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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第14章 落とされた影
201/342

187 お祭りにさす影

今年も今日で最後の日となりました。しかし、このお話の最後はまだまだ先です。果たして、たどり着くまでどれぐらいかかるのか。エタらないように精進していきます。

 「では、皆、祭りを楽しんでくれ。くれぐれも羽目を外しすぎることのないようにな」

 数日続いていた風交じりの雪がやみ、抜けるような青空から久しぶりのお日様の光が降り注ぐ教会の前で、郷主のゲインズ・ビケットは祭りの開催を大声で告げると、集まっていた民から大きな歓声が沸き上がった。

 「これで、一つの山を越えましたね。後は・・・」

 郷主一家と対面するように整列した使用人たちの列の中で、ラウニが囁くように呟いた。

 「お嬢の雪像の採点だよね。・・・あちゃー、今年もノリノリだ・・・」

 郷主一家の端の方に立っているレヒテは、会場のあちこちに店を開いている屋台から漂う食欲を誘うに匂いに鼻をひくつかせ、心ここにあらず、がネアたちがいる場所からでも手に取るように分かった。

 「ごめんなさいねー、今年は家のお嬢様も一緒なんだ・・・、ああなると私も手綱を引くことができないよ」

 ネアたちと一緒に並んでいたアトレがレヒテと同じように目をきょろきょろさせているカティを見て小声で謝罪した。今年の年迎えのお祭りが昨年と大きく違うところは、ワーナンの大使一家も参加している事であった。カティに至っては奉仕会での活発すぎる行動やかざらない言動が多くの郷の民に好ましく受け入れられていた。お館様が開催を告げ、都のお偉方の挨拶を一通り受けると、レヒテはその場から本日の最大の犠牲者となるかもしれないギブンの手を引いてネアたちの元に走り寄ってきた。

 「これから、採点に行くよ。皆、お小遣いは持ってるよね。私も貰ったから」

 レヒテは嬉しそうに財布が入っているであろうコートのポケットを軽く叩いた。

 「姉さん、無駄遣いはダメだよ。お祭りのたびに金欠になるなんて、郷主の娘としていかがなものかと」

 ギブンがはしゃぐ姉を見て心配そうに口にした。そんなギブンの心配なんぞ気にもかけず、レヒテは浮かれていた。

 「だから、若もあのように仰っているんや。ワーナンの代表として恥ずかしくないことを・・・」

 ネアたちが呆れて浮かれているレヒテを眺めている時、聞きなれない声が耳に入ってきた。

 「お嬢、一緒にまわりましょう」

 ネアが声の方向を見るとギブンぐらいの年齢の男の子の手を引いたカティがレヒテと同じように浮かれながら弾む足取りで駆けてきた。彼女らがレヒテの前に着くと手を引かれていた男のが、払いのけるようにしてカティから手を離すと恭しくレヒテとギブンに首をたれた。

 「お初にお目にかかります。僕は、ワーナンの大使、エイケロン・ヴァンフの息子、ザック・ヴァンフと言います。レヒテ様、ギブン様お見知りおきを」

 男の子はそう言うと再び恭しく首をたれた。そんな弟を見てカティがむすっとした表情になった。

 「ザックはいつでも堅苦しいんだから」

 「姉さんがはっちゃけすぎなんや。大使の娘として恥ずかしうない行動をせなくあかんのやで。間違っても屋台の前で財布を開いて残金と相談するなんて、見苦しい真似はせんといてや。お願いや、頼むで・・・」

 ザックは、自分の言葉にあまり耳を貸す気がない姉に無駄とは知りつつも口やかましく注意を与えていた。カティは口やかましく言われている横で、レヒテと早速何の屋台に行くかで盛り上がっていた。

 「僕は、郷主のゲインズ・ビケットの長男のギブンです。お互い、似た様な境遇ですね」

 聞く耳を持たない姉に落胆しているザックに労うようにギブンが声をかけた。

 「僕も、同じような事に苦労している人が居て、心強いです」

 「今日はザック君一人じゃないから、僕もいるし、ここに姉さんのことを良く知っている侍女の人たちもいるから、皆の力で2人の手綱を引くことはできると思うよ」

 同じ悩みを持つ者同士が手を取って、互いに互いの苦労を思って力強く頷きあっていた。

 「若、私もご一緒しますから、微力ながら力になれますよ」

 ギブンとザックが新たな友情を育もうとしている時、いきなり涼やかな声がかかった。声の主は節減の白より白く見える毛皮を陽光に光らせて、レヒテとカティを複雑な表情で見つめているパルであった。

