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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第14章 落とされた影
207/342

193 最後に

春まで不規則なお仕事の状況になりそうです。週に一回はアップしたいと思っています。こんなお話でも楽しみにして下さっている方には、申し訳ありません。

 「冷たい・・・」

 ネアたちは、年始の行事のため、廊下を磨いているネアたちはかじかむ手をこすりながら、廊下を磨いていた。こびりついた汚れを落とすために、バケツの水をブラシにかけて、こすり上げ、それをまた拭っての作業を朝から延々と繰り返していた。そんな中、ティマが小さな手に息をかけながらポツリとこぼした。

 「年迎えの日って、こんなに忙しいの・・・」

 廊下掃除のために、それぞれが汚れと寒さに戦っている中、ティマが力なく尋ねてきた。

 「忙しいってもんじゃないよ。お客様は、次から次と来られるし、お連れのお子様も一杯だし、あ、その子らのお相手は、うちらがすることになるからね。覚悟、しておいた方がいいよ」

 ちょっと面倒くさそうにティマに答えるフォニーに、疲れて、掃除中の床に力なく座り込んで、ティマが涙ぐんた目を向けた。

 「うー、そんな目で見られたら、うちが悪者みたいじゃない。小さいティマにはキツイけど、ここは耐えるしかないんだよ」

 フォニーが辛そうな表情でため息をついた。

 「でも、お弁当は豪華で美味しいですよ。食後のケーキも付きますよ」

 泣きそうなティマを慰めるようにラウニが優しく声をかけても、ティマは蹲ったままだった。

 「冬のお休みは、ラゴの村でキバブタのお鍋を食べに行こうね。ルシア様からね、お手紙、来ているんですよ。さっき、エルマさんから預かって、今日の夜に渡そうかなと思っていたんだけど。・・・、はい、これティマの分。さっき、私の分をざっと目を通したら、冬のお休みの時もラスコーさんのお宿に来られそうですよ。これは、姐さんたちの分です。汚したり、無くしたりしないように」

 ネアは、ついさっき、エルマから手渡された手紙をエプロンのポケットから取り出して、それぞれに手渡した。

 「あ、随分前に、季節のご挨拶を送ったきりだったよ」

 「私も、そうでした。今度会った時に、ちゃんとお礼を言わないと」

 ネアから手渡された手紙を両手で持ってフォニーとラウニがバツが悪そうに呟いた。その横で、ティマが手紙の封を開けず、そっと胸に抱いて目を閉じて、しばらくするすっと立ち上がった。

 「ガンバル・・・」

 「そうだね。後少しがんばったらお休みだからね。頑張ろう」

 ネアはにっこりしながらティマに言うと、そっとティマのお尻についた埃を払ってやった。

 「あたし、ルシア様にお手紙書いたよ。元気でお仕事しているとか、お姐ちゃんたちと楽しく過ごしているって、ネアお姐ちゃんも書いたの・・・ですか」

 ティマはさっきまでの表情とは打って変わって、大きな耳をネアに向け、ニコニコしながら尋ねてきた。

 「ええ、季節のご挨拶や、ケフの近況もお知らせしましたよ。あの、バカのことはまだ書いてませんが、今度お会いした時にお話ししようかなって」

 ネアはそっと手紙をポケットに仕舞いこむと、ティマの頭をそっと撫でた。

 「さ、もうひと踏ん張り、行きますよ」

 ラウニが手を叩いてネアたちに作業を再開するように声をかけた。

 「うっしゃーっ」

 「気合っ」

 「おーっ」

 ラウニの言葉に、それぞれが気合を入れるために声を上げて立ち上がった。

 「このフォニーさんを凍えさせたきゃ、2度ほど気温が下げないとね」

 言葉とは裏腹に歯を食いしばりながら、雑巾をすすいで絞るフォニーの軽口で、ネアの口角が少し上がった。

 ネアたちは、寒さと、次々と襲い来る雑事と言う名の仕事と、エルマの叱責という敵にさほど有効な反撃手段もなく、徐々に崩れる戦線を休暇と言う援軍が駆けつけてくることを唯一の望みに耐えていた。

