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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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20 おべんきょう

この世界のことをネアが学ぶという形で説明的なお話にしてしまいました。

できれは、暦のことや貨幣のことなどを学ばせていきたいな、と思っていたりします。

取り合えず、レヒテお嬢は元気で明るく、ちょっとばかしぬけていると言うテンプレな存在です。

 レヒテは、ネアを後ろに従えると振り返りもせずに自分の寝室兼居室に駆け込んだ。

 「忘れてたよ」

 ちょっとばつの悪そうな表情を浮かべただけで、彼女としては特に思うところは無いように見えた。

 「準備、手伝います」

 レヒテの後をついて部屋に入ると、目を丸くした。その居室の異様さは母親と同じぐらいであるが、進んでいる方向性は全く違った。剣術の稽古用の木剣やら盾、子供用の兜や鎧の類から乱雑に床に散らばり、壁には凧らしきものや、釣竿が引っ掛けられ、かろうじて少女らしさを演出しているものは、ベッドの上のぬいぐるみたちであった。

 「えーと、勉強用の御本は・・・」

 レヒテは床に跪くと、まだ掃除がされていないのか、脱ぎ捨てられた寝間着や稽古着の山の下から数冊の大きいが薄い絵本のような本を取り出した。

 「これ、持っといて」

 そられの本をネアに手渡すと小物が乱雑に散らばった机の引き出しを開けてノートぐらいの黒板を取り出した。

 「準備は、これでいいかな」

 【この子は、全然準備していない、と言うか、前日から準備しないのか】

 几帳面なネアは半ば呆れるような心持で黒板を手渡してくるレヒテを見つめた。

 「これでよいのですか」

 「忘れてたら、取りに戻ればいいだけのこと」

 レヒテは、こともなげに、行き当たりばったりのことを口にすると

 「行くよ」

 廊下を小走りしだした。

 「アルア先生はちょっとうるさいのね。少しぐらいの遅刻なんて大目に見てもいいのに」

 少しの間であるが、ネアはレヒテと行動を共にすることにより、彼女が自由すぎる思考を身につけていると確信していた。

 ネアは、薄暗い廊下の中、レヒテの栗色の髪が非常に鮮やかに足並みと共に揺れているのを見ながら、置いてけぼりを喰らわない様に、両手に抱えた勉強道具を落とさないようにネアは懸命にその後をついて行った。


 レヒテの教室はお館とは別館になっている建物の中の図書室であった。様々な書物が綺麗に壁一面の書棚に収まっている景色は小さいながらも迫力あるものであった。本を日焼けさせないように敢えて曇ったガラスを嵌められた窓から入る淡い光の中、本の精霊のように見える女性が静かにテーブルについていた。りんとした姿勢を保ち、大きな書物を静かに紐解いていた。その佇まいと同じように腰の辺りまでプラチナブロンドの髪は乱れることなく、彫像のそれのように静かに窓からの光に輝いていた。


 「アルア先生、おはよ・・・」

 「遅いっ」

 朝の挨拶をしようとしたレヒテの言葉を制するように一言厳しく言い放った。

 「約束の時間に遅れるというのは、その人の限りある時間を無駄に捨てさせることと同じなのです。私たちのような長命な種族ですらそう感じるのです。寿命の短い真人の人々はどう思うでしょうか?」

 その女性はキッとレヒテを睨みつけ、無言のまま手で席につくように促すと、その背後に控えているネアに気付いた。

 「貴女が・・・」

 「おはようございます。ネアです。湧き水のネアです」

 レヒテの本を抱えたまま不動の姿勢でネアが硬苦しく挨拶する姿をみると初めて彼女は笑顔を見せた。

 「私は、アルア・ノスル。お嬢たちに勉強と魔法をお教えさせていただいている者です。宰相を務めさせて頂いているハリーク・ノスルは私の夫なんです。よろしくね」

 アルアは微笑みながらネアにも座るように促した。

 「ネアは、沢山のことを忘れていたり、知らなかったりするみたいね。でも、お嬢と一緒に勉強して新しく知識を身につけさせるようにと奥方様から拝命しています。知識を得て、早く一人前の侍女になってください。侍女の仕事は身の回りのお世話だけじゃありませんから」

 にっこりしながらネアにそう言うと、今度は表情を引き締めてレヒテに向かい

 「復習を兼ねて文字の勉強をしましょう。忘れていたりしませんよね。ネアが分からないようだったら、お嬢が教えるぐらいでないとね」


 この世界の文字は表音文字であり、アルファベットのように大文字と小文字からなりその数は凡そ30個程度あった。また、それに加え、数字、疑問符のような約物で構成され、文法も日本語のように、主語、述語、動詞の順にならぶことも分かった。ただ、ネアには覚えることが多く、大きく文字が描かれた絵本を食い入るように見つめていた。

