・・そっか、連中は少なくとも4人、そして今夜か、それで奴らが狙うのは誰か分かったのか」

 そろそろ日が陰り始めた頃、宿に戻ったネアは、ラウニたちにさっきの偵察について決して口にしないように言い含めると、リックに耳にしたことを伝えると彼は一瞬呆れたような表情を浮かべてから、ネアに低い声で尋ねてきた。

 「そこまでは分かりませんでした。それと、奴らはご丁寧な事に私たちを全員殺すつもりです。が手にした情報はこれだけです。彼らが私たちの存在を知って芝居をうっているとは、あの様子からするとあまり考えられません。後のことはお願いしますね」

 ネアはリックに手に入れた情報を伝えると、冷え切った身体を温めるために、ラウニたちと一緒にさっさと浴場に向かって行った。

 「今夜か、どこから侵入するかだな」

 リックはルシアとマーカをチラリと見ると眉間にしわを寄せて考え始めた。そんな彼に黒い影がそっと忍び寄っていた。

 「悩んでいるようね」

 声をかけたのはビブを抱いたレイシーだった。彼女は今夜展開されるであろう血生臭いイベントを気にする風もなく、まるで昼食にチャーハンを食べるか、ピラフを食べるかで迷っている者に声かけるように気さくに話しかけた。

 「獣人は耳がいいの。・・・皆殺しでしょ。この子まで危険を及ぼされるとね・・・」

 レイシーはちょっと困ったような笑顔を浮かべると、何かを言おうとしているリックを制して言葉を続けた。

 「リックさん、宵闇って知っているかな・・・」

 いきなりのレイシーの言葉にリックは暫くそれが何を意味することかと分からずに首を傾げてから、何かを思い出したような表情になった。

 「宵闇って、何年か前に大けがをして引退したっていう、黒狼騎士団の剣士ですよね。若いのに惜しい事をしたって俺たちの仲間内でも時々話題になりますよ。で、それが何か」

 リックはレイシーが何を言おうとしてるのか掴むことができず首を傾げた。

 「私の名前はね、「宵闇」のレイシーよ。貴方が引退したって言った剣士・・・、今は元剣士かな」

 「えっ」

 リックはレイシーの言葉に目を見開いた。噂としてはよく耳にしていたがまさか、目の前の柔和な笑みを浮かべる人妻があの「宵闇」であるとは俄かに信じ難かった。

 「動き回るのはダメだけど、室内でならまだまだイケるよ。うちの人がね、貴方の言う護衛対象を今夜私たちの部屋に泊ってもらえって。うちの人もそれなりに腕は立つから、貴方たちは迎撃に専念してね」

 微笑みながら協力を申し出るレイシーにリックは戸惑いを見せた。

 「しかし、貴女たちまで危険にさらしてしまう・・・」

 「奴らは皆殺しを企んでいるんでしょ。それなら同じことでしょ。もう、うちの人もアーシャちゃんたちも、勿論ラスコーさんもこの事は知っているわよ。ネアたちには私から、勝手に危険な事をするなって叱っておいたからリックさんたちは気にしなくてもいいからね」

 レイシーの言葉にリックは申し出を断る理由を見つける事は出来なかった。


 「なんか、ほっとしたような顔になってるね。レイシーさんからキツク叱られた後なのにさ」

 温泉に浸かって茹でられているネアにフォニーが不思議そうに尋ねてきた。リックたちに偵察結果を報告する前にネアたちはレイシーに見つかって、キツクお灸を据えられていたのであった。それなりに皆が落ち込んでいる中、気楽そうにしているネアが気になったのである。

 「今夜なんでしょ」

 ラウニは緊張の色を隠すこともなくネアにぐっと近寄ってきた。

 「油断はできませんが、攻撃三倍の法則というのがあるんです」

 ネアは目を閉じながら自分が少しほっとしている事の理由を簡単に口にした。

 「こうげきさんばいのほうそく、って、また、妙な事を言い出したよこの子は」

 フォニーが呆れたような声を出し、ラウニはそれが何の事かとネアに問いただしてきた。

 「攻撃する力は防御している力の3倍はないと上手くいかないってことです。奴らは4人良くて6人ぐらいです。で、こっちはリックさんたち3人、レイシーさんとドクター、その上、ウェル君とアーシャさん、ラスコーさんもそこそこ血の気が多いみたいだし、御者のおじさんが2人、で、私たち4人、皆で14人、それからすると連中は42人ぐらい必要なんです。リックさんたちだけでも、9人は必要なんです。連中の戦力が全くたりません」

 ネアはそこまで言うと湯船の中でうーんと背伸びをした。

 「・・・どこでそれを習ったかは、もう聞きませんが、もし、それ以上の人がいたら・・・」

 リラックスするネアに対して、ラウニは心配そうな表情になっていた。その横でティマも怯えるような顔になって知らずのうちにラウニの腕にしがみついていた。

 「・・・攻撃する側の最大の強みは、攻撃する時期を自分で決めることができることです。でも、私たちは奴らが今夜やってくることを、つまり攻撃する時期を知っています」

 「なんで、あの小屋にいる所を襲わなかったの。そうすればこんなことで心配しなくてもいいのに」

 フォニーは苛ただしそうにネアに詰め寄った。

 「攻撃三倍の法則ですよ。奴らをやっつけるには少なくともこっちは12人必要です。でも、ソレだけの人間が攻めて来たら、直ぐに感づかれて逃げられてしまいます。そうすると、最初から仕切り直しです。また、攻撃する時期を選べるっていう強みを連中が持つことになります。だから、今夜、潰すんです」

 ネアは湯船の中で身を正すとラウニたちに正対し、彼女らをじっと見つめた。

 「姐さんたちは、今夜、教会に避難してください。暗くなってから表からそっと出れば連中に気付かれません」

 真剣な表情で懇願するようにネアは彼女らに非難するように言った。しかし、ラウニたちはネアの言葉に首を横に振った。

 「お友達を見捨てるなんて、私たちにそんな選択肢はありません」

 「ネアが何と言ってもうちらは残るからね」

 「あたしももっと役に立ちたい・・・です」

 ネアはこれ以上何を言っても、侍女見習いたちは聞き入れないだろうと悟り深いため息をついた。

 「お風呂からあがったら武器の準備です。服装は動きやすいもの。裸足はダメです、割れたガラスとかお茶碗を踏んだら大変ですから。灯りは暗くして、私たちに有利な条件にしていきます。そして、これが大切です。危ないと思ったら逃げることです。私たち子どもにできる事なんてそんなに無いでしょうから。リックさんたちの邪魔になるなら、いない方がマシです」

 ネアの吹っ切ったような言葉に侍女見習いたちは深く頷き、湯の中にあっても身体が固くなるような感触を味わっていた。

攻撃三倍の法則ですが、感覚的なモノとしてネアは語っています。純粋な火力なのか、そこに地形や気象の影響等々がどの様な影響与えるか等の細かいところまで考えてはいません。

自分の宿の中で暴れられるラスコーさんにとってはどっちにせよ迷惑な話です。

今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

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