 そんな中、ルシアからの手紙がなによりもの彼女らの心の支えとなっていた。


 【時期が思ったより早いのか・・・】

 その夜、明かりが落とされ、暗くなり、色彩を感じられない部屋の中、ベッドに潜り込んで毛布を体に巻き付けたネアは、ルシアからの手紙のことを思い出していた。

 手紙の内容は、他愛のない子供がお友達に近況を伝える者であったが、その中に、あのジルエが今まで付き合いがなかった郷の人たちをヤヅに連れてきているとの一節があり、それがネアの心にどこか引っかかっていた。

 【信じるというわけではないけど・・・】

 ルシアの持っている不思議な星詠みの能力のこと、その星詠みの中で『王様の国が欲しいだけなの』と言った彼女の言葉が、ジルエが連れてきている連中と関係があるのではないかと訝っていた。そんなことを考えていると、身体はクタクタに疲れているのに、眠りの尻尾を捕まえることもできず、天井を見上げてネアはため息をついた。

 【悪い事にならないといいけど】

 ネアは、またため息をつくと、何回かも数えることもできなくなったうった。その内、ネアは眠りに沈み込んでいった。


 「明日は、もう新しい年ですからね」

 仕事も終わり、食事もお風呂も済ませたネアたちは、居室でそれぞれが裁縫の練習をしたり、明日につける尾かざりの吟味をしていた時、ラウニがマフラーを編む手を止めてしみじみと呟いた。

 「今年もイロイロあったねー、ティマが来てくれたり、冬知らずに追いかけられたり、アホな盗賊をやっつけたり」

 フォニーは明日に身に付けるお飾りを手にするとしみじみと呟いた。そして、ネアたちをそれぞれ見回した。

 「来年もいい年になるといいね」

 フォニーの言葉にそれぞれが頷き、そして取りあえずは、待ちに待った冬のお休みについて考えだし、知らず知らずのうちに顔に笑みが浮かんでいた。

 「きっと、そうなりますよ。きっと、ね」

 ネアは思わず口にしていた言葉に、自分で驚いていた。今まで、何の根拠もなく言葉を吐くことはしないつもりでいた。前の世界では、そうすることが習性になっていた。周りがそんなことを口にすると厳しく指導もした。しかし、今、ネアは何の根拠も無い事を口にしていた。

 【どうしたんだ・・・】

 ネアは自分の言葉に戸惑っていたが、周りは根拠のないネアの言葉に「そうですね」、「ならない方がおかしいよ」、「そうなる、絶対・・・」と屈託のない明るい表情で、ネア言葉を受け入れていた。

 「いい年の最初の一日、失敗のないように、しっかりと働きましょう。そのためには、明日は早いので、寝ます」

 ラウニは異論は認めないという気合を込めた目でネアたちを睨むように見ると、ベッドに入るように促した。ネアは特に、反論することもなく、言われるまま素直にベッドに潜り込んだ。今夜は流石に日々の疲れのためか、目を閉じると気持ちよく眠りに落ちて行った。


