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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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16 身だしなみ(常識として)

獣人には獣人なりの身だしなみと言うのがあると思うのです。

しかし、猫を風呂に入れると大騒ぎになりますが、ネアは大人しくお風呂に入る良い猫です。

因みに、ラウニもフォニーも獣臭はありません。

 獣人の毛の生え方に興味をそそられながら、これから先輩となる二人の体つきをネアは身体を洗いながら横目でチラチラと眺めてみた。

 まず、熊族のラウニであるが、彼女はヒグマというより、ツキノワグマ系であると思われた、何故なら白い三日月がネックレスのように胸元を飾っていたからである。その下の乳房に関しては、この年齢にしては立派と形容するのが適切であるとも思われた。それと同時にそれは交通事故程度のセックスアピールすら持ち合わせれていないように見えた。一方、フォニーであるが、最近大きくなりだした様でやっと洗濯板からランクアップしつつある状態である。そして、ネアであるが、年齢のせいもあるがまだまだ胸より腹が出ているような、素っ裸にならないと男とも女とも分からない体型、つまり完全な幼児体型である。

 「胸が気になるの?」

 巨大な塊を胸にくっつけたタミーが目ざとくネアに尋ねてきた。

 「どれぐらい大きくなるのかな・・・」

 自分の胸を見つめながら、小さく応えた。

 「ハンレイセンセーが大きくなるって・・・」

 と付け加えると

 「エロ吸血鬼にもうあったの?」

 フォニーがびっくりしたような声をあげた。

 「見た目はいい男なのに、あれは、ダメ」

 ラウニもうんざりしたような表情で肩をすくめた。

 「アンタ達もそう思うの、と言うか、こんな小さな子まで守備範囲なんて・・・」

 タミーはブルッと身を震わせた。そして、

 「でも、紳士なんだよねー、変態だけど・・・」

 ため息つくように付け加えた。タミーは変態紳士の所業を少し思い返して苦笑しながら、カミソリを手にした。そのカミソリで体毛の生え際をきれいに整え始めた。

 「?」

 ネアは不思議そうにタミーの行動を見つめた。それに気付いたフォニーがチョンとネアの頭を小突いた。

 「じろじろ見ないの。女同士でも礼儀があるでしょ。それと、毛の生え際を整えるのはレディとしての嗜みなの、分かる?」

 「わたしも整えるの?」

 頭を押さえながらフォニーに尋ねると、フォニーが答える前にタミーが優しくネアに答えた。

 「子供はいいの。それに、怪我するといけないでしょ。綺麗な肌に傷跡を残すのはダメだからね。フォニーもまだ早いね」

 タミーのまだ早いの言葉にフォニーがムスッと口を尖らせた。

 「ハンレイセンセーの予言って当たるの?」

 ネアとしては現在のところの大きな関心事となっていることをタミーに聞いた。

 「当たるらしいって話よ。ラウニやフォニーは何て言われたの」

 タミーの言葉にフォニーは少し俯いた。ラウニは心配げにフォニーを見ると、自分の胸を見て

 「大きくなるって言われました」

 恥ずかしげに応えた。

 「それなりの大きさになるって言われた。それなりってどういうことなのよ。それなりって」

 怒るようにフォニーが声を上げた。

 「微妙な表現」

 タミーとラウニが同時に同じ言葉を口にした。それを見たネアはクスクスと笑い声を上げた。

 「大丈夫・・・、変態の言うことだから・・・」

 この場の雰囲気を変えようとネアはフォニーに声をかけた。

 「変態の言っていることだもんね。気にすること無いかーっ」

 フォニーは嫌な思いを払い除けるように頭を振った。

 「おしゃべりはいいけど、二人とも身体は洗えたかしら」

 口ばかり動かして、手がお留守になっている二人に声をかけた。その声に二人は再びブラシとタオルを動かし始めた。一通り身体を洗い終えると今度は髪を洗うのであるが、ここも先輩二人から絶対に耳を伏せておくことと言う生活の知恵を伝授して貰い、ネアはこの身体で初めて髪を洗ったのであった。

 「タミーさん、大変そう・・・」

 側頭部から立派な巻いた角を生やしたタミーを見つめてネアが呟いた。

 「角が邪魔になるから、この小さなブラシで隙間を洗うの。それと、髪だけじゃなくて角も綺麗に洗って、その後磨くの。これは、角のある種族なら当然のことよ」

 獣人ならではの気の使い方があることをネアは理解し、自分に角がなくて良かったと安堵したのであった。

 「洗い終わったら、さっさとお湯に入る。私らにとって獣臭いって言われるのが一番の恥になるんですよ」

 ラウニはそっとお湯に身体を浸からせながらネアに常識であることを教えた。

 「本当はそんなに臭わないんだけど、うちらに対する決まり文句みたいなものだからね」

 フォニーもやれやれと言わんばかりにため息をつきながら湯の中に身体を沈めた。ネアもそれに習って恐る恐る湯船に入った。

 「ーっ」

 言葉にならぬため息のような音が自然に口から出てきた。まさしく、おっさんのそれである。しかし、外側はどんなに変われど、中身は温泉があれば入りたくなる民族性を保持したままである。知らずのうちにリラックスしすぎていたのかもしれない。

