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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第10章 出会い
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127 思いついた無謀なこと

寒くなってきましたが、お話の中ではまだまだ夏です。

お話の中の時間の流れは・・・、お察しの通りです。

 「思ったより早く着きましたね」

 村を見つけたルロが、うっすらと額に浮いた汗を手で拭いながらため息交じりに吐き出した。

 「村というより、急ごしらえの砦みたいね」

 バトの言う通り、その村は森の中を切り開いた空き地の中に丸太を突き刺した壁に囲まれ、丸太を組み慌て作られた物見櫓がひとつあるものであった。そして、その中に入るには堀にかけられた跳ね橋と村民が主張する橋を通る必要があった。

 「危険な動物や、厄介な野盗の類から守るためですよ。村と言っても、騎士団と開拓を兼務している人が数名とその家族、そして開拓者が20数名程度だからね。下手な関より人数は少ないかもしれませんね」

 誰に言うともなくアリエラが開拓村についてざっと説明しているうちに輜重隊は跳ね橋を渡っていた。

 「門番がいない・・・」

 どんな小さな村でも出入りするには身分証を見せる必要があった。身分証を持っていないと、面倒な手続きと町や村に入るための料金を支払わなくてはならない。この金額は地方によりさまざまであるが、大概がどこでも示し合わせたように、その町や村の安酒一杯程度の金額に一致していた。

 「割と広いねー」

 フォニーは、村の中に入ると辺りを見回して素直な感想を口にした。その村の真ん中には大人の男の背丈ぐらいの直径の泉があり、そこから透き通った涼やかな水が気前よく湧き出ていた。その泉を中心として家がここで開拓に勤しむ家族数と倉庫や集会場などが点々と存在しているだけであった。

 「広いというより、何もないと言った方がいいですね」

 村と聞いて少しぐらいは美味しいものがあるかと期待していたラウニがちょっとがっかりしたように肩を落とした。

 「なんか、こう広いと走り回りたくなるよね」

 そんなラウニと全く違う方向でこの村を見ているものがいた。レヒテである。

 「団長が来るまで時間がいっぱいあるから、森で狩りでもしようよ」

 レヒテは明るくパルに呼び掛けた。パルはそんなレヒテの言葉を聞いて、きっとレヒテを睨みつけた。

 「森は危険です。もし迷ったらどれだけ迷惑をかけるとお考えですか。お嬢」

 「迷わないよ。私、こう見えても方向感覚は確かだし、熊もでっかい猫も狩れるよ」

 レヒテはパルの言葉を意に介さず、ワクワク感を隠し切れず、今にでも森に駆けて行きそうな様子であった。

 「もし、お嬢が狩りに出かけると聞かないなら、目の前の狼を狩ってからにして頂けますか」

 「犬も一緒にお狩りください」

 パルとメムの主従は並んで、抜剣も辞さない勢いでレヒテを睨みつけた。

 「僕もパルと同じだよ」

 ギブンはすっとパルの横に立った。レヒテは思わず援軍を得ようとネアたちを見た。

 「お嬢、私たちはパル様と同じ考えです。もし、万が一、何かあれば、どれだけの人に迷惑をかけるか分かりませんか」

 ラウニは腕組みしてレヒテを睨みつけた。その眼には凶暴な暗君に苦言を申し上げる忠臣のそれと似ている決意の色があった。

 「お嬢の考えも面白そうなんだけどさ、ラウニの言う通りだよ。お嬢に何かあったら、ここにいる私らは皆、それぞれの責任を取らなくちゃならなくなる。勿論、今のままお館で務めることなんてできなくなるよ」

 珍しくバトがまともなことを口にしているのにルロは驚愕の表情を浮かべた。

 「何か悪いものを食べたのですか・・・」

 「私も、真面目な時はマジメだよ。ふざける時も真面目にやっているから」

 「・・・そうですね、私たちは良くてクビ、ひょっとするとケフの郷から追い出されるでしょうね。現場にいたバトさん、ルロさん、アリエラさん、輜重隊長、ハッちゃんも罰を受けることになるでしょうね。騎士団長が最も重い罰を受けるでしょうね」

