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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第12章 つながり
160/342

149 お土産(置き土産含む)

アーシャは癒しの星明り亭のロビーの一角で整体の施術をはじめています。昼までに宿の者に注文すると夕方には隣村から駆け付けるシステムです。肉球の指圧はウケが良い様で固定客も付きだしているようです。

 「バトさんはね、美人でスタイルがいいから、あのノリでも受け入れられているの」

 ビブの手を取って、包帯を巻きつけた左足を引きずってレイシーが浴場に入ってくるなり、何も隠さずラウニと言い合っているフォニーに声をかけた。

 「私たち獣人が彼女のやり方をやったら、ただの下品な娘か盛り付きと思われるわよ」

 レイシーの言葉にフォニーは黙ったまま、恥ずかしそうにタオルを身体に巻き付けた。

 「女の子らしい身体になってきているんだから、いつまでも子供みたいなことしているとダメよ」

 レイシーは、フォニーに優しく諭すと湯船で戯れているネアとティマを見て、目を細め、

 「あの子たちはまだまだだから、あれでいいけどね」

 この言葉をネアが耳にしていたら、ちょっと気を害したかもしれないが、童心100%でティマと遊んでいるネアに聞こえることはなかった。

 「こういうことをしているのを年齢相応なんだけど」

 いつもの妙に落ち着いたネアに違和感をもっているレイシーはネアの子供らしい一面をみて少し安堵していた。

 「ところでさー、あのバカ・・・、グルト、どこかへ連れていかれたみたいだけど、何をしたんだろう」

 レイシーに諭され、大人しくなったフォニーが先に湯船に浸かっているラウニに朝見た光景を思い出して尋ねていた。

 「普通のいたずらじゃないでしょうね。少々の悪さはあそこの親が庇っていましたからね。それができないぐらいの悪さをしでかしたんですよ」

 ラウニはそう言うと、湯船の中で身体をぐーっと伸ばした。

 「こんな気持ちのいい時に、あんな不快なモノを思い出したくないですね」

 「でもさ、気にならない。あんな檻に入れられて、誰にも見送られないで、連れていかれたんだよ。普通じゃないよ」

 面倒くさそうに答えるラウニに、フォニーは思っている疑問を並べ立て、如何に今朝、目撃したモノが普通ではない、きっと何かあったのだと、それに興味を持とうともしないラウニに苛立ちを感じながらまくしたてた。

 「気になるよね。私も噂しか知らないけど」

 左足を外すと、ビブを抱えてレイシーが湯船に入ってきた。

 「人を雇って、誰かを襲おうとしたみたい、でも雇った人が返り討ちにあって、うちの人がその治療に駆り出されたの。あの人の話だと、生きていることが奇跡だって、多分、障害はのこるみたいね。かわいそうに」

 「それじゃ、アイツは無傷なんですか。それだと、何か納得いかない気がする」

 抱っこしたビブをあやしながらレイシーはフォニーの疑問に答えたが、それでもフォニーは何か腑に落ちないような表情になっていた。

 「だから、連れていかれたんじゃないかな。どこかは知らないけど。悪いことをするとそれなりの目に遭わされるもんよ」

 レイシーは幼くしてどこか、多分、酷い所に送り込まれるグルトに少し同情を感じていた。以前の彼女なら、何にも感じることはなく、逆に良い様だと思ったぐらいであろう。この心境の変化は、人の親となったからではないかな、と抱いたビブを見ながら思っていた。