 「私も一緒ですから、さらに力になれます」

 パルの背後からメムがひょいと顔を出して、自信ありげに宣言した。

 「メムか・・・、バル様の働きを帳消しにしてお釣りがくるよ」

 フォニーがうんざりしたように口にすると、その言葉にメムはブーと頬を膨らませた。

 「あの言葉、冗談じゃないんだ」

 むくれるメムを見て、ネアは改めて彼女の凄さを感じ入っていた。


 「ユシキの郷の名物、粉物の大嵐じゃ。見よベッタ焼じゃ。このベッタボールも旨いぞ。幻のベッタ麺もあるぞ。今日だけの開店じゃ。食わんと損を見るぞ」

 短髪のガタイのイイ男が訛り丸出しで威勢よく鉄板の上でお好み焼きの親類筋にあたるようなものを焼いていた。その横にはタコ焼きの遠い親戚と収斂進化した焼きそばめいたモノもいい感じに焼けて湯気を上げていた。

 「あ、お父ちゃん。姿をいきなりくらましたと思ったらここかいな」

 普段は押さえているであろう訛りを丸出しでカティは屋台の店主に収まっている父親に大声で突っ込んでいた。

 「ここだけの話、結構いい儲けになるのよ。これで、いいお肉も買えるし、アトレたちにも年末年始のお小遣いをはずめるから」

 店主の横にほっそりとした感じの布陣がカティに説明した。彼女はご察しの通り、エイケロンの妻、ナケリ・ヴァンフである。彼女は王都の下級官吏の娘で、傍から見ればコメディ、本人たちからすれば大ロケマンスの末に結ばれた夫婦であり、2人ともこのような行事に参加すること、平民に混じって商売することに何の抵抗もない人たちであった。そして、彼らの子どもも、その血を濃く引き継いでいるのである。この性格のおかげでヴァンフ一家はケフの空気に溶け込み、のびのびと生活しているのである。

 「おじさん、そのベッタ焼一つお願い」

 匂いに釣られたレヒテが早速、エイケロンに注文した。注文した相手を見てエイケロンは笑みを浮かべると、

 「お嬢の注文、ベッタ焼一つっ」

 と大きな声を上げた。その横で鉄板に乗った粉物をコテでひっくり返していたドワーフ族の娘が元気よく「あいよーっ」と返事し、慣れた手つきでベッタ焼と称されるモノを一つコテですくい上げ、薄いキッチンペーパーの様な紙に包んでエイケロンに渡した。

 「お待たせ、小銀貨2枚だよ」

 「うん、ありがと」

 レヒテは財布から硬貨を取り出し、大きなエイケロンの掌に載せると、湯気を上げる紙の包みを手にとってソースの香りを楽しむとがぶりと噛みついた。

 「どう?うちのベッタ焼、おいしいやろ?ヴァンフ家特性、門外不出のソースは絶品やから」

 ベッタ焼に齧りつくレヒテを見ながら、ワクワクするようにカティが尋ねてた。

 「おいしいっ、え、こんなの初めてだよ」

 手にしたベッタ焼をじっと見て、レヒテは感動の笑みを浮かべていた。

 「そやろ、そやろ」

 「おっちゃんが作るのは天下一品やからな」

 カティはレヒテの感想に嬉しそうに応え、エイケロンは感動するレヒテにドヤ顔をきめていた。それは、彼女らが、郷主と大使の娘、そして大使があるとは到底思えない光景であり、どう見ても、普通の庶民の生活の一幕でしかなかった。

