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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
18/342

17 ぬいぐるみ

こんな風習があっても良いのではないかな、と安易な気持ちでやらかしてみました。

クマ、キツネ、ネコが同居しているとは、なんとなくメルヘンじみてきているようにも・・・

 初めてづくしの入浴を終え、今度は3人して館の食堂へと向かった。まだ日は落ちてはいないが、この時間帯、ネアのもとの世界で言うと17時ぐらいから夕食の時間となるようである。ネアたちのような住み込みの奉公人や、夜勤につく者のために夕食が提供されるのである。

 「このお館はね、お館様たちと同じモノを頂くことができるの」

 厨房の横に作られた20人程度が入れる飾り気の無い食堂にネアを案内しながらラウニが今日の夕食のメニューを確認するかのように鼻をひくひくさせながらネアに説明した。

 「食べ物は充分にあるから、早い者勝ちってことはないけど、あまり遅くなると閉まっているから注意しないいけません。ホールの時計が7つ鐘を鳴らしたら食堂は閉まります。お腹が減って寝られなくなるってことがないように」

 「育ち盛りには辛いからね」

 ラウニとフォニーは慣れた様子で入浴道具と着替えた下着が入ったバッグを食堂の入り口に据え付けられている棚に置いた。

 「・・・」

 ネアもそれに習おうとしたが、残念ながら手が届かず棚の前で懸命に背伸びする羽目になってしまった。

 「貸して」

 いつの間にか背後に立っていたフォニーがネアの手から荷物を取り上げると自分たちから置いた横にネアの荷物を安置した。

 「わたしもそうだったから、無理しないでいいよ」

 昼間に殺気を向けてきたとは信じられないぐらい穏やかな表情と年長者らしく振舞おうとするちょっとした背伸び感が伝わってきたが、ネアはただ素直に

 「ありがとう」

 と感謝を示した。


 「このトレイに順番に乗せていくの、好き嫌いとお残しはダメだから、多いなと思ったら給仕の人に減らして貰うようにお願いすること」

 ラウニはてきぱきとカウンターの上に並んでいるパンやスープなどを自分のトレイに載せ、なれない手つきで背伸びしてパンの入った皿を取ろうとしているネアのトレイの上に代わりにとってやり綺麗に並べてくれた。

 「ありがとう」

 ネアは自分が何一つ、着替えから身体の手入れ、食事まで充分にできないことに打ちのめされた気分になっていた。

 【完全に子供だよ・・・】

 ネアは口元に苦笑を浮かべながらトレイの上に並んだ今日の夕食を見つめながら小さなため息をついた。


 「ここだよ」

 一足先にフォニーが席を確保していたらしく、二人に立ち上がって手招きした。ネアはトレイの上の料理をこぼさぬようにそっと注意深く歩き、フォニーの横にトレイを置くと安堵のため息をついた。

 「食べる前のお祈りは忘れないこと。お祈りし方は覚えている?」

 ネアの正面に座ったラウニがネアに、多分知らないだろうなとの思いを滲ませながら尋ねてきた。

 「知らない・・・」

 「こうやるんだよ」

 俯き加減のネアにフォニーが両手を軽く組みお祈りの姿勢を見せ、自分と同じようにすることを促した。

 「今日の糧を頂けることに感謝します。いただきます」

 二人は軽く目を閉じて食事前のお祈りの言葉を口にした。ネアも見様見真似で

 「きょうのかてをいただけることにかんしゃします。いただきます」

 と、ぎこちなく続けた。

 【これも、これからずっと続くんだな・・・】

 新たな生活に伴う習慣をうんざりするような気持ちともとの世界に戻ることはできるのかの疑問をまぜこぜにしながらネアは目の前のパンをちぎって口の中に入れた。しかし、現金なモノで口の中に広がる小麦の香ばしさにそんな思いは雲散霧消してしまったのであるが。


 「スープとか、お汁のある物をスプーンで食べる時はね、正面から食べると鼻先をやけどしたりするから、牙に当たらないように横から食べるといいですよ。でも、正式な食事の場では、ちょっとずつ正面から食べるのがマナーになってるからね」

 ネアに獣人の特性であるマズルの存在による真人や亜人とは違う食事のノウハウをラウニとフォニーは手取り足取り教えてくれた。ただし、カップから飲み物を頂く時の口の当て方、傾け方は獣人の種族ごとにマズルの大きさ、長さ、形が違うため自学研鑽が必要であることも教えてくれた。また、カップの形状により飲みやすさや要領が変わることも教えてもらったが、これはこれから経験を積んで身体に教え込んでいく必要があることがネアは理解した。


 「今日の糧をありがとうごさいました。ごちそうさまでした」

 食事の終わりのお祈りをすますと食べ終えた食器とトレイをカウンターの端っこに設置されている箱の中に綺麗に収め、給仕や調理師のおじさん、おばさんに元気よく

 「きょうもおいしかったです。ごちそうさまでした」

 3人そろって頭を下げた。

 「これから、ネアがこれから住む場所に案内しますからね」

 そろそろ暗くなり出した廊下をネアの小さな手を取ってラウニが歩き出した。その後をフォニーがどこか楽しげな様子でついて行った。


 住み込みの侍女である、ラウニたちの寝室、生活の場は、お館の3階にある。この階は、彼女ら以外の住み込みで働いている者の生活空間と洗面所、トイレなどの設備と倉庫からなっていた。他の階と比べて飾り気は無いが、生活感は充分に存在していた。