 「パンツを履け、マス掻きやめっ。ネア、起きなさい」

 ネアが高鼾で気持ちよく惰眠を貪る至福の一時である、寝入り端を厳しい声が叩き潰した。

 「っ!」

 ネアは言葉がかかったと同時にばっとベッドの上に上体を起こして、声の主を凝視した。

 「いい反応ですね。訓練の賜物でしょうか。いつもの仕事着に着替えなさい。良いのは着ない。よろしいですね」

 声の主はエルマであった。時間にするなら、新年と入れ替わるまでまだ時間がある時間帯であった。

 「皆を起こさなくちゃ・・・」

 「いいえ、その必要はありません。ネアだけです。すぐに身支度を整えて、ホールに来なさい。貴女は夜目が利くから、明かりは必要ありませんね」

 エルマはそれだけ言うと音もたてずに居室から出て行った。

 「物音どころか、気配もしないなんて・・・」

 ネアはエルマが事もなくやっていることに、畏怖を覚えつつ身支度を整え、ホールに向かった。

 「夜中にすまないね」

 目をこすりながらホールに行くと、薄暗がりの中に仮面をつけた男がすまなそうな小さな声でネアに謝罪の言葉を述べた。

 「いいえ、お気になさらずに。ヴィット様、こんな夜に何か事件でしょうか。微力ながら、お手伝いします。・・・、あの、こちらの方が重要なのですが・・・」

 ネアはヴィットに頭を下げると、そっと近づいて小声になった。

 「この事は、くれぐれも内密にお願いします。ラウニ姐さんの知らない所でヴィット様とあっていたと知られると、何かと面倒な事になりますので」

 ネアは敢えて、面倒を強調してヴィットに伝えた。彼はネアが何を伝えたいかは理解するのに苦労していたが、ラウニたちにこの事は離さないことを約束した。

 「誰にも言わないよ。事件じゃないんだ。夜中にたたき起こされて、目にするには非常に気分の悪い事を、ネアに頼みたいんだ。・・・ヒンメルのヤツが、最後に話すことがあるらしくて、その話をネアにしたいそうなんだ。君以外には誰にも話さないってね」

 ヴィットは仮面の奥で申し訳なさそうな表情になっていた。その表情は仮面で見えなかったが、彼の大きな身体全体が、そのことを表現していた。

 「最後って、今から処刑ですか。ここでは、お昼に人を集めて、賑やかに行うって、まだ年も明けてなませんよ」

 ネアは不思議そうな表情を浮かべて時計の針を見た。

 「アイツに新年なんて勿体ない。その上、いつものように公開した所で、アレの仲間が騒ぎを起こすのは目に見えている。夜中に、誰にも知られずに旅立ってもらうのさ」

 ヴィットは冷たく言い放つと、ネアを玄関前に停めている馬車に案内した。

 「では、行ってきます」

 「気をつけて、帰ってきたら、私の所に来なさい。本来は子供が関わるようなことではないのですが、貴重な情報が手に入るかもしれません。でも、きつくなったら、いつでもその場から立ち去りなさい。いいですね」

 ネアがエルマに挨拶すると、彼女は心配そうな表情を浮かべながらネアを送り出した。


 「アレが私に何の用なんでしょうね。穢れの声は聞こえないはずなのに」

 眠気を堪え、馬車に揺られながらネアはヴィットに尋ねた。

 「アレは、君に話すことがある。これは重要な事だ。君以外に喋る気はないってね。少々痛めつけたんだが、あの手の連中はなかなか口を割らなくてね」

 ヴィットがさらりと拷問したことを伺わせるようなことを普通に口にしたことにネアは少し驚きを感じていた。

 【本当に、命が安いんだ】

 ネアはそう思うと複雑な表情を浮かべた。


 刑場は、城門から出て、街道を少し進んだ後、深い森の中に続く道の奥にあった。かがり火がたかれ、採暖用の焚火が数か所で火の粉を上げていた。その中に白い服を着せられ、椅子に縛り付けられた痩せた男の姿があった。

 馬車が止まり、ヴィットが降りると、ネアに手を差し出した。

 「ありがとうございます」

 ネアはヴィットに手を取ってもらって馬車から降りた。最近は、この手の気の使われ方にも慣れてきた自分にネアは気づいて苦笑した。ヴィットに連れられて椅子に座らされているヒンメルの元に連れて来られると、彼はネアを確認したようで口を開こうとした。

 「命乞いをする相手を間違ってますよ。それと、私らの言葉は耳に入らないんじゃないですか」

 ヒンメルが何かを言おうとする前にネアが冷たく言い放った。

 「命乞いなどせん。そもそも畜生の分際で・・・、心の広い吾輩は、最後くらい畜生の言葉に耳を貸してやるだけなのである」

 ヒンメルの表情がネアの一言で怒りに歪んた。そして、唾を盛大に飛ばしながらネアに噛みつかんばかりで怒鳴りつけた。

 「アンタと違って、耳はいいんですよ。で、用件って何です。さっさと済ませてください。こっちは夜中にたたき起こされて、明日も仕事だと言うのに・・・、明日がない人には関係ない事でしょうけど」

