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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第14章 落とされた影
204/342

190 関わりの持ち方

いきなりな仕事の都合で、暫く投稿できませんでした。ごめんなさいです。

COVID19関連で、何かと息苦しい日々ですが、このお話が少しでも退屈しのぎになれば、幸いです。

 「やっと、話ができる者がきたのである」

 薄暗い牢獄の中で、例の白いローブの一団の長である、「石柱」のヒンメルは、目の前の人物がワーナンの大使のエイケロンとあると知った時に安どの表情を浮かべた。

 「あの畜生共の飼い主に早く医者をよこせと伝えてもらいたい。あ奴らのせいで、我が同士が3人も正義の地に逝ってしまったのである。これは、由々しき外交問題に発展するのである」

 ヒンメルは自らが治療を拒んでいることを棚に上げてエイケロンに訴えた。

 「それは、妙ですな。貴方がたに医師が治療のために遣わされていますがね」

 エイケロンは牢の中で強気で吠えるヒンメルを珍獣を見るような目で見つめていた。

 「あれが医師であるものか。人を馬鹿にするのも、いい加減にしてもらいたいものである。我々は家畜ではないのである」

 ヒンメルは「修理屋」のジングルを医師とは認めていなかった。この世界でネアの前の世界の様な医師免許は存在してはいないが、実績と郷主からの信頼と言う面で言うならばジングルは名医と言っても過言ではないのである。しかし、彼はヒンメルが人として認めないドワーフ族であった。これが、この惨状を巻き起こしているのであるが、当のヒンメルには理解することは不可能であった。

 「君らが彼を医師として認めていないだけであって、それを断ったのは君らだ。自らの信念を貫く姿勢は立派だと思うが、今日、私がここに来た理由はそれ以前の事だ。他の郷であるケフ内において、刃物を振り回し、ケフの郷の民に危害を加えたことは、弁明の余地はあるまい」

 エイケロンはあきれ果てたような表情でヒンメルに伝えた。ヒンメルはエイケロンの表情を見て怒りを露わにした。

 「我々は正しきことをしたのである。誤りは正さなくてはならぬことぐらい、幼子でも知っているのである。我々の何が罪になるのか、我々こそ、不当な暴力の犠牲者である。ワーナンは我々を救い出し、ケフに制裁の鉄槌を下すべきなのである」

 ヒンメルは口角泡飛ばして鉄格子を掴み、エイケロンに吠えたてた。

 「その正義は君らの正義だ。ここにはここの正義がある。君らはそれに反した。それだけだ。君らは君らの犯した罪により裁かれる。もし、君らをワーナンの郷が郷の力で救いだすことは、ケフとの戦も視野に入れてのことになる。悪いが、君ら 如き にそこまでする価値は見つけられない」

