191 二つ名
ますます、流行病が猛威を振るっているようですが、「乗り越えんとあかん。頑張らんと、諦めたら終わりや」と行きつけの店の大将が言っていた言葉に思わず頷いておりました。頑張って疲れた時に、このお話が少しでも癒しになれば、幸いです。
「ネア、あいつら結局どうなるのかな」
会合の翌日の昼食時、いつものように使用人用の食堂でネアたちが食事をしている時、フォニーが食事の手を止めて尋ねてきた。
「あの、リーダーは死罪になるみたいですよ。他の連中は犯罪奴隷に落ちるようです」
ネアは耳にした口にしてよい事をさらりとフォニーに伝えた。ネアの言葉にフォニーは複雑な表情を作った。
「騒ぎを起こしただけで、死罪?、それって・・・」
フォニーとしては、鉄の壁騎士団やネアに簡単に熨された連中がそこまで酷い罪を起こしているように見えなかったため、この判決に少し疑問を抱いたようであった。
「他人様の郷で、しかもお祭りの最中に刃物を振り回したんだからねー、下手したら死人が出ていたよ」
ネアたちの横の席に腰を下しながらバトが当然のことであるようにフォニーの疑問に答えた。
「ドクターの治療を断って、既に3人くたばっていますしね」
「剣の基本すらできていないのに、剣をふりまわすなんて、愚かとしか言いようがないです。ね、ティマちゃん」
バトと同じように腰を下ろしながらルロが呆れた様な表情で捕捉し、アリエラはティマの口の周りについているパンのかけらをそっと拭きながら、彼らを馬鹿にした。くたばった3名のうち、2名が彼女らの手によるものであるが、その口調にそのことに関して何らかの思いがあるようには見えなかった。
【彼女らからすれば、職務の一環か。割り切っているんだ・・・】
彼女らは、罪人であれ、人を斬って死に追いやったことに、何事もなかったように、あっけらかんとしていた。それを見てネアは、この世界で人命が案外安いモノであることを複雑な気持ちで再確認していた。
「本人は、殉教者って言ってるらしいけどね。それで、幸せならいいんじゃないの」
「私には理解できません」
バトが全く同情も挟まずに言ってのけると、ラウニが難しい表情で感想を述べた。
「理解出来たら、終わってるよ」
バトはラウニに気にするなと言うと、黙々と食事を続けた。
「一部の人には、死すらご褒美なんですよ」
ネアは可哀そうな人を見るような表情になって言い捨てた。
「それより、どの雪像が一番になったんでしょうね」
ルロが気持ちよく話題を変え、ネアたちと残念トリオの頭の中には既にあの哀れな男は過去の遺物と成り果てていた。
「心配しなくても、ワーナンの郷からは彼らの身柄は全てケフの郷に預けたと、書面を貰ったよ」
矯正団への処遇を如何にするかについて報告を受けていたお館様は、ヴィットに一枚の書類を見せた。そこには、矯正団への刑罰や処遇については全てケフの郷に一任すると書かれており、郷主のサインまでなされていた。
「まさか、こんなに速やかに・・・」
郷をまたいでの犯罪所の処罰には、時間がかかるものであるが、この件に関しては異様に速やかであった。
「あの連中、収穫前の村を襲って、いくつかの村の作物を全部だめにしたらしい。郷としては、穢れの民と言えど働き手を無くし、1年分の税収入を不意にしたんだからね。パーソロン殿にしては結構な痛手かも知れんな。あの郷は最近、穢れの民を排斥しようとする動きが盛んで、それで経済が停滞しているようだからな。しかも、カスター殿を左遷までしているからね。ますます、懐具合がキツクなっているだろうな」
お館様は、つまらなそうに書類をひらひらとさせると、それを机の上にあるケースの一つに収めた。
「裁判の結果はどうなりそうだね。まさか、全員無罪放免になるなんてことはないと思うが」
お館様は机の上で手を組んで楽しそうな表情を浮かべた。