 ずいっとネアはレヒテの前に進み出て、殺すことも辞さぬような目つきで睨みつけた。

 「な、なによ。皆で私が悪いみたいに・・・」

 周りの剣幕にレヒテは不満の声を上げた。そんなレヒテの背後からそっと彼女の肩を叩く者がいた。

 「ハ、ハッちゃんは、あんなこと言わないよね」

 振り向いたレヒテの目にユデダコのようなハチの姿が飛び込んできた。

 「お嬢は幸せ者でやんすなー」

 ふくれっ面のレヒテにハチは満面の笑みを浮かべて話しかけた。

 「なにを・・・」

 「お嬢、普通の家臣ってのは自分の身を案じて主人の言われるままに動くものでやんすよ。それが、ここのご家中となると、本当にお嬢の身を案じ、主人の軽率な戒めなさる。このような家臣は何よりもの宝ですぜ。ついでと言っちゃなんでやんすが、このハチ、バルお嬢様と考えは同じでやんすよ」

 バトと同じように、まさかのハチから吐き出された台詞にルロはその場にへたり込みそうになった。

 「ハ、ハ、ハッちゃんまで・・・、これって、何かの魔法とか・・・」

 「あっしは思ったことを口にしたまででやんすが」

 あまりのことに精神の安定を何とか保とうとしているルロにハチが何もないようにしれっと言い放った。

 「・・・」

 「お嬢、あたしも狩りに行ってみたいけど、皆が困るから我慢するよ・・・します」

 うつ向いてしまったレヒテを見上げるようにティマが明るく声をかけた。小さなティマの心遣いに思わず、レヒテはティマを抱きしめていた。

 「お嬢、それはズルいやり方です。いくらお嬢と言えども」

 パルは打って変わったようにティマのもとに駆け寄るとレヒテをティマから引き離そうとした。

 「お嬢、バル様、このようなことはティマの師匠である私の許可なしでやってもらっては困ります」

 ティマの取り合いをしている2人のもとにアリエラが駆け付けると2人を引き離そうとした。

 「じゃ、アリエラに許可をとればいいのね」

 「アリエラ、いいですよね」

 レヒテとパルはアリエラに許可をもらおうとした。

 「師匠としては誰にも許可は与えません」

 そんな2人にアリエラはぴしゃりと言い放つとティマの取り合いは三つ巴の様相となった。

 「痛いよ・・・」

 もみくちゃにされたティマが小さな悲鳴を上げると3者は弾かれるようにティマから離れた。

 「ティマ、ごめんね」

 「ティマちゃん、私としたことが・・・、ごめんなさい」

 「師匠としてあるまじき行為、許してもらいたい・・・、ごめんなさい」

 いずれもティマからすれば上位者がそろって頭を下げる異常な風景に戸惑いながらもティマはにっこりすると頭を下げた。

 「痛いことしないなら、いいよ・・・です。ぎゅっとされるの・・・好きだから・・・です」

 戸惑いつつ語られるティマの台詞に襲い掛かった3者は3様に悶えることになった。


 「親分・・・じゃない、団長、攻撃するには相手の3倍の力が必要だってきいたことありますか」

 レブルの部下の中で数少ない真っ当に読み書きができる真人の痩躯の男が開拓村を見下ろせる丘の上でニタニタと成功することしか考えていないレブルにおずおずと尋ねた。

 「知っているぞ。ここにいるのは一騎当千、そして俺たちは15人もいる。すると、えーとだいたい300名ぐらいの兵力に・・・」

 「その計算で行くと、1万5千人です」

 レブルの怪しげな計算にすかさず突っ込みを入れる痩躯の男であった。

 「細かいことはいいんだよ。そんなに大きな兵力だぞ、負けるわけないだろ」

 「そうだー、俺たちは強い、負けない」

 レブルの言葉に多くの部下たちが歓声を上げた。そんな様子を見て痩躯の男は頭を抱えた。

 「ダメだよ。お前が思うような普通の考えができるなら、こんなことになってないだろ」

 もう一人の読み書きが真っ当にできるドワーフ族の男が頭を抱える男の背中を優しくたたきながら忠告した。

 「どうやって、惨劇から回避するか、俺たちが生き残るかの問題になっているんだよ」

 痩躯の男はドワーフ族の男の言葉に痩躯の男は頷き、その他大勢の部下とともに雄たけびを上げている団長を可哀そうなモノを見るような目で見ると、ちょっと考えてから口を開いた。