 「郷主の娘が・・・」

 「ワーナンの大使、代表としての・・・」

 そんな光景を目にしたギブンとザックは頭を抱え、苦悶するようにうなっていた。そして、互いに顔を見合って、ため息をついた。

 「でも、今日はお目付け役としてパルとお館の心強い侍女たちが・・・」

 ギブンは姉の手綱を引き締めてくれるであろう面々のことを思い出し、彼女らを見て絶句した。

 「若、これおいしいですよ」

 真面目な堅物とギブンが思っていたパルが既にレヒテと同じものを手にしてギブンに話しかけてきたのを見て、ギブンははっと他の面々を見た、彼女らは心配するまでもなく、ヴァンフ家の屋台からそれぞれベッタなんとかを購入して懸命に喰らいついていた。その様子にギブンは軽い絶望を覚えた。

 「ザック、後で屋台を手伝ってくれよ」

 レヒテ一行が美味しそうに食べている姿にひかれて屋台の前に小さな行列ができていた。それを見たザックの表情が晴天とは反対に暗く曇っていた。

 「ザック君・・・」

 「若・・・」

 彼らは互いに声をかけるとがっちりと固い握手を交わしていた。

 「そこにいたんですかー」

 「探しましたよ。お2人とも忘れ物ですよ」

 「あ、いい匂いがしますよ」

 ネアたちが熱々の粉物に舌鼓を打ち、ギブンたちが互いの身上に共感し慰めあっている時、いきなり声がかけられた。声の主は、最近、残念トリオと密かに呼ばれるようになっていたバト、ルロ、そしてアリエラが、バインダーに挟まれた採点用紙と筆記具をもって駆けてくる姿があった。

 「若、援軍が来ましたよ」

 彼女らのことを知らないザックが彼女らに希望の光を見たような明るい表情になった。

 「違うよ。彼女らは事態をさらに悪化させると思うよ」

 明るくなったザックの表情みつつ、ギブンは首を振って深刻な表情になった。

 「彼女らは護衛ですから、そもそもお嬢に対して強制力はありません、と言うか、誰が強制できるんですか?お嬢も、そんなに考えなしじゃないですよ。随分と学習されてますから、そこまで心配しなくてもいいかと。あ、これ、なかなかいけますよ」

 がっつり深刻な表情になっているギブンに、ベッタボールをつま楊枝で一つ刺したものを差し出しながらネアが声をかけてきた。

 「ああ、ありがとう。・・・おいしいね、これ」

 ギブンはネアから差し出されたベッタボールを口に入れ、少し癒された様な表情を浮かべた。

 「申し訳ありません。私、今、とてつもなく失礼な事を」

 はっと、何かに気付いたネアがさっとギブンから距離を取って頭を下げた。

 「え、ナニ?」

 「侍女ごときが、若に気楽に声をかけ、しかも食べ物を振舞うという無礼をお許しください」

 いきなり畏まるネアに、ギブンは驚いたような表情を浮かべた。

 「侍女ごときなんて、僕は気にしてないよ。そんなことを気にするような小さい人間じゃないから。だから、気楽にね」

 ギブンは、畏まるネアに優しく声をかけ、顔を上げるように促した。

 「ありがとうございます」

 「そんなに、畏まれると堅苦しくて、息苦しいよ。僕はそんなことは望んでいない」

 ギブンはネアの態度に少し寂しげな表情を浮かべた。

 「若、でも、この子が言った言葉が普通ですから。僕もそうですけど、簡単に使用人と口をきくのも良しとしないのも普通ですよ。僕もそんなのは、うっさいんじゃ、ぼけぇってくらいに嫌いですけど」

 ザックはギブンの思いに賛同しつつも、その考えは一般的ではないと口にした。

 「そんなことぐらいは、分かっているよ。でもさ、それって寂しいよね」

 ギブンはザックの言葉に頷きながら、ため息をついた。

 「差し出がましいようですが、若もザック様も多かれ少なかれ、お嬢やお姉様と同じかなってネアは思っております。そんなお嬢や若だからこそ、私たちはお仕えしいることに誇りを感じているんです。お嬢の暴走はこのネア、身を賭して防ぐつもりです」