 「街の悪ガキどもの勢力が変わりそうな気がします。あちこちで小競り合いやって、巻き込まれない様に注意しないと」

 ネアはティマと遊ぶ手を休め、気になったことをぽつりと口にした。

 「前のフルチンの子とかが幅を利かせるのかな、それはそれで嫌だな」

 「グルトは卑怯なバカでしたが、あの人たちは下品なバカです」

 フォニーとラウニは互いに見合って顔をしかめた。

 「ブレヒトは自分の力だけで喧嘩しているから、アイツよりマシです。アイツは親の力で喧嘩するから、今回はそれすら及ばなかった、ということです」

 ブレヒトは、ネアの中ではグルトと同じバカのカテゴリーに分類されているが、その評価は親の七光りで何とかしようとするグルトより高くなっていた。

 「ハサミでちょん切るって言った子は言うことが違うねー」

 フォニーがあの時のことを思い出して笑い声をあげた。

 「アイツ、バトさんにからかわれて、見ているこちらが恥ずかしかったです」

 どうやら、先輩方もブレヒトは愛すべきバカと見られているようだった。

 「ネアちゃん、アレをちょん切るって言ったの。すごいねー、私が現役の時ですらそんな啖呵きらなかったよ」

 レイシーはネアの武勇伝を耳にしてクスクスと笑い声をあげた。

 「あの人が悪さした時、言ってやろうかしら」

 そう呟いたレイシーの笑みに黒いものをネアは感じ、今はもうないモノが縮み上がるような気がして思わず股間を手で守っていた。

 「あら、ネアには付いてないのに、面白い子ですね」

 ネアの動きを目ざとく見取ったラウニがからかうような声を上げた。

 「アレって切ったら、また生えてくるのかな」

 ティマがラウニに何かを言い返そうとしているネアに不思議そうに尋ねた。

 「切り落としたら、二度と戻ってきません。絶対に、永久(とこしえ)に。失うものが大きすぎるんです」

 ネアの言葉にはどこかもの悲しさがにじみ出ていたが、それに気付く者はいなかった。もし、この場に男がいれば、ネアの言葉に大いに頷いていただろう。

 「大変なモノなんだ・・・ですね」

 「男にとっては、とても大切なモノです」

 ネアはそう言うと遠い目をして湯の中にブクブクと潜っていった。

 

 ネアたちがちょっとのぼせ気味で風呂から上がり、薄手の普段着に着替え終え、ロビーのソファーで寛いでいるとヒルカが良く冷えたジュースを持ってきた。

 「今年は、甘瓜が豊作でね。その上、出来がいいのよ。思いっきり甘いけど、すっきりしているから、飲んだ後で変に喉は乾かないはずよ」

 ヒルカがネアの前に置いてくれたガラスのグラスにはうっすらと霜がついており、中の液体が冷えていることが見て取れた。

 「冷たい、でも美味しい」

 早速、グラスを両手で抱えるように持ってジュースを飲んだティマが嬉しそうな声を上げた。

 「冷たいっ、素焼きのポットで冷やしてもここまでいかないよ」

 「いくら、ここが涼しくても、なんでこんに冷えているのかしら、変換石を敷き詰めてもこんなに冷えないもの」

 フォニーとラウニがジュースの美味しさに感動しつつも、素朴な疑問を発していた。

 「変換石じゃないとすると、氷室かな・・・」

 ネアは火照った身体で冷たいジュースを堪能しながら己の推理を呟いた。

 「流石ね、ネアちゃんの言う通り、この宿の地下に冬の間に積もった雪を貯めているの。これで食料やら飲み物を冷やしているのよ。温泉があるから、いい場所を見つけて、断熱の処置をするのが大変だったけどね。下手に掘るとお湯を運ぶパイプを痛めそうだったし、この辺りって、地味に地熱が高いみたいでね。あの人がキレたのは片手じゃ足りなかったわ」

