153 怖いこと
坊や 「紳士用拡張セットなーに」
お爺 「それはな、紳士の何かを拡張するんじゃくて、紳士が喜ぶように拡張できるセットなんじゃよ」
坊や 「紳士の何かってなーに」
お爺 「それはな、紳士の秘密の・・・ゲフン、ゲフン、坊にはまだまだ難しい事じゃよ」
と、行きたいものですが、人の好奇心は知らずとも良いことまで知りたくなるのは、これはもう生物学的な領域に関することなのかもしれませんね。
あ、窓に!、窓に!
ネアがラスコーから解放され、部屋に戻ると既にラウニたちは寝巻に着替え、それぞれのベッドの上に腰かけて明日の予定について話し合っていた。
「明日も泳ぎに行きたいね、と皆で話し合っていたんですよ」
寝巻に着替えるネアの背中ににラウニが弾んだ声を投げかけてきた。
「シャルさんとアーシャさんの話では、明日一日中雨みたいですよ。雨が止むまで宿でゆっくりとするのがいいかなって思いますよ」
寝巻に着替えたネアが自分のベッドに腰を降ろした。
「んー」
しかし、自分の尻尾の上に座ってしまい、腰を浮かして尻尾をぞんざいに脇に動かした。そんな様子をフォニーは面白そうに見つめていた。
「ネアってさ、時々、尻尾のこと忘れるでしょ。猫族は尻尾を器用に動かせるのに・・・、尻尾に対する意識が低いね」
「尻尾って便利なこともあるけど、不便なことが多いように思います」
ネアは難しい表情で先がちょっと白い尻尾をつまんで見つめた。
「あたし、このふわふわの尻尾すきだよ」
ティマはぴんと立てた尻尾を振り向いて見つめた。
「ふわふわの尻尾は手入れがあってこそ。尻尾は、うちら獣人のチャームポイントだからね」
フォニーは自分の尻尾を抱きしめて目を細めた。そんな彼女らを見つめながら、ラウニは自分の小さな尻尾をそっと撫でていた。
【これで、尻尾が長かったら、ますます人と違った姿になりますね】
ラウニはちょっと寂しそうな表情になっていた。
「でも、フォニー姐さん、私も仕事中はちゃんと作法を守っていますよ。気持ちのままブンブン振ったり、びっくりしてブラシみたいにしないように」
ネアは自分も尻尾について意識していることを主張したが、元々尻尾なんぞ持ってない生活をしてきたのであるから、どうしても疎かになることは否めない所があった。
「尻尾の話は置いといて、明日は何をするかですよ。折角のお休みですから、ここでしかできないことをやるのがいいと思うんですよ」
ラウニは尻尾に対してそれぞれがなにやら思っている所に声をかけた。
「雨に打たれながら、露天風呂に浸かって、雨に煙る山々を眺めてすごす」
これをお酒でもチビチビやりながらできたなら、最高だと思いながらネアは提案したが、
「なにそれ、おじさんみたい」
「面白くない」
「何が楽しいのか、分かりません」
満場一致で却下されてしまった。この審議もせずに却下はネアにとっては珍しくも無い事であるが、いくらやられても慣れることはなかった。
「じゃ、姐さんたちはどんな過ごし方を考えているんですか」
ネアはむすっとして、ラウニたちを睨むように見つめた。
「これです」
ラウニは昨日購入したお部屋でかけっこの基本セットと拡張セットを取り出してネアに見せつけた。
「うちもあるよ」
フォニーが拡張セットを3袋取り出して、ニヤリと笑った。
「謎の紳士用拡張セットもあるんだよ」
さらに黒いパッケージに強烈なピンクで紳士用と大書きされていた。
「フォニー姐さん、それってどこで」
「広場のお店だよ。おばちゃんも中身をみたことないから、わからないねーって」
あからさまに危険なモノを年端もいかぬ子供に売るというのはいかがなモノか、それ以前にこれがどういうものか想像できないという時点で大人としていかがなモノかと、ネアは善良そうなあの老婦人を思い出して顔をしかめた。