「可能な限り、公正に行う所存です。彼らにも弁護人を付けております。しかし、法廷は真人だけではありませんので、彼らは公正に裁かれる権利を放棄することも考えられます。私は、構いませんが」
ヴィットの言葉を聞いてお館様は目を細めた。
「そうだねー、彼らには誇りを持っていてもらいたいものだよ。ゆるぎない信念もね」
「裁判は、明後日にも開廷する準備を進めております」
「結果はどうであれ、適切な処置を頼むよ」
「は、適正な裁判を実施いたします。それでは、失礼いたします」
ヴィットは深々と頭を下げると、お館様の執務室を後にした。
「まーた、アンタたちか・・・」
久しぶりに午後からお休みを貰ったネアたちは、4人そろって街へ繰り出していた。そんなネアたちの前に性懲りもなく、ブレヒトたちが立ち塞がった。
「姐さん、昨日は申し訳ありませんでした」
ブレヒトが大声を上げると、少年たちは一斉に頭を下げた。
先日の事である。ブレヒトは集まった配下の少年たちを目の前にして己の考えをとうとうと述べていた。
「俺たちは、上から行き過ぎたんだよ。だから、今度は下手で行く。押さば退け、退かば押せだ」
ルッブたちに追い払われてから、ブレヒトは頭を総動員して、一つの結論を手にしていた。それは、ケフの凶獣たちを従えるのではなく、その支配下に自らを置く、そして庇護を受ける、ある意味、プライドを捨てた作戦であった。この考えに対して、他の少年たちは異議を唱えたが、ブレヒトはそれを話さ危機で笑って捨てた。
「アイツらが、常に街にいるか? アイツらの舎弟になったとしても、今まで通りさ。逆に後ろ盾が大きくなる。あの騎士団の倅も、あのシモエルフも、面と向かって俺たちに仕掛けてこれなくなる。名を捨てて実を取るってヤツだ」
自信満々に配下の少年たちにブレヒトは演説するように語った。
「言っていることは、良く分かんねえけど、かっこいいってことは、感じたぜ」
「さすが、ブレヒト、難しそうで頭のよさそうな言葉、すごい」
集まった少年たちはブレヒトの言葉に感動すら覚えていた。なんで、感動するかは分かっていなかったが。
「いきなりなんなの。気持ち悪い・・・」
フォニーは、彼女が苦手とする蛾を見たかのように、思わず後ずさりし、ラウニはそっとポケットに手を入れ、忍ばせたカイザーナックルの感触を確かめていた。ネアは腕を回したり、屈伸したりと、これから発生する可能性のある荒事に向けて身体を温め、ティマは心配そうな表情を浮かべ、ラウニの背後にぴったりとくっついていた。
「き、気持ち悪い・・・って・・・」
フォニーの言葉にむかっとくるのをブレヒトは懸命に抑え込んだ。歯を食いしばるブレヒトを少年たちは心配そうに横目でちらちらと見つめていた。
「俺たちは、自分の力を過信していたんだ。だから、一から見直そうと思っているんだ。是非とも、ケフの凶獣に、俺たちを鍛えるもらいたいんだよ」
ブレヒトは懇願するように身体をほぐしているネアに声をかけた。
「寝言は、寝ている時に言うモノですよ。ハサミは有りませんが、ナイフならありますので、切り落としてから来てください。今のところは、姐さんたちや、ティマはそれが嫌いですから」
ネアは、穿き捨てるように言うと、ビシッとブレヒトの股間を指さした。
「そ、それは、ナシ、絶対になしだ。俺たちは本気なんだよ」
少年たちは皆、股間を押さえてネアを懇願する様な目で見つめた。
「そう、本気で鍛えてもらいたいんですね」
ブレヒトがネアに頼み込んだ時、いきなりネアたちの背後から声がかかった。
「えっ」
ブレヒトがその人物を確認する前に、ネアたちは直立不動の姿勢をとっていた。
「オフの時まで、指導はしません。余程の事がない限り。・・・で、君たちは鍛えたいんですね」
その人物は、館内で誰もが恐れるエルマであった。彼女は、にこにことしながら、「誰だコイツ」と見つめるブレヒトに声をかけた。
