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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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14 新しい生活の序章

遅々として進展しない物語・・・・

今回は髪を切ってもらうまでです。因みに、ネアの髪は伸び放題です。

 ネアは自分の味覚に戸惑っていた。

 【クッキーがこんなに美味いなんて、甘さが心地よいとは・・・】

 慣れた手つきでフォニーが淹れてくれた(但し、ルップのカップに淹れるときは妙にぎこちなかったが)お茶の入ったカップを肉球のついた小さな両手でしっかりと掴み、マズルの端からこぼさない様に慎重にお茶を飲みながら、クッキーの味の余韻を楽しんでいた。

 「貴女、お名前以外は分からないの?」

 ネアは、カップを手にした奥方様が優しく問いかけるのに小さく頷いて応えた。名前については、前の世界での名前すら思いだせない有様である。前の世界の知識や経験がどれだけこの世界で活かせるかも未知数である。スージャの関の一件はただ、運が良かっただけのことである。

 「そうすると、お誕生日も分からないのね」

 奥方様は、ちょっと考えると

 「泉で会った日がお誕生日ということでいいかしら?」

 奥方様の言葉にネアはビクリとした。ここに来てまだ泉に沸いて出たなんて一言も言っていないのにである。

 「勿論、黒猫ちゃんとは関係なしにね」

 奥方様は、お館様から聞いているのか、含みのある言葉と笑顔をネアに投げかけるとカップの中のお茶を飲み干した。二人のやりとりを先輩に当たる二人の獣人の少女が不思議そうに見ていた。

 「黒猫ちゃんじゃないよね、あの子・・・」

 「白黒のハチワレ柄にしか見えない」

 侍女二人の疑問なんぞ我関せずで奥方様はネアを見たまま

 「ここで、侍女として暮らしていく気があるかしら。できれば、ここで侍女をして貰いたいんだけどね」

 「断ると・・・?」

 おずおずとネアが尋ねると

 「そうね、随分と面倒なことなるかもしれないわね。私たちも、貴女もね」

 にこやかな表情のまま含みのある答えを返してくる奥方様に少々の怖さをかんじつつ

 「できるか、分からないけど、侍女します」

 ネアはぺこりと奥方様に頭を下げた。ここで、意地を張って何の伝手も無い世界で一人で生活し、奥方様言うところの「面倒なこと」に引きずり回されることを考えれば選択する方針はそれ以外ありえなかった。

 「良かった」

 奥方様は笑みを浮かべてネアの頭を優しく撫でた。

 「ちょっと長いし、乱れているわね、折角のステキな毛並みなのに・・・。ルップ、この子の髪をちゃんと梳かしてあげた?」

 奥方様の問いかけにルップは固くなりながら

 「あ、あの、そこまでは、その気付きませんでした」

 しどろもどろになりながら答える、その姿を見てフォニーは内心で「ザマミロ」と舌を出していた。

 「これだから、男はね・・・、ルップ、小さなことのように見えるかも知れないけど、大切なことなの。忘れたり、見落としたりしたら、きっと後悔することになるから。相手の気持ちを察することはとても大切よ。それと、この子を侍女をするには、その髪はちょっと長すぎるわね。髪結いのハトゥアの所に連れて行って綺麗にしてあげなさい。ここのことは私たちでやるから、ラウニとフォニーはこの子の面倒を見てあげてね。名前以外は何もかも思い出せないみたいだから、基本のこと・・・、おトイレの使い方・・・、その前にオシッコの仕方から教えてあげなくてはいけないかも・・・」