「それは、開けずにバトさんに上げると喜ぶと思いますよ」
ネアはフォニーの元からその毒々しい紳士用を遠ざけることを第一に考え、思わず口にしていた。
「ネアは、コレの中身が何か分かっているのですか」
ラウニがギロリとネアを睨みつけ、尋問する様な口調で尋ねてきた。フォニーとティマも興味深そうに寝あを見つめていた。
「・・・だって、それ紳士用でしょ。私たちは淑女を目指しているんですから、そもそも意味がないかなって思うんです」
ラウニに問い詰められ、ネアは苦しい理由付けをしたが
「じゃ、バトさんには関係ないですね。バトさんも淑女・・・、女性ですから」
ラウニがバトについて何か歯に物が挟まったような事を言って、ネアの「バトさんが喜ぶ」という発言が矛盾していると突いてきた。
「でも、なんか嫌な予感がするんですよ。それ」
ネアはフォニーが手にしている紙袋を指さして何とか思いとどまらせようとした。
「じゃ、これ明日のお楽しみにしようよ。何が出てくるか、楽しみにしてさ」
今この場で、中身を確認しないというフォニーの言葉にネアは少し安堵したが、それは執行猶予が延びただけでしかないことを認識して、暗鬱とした気持ちになった。
【どうなっても、もう知らん】
ネアは匙をさっさと投げ捨てて、ベッドに潜り込んだ。
天候は夜が更けるとともに激しくなり、灯りが消され、ネアたちが寝入った頃には稲光と雷鳴が激しくなり、大粒の雨が窓をひっきりなしに叩くようになっていた。そんな中でも、ラウニとフォニーは小さな寝息を立てて、幸せな夢の中に浸っていた。
「ネア、お姐ちゃん・・・」
ネアは身体をつつかれて目を覚ました。ネアのベッドの脇にティマが今にも泣きだしそうな顔で立っていた。
「おしっこ行きたいけど、怖い・・・」
ティマはそう言うとモジモジと身をよじった。それは、内なる自然と戦っており、彼女の敗北が近いことを物語っていた。それを確認したネアに事件が発生する前に何とか処置をしなくてはならない、との使命感が湧き上がってきた。
「じゃ、おトイレ行こうか」
ネアがベッドから出ると一際大きな稲光が窓から射し込み、部屋の中を一瞬昼間のように照らし出した。ネアは思わず、ティマを抱きしめてその大きな耳をそっと塞いだ。その直後、大地を震わせるような大きな音が響いた。ティマはその音に驚いたのか、ピクリと身を震わせたが、まだ持ちこたえていた。しかし、猶予はそんなに無い事もティマの表情から読み取れた。
【女の子は男ほど我慢がきかないからな】
ネアは事故の経験からこの事態がのっぴきならない事態であることを再確認した。そんな中、ネアは泣きそうな顔をしているティマの手を引いて暗い廊下に出ると、足早にトイレへと向かった。幸いなことにトイレの灯りはついており、どこの個室も空き状態であった。
「私は、ここにいるから」
限界に達しつつあるティマにネアは優しく語りかけ、そっと個室の扉を開いてやった。
「置いてかないでね」
ティマはネアを見つめると、急いで個室に駆け込んだ。
「ティマ、私もおしっこしていくから」
個室の中のティマに声をかけるとネアは隣の個室に入り、内なる自然を開放した。その時、ひときわ大きな雷鳴が轟き、隣の個室からティマの悲鳴が上がった。
「ティマ、大丈夫、今行くからね」
ネアはさっさと下着を上げると隣の個室の前に立ち、そっと扉に手をかけた。扉には鍵はかけられておらず、ネアはティマに「開けるよ」と一声かけて扉を開いた。個室の中でティマが便座に腰かけ泣いていた。
「ここにいるからね、さっさと済ませようね」
ネアは怯えて泣くティマをそっと抱きしめると、漸く彼女は落ち着いたのか泣き止んでくれた。
「ちゃんと拭いて、さ、パンツを上げて」