 「これを使うといいよ」

 レヒテは図書室のロッカーからノートぐらいの黒板とチョークをネアに手渡した。

 「ありがとうございます」

 ぺこりとレヒテに頭を下げると見様見真似の慣れぬ手つきで文字を一つずつ書き写しだした。

 【アルファベットみたいな感じでもあるし、カタカナみたいな感じもするし・・・】

 肉球のついた手で文字を書くネアをアルアは微笑みながら見守っていた。

 「お嬢やラウニ、フォニーとお勉強してきましたけど、ネアほど一生懸命な子はいませんでしたよ。お嬢も見習ってはいかがですか」

 アルアの言葉にレヒテは口を尖らせて

 「私は、この本を完璧に読めますっ」

 抗議の気持ちと自分の努力を認めてもらいたいという気持ちを混ぜこぜした気持ちで絵本を指差した。

 「それは認めます。でも、この本はお嬢より小さい子供向けですよ。お嬢が読めて当然でしょ。剣術のお稽古もいいですが、知恵の無い武芸者の多くはすぐに負けています。名を残す剣豪はその知識、知恵も剣の腕と同じぐらい優れているものです。知恵の無い、思慮の無い力は、ただの暴力です。力を正しく使うには知識と知恵が必要なんです」

 抗議するレヒテにアルアはぴしゃりと言い切った。

 「郷の民を守り、導くためには多くの知識と知恵が必要なのです。お嬢が普通の女の子ならここまで言うことはありませんが、ゲインズ様の長女であられるお嬢はそれでは駄目なんです」

 【この世界にも高貴な義務があるのか、ノブレス・オブリージュは子供の頃から叩き込まれるんだ・・・】

 ネアは自由な性格であるレヒテにこの生活は堅苦しいものじゃないかと少し気の毒に感じられた。

 「お嬢・・・、ガッツです」

 ちょっと落ち込んでいるレヒテにネアは小さな拳を作って見せ、元気付けようとした。

 「そうね、ガッツよね」

 レヒテにいつもの明るい表情が戻ってきた。それを見てネアは少し安心した。

 「文字が分かると、本も読めるようになる。多くの知識は本から得ることができます。ネアも文字を完全に覚えれば・・・」

 「トイレの使い方は、本には書いてないよ」

 アルアの言葉をレヒテが遮った。それにむっとした表情で応えるとレヒテを睨みつけながら

 「この調子で行くと、お嬢はネアにお勉強を教えてもらうことになるかもしれませんね」

 ネアは、己が関することができない領域で師弟の小さな言い争いのネタにされていることに居心地の悪さを感じながら身を小さくした。


 その日の勉強は昼食を挟んで午後のお茶の時間まで続いた。午後のお茶とはもとの世界で言うところの3時のおやつの時間のようなものである。美しいながらも隙を見せないアルアの強烈な指導で流石のレヒテも疲労の色を滲ませていた。片やネアは頭に入れることが多すぎて難しい表情になっていた。そんな二人が足取りも重く奥方様の部屋に入ってくると、丁度そこはお茶の時間の真っ最中であった。朝から布と針と糸とボタンやらと格闘していた先輩方も疲労の色が滲んでいた。

 「お勉強はどうだったかしら?ちゃんとネアの面倒は見ることができたかしら?」

 奥方様の明るい問いかけにレヒテは小さな声で「はい」と応え頷いた。

 「ネアはどうだったかしら?」

 レヒテの後ろに本を抱えて立っていたネアはいきなりの問いかけにギクリとしながら身を正して

 「覚えることが多く、それも大切なことばかりで・・・、がんばります」

 最期の「がんばります」だけは無理をして元気よく答えた。それを見ると奥方様はにっこりして

 「ネアのことだから、あっと言う間にレヒテを抜いてしまうのかな・・・。レヒテ、貴女もしっかりとお姉さんらしいところを見せるのよ」

 奥方様の目を盗んでクッキーを食べようとしていたレヒテの動きが止まり、奥方様に正対すると

 「もちろんよ」

 精一杯の空元気で答えた。それから、大慌てでクッキーを口にねじ込むと

 「ネア、来て」

 本を抱えているにも拘わらずネアの手を引いて奥方様の部屋からさっさと退散した。

 「あらあら」

 レヒテの一連の行動を見て奥方様は苦笑し

 「ネア大丈夫かな・・・」

 先輩方はネアの身の上を案じた。

 


書いていたものが、途中で消失するというアクシデントがありまして・・・・、地味に堪えました。

駄文にお付き合い頂いた片に感謝します。

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