 奥方様はにこやかに結構キツイことを言ってくれた。少しばかりのネアの自尊心がチクリと疼いた。

 ルップもちょっとお説教を喰らってしゅんと縮こまってしまった。

 『鈍感すぎるの』フォニーはでかかった言葉をすんでのところで飲み込んだ。

 「おトイレからですか・・・」

 ラウニが半ばあきれたようにネアを見つめた。

 『聡そうな子に見えたのに・・・』

 何となく、残念な気分になったのは事実である。猫族らしい愛らしさと、白黒の絶妙なバランスの柄など見た目は申し分ないくらい可愛いのにと。

 「私はこの子をハトゥアの所に連れて行くから、フォニーはお風呂の準備しておいてあげて、ブラシは忘れずにね」

 ラウニはなれた調子でフォニーに指示を出すと

 「急ぐことは無いわよ。フォニーは髪結いには昨日行ったでしょ。今日は念入りにおめかししてたしね」

 にっと笑みを浮かべながら一言二言付け加えた。その言葉を聞いてフォニーは言葉にならない抗議の唸りを発したがそんなことお構いなしに

 「坊ちゃん、どうぞごゆっくり・・・、フォニーもね」

 最後の台詞はささやくようにフォニーに告げると

 「さ、綺麗にして貰いにいきましょう。折角の可愛い子が勿体無いからね」

 ちょっと大き目の手でネアの手を取ると

 「髪結いに行ってまいります」

 奥方様に深々と頭を下げた。それに対して奥方様は笑顔で頷いて、注文を一つ付け加えた。

 「とびきりに可愛くしてあげてね」


 「アナタ、本当に名前しか分からないの?」

 ネアの顔を覗き込むようにラウニは尋ねた。ネアとしては、本当は名前すら思い出せないのである。今、名乗っている名前も2、3日前にお館様に付けて頂いたものなのであるが、それを口にするとややこしくなりそうなので、ただ黙って頷くだけにとどめた。


 「ハトゥアさん、いますか?」

 お館の裏にある本館以上に飾り気の無い建物の1階の片隅にある小さな部屋に着くとラウニは大きな声でこの部屋の主を呼び出した。

 「なぁにー、せっかくお昼寝してたのにー」

 妙に間延びした甘ったるい声の返事があった後、目をこすりながら腰まであるような見事な赤毛を綺麗にまとめ、白衣を着た眠そうな表情の若く見える真人の女性が出てきた。

 「この子を侍女らしくお願いします」

 ラウニがそっとネアの背を押した。

 「あーら、可愛い子猫ちゃんねー、こっちおいで、そ、この椅子に座って」

 ハトゥアはネアを招くとさっさと椅子に座らせた。椅子の正面には大きめの鏡が壁にかけてあり、ネアは否でも己の姿を思い知ることになった。

 【猫だな、しかも白黒のハチワレ模様・・・、可愛いとか綺麗とかの基準はナンなんだろう。猫といえばば、大体は愛らしいものなんだが・・・】

 鏡の中の猫の少女が難しい表情に睨んでくる。

 【毛に覆われているから表情は分かりにくいかなと思ったが、思ったより表情にでるなー】

 鏡の中の少女が苦笑した。

 「貴女、短毛種ね、でも、この髪の質はステキね。きれいにブラッシングすると綺麗な光沢が出るタイプよ。このタイプはそう多くは無いから、持ち腐れにしちゃダメよ」

 ハトゥアは慣れた手つきでネアの髪にブラシをかけていく。

 「奥方様から、とびきりに可愛くしてあげて、と言われてきました」

 ネアの髪質の話を聞いて少し彼女を羨ましく感じながらラウニはハトゥアに奥方様の言葉を伝えた。

 「カワイイを重視ね。了解、時間がかかるからラウニは自由にしていていいよ。そこのソファでお昼寝してても、ご本を読んでいても構わないから」

 ハトゥアはラウニに声をかけると

 「さ、見違えるように変身させてあげるからね」

 闇を含んだ笑顔をネアに見せると、鏡の下に置いてあるチェストからピカピカのはさみを取り出した。心なしか鏡の中の少女の表情に不安の色が滲んだようにネアは感じた。

ブックマークをして頂いた方、評価してくださった方に感謝します。


しかし、異世界での大冒険はいつになることやら(タメ息)

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