ネアはティマが下着を直すのを手伝いながら、もし前の姿でこれをやったら確実に犯罪者だと苦笑した。事を一通り済ませて、雷鳴がする度にネアにしがみついて来るティマの手を取り部屋に戻ると、雷鳴どころか、ティマの危機に気付くこともなく健やかな寝息を立てているラウニとフォニーを見てネアはため息をついた。
「ティマはラウニ姐さんやフォニー姐さんを起こさなかったの」
ティマをベッドに入れてやり、そっとシーツをかけながらネアは尋ねた。
「起きなかった・・・」
「そっか、また怖くなったら、起こしていいよ」
ネアはそっとティマの頭を撫でて、自分のベッドに入って目を閉じた。暫くするとベッドに何かが乗ってくる気配がしてがぱっと身を起こした。そこには、枕を抱えてネアのベッドに入ろうとしているティマの姿があった。
「ネアお姐ちゃん・・・」
身を起こしたネアをじっと見つめて枕を抱えたままティマが何か言おうとした時、部屋の中が真っ白になるような稲光と直後に地響きを伴う巨大な音が響いた。その音にティマは身体ごとネアに飛びこんで
「怖いよ」
と、鳴き声を上げた。ネアはそっとティマの頭をなでるとシーツを持ち上げて、ティマを寝床に入れてやった。
「怖くないよ。大丈夫、大丈夫」
ネアは、ティマが寝息を立てるまでその小さな身体をそっと抱きしめていた。
日が昇るころには天候は嵐から雨天に変わっていたが、雨がやみそうな気配はなかった。一晩中、雷鳴の旅にぎゅっとしがみつくティマのおかげでネアは寝不足だった。
「ネア、眠そうだねー、ティマと一緒に寝るなんて、アリエラさんが聞いたら血の涙を流して悔しがるよ」
寝巻から普段着に着替えながら眠たげに目をこするネアにフォニーが昨夜の出来事も知らずに楽しそうにかけてきた。
「ティマ、私のところに来てもいいんですからね」
ラウニはちょっとネアを羨ましそうに見ると優しくティマに声をかけた。
「だって、ラウニお姐ちゃんもフォニーお姐ちゃんも起きてくれなかったから、夜におしっこ行くの怖かった。ネアお姐ちゃんがついて来てくれたから・・・。雷と雨がすごくてとても怖かった」
ティマの言葉にラウニとフォニーは互いに顔を見合わせた。
「雷が?」
「知らないよ、本当なの」
ネアは2人を見て大げさにため息をついた。
「ティマが泣きそうになっていたのに、姐さんたちはぐっすり寝てましたから。あの音からすると、この辺りにも雷が落ちたみたいですよ。どんな時もぐっすり眠る胆力も必要ですけどね」
ネアは少し嫌味を滲ませて言うと、ベッドから出てブラシを手にした。
「なんか、嫌味っぽいな」
「嫌な言い回しですね」
フォニーとラウニはネアの言葉に少し憤慨していた。しかし、ネアに倣ってベッドから出てと恨めしそうな目つきでラウニとフォニーを睨むティマに気付くと態度が急変した。
「全然気づかないでごめんなさい」
「うー、反省しています」
ラウニとフォニーは神妙な面持ちでティマに頭を下げた。
「朝風呂に行ってきます。雨で煙る風景を楽しんできます」
さっと髪を整えたネアは風呂道具を手にするとさっさと部屋から出て行った。それを見たティマも風呂道具をかき集めるとネアの後をついて小走りに出て行った。
「私たち、ティマの信用を無くしたのでしょうか」
「怖いけど、それは充分にあり得るよ。だって、嵐の中で怖い思いをしている時に気付きもせずに寝入っていたんだから」
ラウニとフォニーは互いを見合って、がっくりと肩を落とした。
「ぬるめのお湯につかって、ゆっくりと景色を楽しむ、何もないようですけど、靄は姿をどんどん変えていくし、雨の降り方も強くなったり、弱くなったり、面白いものですよ」
ネアは露天風呂に浸かり、ゆっくり表情を変える景色を楽しみながら、隣で退屈そうにしているティマに語り掛けた。
