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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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19 朝そしてはじまり

遅々として進まないお話、そして血湧き肉踊る冒険活劇とは程遠い地味な世界。

ダンジョンに潜ったり、ドラゴンを退治するお話は、これからに・・・・、多分ならないと思います。

 その音はベルと言うより、金属製のバケツをバットで乱打した音、と形容したほうがしっくり来るような音であった。

 「朝だよ。さっさと起きて、身支度を整えて。フォニー、さっさと起きる。ネアは・・・、もう起きてる?」

 ベッドからガバッと飛び起きたラウニが声を張り上げ、同室の少女たちを起こそうとした。

 「うちは、低血圧だから・・・」

 フォニーがむにゅむにゅ言いながらシーツを頭から引っ被って丸くなった。

 「朝ごはん無しになるよ。今日は、卵とソーセージだったかな・・・」

 ラウニがあきれたような視線をフォニーに投げかけながらつぶやいた。その声を聞いたとたんにベッドの上で蛹のように丸まっていたフォニーがその中から羽化するように金色の身体を起き上がらせた。

 「おはよ~」

 まだ、寝ぼけたような声であるが、その目はしっかりと開かれていた。

 ネアはそんな先輩方のやり取りを横目にシーツを慣れた手つきで折りたたみ始めていた。

 「あれ、ネアにシーツの畳み方教えてなかったと思うけど・・・」

 同じようにシーツを畳みながらラウニが不思議そうにネアに声をかけた。

 「ラウニさん、おはようございます。分からないけど、これは覚えてた・・・」

 ネア自身もどごて習ったのかはっきりしないが、多分、前の世界で覚えたのであろうと考えた。

 「トイレの使い方が分からないのに、シーツの畳み方は知っているなんて、面白いね」

 完全に目が覚めたのか、フォニーもシーツを畳みながらネアの手つきを見つめていた。


 「畳んだシーツと毛布はベッドの上に揃えて置く、枕はその上」

 ラウニは綺麗にたたんだシーツや毛布をベッドの上に綺麗に積んで置いた。それを手本にネアもシーツや毛布を積み上げ

 「・・・」

 手が覚えていたのか、ビシッと毛布とシーツの角がそろうように微修正を施し、小じわ一つ見せないように整えた。

 「ますます、ネアって不思議だわ。そこまで、ビシッとされたらうちもそれに合わさないと駄目じゃない・・・」

 フォニーはネアのベッドの上を見てブツブツ言いながら自分のシーツを手直しし始めた。

 「貴女がいつも、手抜きしているからよ」

 ラウニが腕組みしながらフォニーをにらんだ。フォニーはそれに、ちょっと耳を伏せて応えた。


 「次は、ブラッシング、綺麗に髪と毛を整えるの」

 ラウニはネアにブラシを手渡すと、部屋の壁に取り付けてある鏡を見ながら髪にブラシを入れだした。肩甲骨辺りまで伸ばした黒くて、ちょっとごわついた髪質であるが、日々の手入れの賜物で、ぼさぼさとした感じはなかった。フォニーの髪はラウニより柔らかくそして長かった。フォニーは、それにひととおりブラシを入れた後、器用にポニーテール結い上げた。

 「・・・」

 【今までこんなに髪を伸ばしたことがあったかな】

 ネアは先輩方の手つきを真似て自らの髪にブラシを当てた。その髪質はとても柔らかく、そして密集して生えている感じであった。

 【毛の長いネコがいたらこんな感じになるのか】

 泉から湧いて出て、昨日の散髪までまともに髪の手入れなんてしたこともなかったから、どんなに贔屓目に見ても良いとは言うことはでなかった。。

 「貸して」

 フォニーはネアの手からブラシを取り上げると手際よく髪を梳かしはじめた。

 「ネアって、女の子らしいこと全部忘れたのかな」

 「そうかも・・・」

 忘れたと言うより、学んでいない、学ぶ必要もなかっただけのことである。

 「明日からやれって言っても無理かも知れないけど、女の子なんだから、きちんと身だしなみは整えないとね」

 ひと通りブラッシングを終えると今度は服から出ている部分、つまり腕や足の毛のブラッシングに移行し、最終的には顔の毛のブラッシングと小さなハサミで妙に伸びた毛のカットで仕上げとなる。これが、これから毎日繰り返されるのである。

 「顎の毛が伸びると可愛さがなくなるから、注意すること。それと、毛の色の変わる境は、毛染めして際立たせる・・・、これはもうちょっと大きくなったからね」

 ラウニがネアの衣装をクローゼットから取り出しながら言うと、手招きした。

 「ちゃんと着付けしないとね。じゃ、寝巻きを脱いで・・・」

 幼さが残る少女に身の回りの指導を受けるとは・・・と、ネアはまたしても屈辱的な気分を少し味わっていたが、

 【女の子としては彼女たちのほうが先輩だから仕方ないか・・・】

 と諦めの境地に至った。

 黒のワンピースに白のエプロンドレスを着せられたが、慣れないせいか尻尾を尻尾穴から出すのには苦労した。これについても、先輩方は不思議に感じていたようであった。

 「じゃ、仕上げはこれね」

 ラウニは掌程度の布をネアに手渡した。それは、白い布にフリルと留め具のところにリボンがあしらわれた可愛いと形容する以外に無いものであった。

 「これは?」

 「尾かざり、品の無い言い方をしたら穴かくしよ」

 衣服の尻尾穴の上についているボタンにこの布を付けて、尻尾穴が広がって中のものが見えるのを防ぎ、尻尾の角度によっては見えてしまう見せてはイケナイ部分を隠すための獣人ならではのアイテムであった。