 「それ、下品」

 ラウニが早速、顔をしかめてネアに注意を促した。

 「はい・・・」

 【常に注意を怠るなってことだな。しんどい生活になりそうだ】

 ネアは耳を伏せながら小さくため息をついた。

 「ネアはさ、本当にいろんな事を忘れちゃったようだね。分からなければすぐにウチらに聞くんだよ」

 フォニーがまるでネアの姉のように優しく語りかけた。

 「侍女としての礼儀作法は、きっちり見につけなくてはなりません。だから、気付いたらその度に注意していきますからね」

 ラウニが怖い女教師のようにネアを見つめた。

 「・・・おねがいします」

 本来なら自分の子供以下の年齢の少女たちにイロイロと指導されるのは面白いものではないが、現在の置かれた立場を考えるならそれは甘んじて受け入れなくてはならないことだった。


 いい感じに茹でられてきたので、ネアは湯船から上がると脱衣場に向かおうとした。

 「そのまま行かないの。こっちに来なさい」

 ラウニが湯船から上がり、仁王立ちでネアに手招きした。

 「抜け毛を掬い取るの。掬った毛はそこのバケツに入れる」

 ラウニはネアに網を手渡すとバケツを指差した。

 「分かった・・・」

 「分かりました。でしょ」

 「分かりました」

 やれやれとため息をつきたくなったが、ラウニがしっかり監視しているためそこはぐっと堪えてお湯に浮いている長かったり、短かったり、黒かったり、茶色かったりする様々な毛を掬い取るとバケツにせっせと捨てだした。

 「もういいですよ」

 ラウニの言葉にほっとしながら脱衣場に向かおうとすると

 「水切りしなくちゃだめでしょ。それも、忘れたの・・・」

 再びラウニに声をかけられた。

 「それとも知らないのかな・・・」

 ラウニは呆れつつもネアの手を引いて浴室の一角にある2メートルほどの高さの板で囲ったものが数個設置してある所に連れて行った。それらは簡易のシャワールームのように見えたが、シャワールームと違うのは水や湯を提供するシャワーヘッドが無いところだった。

 「この中で水切りするの」

 「水切り?」

 ラウニの言葉にネアは首をかしげた。

 「・・・そうね。フォニー、お手本を見せてあげて」 

 「りょうかーい。良く見ているんだよ」

 フォニーはそのブースの中に入るとちょっと足の間隔を開いて立つと全身をダイナミックかつ小刻みに震わせた。まるで犬がぶるぶると身体についた水を払い飛ばすようであった。

 「これが水切り。さ、やってみて」

 ラウニにそっと背中を押され、ネアはブースに入った。

 【どうすりゃいいんだよ・・・】

 全くやり方が思いつかない、困ったと立ち尽くしているとき、身体の中からムズムズするような感覚が襲ってきた。思わずそれを払い除けようと身を震わせると、これが見事なブルブルとなって、身体についていた水を脱水機のように払い飛ばしてくれた。

 【身体が覚えているんだ・・・】

 「ちゃんと水切りはできるようね。これから忘れないようにね」

 ラウニはにっこりすると自らもブースに入って豪快に水をふるい落とした。

 その後は、二人がかりで風雨に曝された銅像を磨くようにタオルで拭かれてしまった。


 脱衣場でもネアにとっては知らないことだらけてあった。まず、衣服の尻尾用の穴であるが、これは縦にスリットが入っており、そのままにしておくと尻尾の動きで下着が見えたり、最悪、※が見えたりするためスリットの上部にボタンがあり、そこに尻尾にエプロンするように飾り布をつけるのである。この布はスリットが開きすぎるのを防ぐとともに、尻尾の付け根のシークレットパーツを隠す役割を果たす重要なものであり、「(尻尾)穴隠し」となんとも品の無い名称で呼ばれていた。この布は着る服や尻尾の形や色、柄に合わせて多種多様にあり、獣人ならではのおしゃれポイントらしい。ネアは、そんな穴隠しをやっとのことで黒のワンピースに装着すると見様見真似でエプロンドレスを身にまとった。

 「うーん、ちょっとずれているねー。ここは、こうすると・・・」

 フォニーがなれた手つきでネアの身にまとった服の結び目などを直していく。

 「つねに綺麗に、ぼさぼさだと不潔感が出てきます」

 ラウニはネアの髪にブラシをあて綺麗に整えだした。

 「いくら主が立派でも、仕えている者がだらしないと主までだらしなく思われてしまいます。私たちは身だしなみには特に注意しないとダメなんです。ネアもしっかりと身だしなみを整えられるようにしないとね」

 「それに、綺麗にしておくことは、レディとしては当然のことだし。うまくいけば玉の輿に乗れるかもよ」

 【これは、ますます気が抜けないな】

 ネアは、着せ替え人形のように扱われながら、心の中で進む道を誤ったかも知れないと少しばかり後悔の念がにじみ出てきたのを感じていた。

きゃっきゃっうふふとは程遠い世界のお風呂でした。

ブックマーク頂いた方、この駄文を読んでいただいた方に深く感謝します。

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