「雨粒でできる波紋もじっと見ていると飽きないですよ」
「・・・」
ティマはネアに促され、じっと湯船に落ちる雨粒がつくる波紋を睨むように見つめだした。最初は、退屈そうであったが、その内、じっと雨粒が作る波紋に見入るようになっていた。
「同じことを繰り返していると思ったけど、全然違うよ」
「お風呂の中で大自然の息吹を感じる。風流ですね」
浴場の中で風流な時間が流れていたが、それは2人がお風呂に茹で上げられて終わりを告げた。
「ネアお姐ちゃん、気持ち悪い・・・」
「どうしても湯あたりしてしまうのが残念です」
2人は何とか着替えると、ロビーの藤を編んで作られた椅子に腰かけ、ヒルカが出してくれた冷たい水を飲みながら身体を冷やしていた。
「風流は気を付けないとダメなんだね」
「身体が小さいと、すぐに茹でられてしまうことに気付きましたよ」
この時、ネアはフォニーが昨夜手にしていたお部屋でかけっこの紳士用拡張セットのことをすっかり忘れていた。
「まず、基本セットを展開して、あ、これイベントマスと枝分かれマスとかがちゃんとタイルになっているんですね」
ラウニはロビーの床にお部屋でかけっこの基本セットを展開していった。それは、四角いタイル状で、それぞれに普通のマス、イベントのマス、分岐点が印刷されていた。それぞれのタイルは接手でタイル同士を固定することができるようになっていた。
「まずは、基本セットだけでやってみましょうか。ティマもこれならルールが分かると思いますからね」
ネアは、ラウニがお部屋でかけっこを展開させだした時、紳士用拡張セットのことを思い出して内心脂汗をかいていた。
【大人の人に助けを求めて】
周囲を見回しても、幼子を抱えた母親、微妙な年ごろの娘ぐらいしか見えなかった。レイシーはアーシャに整体の施術を受けている最中で、シャルはビブに絵本を読み聞かせていて、対処は不可能とネアは判断した。また、何とか対処してくれそうなラスコーもヨッゴの湖に作られた柵を確認に行って暫く戻って来ない、ドクターも役場の会議室に臨時に設けた診療所に籠っている。つまり、ネアが感じている危機を救ってくれそうな存在は周りにいなかった。
【この子たちを、紳士の魔の手から護らないと、でも、どうやって】
「次はネアの番だよ」
心ここにあらずでフォニーの傍らに置かれた黒地にピンクの紳士用拡張セットを見つめていたネアにフォニーがダイスを手渡してきた。
「ははは、ちょっと・・・、まだ湯あたりが抜けていないのかなー」
ネアは冷静を装いながらダイスを振った。その出目は5だった。
「5マス進むと・・・、イベントか・・・『動物のマネをするか、スタートに戻るかどちらか選択すること』えーと、スタートに戻ります」
ネアが何かするんじゃないかと期待に満ちた目で見るラウニ以下を無視するように、ネアは自分の駒をスタートのマスに置いた。
「つまらないなー、盛り上げようよ」
フォニーはむすっとして、ダイスをティマに渡した。ティマはフォニーからダイスを受け取るとえいっと投げるようにそれを振った。そして、出目は5だった。
「ウサギさんの真似をします」
ティマは立ち上がると手を自分の尖った耳にそえると、その場で「ぴょん、ぴょん」と言いながら跳ねて見せた。
「これは・・・、アリエラさんが見たら卒倒しますよ」
ティマが一通りウサギの真似をし終えた後にラウニが真剣な表情で呟いた。その時、ロビーにドサッと鈍い音が響いた。慌てて、ネアたちがその方向を見ると、レイシーの整体の施術を終えたアーシャが床に倒れて悶絶していた。
「かわいい・・・」
シャルはそんなアーシャを指先つついて、生きていることを確認すると、何事もなかったようにビブに絵本の読み聞かせを続けた。