 ネアはぺこりと頭を下げ、次の屋台を物色し始めるレヒテのもとに駆けて行った。

 「ネアはね、あの中で一番頼りになる、不思議な子なんだ。ネアがあそこまで言うから、そんなに心配することもないかも知れないよ」

 ネアの後ろ姿を見ながらギブンがザックにほっとしたように言った。

 「初めて会いましたが、何となく年齢とあってないような、不思議な子ですね」

 と、2人は自分たちのことを棚に上げてから、やっと笑みを浮かべた。


 「次は、あそこの屋台」

 「了解っ」

 レヒテとカティが雪像の採点そっちのけで、小遣いの限り喰い荒らして行こうとするのを止めるかのように、ネアはレヒテのスカートの裾を掴んだ。

 「お嬢、お仕事をお忘れですよ。どこの雪像が一番なんですか。まさか、雪像を見ることもなく屋台にうつつを抜かして、何にも採点為されていないのですか。それをお知りになった奥方様や大奥方様がどのような事を為されるかはご存じだと思いますが。今からでも雪像を見て回るべきです」

 びっくりして振り返るレヒテに続けさまにネアはレヒテが本来なら当然やるべきことを矢継ぎ早に尋ね、それがなされていない事が発覚した時に訪れるであろう大災厄を、レヒテに思い出させた。

 「え、それは、えーと」

 レヒテとカティは近くにあった雪像についてわざとらしく採点をしだした。しかし、互いに少しずつ思いが違う様で、統一した見解が出ずに困った表情を浮かべていた。

 「あ、それ、後で書くから」

 「そ、全ての雪像を見てからね」

 レヒテとカティは何とか言い訳をして、ひきつった笑みを浮かべていた。

 「そんなことすると、どんどんと最悪の状態に陥って行きますよ。いいですか。雪像を見た時の迫力とか、細かいところまで作ってあるか、全体のバランス、それぞれ見るべき箇所を決めて、それに基づいて採点されるといいですよ。基準がちぐはぐだったら、後から採点に納得いかないと言われると面倒ですよ」

 ネアが採点についての考え方や注意点を説明していくと、レヒテとカティは慌てて採点用紙に基準となる見るべき箇所などをメモとして書き込んでいった。

 「お嬢様、もしかと思いますが、しっかりと採点されてますよね」

 レヒテとカティの様子を見たメムがニコニコとしながらパルを見つめた。パルはその目に一瞬、顔が引きつった。彼女の持っている採点用紙には簡単に「〇」、「△」、「×」しか書かれていなかった。それでも、必死でネアの言葉に合わせてかき込んでいるレヒテとカティの採点用紙よりかは、自発的に書いてあるだけマシであった。そんなパルもネアの言葉に耳を向けてひたすらに書き込んでいた。

 「ね、あの子は頼りになるだろ」

 ネアの行動にギブンは安堵したような表情でザックに話しかけた。

 「うん、あの子、雪像の採点すべき箇所とか、基準とかをさっと言えるのはスゴイね」

 ギブンとザックは姉たちと違って、きっちりと几帳面に採点していたが、ネアが口頭で伝えている採点要領を聞いて、細かな修正をし始めていた。

 「私、採点て雰囲気でえいやってつけるものだと思っていましたよ」

 「普通はそう考えるはずだよ」

 「ネアお姐ちゃん、スゴイ・・・です」

 すらすらと巡った屋台を口にするネアを見て、ラウニたちはひたすら感心していた。

 「ネアならやると思ってたね。これぐらいは普通だよね」

 バトがドヤ顔でルロに言い放った。

 「あんたがやった事じゃないでしょ。自分の手柄みたいな顔をしないでください。何が普通ですか。ロクに考えていないでしょ」

 ルロがバトを呆れたように睨みつけた。

 「そうだね、採点についてはそんなに考えてないけど、最初の屋台の3軒隣に紫色のアダルティな下着が売っててね。その次の屋台のお向かいはさ、強壮剤を扱っていて・・・」

 次々とレヒテが巡ってきた屋台の近くにあったいかがわしい系を扱う屋台について口にするバトをルロはモンスターを見るような目で見つめていた。

 「その才能、本当に残念・・・」

 「才能の無駄遣いってこのことかな」

 アリエラはどこか可哀そうな人を見るような目でバトを見つめた。

 「この美貌と、この溢れる才能。普通の男なら列をなしてお付き合いしてくださいって、大量のプレゼントとともに現れる予定だよ。ひょっとすると、どこかのお金持ちのイイ男が・・・」