「・・・このオバさん、誰?」
ブレヒトがネアに失礼な事を口走りながら聞いてきた。その言葉を聞いた時、ネアは血の気が音をたてて引いて行くのを感じていた。それは、その場にいた先輩方、幼いティマも同じようで、恐怖のあまりぎゅっと彼女はラウニの服の裾をきつく握りしめていた。
「誰が、オバさんかしら?」
エルマは、ニコニコしながらブレヒトに近づいた。周りの少年たちからは、エルマの見た目からお姉さんだと主張したが、ブレヒトはそんな言葉に耳を貸さなかった。
「だってよ。エルフ族だぜ。エルフ族は全然、年齢喰わないんだよ。それと、俺は犬族だぜ、このオバさんから加齢臭みたいなの感じるし」
この言葉は、言ってはいけなかった。この言葉を吐いたことを彼は、嫌と言うほど後悔することになるのである。
「小僧、いい度胸だな」
エルマはにこりとすると、ブレヒトの顔面を鷲掴みにして持ち上げた。
「誰が、加齢臭がするんだ。え、どの口がそれを言っているんだ」
ブレヒトはエルマに持ち上げられ、足をバタバタさせるのが精一杯だった。
「お前ら、このケフの凶獣を鍛えたのは、私だ。だから、私がお前らを優しく鍛えてやろう。いいなっ」
エルマは、恐怖のあまり持ち上げられ藻掻いているブレヒトを見つめることしかできない少年たちに厳しい口調で尋ねた。少年たちはかすれた様な声を上げるのが精一杯だった。
「なんだ、その声は。玉、ついてんだろうが。気合入れろ」
エルマは、少年たちに怒鳴りつけると、少年たちも直立不動の姿勢になり、教わったわけでもないのに
「Yes,ma’am!」
と、一斉に返事した。
「よろしい。では、これから、私がお前たちをいっぱしの男にしたててやる。いいな」
「Yes,ma’am!」
「よし、私について来い。暫くは、泣いたり、笑ったりできなくことを覚悟するんだな。そして、私をオバさんと呼んだことについては、生まれてきたことを後悔するぐらい、思い知らせてやる。いいなっ」
「Yes,ma’am!」
少年たちは既に、エルマの手の内にあった。少年たちがエルマの問いかけに答えている間も、ブレヒトは顔面を掴まれたままであった。
「お館まで、走って行くぞ。ついて来い」
エルマは少年たちに告げるとブレヒトの顔面を掴んだまま引きずって走り出した。その後を少年たちは必死で付いて行った。
「あのスカートで、ブレヒトを掴んだままあんなスピードで走れるなんて」
エルマの後ろ姿を目で追いながら、ネアは驚きの声を上げていた。
「ルーカさんやタミーさんは直接指導を受けてたんだよね」
「私たちはもう少し、身体ができてから指導する、って言われてましたからね。怖い事です」
ラウニはいつか自分たちも、ブレヒトのような目に遭うのではないかと心配の余り表情が引きつっていた。
「あたしはどうなるのかな・・・」
ティマも不安であることを口にすると、ラウニを見上げた。
「ティマは、アリエラさんが教えてくれんじゃないでしょうか」
「でも、お師匠様もエルマさんに鍛えられている最中だから・・・」
ネアは、心配そうなティマの肩を優しく抱きしめて、安心させるように微笑んだ。
「心配しなくても、私たちと一緒に鍛錬できますよ」
「・・・」
ティマはネアの言葉に泣きそうな表情になっていた。ネアはティマと視線を合わせるとその大きな耳に口を近づけ、小さく囁いた。
「強くなれます」
ネアの言葉にティマは力強く頷き、手の甲で潤んだ目を拭った。
「うん、強くなる・・・ます」
「その調子です」
ネアはそう言うと、ティマをぎゅっと抱きしめた。
「全く何もありませんね」
年迎えのお祭りの会場だった広場は綺麗に雪が片づけられ更地になっていた。その更地の上に昨日の夜に降った雪が新雪のカーペットを作っていた。そこには、お祭りの痕跡は見当たらなかった。ネアはそんな状態を見て、寂しさのようなものを感じていた。