 「この部屋がうちらの住む所だよ」

 フォニーが3階の隅っこにある扉を開いた。そこには寝台が三つ窓を頭にして置かれていた。部屋の廊下側にはクローゼットが三つとテーブル、3脚の椅子が置かれていた。

 「貴女が住むことになったから、昨日からベッドを入れたりして準備してたのよ。貴方のベッドは真ん中ね」

 ラウニは椅子に腰掛け、背を伸ばしながらベッドを指差した。

 部屋の中はこの歳の少女らしく、ネアには縁が無かった小物類があちこちに置いてあった。また、テーブルの上の一輪挿しには名も知らぬ白い小さな花が活けられてあった。そして、ベッドの上にはそれぞれクマとキツネのヌイグルミが置いてあり、そのベッドの主が誰であるかを物語っていた。

 「?」

 自分の寝床となる真ん中のベッドを見つめていたネアは見慣れぬものがベッドの上においてあるのを見つけ首をかしげた。

 「ネコのぬいぐるみだ。ちゃんとネアと同じ模様だよ」

 そのヌイグルミに気付いたフォニーがやさしくベッドの上からネコのヌイグルミを抱き上げるとネアに手渡した。

 「いつ準備したのかな・・・」

 ネアがぎこちなくヌイグルミを抱いているのを見つめながらラウニが呟いた。

 「あ、カードがついている」

 フォニーがヌイグルミの首輪についているカードを見つけ、手に取るとネアに渡した。

 「読めるかな?」

 ネアはヌイグルミ片手にカード手に取り、その文字をみつめた。

 「・・・な、・・・を・・・て、ないすしるばーの・・・・」

 見慣れぬ文字であったが、ところどころ書いてある意味が理解できた。それは文字を覚えたての時に、読めぬ漢字や文字にぶち当たった時の感じと似ていた。

 「読んであげますよ」

 ネアは、そっと手を伸ばしてきたラウニにカードを手渡した。

 「読むね、えーと、『健やかな成長を願って、ナイスシルバーのボルロ・ビケットより  ご隠居様と呼んでネ』って、ご隠居様から頂けるなんて、すごい」

 カードを読み上げたラウニがびっくりしたような声を上げた。

 「ご隠居様からの、良かったねネア」

 フォニーが何のことか全く理解できていないネアの肩を軽く叩いた。

 「ヌイグルミがすごいの?」

 自分と同じ白黒のハチワレのネコのヌイグルミを見つめながらネアが首をかしげた。

 「知らないのかな・・・、私たち獣人はね、子供が健康で元気に育つように子供に種族の動物のヌイグルミをプレゼントするのが習わしなの。特に、女の子には将来元気な子供を産んで育てることができるようにのお祈りの意味もあるの。ほとんどの人は親が子供にプレゼントするんだけど、わたしやフォニーみたいに・・・、わたしもフォニーも奥方様から頂いたの。かわいいでしょ」

 ラウニは自分のベッドの上のヌイグルミを大事そうに抱いてネアに見せた。

 「うちのもカワイイよ」

 フォニーも負けじとヌイグルミを高く抱き上げてネアに見せてくれた。

 「ようこそ。ネア」

 「これからよろしくね、ネア」

 ラウニとフォニーがにっこりしながら手を差し出してきた。

 「え、えと、よろしくお願いします。センパイ」

 ネアはおずおずとそれぞれの手と握手した。

 【人の手ってやっぱり、温かくて、柔らかいんだ・・・、忘れていたな】

 ネアは、センパイ方の温かさやお館様、奥方様、ご隠居様の優しさを実感すると、ちょっと涙がこぼれそうになった。


 「ヌイグルミには名前を付けるの、そうすると御守として悪い夢から守ってくれるのよ。うちの子はね、ロロって言うの」

 ぎゅっとキツネのヌイグルミを抱きしめながらフォニーが自分のヌイグルミ紹介してくれた。

 「わたしのクマさんは、ブルン」

 今まで懸命に年長らしく振舞おうと背伸びしていたラウニが歳相応の笑顔でヌイグルミを抱きしめていた。

 「ネアは名前をどうする?ヌイグルミの名前は自分で付けないと御守にならないから」

 フォニーが身を乗り出してヌイグルミを抱いているネアに尋ねてきた。

 「名前・・・」

 自分の名前すら分からないのに、ヌイグルミに名前を付けるのは随分とナンセンスにも感じたが

 「・・・ユキカゼ、この・・・子は、ユキカゼ」

 ヌイグルミに子をつけて呼ぶのは聊かためらわれたが、ここは先輩にならうこととし、何故か幸運だったと言われた昔のフネの名前を思い出して、このヌイグルミの名前にすることにした。

 「ユキカゼ・・・、不思議な響きね。でもなんとなく強そうな感じ」

 「なかなか無いセンスだと思うわ」

 先輩方は複雑な表情でネアの名づけたヌイグルミを見つめた。

物語は難しいですね。

この駄文にお付き合い頂いた方、ブックマークして頂いた方に深謝します。

次回は、夜のお話です。たぶん、そのはずです。

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