 エイケロンは怒り狂うヒンメルに冷たく言い放った。その言葉にエイケロンは言葉にもならぬ喚き声を上げた。

 「いくら喚こうが、君らは裁かれる。情状酌量の余地もない。テロリストとして死罪は免れないだろうな」

 エイケロンの鼻った「死罪」の言葉にヒンメルの部下たちがいち早く反応した。

 「俺たちは、こいつに言われたままにやったんだ」

 「出される食事すら、穢れの手が触れているって言って食わしてくれない。食わないのは自分だけにしてもらいたい」

 部下たちからヒンメルに対する文句や、悪いのはヒンメルであるとの声が次々と吐き出された。

 「お、お前ら・・・」

 いきなりの部下たちからの反撃にヒンメルは言葉を詰まらせた。

 「随分と信望があるんだな。君らには一つ取り引きしたいことがある。無罪とはできないが、死罪ではなく、犯罪奴隷として君らの生命を救うことはできるが、どうかな」

 このエイケロンの言葉に先ほどまで不満を垂れ流していたヒンメルの部下たちは互いの顔を見合わせた。

 「死罪しかないのである。我々は正義の殉教者となるのである」

 ヒンメルは振り返って、エイケロンの話に乗ろうとしている部下たちに怒鳴りつけた。

 「死ぬのはあんただけでいいだろ」

 「殉教者になってもなんにも残らねぇよ」

 部下たちは、自分の命と教義を天秤にかけ、本能に従うことにしたようである。

 「私からの取引は、君らとその仲間の情報を貰いたい、それだけだ。情報の内容により奴隷となってからの生活に多少の差異は生じるかもしれないが」

 ヒンメルの部下たちは喚き騒ぐヒンメルを無視して、エイケロンの前に集まった。


 「結局、ヒンメルだけが死罪となった。これについては、ワーナンからも仕方がないとの言質を取っている」

 いつものようにボウルの店の奥に集った面々にご隠居様が呆れた様な表情で年迎えのお祭りでの騒ぎの顛末を簡単にネアたちに語った。

 「連中、自称「矯正団」は、ワーナンで活動する正義の光の伝道師の一派ですね。普通は数名のグループでビラを配ったり、街角で演説するしかしませんが、あのヒンメルなる男は、その中でも上位に入ろうかと言う人物で、最近、小グループを統合して自らの一派として、活動を開始したようで、ワーナンの郷内においても穢れの民を数名、矯正の名のもとにリンチし、死に至らしめています」

 ヴィットが矯正団の連中から聴取した情報をまとめてネアたちに説明した。

 「付け加えて申し上げるなら、連中は、あの正義と秩序の実行隊とは無縁ですな。誰もが素人に毛が生えた程度、ネア殿やヘルム坊ちゃんにも痛い目に遭わされておりますな。今までは、怒声と数でモノを言わしていたんでしょう。向こう見ずと言うか、蛮勇と言うか・・・」

 コーツがヴィットの言葉に続けた。彼の言葉の隅々に彼が連中を馬鹿にしていることが読み取れた。そんな彼の気持ちを察してか、居合わせた面々は苦笑を浮かべた。

 「正義の光も、活動は一枚岩じゃないんですね。そうすると、今回の連中は原理主義的なのでしょうか」

 ネアはあの連中を絞り上げたヴィットに尋ねた。

 「原理主義と言えばそうだね。でも、頭だけが原理主義だ。しかし、彼らより原理主義的なのがあの正義と秩序の実行隊だね。あいつらは頭だけじゃなくて、身体までもが原理主義にできている。教義のために躊躇いもなく暴力を執行でき、かつ、自らの命すら簡単に捨てる連中だ。一番厄介だよ」

 ヴィットはそう言うと肩をすくめた。

 「幸い、やつらとは距離があるから、すぐには来ないと思います。私の推測ですが、奴らもまだ本格的に動き出していない、組織作りに力を入れている最中じゃないかな・・・」

 ヴィットの言葉にネアは頷きながら己の考えをその場の面々に伝えた。

 「あの、アホみたいな書類の束が威力を発揮してくれればいいんですけど」

 「あれだったら、トバナの野郎がやっと加筆して写し終えたようです。あれを北部を統括している支店に上申するそうですよ」

 ネアの期待する言葉に、ロクがにやっとして最近のトバナの情報を伝えてきた。

 「奴さん、アレで中央への進出を夢見ているようですよ」

 「ずっと夢見てればいいのに・・・」

 思わず出てしまったネアの感想にその場にいた面々は吹いてしまった。

 「彼の言葉は、寝言と大して変わらないからね」

 笑いながらご隠居様がキツイ一言を口にした。

 

 「ご隠居様、このケフの郷にも、私みたいな者に出て行ってもらいたいって思っている人がいるでしょうね」

 会同からの帰り、お土産用のお菓子の入った紙袋を抱えてご隠居様の後を追いながらネアが不安そうな声で尋ねた。

 「悲しいけど、いないとは言い切れないね。でも、アイツらみたいに実力行使をしようとするバカはいないはず、この郷から君らがいなくなったら、郷が成り立たなくなるからね。そのあたりは心得ているはずさ。でも、あの正義の光の原理主義者は・・・、馬鹿だが侮れない。恐ろしい相手だよ」