 ヒルカは当時のことを思い出したのか、クスリと笑った。

 「この冷たさに、そんな熱き想いがこもっているんですね」

 ジュースを飲み干したネアが冷たさと甘さの余韻にしたりながらヒルカに尊敬のまなざしを向けた。

 「上手い事言うねー、ネアさんに座布団1枚」

 フォニーはネアの言葉に頷いて、誰かを呼ぶような仕草をした。

 「え?」

 どこかで聞いた様な台詞にネアに驚愕の表情が浮かび上がった。

 「上手い例え話とか、気の利いた台詞を言った人に対する称賛の言葉ですよ。何故、座布団なのか、人を呼ぶ仕草をするのかは分からないですけど」

 不思議を全身で表しているネアにラウニが当然のように説明した。

 「いつ頃からそんな台詞があるんですか?」

 「さぁ、考えたこともありませんよ。ネア、何か気に障ったのですか」

 「真面目なネアには受け入れられないのかな。ごめんね」

 身を乗り出して聞こうとするネアにラウニとフォニーが少し引き気味になり、ネアが揶揄されたことに気分を害していると思った。

 「違うんです。その台詞・・・、いえ、いいです。気にしていません」

 ネアは言葉を収めるとため息をついて、難しい表情を浮かべて考え込んだ。

 【この台詞、前の世界で耳にしたことがある。俺や彗星がここに来たのは最近のことだから、この言葉は前に来たまれ人が伝えたのか。少なくともそいつは俺と同郷か・・・】

 ネアはこの言葉を伝えたまれ人に会いたいと思ったが、多分、彼、もしくは彼女は既にこの世にいないだろうと考えていた。

 「座布団のお話より、夕食までまだ時間があるから、散歩でもしてきたらどうかしら。ここは、都と違って涼しいから、気持ちいいと思うよ。川には入らないでね。ここの川は流れが速くて、冷たいから」

 ヒルカに促され、ネアたちは宿から出ると、うるさいぐらいのセミのような虫の声があちこちから響いていた。

 「セミ・・・?」

 この世界にもセミがいるのか、いたしてそれはセミと呼ばれているのか、分からなかったが、数十年ぶりに聞くその音に思わずつぶやいていた。

 「そうだね、セミだね。都ではあまり多くないから気にならないけど、こうまで多いと大迫力だね」

 フォニーはネアの言葉を耳にして、今、大声で鳴き散らかしているのがセミであることを伝えた。

 「何セミだろ?」

 「セミはセミだよ」

 「鳴き方で種類が違うとか、形が違うとか、一種類じゃないでしょ。だって、いまでもいろんな鳴き方が聞こえてくるし」

 ネアの単純な質問にフォニーは首を傾げた。

 「それは、学者先生が気にする領分だよ。うちらには、セミってことだけで十分だと思うけど」

 フォニーの言葉にネアは、この世界では、生物に対する興味や学問が一般的じゃないのかと思った。

 「ギャーギャー鳴いているのは、怒りゼミ、ビービーと鳴いているのが、涙セミですよ。怒りゼミは涙セミより大きくて、黒いんです。フォニーは虫が苦手だから、興味がないんですよ。セミの声も夏の初めの月、盛りの月、終わりの月では変わってくるんです。私は田舎の開拓村出身だから、この声で季節を知って、畑の仕事をしていた人もいましたよ」

 ラウニはネアの素朴な疑問に答える形で、虫の鳴き声により季節を知るという風流な事も教えた。

 「あたしのいた所は、バタバタって言ってたよ・・・ました」

 「住むところが違うと、そこにいる動物たちも違ってくると思いますよ」

 ティマがセミたちが鳴き喚いている気を見上げて、自分の住んでいたところの夏の風景を思い出していた。それを聞いて、ネアはこの世界も前の世界と一緒で環境によってさまざまな生物がいることを知って、自分の考えを口にしていた。

 「そうだとしても、うちは虫は嫌いなの。だって、あの目、固い身体、動き方、好きになれないよ」

 フォニーはそう言うと、大げさに身体を震わせた。

 「ネアが甘いものが苦手と言うのと一緒ですね。服の中に入っても大騒ぎして服を脱がない様に、あの時は小さかったから良かったけど、今は・・・ね。胸も大きくなってきているんでしょ」