「そうですね。もう暫くすると新しい年になりますからね。その時はまた、ここに人が集まりますからね」
ラウニは新年の行事が近づいてきていることと、その準備、新年の仕事のことについて考えて、ちょっとウンザリとした気持ちになっていた。
「忙しくなるねー。まーた、お客様のお相手だよ」
フォニーは手を頭の後ろで組んでつまらなそうに口にした。
「ねー、ティマはどこに行きたいですか」
ティマの手を引いていたネアは新雪を楽しそうに踏んでいる彼女に尋ねかけた。
「ボウルのお店・・・です」
ネアは、ティマの答えに頷くと、どこに行こうかと相談している先輩方に声をかけた。
「そっか、じゃ行きましょうか。姐さん、ボウルのお店に行きましょうよ。外だけどあそこでも温かいお茶が飲めるし、雪も降ってないからいいでしょ」
先輩方はネアの言葉に賛同すると、彼女らは、早速ボウルのお店に向けて足を進めて行った。
「ちょっと視線が気になるような・・・」
広場を通り過ぎている時、ネアは時折ちらちらと自分が見られていることに気付いて、不安そうな表情になった。
「そうだねー、ケフの凶獣の噂かな。有名人になったからね」
フォニーがにやっとしてネアに言うと、ネアは外套のフードを被ってマフラーで口元を覆うようにした。
「トラブルの種になりそうなことは、もう結構です」
ネアは人の目を避けるように歩く速度を上げた。
「凶暴な子だとか、危険な子だとか噂が独り歩きして、郷主の傍にいるべきじゃないと言われて、私がお館にいられなくなるかもしれませんから」
ネアは不安そうな声を出した。常に落ち着いて、先を見るような感じがするネアにしては珍しい反応だった。しかし、この反応は肉体的な年齢相応とも見ることができた。
「心配しなくても、ネアはそんな子じゃないって、皆知っているから、大丈夫ですよ」
ラウニがネアを安心させるように優しく声をかけ、フードの上からそっとネアの頭を撫でた。
「誰がそんなこと言うのよ。お嬢や奥方様が一番お知りだよ。心配しなくてもいいと思うよ」
「ネアお姐ちゃんは優しいもん、怖い人じゃないもん」
フォニーとティマもネアをそっと撫でて宥めようとした。
「早く、行きましょう。バカが絡んでこないうちに」
ラウニの言葉に従って、ネアたちは小走りで広場から立ち去ろうとした。
「早く・・・」
実際は誰も気にしてはいないのであるが、ネアは何気ない視線が自分を非難しているように感じられていた。
【また、流される・・・】
ネアは感情の津波が襲ってきたのを感じていた。それは、誰からも拒否されるのではないか、捨てられるのではないかと言う不安と恐怖であった。それは、前の世界でも感じなかった感情であり、ネアは戸惑いながら、感情に呑まれていった。
「嫌だ・・・」
ボウルのお店についたネアは店の前のベンチに腰かけ、身体を二つ折りにして呻くような声を上げた。
「ネア、私たちは分かっているから」
「人の噂なんて、直ぐになくなるよ」
顔を覆って呻くような声を上げるネアにラウニとフォニーが両側から優しく声をかけて、その小さな背中を撫でてやっていた。
「あら、ネアちゃん、どうしたの」
店の中からナナが顔出して、ネアのただならぬ状態を目にして声を上げた。
「さ、奥に行こう、ここに居ると、身体が冷えるから」
ネアたちはナナに促されるまま店の奥に入った。そこはいつもの会同が行われている部屋で、常はナナたちのリビングとして使われている部屋だった。ネアは椅子に座らされても、顔を覆ってうめき声を上げるだけだった。
「ネアがこんなことになるなんて、どうしたの」
ナナが心配そうにネアの横に腰かけて、そっと肩を抱いてやった。
「ケフの凶獣って言われることが気になるようです」
「危険だとか凶暴だとか思われて、お館にいられなくなるかもって」
ナナはラウニとフォニーの説明を聞いて首を傾げた。