 ご隠居様はネアに答えると悲しそうに首を振った。ネアはその様子から、これから敵として戦わなくてはらない連中が酷く厄介であることを確認した。

 「生活が苦しい。いい思いができない。その原因が穢れにある、アイツらは少しばかり能力が高いと思って真人を追い払おうとしているって、考えるのもアリですからね」

 ネアは皮肉な口調でご隠居様の言葉が自分の考えと同じであると伝えた。

 「ああ、ネアの言う通りだよ。すべての良く無い事の原因を他者に求めることは簡単だからね。だから思うんだよ・・・」

 ご隠居様は振り向いてネアを見つめた。ネアはご隠居様が何を言おうとしているのか分からず、思わず首を傾げていた。その動きを見てご隠居様は笑みを浮かべた。

 「そういう子供らしい所作が普通にできるぐらいに、その身体にも馴染んだようだね」

 「あ、申し訳ありません。つい、うっかりとしておりました。ご隠居様は何をお考えになられているのでしょうか」

 本来なら不敬とも言えるような行動をしてしまったネアは深々とご隠居様に頭を下げ謝罪した。

 「気にしなくていいよ。堅苦しいのは嫌いだからね。奴らのように、己の身に起きた良くないことを全て他者の責任と考えるのは楽だよ。でも、そこには全く成長がない、省みて正していくことで成長できると思うんだよ。仮にあの連中の思うように、穢れの民が全くいなくなったら、今度は真人の中で誰が悪いかを探し出して糾弾していくだろう。結局、悪いヤツ探しばかりに血眼になって先細りになる。愚かなことだよ」

 ご隠居様はそう言うと、また前を見て歩き出した。ネアはその後を大きな袋を抱えて追うようにして付いて行った。


 ネアがボウルの店で行われている会合に出席していた頃、フォニーは奥方様からお使いで、いつものクッキーを買うため、一人で外出していた。

 「寒いのに、ネアはご隠居様と一緒、ティマはまだ小さいし、ラウニは寒くなるとダメだから、結局うちしか、いない・・・」

 ちょっとした文句をぶつぶつ言いながら、硬くなった雪を踏みしめながらフォニーはぶるっと身震いした。小麦の森でいつもの漢のクッキーを大袋で一袋を購入するのが彼女に課せられたミッションであった。ラウニもお使いに行っているのであるが、ひときわ寒く感じる日のお使いであったため、フォニーの主観からすると、ラウニはあまりお使いに行っていないように思われた。フォニーはふくれっ面をマフラーで隠すようにして寒さを防ぎながら滑らないように慎重に足を進めていた。

 「おいっ、話がある」

 そんな、フォニーの気を逆なでするように、数名の同じぐらいの年齢の少年を従えた、着ぶくれした少年がフォニーの前に立ちふさがった。いきなりのことにフォニーはさっと身構え、ポケットに手を突っ込んで、忍ばせたナイフを握りしめていた。

 「喧嘩をふっかけてるんじゃねぇよ」

 フォニーの行動を見てその少年は慌てて手を振って敵意が無い事を示し、マフラーをずらした。

 「あ、フルチンの・・・」

 「それは、言うなって。俺には「鋳型」のブレヒトって名前があるんだよ」

 その声の主は、以前、恥ずかしい攻撃を仕掛けて、ネアに切り落とすと脅され、バトに笑われたブレヒトであった。彼はフルチンと呼ばれて気まずそうな表情を浮かべた。

 「何の用、うち、今、忙しいんだけど」

 フォニーはブレヒトに取り付く島を与えずにそのまま行きすぎようとした。しかし、ブレヒトはしつこくフォニーに声をかけてきた。

 「お前、ケフの凶獣と仲がいいんだよな」

 「アンタには関係ないでしょ」

 フォニーはきっとブレヒトを睨みつけた。ブレヒトは気づいていないが、彼女のマフラーに隠された口は犬歯を剥いている状態になっていた。

 「頼む、ケフの凶獣に話があるんだ。口を利いてもらいたいんだよ」

 ブレヒトはフォニーを拝むように手を合わせた。フォニーはブレヒトの言葉に答えるかわりに冷たく睨みつけた。

 「今までの事は、悪い、謝る」

 ブレヒトはフォニーに深々と頭を下げた。

 「一体、何が狙いなの・・・」

 フォニーはブレヒトの行動が彼女の気を引いておくための陽動であると思い、辺りを見回したが、その場にいるのは目の前の少年たちだけであった。

 「アイツと組みたいんだよ」

 ブレヒトは懇願するようにフォニーを見つめた。

 「え、ネアに告白したいの。でも、アンタはネアのタイプじゃないよ」

 フォニーは驚きの表情を浮かべ、目の前の少年を見つめた。

 「違う。それは、断じてない。俺たちはケフの凶獣と敵対するんじゃなくて、親しい友達になりたいんだよ」

 「・・・友達に?」

 目の前で毛皮で分からないが、毛皮が無ければちょっと赤面しているであろうブレヒトを引いた目線で見つめ、彼の真意が理解しかねて頭を抱えそうになった。

 「あの滅茶苦茶に強いケフの凶獣が友達ってことになれば、誰もおいそれと俺たちに喧嘩を売って来ない、俺たちにも箔が付く、ケフの凶獣やアンタたちが外出する時は誰も絡ませないようにする。悪い話じゃないと思うんだよ」