 「団長、それでも正面からの力攻めは我々の損害も大きくなります。普通なら3人倒したら3人ですが、一騎当千の我々が3人倒れると、3千人の損害なんですよ」

 「3千もだと・・・、それは大きいな」

 うーんと考え込むレブルにさらに痩躯の男が畳みかける。

 「大きい損害になります。良い指揮官は部下の損害を最小限にできる者です。団長、ここは、何か策が必要かと思います」

 この言葉にさらにレブルは考え込んでしまった。痩躯の男としては、このままレブルが考え込んで知恵熱でも出して寝込んでくれればいいと考えていた。

 「うーん、そうだ、奇襲だ、奇襲だよ」

 レブルは考えて、そしてされらしき言葉を頭の中でみつけるとそれこそが正しいやり方だと確信した。しかし、彼が奇襲を理解しているかというと、そうではなかった。

 「奇襲だ、奇襲だ、奇襲だ」

 ほかの部下たちは言葉の意味すら理解せず大声で吠えたてる。痩躯の男とはドワーフ族の男は顔を見合わせて深いため息をついた。

 「よし、今夜、あいつらに奇襲するぞ。その前にあいつらの村を取り囲んで散々怖がらせてやるぞ。恐怖に竦んで動けないところを堂々と奇襲するぞ」

 彼は、さらにいいことを思いついたらしく、胸を張って奇襲がその体をなしていないことを口走った。それを聞いた痩躯の男はレブルの言葉を聞くと隣にいたドワーフ族の男に祖っと耳打ちした。

 「俺はずらかる」

 「いい考えだ、俺もそれに乗る」

 一部の部下が離反することを気づくこともなく、彼の言う作戦らしきものが奇襲になっていないことに気づくこともなく、さらに自分の考えがティスプーンのくぼみより浅いことに気づくことなくレブルの暴走は開始された。


 「ん?」

 ラウニが耳を動かして壁の上にちょっと顔を出している丘の方向を見て首を傾げた。

 「どうしたんですか」

 ラウニの動きが気になったネアがラウニと同じように首を傾げながら聞いた。

 「あっちの方から人の声が聞こえたみたいで・・・」

 ラウニは丘を指さした。

 「あ、ウチにも聞こえるよ」

 フォニーが耳を丘に向けてうっすらと目を閉じ、聴覚に集中しながら小声で言った。

 「確かに聞こえます。大声で騒いでいるみたいですね」

 ネアの耳にも男たちの野太い叫び声のようなものが聞こえた。そんなネアたちの動きに気づいたアリエラがちょっと緊張した表情でやってきた。

 「どうしたんですか?」

 「アリエラさん、あの辺りで騎士団は訓練しているんですか?」

 ネアは丘を指さしながらアリエラに尋ねた。

 「えーと、あそこは今回の訓練の地域になっていませんが」

 「すると、この声は誰のかな・・・」

 フォニーはアリエラの答えを聞きながら首を傾げた。

 「なんて言っているんですか?」

 「そこまでは分かりませんが、10人ぐらいの男の人が騒いでいるみたいです」

 ラウニが不安そうに感じたことをそのままアリエラに伝えた。

 「野盗の類かもね」

 「それなら、よほど頭が足りない連中になりますね」

 アリエラの背後からひょこっと姿を現したバトとルロは互いを見合って認識を合わせていた。

 「あの折れた草、この声・・・、ひょっとすると我々は狙われているのかもしれません。騎士団の本隊がここに着くまで、我々だけでこの村を護ることになりそうです」

 アリエラは緊張した面持ちでネアたちに懸念している事項を述べた。

 「そうすると、私たちの今持っている力を確認することが必要ですね。弓はどれぐらいあるか、矢は何本か、戦える人数はどれぐらいいるのか」

 アリエラの懸念を聞いたネアはしばらく考えてから彼女にアドバイスするように呟いた。

 「輜重隊長と村長を呼んできます。私の先走りですめば笑い話で済みますが、もし、奴らが攻めて来たら笑い話にもなりませんから」

 アリエラはそう言うとその場から駆け出して行った。その背中を見ながら、

 【なかなか、いい判断するなー、これでもう少し胸があったら言うことなしなんだが】

 と、ネアのおっさんの部分はアリエラの動きやその他を評価していた。


 「それは、本当のことか?」

 アリエラの言葉を聞いた輜重隊長が焦ったような口調で彼女に詰め寄った。

 「私の空振りだったら、後で笑うなり、処分してください。でも、万が一にでも」

 アリエラの言葉を聞いて輜重隊長は深く頷いた。

 「俺たちは飯を作ることに関してはそれなりの腕だが、剣の腕は包丁の腕の足元にも及ばないことは知っているよな。それでも、普通の連中よりかはマシな程度だ。それが、6人、で、持っているものは全員が片手剣を1本、槍が2本。後は弩が5挺、矢が300本だけだ」