「あたしが聞いた所じゃ、お館には身を挺してお嬢を護った忠義者の侍女がいるってことぐらいだよ。幼いにもかかわらず、妙な連中の前に立ち塞がって、危険を省みずにソイツをやっつけたってね。使用人を持つ家の人の中には、待遇をよくしたら来てくれるかなって、言ってたのがいたぐらいだからね」
ナナは腕を組んで苦笑しながら、ネアの思いが杞憂であると優しく諭した。ナナの言葉は、嘘でも誇張でもなく実際の事であった。ケフの凶獣は、主のために牙を剥く姿は守護獣を思わせ、相手からすれば凶な存在、そういう意味で理解されているようであった。
「心配しなくても、誰もネアを嫌わないし、お館から追い出されることもないよ。もし、そうなったら、家に来な。お館から比べると小さいけど、娘一人住むには十分広いよ」
ナナはそう言って笑うと、ホットミルクをネアたちの前にそっと置いて行った。
「一人前になるまで、いんや、嫁に行くまで面倒見るぜ」
ひょこっと顔を出したロクが笑いながらネアに声をかけた。皆の思いやり、ナナとロクの言葉が嬉しくてネアは大声を上げて泣き出してしまった。泣き声を上げるネアをラウニはそっと抱きしめてやり、フォニーは震える背中をそっと撫でやっていた。
ボウルのお店で散々泣いたネアは、ちょっとすっきりした気持ちで店を後にした。
「最近、ネアの大泣きがなかったと思ったら、今日はいつもより激しかったですね。でも、忠義者として噂されるなら、お館から追い出されることはありませんね。私たちも、頑張らないと」
ネアの手を引きながらラウニがネアに話しかけてきた。その言葉はネアを揶揄しようという気持ちはなく、ネアを気遣い、その姿勢を見習おうとするものだった。
「ちょっとお腹空いたね。まだ夕食まで時間があるから、何か欲しいなー」
ボウルのお店で買ったお菓子の詰まった紙袋を持ったフォニーが、何かステキな匂いを嗅ぎ当てたのか、鼻をひくひくさせた。
「この匂いは串焼ですよ。あ、あそこに屋台があります」
ラウニが指さした方向に、いい匂い漂わせている屋台があった。ネアたちは早速、屋台に近づいて、岸に刺され、焼かれた肉を買おうとして屋台の主に声をかけた。
「それぞれ一つずつ、お会計もそれぞれで」
ラウニが屋台の店主に声をかけた。その主人はネアたちを見て目を丸くした。
「マーケットで悪党を退治した嬢ちゃんじゃないか、久しぶりだねー。最近、御主人を護って戦ったんだって、凄いねー、早速、使わしててもらっているよ。今日は、名前を借りている分として奢らせてもらうよ」
店主は屋台に貼ってある紙を指さすと、そこには『忠義者 ケフの凶獣 御用達』と書かれていた。そして、ネアたちにそれぞれ焼きたてを差し出した。
「ね、皆が言ったとおりでしょ。おじさん、ありがとうございます」
店主に全員で礼を述べると、ラウニがネアの心配を吹き飛ばすような笑顔でネアを見つめ、店主から串を受け取り、ネアたちに配った。
「これは、これで・・・」
ネアはため息をつくと、ラウニから串を一本受け取り、肉に齧りついた。
「おいしい」
温かく、スパイスの利いた肉がネアの心配を吹き飛ばしていた。
【人間って案外単純なんだ・・・、獣人でも人間と言うなら・・・】
ネアは自分の単純さに苦笑しながら、今は肉の味を楽しむことに専心することにした。
この世界でも、犯罪者を処罰する際には裁判が開かれます。ネアの前の世界程厳格ではありませんが、それなりに機能しているようです。郷をまたいだ犯罪の場合は手続等が煩雑になるのですが、事件の性格から例外的に速やかになることもあるようです。今回の騒ぎに関しては例外に当たるようです。人道的には兎も角、経済的にやらかしたことが重く問われたためです。
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