 「ふーん、ネアをアンタらのしょうもない縄張り争いの道具にしたいんだ」

 フォニーはそう言うと、何かを言い返そうとしているブレヒトの横を通り過ぎようとした。その時、さっとブレヒトはフォニーの手を取った。

 「頼むよ・・・。それと、人が下手に出ている時に話を聞いておく方が利口だと思うぜ」

 当初は、彼らなりに友好的に接していたが、フォニーの余りのつっけんどんな態度にブレヒトは苛ついていた。

 「ふーん、脅しか・・・、いいよ。相手になるよ」

 フォニーは、さっとブレヒトの手をほどいて彼から間合いを切り、さっと身構えた。

 「くっ、口で言っても分からないなら、身体で分からせてやる」

 ブレヒトが吠えると、従えていた少年たちもさっとポケットから得物を取り出した。それは、古くなった蹄鉄を曲げて作ったカイザーナックルや、小型のナイフなどであり、どれもちっぽけな物ではあるが、殺傷力は見た目以上にあるシロモノであった。

 「ハサミはないけど、これで切り落としてあげるよ」

 フォニーもさっとナイフを構えた。そのナイフはいつもの短剣に比すると小さいが、その場にいた弩の少年のナイフより確実に大きく、それを手にしたフォニーの動きもこなれていた。

 「お前ら、何をしている。フォニー殿、お怪我はありませんか」

 犬歯をむき出して威嚇するブレヒトの前に灰色の影が立ちふさがった。

 「多勢で、ご婦人を襲うとは、男の風上にも置けんヤツだな。フォニー殿に用件があるなら、このルッブを斃してからにしてもらおう」

 その灰色の影は自ら名乗りを上げ、さっと剣を抜いた。いきなりの闖入者の出現と、彼から発される気合にブレヒトたちは思わず後ずさった。

 「お前には関係ないだろ。痛い目に遭いたくなきゃ、さっさと失せろ」

 ブレヒトは己の中の蛮勇をかき集め、思いっきり虚勢を張ってルッブを睨みつけた。しかし、ルッブはそれに怯むこともなく、剣を構えたままブレヒトに静かに近づこうとした。そんなルッブの雄姿をフォニーはうっとりと見つめていた。

 「兄様、これは」

 ルッブとブレヒトがにらみ合っているさ中にまた声がかかった。その声の主を見てフォニーは現実に引き戻された。

 「パルも助太刀いたします」

 「いいえ、お嬢様、このメムが斃されてからお願いします」

 短剣を抜こうとするパルの手を押さえて、メムがフォニーを庇うような位置についた。その表情はいつもの、呑気さはなく、犬歯を剥き、ナイフを構えるその姿は、今にも飛び掛かりそうな猟犬を思わせた。

 「うち一人で、十分だから」

 フォニーはそっとメムの肩を叩いて、すっとルッブの横に並んだ。

 「ルッブ様は戦場を潜り抜けてこられた方です。その方と剣を交える覚悟はおありですか。私は戦場こそ出ていませんが、お仕えする方を護る盾となるように訓練されています。それでも良ければ、どうぞご勝手に。その時は、殺す覚悟で、私もその覚悟でいますから」

 フォニーはナイフを構え、静かにブレヒトに語り掛けた。ブレヒトは彼女らから発せられる圧に溜まらず、後ずさりした。

 「こんなことで命のやりとりするなんざ、馬鹿らしい、今日は見逃してやる。今度、あったら絶対に俺らの言うことを聞いてもらうからな」

 ブレヒトは、捨て台詞を残すと走って逃げだしたい気持ちを必死で押さえて、余裕があるようにゆっくりと歩いて去って行ったが、それに反して、彼の尻尾は彼の心中を大きく物語っていた。