 ネアは面倒臭いとばかりに言い放つと、つまらなそうにじっとヒンメルを見つめた。

 「吾輩は、お前に言いたいことがあるのである。それは、お前を呪い続ける、これが言いたかったのである。お前の夢に棲んでやるのである。お前に不運しか訪れない様にしてやるのである。死で救われることはないのである。お前こそ地獄に相応しいからである」

 ヒンメルは勝ち誇ったようにネアを睨みつけて、これからの自分のすることを予告した。そんなヒンメルの言葉にネアは薄く笑い、ヒンメルの傍に寄った。ヴィットがネアを止めようと肩に手を置いたが、彼女はそれをそっとどけた。

 「心配されることはありません。コイツに私も言いたいことがありますので」

 ネアはそう言うと椅子に座らせているヒンメルの耳元に口をよせた。

 「死人を呪えるなんて器用だな。俺は、もう死んでるんだぜ」

 「何を・・・」

 ネアの言葉に驚きの声を上げるヒンメルからそっと身体を離すとネアは子供らしからぬ皮肉な笑みを浮かべた。

 「ヴィット様、コイツの身内はお別れに来ないのですか、それとも許されていないのですか」

 ネアはヴィットを見上げるようにして尋ねた。

 「家族も親しい友人もいないようだね」

 ヴィットはヒンメルを眺めながら素っ気なく簡単に答えた。ネアはヴィットの答えに頷いた。

 「思った通りでした」

 ネアはヴィットに答えると、じっとヒンメルを見つめた。

 「何にもないんだ・・・、誰もいない・・・」

 ネアの言葉にヒンメルは首を上げてネアを睨みつけた。

 「吾輩は、常に正義とともにあるのである。正義があれば、何もいらぬのである。畜生や目の曇った連中には図り知ることができぬことなのである」

 ヒンメルは、ネアの言葉を鼻先で笑うように答えた。

 「ふーん、そう言う事か。分かったよ。寂しい人生だったね。さっきの死人もそんな生活をしていたんだよ。アンタより長生きしたが、結局は何も残らなかった。死んでから悔やんでいるよ」

 ネアは、悲しそうな表情でヒンメルを見つめた。そして、何か言い返そうとするヒンメルをじっと見つめた。

 「アンタは何を残せた? 自分をいざとなったら見捨てるような部下か? 人生をかけて何を作り上げたんだ? どこかで聞いたから文句だけの借り物の思想が全てか? アンタの死を誰か悲しんでくれる人はいるのか? でも、良かったな、そんなに長く悩まなくて済むんだから、これから、逝ってしまうヤツのために経験者から一言、言わせてもらうよ。死んでから後悔するのはキツイってことを」

 ネアはそれだけ言うと、ヒンメルにもう話すことはないとばかりに背を向けた。

 「ネア、すまない、何か新たな事が聞けるかと思ったが、このバカの恨み言を聞かせることになって、申し訳ない」

 ヴィットは苦々しく椅子に力なく腰掛けているヒンメルを睨んだ。

 「可愛そうなおっさんですから、最後くらいは少し優しくしてやってもいいでしょ。これで、最後なんですから」

 「そうだな、可哀そうなヤツだからな」

 ネアの言葉にヴィットは深く頷いて、正しく可哀そうな人を見る目でヒンメルを見つめた。その時、ヴィットの背後にそっと騎士団員が近づいてきて、小声で何かを囁いた。

 「「石柱」のヒンメル、時間だ」

 ヴィットの言葉にヒンメルを椅子に縛り付けていたロープが切られ、彼の背丈の倍ほどある木製の台の上に連れて行かれた。そして、台の上に取り付けられた枠組みの様な所に引っかけられたロープを騎士団員が彼の首に巻き付けてやった。