 そんなことを気にすることもなく、バトは己の野望を口にした。

 「それは、ない」

 「心配しなくても、そんなことになりませんよ」

 バトの野望は、ルロとアリエラににべもなく実現不能と判定されていた。


 「これは、何という惨状であるか。これは酷いのである」

 白いローブを纏い、目深にフードを被った一団の先頭を歩いている男が雪像が乱立している広場を見回して悲痛な声を上げた。

 「これは、許せませんよ。我らの信仰に反しています」

 その男の隣にいたまだ声からすると若いと思われる男が最初の男に同意した。

 「この忌々しい雪像を叩き壊しましょうか」

 他の男が意見すると、最初の男はそれを手で押しとどめた。

 「いきなり壊せば、反感を買うだけだ。激昂する愚か者もいるだろう。そうなるといくら正しき言葉であっても誰も耳を貸さん。雪像は彼らの手で壊されるべきなのである。正しき道に自らの脚で踏み出すことが重要なのである」

 「御意」

 他のローブの男たちから賛意を示す言葉が合唱のように吐き出された。

 「あの、邪教の教会の前で、彼らの目を開かすのである。参るぞ」

 白いローブの一団、補欠なしのラグビーのチームを一つ作れそうな数の男たちが、行きかう人々を避けることもなく、教会に向けて行進していった。


 「ぶつかって置いて、そのまま行くのか」

 レヒテが食欲を捻じ伏せて、取り合えず雪像を採点している時、いきなり若い男の声が響いた。レヒテとカティはその場からすぐさま声のする方向に走り出していた。

 「待てって言ってるだろ」

 白いローブの一団にピンと立った耳をした犬族の青年が恋人と思しき犬族の女性の身体についた雪を払いながら叫んでいたが、白いローブの一団はまるで聞こえていないかのように足を止めることはなかった。

 「何があったの」

 レヒテは声を上げている青年に尋ねた。むっとした表情で声のした方向を確認した青年はその声の主がレヒテと分かると深々と頭を下げた。

 「ええ、あの一団が彼女を突き飛ばして転ばしておきながら、謝罪することもなく行きすぎましたので思わず声を荒げた次第です」

 青年の言葉にレヒテの表情が曇ってきた。また、横にいたカティも白いローブの一団を見てむすっと表情になっていた。

 「おじさん、なんで謝らないの」

 レヒテは行き過ぎる団体に大声で呼び掛けた。その声に先頭の男がちらりと振り返った。

 「何に対してなのであるか」

 彼らは足を止め、表情の見えないフードの奥からレヒテを睨みつけた。

 「人を突き飛ばしてこけさせて知らないふりって、無いでしょ」

 レヒテは言葉に怒気を込めてその一団に呼び掛けた。

 「人、我々も人を突き飛ばしたのなら謝罪する、それは当然のことである。我々は誰も人は突き飛ばしといないのである」

 白いローブの男は言いがかりをつけられたとばかりに不快そうな声を上げた。

 「この人を突き飛ばしたでしょ」

 レヒテは雪を払われている犬族の女性を指して詰め寄ろうとした。

 「それは、人ではないのである。よって、我らが謝罪する必要はないのである」

 白いローブの男は堂々と大音声で応えると背を向けて歩き出した。

 「人じゃないって・・・」

 レヒテ拳を握りしめ今にも飛び掛かりそうな姿勢になっていた。

 「あかん、あれは性質が悪い奴らなんや」

 カティがレヒテの手を取って押しとどめた。

 「アイツらは、正義の光の伝道師や・・・、アイツらケフにまで来るってええ度胸してるわ」

 カティは去って行く白いローブの一団を汚物を見るような目で見て吐き出すように言った。

 「正規の光の伝道師って・・・」

 いきなり走り出したレヒテの後を追ってきたネアが耳慣れぬ言葉を聞いて首を傾げた。

 【良く分からないが、不愉快な連中という事で間違いはないようだ】

 このネアの第一印象は、不愉快な事に的を射ていた。

正義の光は宗教であると同時に政治運動にも近い存在です。身体的に優れる穢れの民に対抗するため、内輪でもめさせることなく真人に共通の敵を作って一体化させる、という面も持っています。特に既得権益に関わることになるとその攻撃性は増していくことになります。

今年もこの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。ブックマーク、評価を頂いた方に感謝を申し上げます。来年も生暖かい目で見守っていただければ幸いです。

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