「はい、ネア」
いつの間にかまたネアの順番になっていた。ネアはそっとダイスを振ると、出目はまた5だった。
「まさか、スタートに戻ったりしませんよね。ティマもちゃんとやったんですから」
ネアは六つの目に睨まれ、進退窮まったと直感した。そして、全てを諦めたかのように立ち上がると、手を招き猫のようにして「にゃー」と猫の真似をしてみせた。
「ティマに比べると、微妙ですね」
「なにか吹っ切れてないなー」
先輩方の批評は辛辣で、ネアは少しばかり気分がへこんでしまった。
「にゃん」
ネアの猫の真似を見ていたティマが、同じように手を招き猫のようにして可愛く鳴いてみせた。その時、再び鈍い音が響いた。そこには、何かに悶絶しているアーシャの姿があった。しかし、その顔は至福に満ちていた。
「あらら、大変ねー」
レイシーは至福の表情を浮かべてぶっ倒れているアーシャにそっと膝枕をしてやった。
【その場所、変われ】
そんなアーシャを睨むように見ながらネアは心の中で吠えていた。
「ティマ何かと罪作りですね」
「将来が恐ろしい」
ネアの心の中の叫びなんぞ関係なく、先輩方は驚きの声をあげながらもティマをべた褒めしていた。そこには、昨夜、怖がっているティマに気付かず寝入っていたことに対する罪の意識が少しばかりあった。
「さーて、次は、私の番ですね」
ラウニの駒が止まったのは、『歌を歌う』と書かれたイベントマスであった。
「歌ですか・・・、恥ずかしいですけど、『騎士と乙女』を歌います」
ラウニはその場にすっくと立つと、軽く目を閉じて、静かに歌いだした。
「えっ?」
ネアはラウニの歌声を聞いて目を丸くした。歌詞はラウニ好みの甘ったるい恋心を謳いあげたものであったが、ラウニの声は澄んでいて、そして見事に音程をとらえ、声量も素人とは思えなかった。
「ラウニお姐ちゃん、スゴイ」
ティマもラウニの歌唱力に歓声を上げた。
「ラウニはね、教会の聖歌隊からスカウトがかかるくらいすごいんだよ」
フォニーが我が事のように自慢そうに胸を張った。ラウニは、ただ楽譜を追うような歌い方ではなく、思いを込めるため、無意識のうちに編曲したり、キーをずらすしたりと、ここに音楽を生業にしている人物がいれば、すぐさまに弟子に取ろうとしても不思議ではなかった。その歌声は、ネアには何となく演歌風に聞こえていた。
「すっごいねー」
「聞きほれちゃった」
「意外な才能があったのね」
ラウニが歌い終え、軽く一礼すると、ロビーにいた全員が惜しみない拍手をラウニに贈った。そして、口々にラウニの歌唱力に感心の声を上げた。
「少なくとも、前にマーケットで酷い歌を歌ったヤツより数倍上手ですよ。いざとなったら吟遊詩人になれますよ」
ネアはちょっと恥ずかしそうにするラウニに称賛の言葉を述べた。
「あんな三流芸人を比較対象にすることが間違いですよ」
ラウニは、ちょっとすましてネアに告げた。
「お館の歌姫・・・、歌熊?」
フォニーが茶化すように言った途端、フォニーがくぐもった声を上げた。
「パル様の真似をしてみましたが、意外にマズルつかみって効果があるんですね」
マズルを鷲掴みされて涙目でラウニを見つめるフォニーに彼女は凄みのある笑みを見せた。
しっかりしているようで、やっぱり年齢相応なティマでした。もし、ネアの対応が遅れていれば、オーバーシュートしていたかもしれません。
ネアたちは雨のおかげで宿から出られない状態になっています。そんな中でも何かと楽しみを見つけようとしています。また、ラウニの意外な才能の片鱗が見えましたが、現在のところ、彼女はこの才能で身を立てることは考えていないようです。
今回も駄文にお付き合いいただきありがとうございます。ブックマーク、評価いただいた方に感謝を申し上げます。