 ラウニがニヤリとしながらフォニーをじっと見た。

 「虫は、病気を持ってくるんだよ。それで、お母ちゃんも・・・」

 しゅんとなったフォニーにラウニは言い過ぎたかと後悔した。

 「前に言った、お店に行きましょうよ。なにか、いい物があるかもしれませんよ」

 ネアはそう言うとティマの手を引いて、広場にある店の方向にさっさと歩き出した。

 「あのままだと、辛気臭いことになりそうだからね」

 「悲しいことは忘れないから・・・、でも、辛気臭い顔をしていると辛いことや悲しいことが津波のように押し寄せてくるって、ハッちゃんも言ってた」

 「そうだよね。ハッちゃんって時々、凄いこと言うよね」

 ネアはティマの手を引きながら、いつも飄々と我が道を行くようなハチが別の面を見せた開拓村での事を思い出していた。


 「おやー、久しぶりだね、お館の侍女のお嬢さん、あら、かわいい新顔の子もいるんだねー」

 広場に面した、万事屋と駄菓子屋が不義密通を重ねてできた様な店の店主であろう真人の老婦人が嬉しそうにネアたちに声をかけた。

 「こんにちは、お久しぶりです。前のクッキー美味しかったです」

 「お土産に奥方様にお渡ししたら、野趣にあふれているけど、おいしいって言われてましたよ」

 ラウニとフォニーが早速、前に買ったクッキーの入った紙袋を手にしていた。

 「この、お茶が美味しかったです」

 ネアは、何かの薬草を干したような茶葉の詰まった紙袋を手にしていた。

 「え、奥方様が、それゃ、うれしいねー、その上、こんな名誉なことはないよ。お嬢ちゃんありがとうね」

 彼女はにこにこしながら、店の奥に引っ込むと、冷えたお茶が淹れられたカップを人数分トレイに載せて持ってきた。

 「ありがとうございます。あら、これって」

 ラウニが店で売られている物を手に取って驚いたような表情になっていた。

 「ラウニ、何があったの。それって・・・」

 「『お部屋でかけっこ』ですよ。いつの間に」

 ネアたちが店に置かれていた『お部屋でかけっこ』と銘打たれた箱に見入っていた。

 「お姐ちゃん、それ、なに・・・ですか」

 驚いた様子で『お部屋でかけっこ』の箱を見つめているネアたちにティマが首を傾げながら尋ねてきた。

 「これは、前のお休みの時に、私たちがレイシーさんに手伝ってもらって作ったゲームです。あの時は、作りかけをここに置いて行ってしまったんですよ」

 「これは、お嬢さんたちが作ったのかい。これは、子供だけじゃなくて、大人にもウケてね。今、熊のお嬢さんが持っているのが基本セット、これは、拡張セット、中身は売っている私も分からないから、買ってからのお楽しみだよ」

 ラウニがティマにゲームについて説明していると、老婦人が嬉しそうにそれが今や土産として人気があることを告げ、拡張セットとされたイベントが描き込まれているマスが入った紙袋を手にしてネアたちに見せた。

 「この小さいの、可愛い、まるでラウニお姐ちゃんみたい」

 ティマは『お部屋でかけっこ』の箱が積まれている横にきれいに並んだ小さな駒を手に取って、それとラウニを見比べた。

 「え、駒まであるの。あ、これキツネ、これはネコだ・・・、すごいよティマにリスもウサギもイヌもいるよ」

 ラウニはそれらの駒を手に取って驚きの声を上げた。それは、ねあたちが当初作ったコルク栓に毛糸の尻尾をつけたような簡単なモノでなく、きれいな木彫りの可愛らしい駒であった。