 輜重隊長の言う兵力は余りにも頼りがないように思えた。もし、アリエラが、この村に攻めてくるレブルたちの数、能力を知っていれば悩むこともなかっただろう。

 「我々は、開拓に任じている騎士団員が3人、俺を含めて大人の男が5人だ。後は女と子供だ」

 村長は渋い表情を浮かべた。

 「村長、俺たちは只の開拓者じゃないぜ、自慢にならんけど元は傭兵だ。それも、去年、郷主様と女神さまが遣わしてくださった少女に助けられた屠殺職人傭兵団員だ。下手な野盗より使えるぜ。それに母ちゃんと産まれてくるガキのためにも黙っているつもりはないぜ」

 浅黒い肌のガタイのいい男がそう言うとそっと目を向けた方向に大きなお腹を慈しむように撫でる鹿族の女性の姿があった。

 「戦えそうなのは輜重隊の6人、村の8人、そして私とバトとルロ、ハッちゃんの4人・・・、全部で18人か・・・」

 アリエラはちょっと心細げにつぶやいた。

 「アリエラさん・・・」

 思案するアリエラの袖をネアは引っ張り人気のない倉庫の中に引っ張っていった。

 「偵察ぐらいはできますよ。道具さえあれば、ちょっとしたトラップも仕掛けられます」

 突然のネアの申し出にアリエラは目を丸くして、小さな猫族の少女を凝視した。

 「え、これは遊びじゃないですよ。下手したら死にますよ。それに偵察は私の本職だし」

 「分かっています。でも、私にはそれができます。このことは、他の人には黙っていてくださいね」

 アリエラはとんでもないことを言い出す小さな少女の目を見つめた。そこには、下手な正義感や子供ならではの全能感からの戯れではない目があった。

 「ネアちゃん、できるの」

 不安そうにアリエラが尋ねた。どう見ても目の前の少女にそんなことができるようには見えなかった。

 「弩と矢を50本、粗い目の古びた布、古いシーツ1枚、ぼろ布バスタタオル一枚分ぐらいがあれば何とかなると思います。・・・それと、私は気分が悪くなって寝込んでいることにしてください。もし、姐さんたちやお嬢に知れたら付いて来るって騒ぎだしますから」

 ネアはちょっと考えてから必要となるものをアリエラに伝えた。

 「ええ、手に入れてきますよ。それって何に使うの」

 ネアが欲しがっているモノにアリエラは首を傾げたが、ネアはそれに対してニコニコとするだけだった。


 「これでいいかしら」

 ネアの前にアリエラは目の粗いぼろ切れや弩や矢を置いた。ネアはそれらを手にして吟味しだした。

 「・・・これは麻みたい、この布は・・・、いい感じ」

 ネアは倉庫の中で見つけた汚れた袋にぼろ布を入れだした。

 「皆を門から遠ざけてください。私が出て行く所は見られたくないので、心配しなくてもそんなに遠くには行きません。このあたりにいます。情報が手に入ったら戻るか矢文で報告します。私は、皆がいなくなったらそっと行きます」

 ネアはそう言うと着ていた服を脱いで、シーツに切れ目を入れるとそれをポンチョのように身につけた。そこには猫の頭のテルテル坊主のような姿があった。そんなテルテル坊主を心配そうに見つめるアリエラをしり目にネアは袋を背負い、弩と矢筒を肩からかけると倉庫の中からそっと門をみつめた。

 「無理はしないで、もし、ネアちゃんに何かあったら、私、お嬢や侍女の方に何をされるか・・・」

 「心配、ありがとうございます。無理も無茶もしません。できる範囲のことするだけです」

 ネアはアリエラにウィンクして見せた。それを見たアリエラは意を決したように倉庫から出ると門とは逆方向に駆けていった。

 「お嬢、パル様、ちょっとお話があります。バトとルロもお願い」

 アリエラの呼びかけに侍女や輜重隊がゾロゾロと彼女のもとに集まるのを見届けるとネアは身を低くして駆け出し、そして村の外に出た。

 

ネアが何とか主人公らしき無茶なことをやろうとし始めました。

敵も相当無茶な連中ですが・・・。

地味な世界の地味な戦いの開幕します。するはずです。

そうだといいな、と思いながらやっております。

今回も、この駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

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