 「何か言う事はないか」

 その団員はそっとヒンメルに声をかけたが、彼はただ俯くだけで何も答えなかった。

 「足が震えてますね」

 「これからのことを思うとそうなるのも自然な事だよ」

 台の上で寒さのためとは異なる震え方をしているヒンメルを眺めながら、ネアはヴィット話を交えていた。そんな様子が目に入っているのか、入っていないのか、ヒンメルの顔色は松明の灯りしかない状態であっても真っ白になっていることは分かった。彼は、何か気の利いた台詞でも吐こうと考えていたようであったが、いざ死を前にするとそんなことはどこかに消し飛んでいたようであった。

 「死にたくなっ」

 彼が叫ぼうとした時、彼の足元の落とし戸が開いて、彼の身体が宙にぶら下がった。彼は暫く身体をひくつかせていたが、直ぐに動かなくなり、振り子のようにゆっくり揺れるだけになっていた。彼の身体が降ろされ、数名で彼の死を確認し終えた時、遠くから教会の鐘の音がしてきた。

 「新年になったな」

 ヴィットが物言わなくなったヒンメルの身体を眺めながら呟いた。

 「そうですね。今年は良い年になりますよ。少なくとも、はた迷惑なバカが一人いなくなったんですから」

 ネアはそう言うと、そっとヒンメルの亡骸に手を合わせた。

 「どんな奴でも、死者には敬意を示さないと・・・」

 誰に問われるでもなくネアはそっと呟いた。それを聞いたヴィットもヒンメルの亡骸にそっと手を合わせた。

 「たとえ、それがどんなバカであっても、だね」

 ヴィットはネアに笑いかけると、馬車の場所まで彼女をエスコートした。

 「こんな深夜に酷いモノにつき合わせてすまなかった。この事は、明日、お館様に報告しておくよ。エルマ殿にはヴィットが、明日は無理させないでくれと言っていたことを伝えておいてくれないか。私はもう少しここで後片付けしなくちゃならないから。護衛はつけておく。それと、帰る間、馬車の中でお払いもしてもらうから。今日はありがとう」

 ヴィットはネアを抱き上げるようにして馬車に乗せた。その後を長いローブを着た女性と武装した騎士団員2名が乗り込んで、馬車はお館を目指して動き出した。


 「酷い事はされませんでしたか」

 エルマは眠ることなく、ホールで帰ってきたネアを迎え、自室に迎え入れた。

 「結局は恨み言を聞かされただけでした。お払いは受けたので、大丈夫です」

 ネアはエルマに見てきたことを説明した。

 「・・・すると、貴女は彼の最後に立ち合ったのですね。こんな小さな子・・・という事にしておきますが、酷い事をするものです」

 エルマはこの非常識なことをした騎士団とヒンメルに怒りを覚えているようであった。

 「私も、言われままではありませんでしたから。ヤツに何にも残さなかった、死んだところで誰も悲しまない人生だって、言ってやりましたよ。堪えていたみたいですが、今となっては確かめようがありませんが」

 エルマはネアの言葉聞いてくすっと笑った。そして、じっと彼女を見た。

 「もう休みなさい。明日は、警備の詰め所で彼らのお世話をしてください。お客様のお相手をする必要はありません」

 エルマそう言うと、ネアを立たせ居室に戻らせた。居室に戻るとネアは寝巻に着替え、再び眠りの中に陥って行った。アレだけ脅していたヒンメルはお払いが効いたのか、姿どころか声すらみせることはなかった。

 さて、エルマの言った詰め所でのお世話の仕事は実はそんなにすることはないのである。彼女はネアに詰め所でゆっくり身体を休めろと言う気遣いだとネアが気づいたのは、翌日、働きだして暫くしてからであった。

この世界での処刑は公開が原則です。場所によっては街中の広場で演しものように実施することも少なくありませんが、ケフでは郊外で実施します。その際には、出店でたりしてそれなりに賑わうようです。娯楽の少ない世界の娯楽の一環の様な一面を持っています。ヒンメルのように夜中にこっそりするという事は、処刑される本人を軽く扱っているようなモノになります。

今回もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

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