 「フォニー姐さん、それ、イヌじゃなくてオオカミですよ。イヌはこれでしょ」

 ネアはどこかのオーディオメーカーのトレードマークのような垂れた耳のイヌの駒を手にして、フォニーに見せた。

 「これ、オオカミだったんだ。なんか、可愛かったからイヌかと思ったよ」

 フォニーは手にしたオオカミの駒をしげしげと見つめた。

 「ここに、色違いで真っ白のオオカミもありますよ」

 フォニーはラウニが手にした真っ白のオオカミの駒を複雑な表情で見つめた。

 「あ、これ、アーシャおねーさんだ」

 ティマはネコに似た黄色い身体に特徴的な斑点をもった米豹の駒を手に取っていた。

 「これは、レイシーさんかな」

 米豹に比べて幾分かすらっとした真っ黒な大型猫族を思わせる駒を手に取ったネアはそれを先輩方やティマに見せた。

 「それは、ちょうと違うんだよ。これが、限定生産のヒョウの親子バージョンだよ」

 老婦人が手にしたのは先ほどの黒い豹が小さな黄色い身体に斑点のある豹をやさしく咥えている駒だった。

 「限定版って、これ買っていきましょう。売り切れると残念だから」

 ラウニは老婦人から限定版豹の親子を手渡してもらってじっくり吟味してから決心したように後輩たちに告げた。

 「お値段も手ごろだし、この灰色のオオカミと垂れた耳のイヌ、こっちのキツネも・・・ついでにこの白いオオカミも欲しいなー」

 フォニーは灰色のオオカミを手に取るとそっとキツネを手の中で一緒にした。

 「これ、ネアお姐ちゃんと一緒だね。この耳の感じとお腹の色はあたしと一緒」

 ティマは白黒ハチ割れのネコと自分によく似たリスの駒を手にしてネアに見せた。

 「じゃ、ネコとリスの駒を買うね。これは、私からのおごりですよ」

 それらの駒は限定生産の豹の親子も含めて子供のお小遣い程度で十分に購入可能な価格であった。

 「お土産として、タミーさんに似たこの羊もかいましょうね。全部でいくらになるでしょうか」

 ラウニはフォニーが手にしている分、ネアが手にしている分に自分のツキノワグマと親子豹をそれぞれ見て老婦人に声をかけた。

 「本来なら、中銀貨2枚だけど、お嬢さんたちのおかげでもうけさせ貰っているから、半額の中銀貨1枚でいいよ」

 老婦人はちょっと考え込んでから思いっ切った値下げを実行した。

 「私とフォニーは小銀貨4枚ずつ、ネアは小銀貨2枚でいいですよね」

 「いいお土産になるモノね、うちはそれでいいよ。で、ネアは」

 「ラウニ姐さんの言う通り」

 ネアとフォニーはそれぞれ財布から小銀貨をラウニに手渡した。ラウニは手渡された小銀貨を自分の財布に入れると、中銀貨1枚を取り出して老婦人に手渡した。

 「ありがとうね。小分け用の袋をサービスするよ。かわいい模様が入っているだろ」

 老婦人はネアたちに小さな紙袋を取り出してみせた。それには、花びらや木の葉の模様がきれいについていた。

 「かわいいね」

 紙袋を目にしたティマが思わず声を上げた。

 「これは、印刷じゃなくて、紙を作るときにお花や木の葉を一緒にすいたもんだよ。最近、これをこの村の特産にしようとしていてね。お嬢さん方も良ければ、お館の人たちに見せてくれないかい」

 「可愛いし、頑丈にできているし、これは、奥方様のお気に入りになりそうだね」

 フォニーがそっと灰色のオオカミの駒を紙袋にいれながら感嘆の声を出していた。

 「じゃ、次は私たちのおやつを買いましょうか」

 それぞれの駒を小袋に入れるとラウニは店内を再び見回した。

 「ハチミツのダイレクト飲みはダメだよ。虫歯になっちゃうよ」

 ラウニの視線がハチミツの入った壺に釘刺しになっているのを察したフォニーが肘でつついた。

 「病気になりますからね・・・」

 ラウニは意志の力を結集して視線をずらした。


 「今回は収穫が大きかったね。いいお土産が早速手に入ったし」

 フォニーがゲームの駒が入った紙袋がつまった袋と自分で買ったお菓子の詰まった紙袋を大事そうに抱えて嬉しそうな声を上げた。

 「これで、雨の日も楽しめますからね」

 そう言うとラウニは『お部屋でかけっこ』の基本セットの箱と拡張セット3袋を嬉しそうに掲げた。

 「どんなゲームかな、あたし初めてだから」

 ネアに手を引かれながら、自分の小遣いで買った飴の袋を大切そうに胸に抱えたティマがキラキラとした目でネアを見つめた。

 「うーん、期待しすぎるとがっくりするかも、でもつまらないことはないと思いますよ」

 ネアのおっさんの部分は子供だましのゲームと思っていたが、あえてそれを口にすることはなかった。

 「駒もかわいいから、きっと楽しいよ・・・ですよ」

 ティマが無邪気に言う姿をネアは優しく見つめた。

 【自分に子供か孫がいればこんな気持ちになるのかな】

 ネアは改めて、前の世界で自分が蔑ろにしてきたことを思い返して、少し後悔を感じていた。


 余談であるが、その日の夕方、フォニーが一人で店に現れて、キツネと灰色のオオカミの駒を買ったことはフォニーと老婦人の間の秘密となった。

ネアたちが図らずも置き土産とした『お部屋でかけっこ』がヒットしているようです。ネアたちの宿代の理由もこのことが影響しています。ゲームの駒は指でつまめるぐらいの大きさで、木製で彩色されたものです。初期生産品は無駄に精巧に作られているため、この後プレミアがつくでしょう。その内、ボウルの店で取り扱う予定です。

今回も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございます。少しでも、外出できない退屈な時間をコレで潰して頂ければ幸いです。

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