 「ルッブ様、ありがとうございます」

 ブレヒトたちが去ったのを見届けて剣を納めたルッブにフォニーは深々と頭を下げた。

 「怪我はされていないですか」

 ルッブはフォニーを心配そうに見つめた。そんなルッブにフォニーはにっこり微笑んだ。

 「ルッブ様のおかげで怪我はしておりません。本当に助かりました」

 「私にはお礼ないの」

 にっこりとしてルッブを見つめるフォニーにメムが横から口を入れてきた。

 「はい、はい、ありがとうね」

 フォニーは小さなため息をついてメムを睨むように見つめた。

 【メム、いい仕事していますね】

 パルはいつものように振舞うメムに心の中で賛辞を送っていた。

 「フォニー殿は何の御用で」

 メムをいなしているフォニーにルッブが尋ねてきた。

 「小麦の森までお使いにです。そこにいきなり、あの連中が、ネアを仲間になるように口を利いてくれ、って寝言をいってきたんです。それを断ったら、あの有様です」

 「心配だな、パル、悪いけど先に帰ってくれないか。僕はフォニー殿のお使いが無事に終わるまで護衛するから」

 むすっとしてルッブとフォニーのやり取りを見つめているパルに、彼はちょっと気まずそうな表情で声をかけた。

 「いいえ、私たちもご一緒します。フォニーさんに万が一があれば、いけませんから」

 「そこまで、お気を使って頂く無くても・・・」

 折角のルッブと二人きりになれると思ったフォニーがむっとしそうになるのを堪えて応えた。

 「お嬢様、ここはルッブ様のお言葉とおりに致しましょうよ。寒いですし・・・」

 【メム、いい仕事してるよ】

 フォニーは心の中で、いつものノリのメムにGJとサムズアップをしていた。

 「何を言ってるんです。郷の民、それも貴女のお友達を危険な目に遭わせることはできません。騎士団長の娘として当然のことです」

 メムの申し出をきっぱりと退けたパルはにっこりとしてフォニーを見つめた。

 「・・・ありがとうございます」

 心の中で盛大に舌打ちしながらフォニーはパルに頭を下げた。その場に今までとは違う緊張感が走っていた。流石のメムもこの緊張感を感じてか、そっとパルの傍によっていた。

 「そうだね、皆で行く方が安全だし、楽しいから、いいね」

 メムですから感じたそんな緊張感に全く気付きもせずに、ルッブは明るく言い放つと、フォニーの傍に位置した。

 「暗くならないうちに行きましょう」

 複雑な表情を浮かべているフォニーにルッブは優しく話しかけると、フォニーの歩幅に合わせて歩き出した。フォニーは、そのことが嬉しくていつの間にか笑顔になっていた。その笑顔もマフラーで隠されているのであったが、尻尾が雄弁に彼女の気持ちを語っており、それを見たパルは少し、口をとがらせていた。


 「誤算だった、早計だったか」

 その場から逃げたブレヒトは今回の作戦が上手くいかなかったことの原因を考えていた。

 「ケフの凶獣の周りって、結構ヤバイのが多いよな」

 「あの、キツネ、フォニーだっけ、アレも結構やれる口だぜ」

 「多分、アイツもグルトに勝てるぞ」

 「あれ、騎士団長の所のルッブ様とパル様だよな。あのキツネ、すごいコネあるみたい」

 引き連れた少年たちは口々にフォニーの強さを評価していた。

 「将を射んとする者はまず馬を射よ。まさに、そのとおりだな」

 ブレヒトは暫く考えてからポツリと言葉をもらした。

 「お、その言葉、かっこいい。滅茶苦茶、できそうな感じある」

 ブレヒトの言葉を聞いた少年の一人が感心したような声を上げた。それを聞いて、自尊心が少し回復したブレヒトはにやりと笑った。

 「今度からは外堀を埋めるぞ。俺たちはジェントルにあいつらに近づいて、味方に引き入れるんだ」

 ブレヒトは今後の行動の方針を宣言した。しかし、具体的にどうやればいいのかはさっぱり思い浮かばなかった。

 少なくとも、力のある者を排斥せず、味方に取り込もうとするブレヒトの方がヒンメルより現実的であった。

自分と違う者、力のある者に対してどう接するか、チートな能力を持たない凡人には面倒臭いことです。正義の光は、その基となる物語をどう解釈するかで様々な派閥があり、それぞれが勝手に行動しています。また、同じ正義の光の考えに賛同して者同士でも解釈の使用によって敵対することもあります。これが、今一つ彼らが勢力を拡大できない理由のようです。

今回も、この駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。

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