 「侍女になったネアにうちらからのプレゼント。獣人、しかも尻尾が長い者しか楽しめないアイテムだからね」

 フォニーはさらに、この尾飾りは様々なモノがたくさんあるので場所に応じて使い分けるのがエチケットであるとも聞かされた。

 「私も使ってます。尻尾が短い者は短いなりのエチケットがあるんです」

 ちょっと尻尾に関してコンプレックスがあるラウニがフォニーの言葉を正した。

 「身支度が終わったら、食事、そして奥方様のお部屋のお掃除、ゆっくりしてられないから」

 ラウニがパンパンと手を打ってフォニーとネアを急かし、食堂に向けて足を進めた。


 奥方様の執務室は異様であった。昨日、ちょっと見て違和感を感じたが、今ではそれは異様であるとの確信をネアは得ていた。

 「ここは、ほうきは使わない、モップで床を掃除すること。ほうきでやるとほこりが舞い上がって生地を汚したり、痛めたりするから」

 ラウニはフォニーとネアに指示を出しながら己も懸命に床を拭いていた。

 「奥方様のお部屋って、どこもこんな感じなのかな・・・」

 うず高く詰まれた色とりどりの布やあちこちにかけられているこれまて色とりどりの糸を見てネアは首をかしげた。

 「奥方様の大切なお仕事の道具ですから注意して扱うこと。奥方様はこの辺りでは お針子姫 の通名を持つぐらいの一流の裁縫師なんですよ。その奥方様が手ずからお作りになった服は着心地のよさ、デザインのよさは有名で、あちこちから注文が来ているのですよ」

 ラウニが自分のことのように自慢げにネアに説明した。

 「モデルをさせられるうちらも、ある意味すごいかもね」

 モップを動かしながらフォニーがちょっと不満を滲ませながらこぼした。

 奥方様の働きが決して豊かとは言えないケフの郷の財政を少なからず潤わしているのである。

 

 ホールの時計が8つ鐘を鳴らして暫くすると奥方様とその子供である、レヒテとギブンを連れ立って部屋に入ってきた。

 「おはようございます」

 侍女3人が横一列に整列して動作を合わせて朝の挨拶をした。これにはちょっと練習を要したが、ネアは苦もなく要領を飲み込んでいた。

 「おはよう、ネアちゃん、今日からよろしくね」

 奥方様はフォニーの横にちょこんと立っているネアに優しげに微笑みかけた。

 「ほら、貴方たちも挨拶は?」

 彼女は子供たちに挨拶を促した。

 「おはよう」

 「・・・おはよう・・・」

 姉のレヒテは快活に、弟のギブンは少しためらいながら侍女たちに挨拶をした。これも、この館の特徴の一つで、例え使用人であれ、挨拶されれば、それに応えるのが躾としてなされていた。

 「ネアちゃんには、これからお裁縫や読み書きやらをお勉強して貰っていろんな仕事ができるようになってもらうから。貴女たちはちゃんと面倒を見てあげるのよ」

 にこやかにであるが、異論は認めぬの意思を滲ませながら奥方様は侍女たちを見つめた。侍女たちはそれぞれ了解したことを返事した。

 【昔、お偉いさんの対応した時を思い出すなー】

 ネアは緊張しつつもどこか懐かしいようにも感じていた。

 「ネアちゃんは分からない事だらけだと思うから、レヒテに付いて行くこと、レヒテのお手伝いをしてね。それと、レヒテ、ちゃんとネアちゃんの面倒は見るのよ。貴女のほうがお姉さんなんだから」

 物珍しげにネアを見つめていたレヒテは奥方様の言葉に身体を一瞬強ばらせた。

 「う、うん」

 「そうじゃないでしょ」

 「は、はい、承知しました」

 まるで、ラウニとネアの会話のようであった。多分、ラウニは知らずのうちに奥方様の行動様式に染まっているのかもしれないとネアは勝手に推理していた。

 「今日は、アルア先生のお勉強の日でしょ。準備はいいの」

 奥方様はちょっときつめにレヒテに尋ねた。

 「大丈夫・・・です。忘れてないって」

 溌剌とレヒテは答えたが、ネアはその目がどうも少し泳いでいるように感じられた。

 「ネアちゃん?だっけ、付いてきて」

 レヒテは元気よくネアの手をつかむと小走りに部屋から飛び出していった。

 「奥方様、我々のどちらかが付いていったほうが・・・」

 ラウニは娘を見送る奥方様におずおずと尋ねた。

 「心配ありがとう、でも貴女たちだと、あの子は甘えてしまうでしょ。ちょっとはお姉さんらしさを学んで欲しいの」

 奥方様はにっこりとラウニ微笑みかけると

 「さて、今日中にこのコートを仕上げるわよ。お茶とお菓子はお願いね」

 「承知しました。奥方様」

 ラウニとフォニーは元気よく応えると取り付けるボタンの準備やお茶のためのお湯を沸かしたりとそれぞれの仕事をはじめた。

 

お付き合い頂いた方、ブックマークを頂いた方に感謝します。

来週はお仕事のため更新できない思われます。

もし、これを楽しみにして頂いている方がおられれば申し訳なく思っております。

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