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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第10章 出会い
133/342

124 池のそばで

PCの乗り換えでまだまだ操作が不慣れな状態です。

ネアたちの世界は夏です。

大自然の中でのんびりキャンプするなんてステキでしょうね。

 団員たちは夜明けとともに起きだし、寝床を片付けだした。彼らの行動は慣れたもので、しばらくすると砦の中は彼らが来た時と同じような状態になっていた。

 彼らが使っているテントはネアたちが使っているものとは違い、個人が携行し、一人なら身に巻き付けて使用し、複数名からはそれぞれのシートをつなぎ合わせて大きさを変えられる構造になっていた。勿論、テントの中に余分なスペースなどある訳がなく、むさ苦しいのがオイルサーディンのように詰まって眠るのである。だから、いびきや歯ぎしり、寝言によりそれぞれがそれなりに睡眠不足となり、この睡眠不足がボディブローのように日ごとに身体や精神に響いてくるのである。この不愉快な空間に身を置くことは団長の息子であるルッブも例外ではなかった。

 「・・・眠い・・・」

 ルッブは隣で眠る熊族の斬り込み隊長のいびきに一晩中悩まされてしっかりと眠ることができていなかった。欠伸をなんどもかみ殺しているルッブを傍目に斬り込み隊長はすがすがしい表情を浮かべ、朝日の中、大きな身体をぐっと伸ばして唸っていた。ルッブはそんな斬り込み隊長を恨めしそうに眺め、ため息をつきながら硬すぎるパンを砕きだした。


 「ネア、よく外でできますね。私にはきつかったです」

 ラウニがトイレに並ぶことと、大事故を回避することを計算して、野外で用を足すという行動を採用したのであるが、大自然の中での作業には心理的な障害が多かったようで、思ったより苦労したようであった。

 「ウチは小さい時、ずっとお母ちゃんと旅してたから大丈夫だったよ」

 むすっとしてお茶に浸したパンを口にするラウニを見ながらフォニーが朗らかに言った。

 「男の人はいいよね。さっと出して、さっと済ますことができるんだから」

 「大きい方は、そうはいかないですよ」

 どことなく、うらやましそうなメムに、ネアは砕いた硬すぎるパンをかじりながら口にした。

 「おしっこだけでもあたしより楽にできるよ」

 ティマがメムに同意するように言うとメムはぐっとティマの肩に手をまわした。

 「この気持ち、分かってくれるのね。あれ、気持ち悪いけど便利だよね」

 「うん、あたしにも生えてこないかな」

 ティマは幼い感想を口にした時、背後からいきなり声がかかった。

 「生えないし、生やしてはいけません。可愛いティマにあんなモノは似合いません。メム、生やすなら貴女だけにしなさい。ティマちゃんに変なことを教えたら、いいですね」

 そこには今にも噛みつきそうな表情で腕組みしたパルが仁王立ちしていた。

 「私も生やす予定はありません。だから、お嬢様、ご安心ください」

 メムは朝の挨拶もそこそこに良く分からないことを口走った。

 「当然です。もし生やしたら、私がたたき切りますからね。あら、若、おはようございます」

 食事を終えたギブンとハチがパルの背後でぞっとしたような表情で心なしか股間を庇うように立っていた。

 「切り落とすのはご勘弁をお願いしやす」

 パルは、ぶるっと身震いするハチを見て顔が熱くなるのが感じられた。人ならば真っ赤になっているところであろう。同性に向け、己の感情を吐露した決して品があるとは言えない言葉を異性に、しかも仕えるべき主人の息子に聞かれたのである。バトなら「シモエルフ」の一言で片が付くのであるが、黒狼騎士団長の娘としてパルにしては、己の吐いた言葉は余りにも恥ずかしい言葉であり、できるものなら、この場から逃げたくなっていた。

 「お嬢様、まずい相手に聞かれててしまいましたね。ぐっ」

 うつ向いてしまったパルにメムが楽しそうに話しかけると、パルは無言でメムのマズルを鷲掴みにして、己の顔の方に引っ張った。

 「喉笛、噛みちぎりますよ」

 パルはいつものようにすました表情で静かに優しくメムの垂れた耳をめくって囁いた。

 「・・・」

 メムはマズルを掴まれたまま首を上下に振った。そしてパルが手を離すとその場に仰向け横たわって服従の姿勢をみせた。

 「よろしい、これからもメムの献身的な働きに期待しますよ」

 パルはにっこりとメムに微笑むと小さく咳払いした。

 「皆さん、おはようございます」

 パルは今まで何もなかったかのように、すましてにこやかにネアたちに挨拶をした。その姿にネアは、パルは只のお嬢様ではなく、結構したたかなのではないかと認識を新たにした。

 「お姫様、おはようございます」

 ティマが覚えたてのカーテシーをぎこちなくパルに披露した。

 「ティマちゃん」

 パルがティマに抱き着く前に人影がパルとティマの間に割り込んできた。

 「可愛いすぎる」

 パルが抱き着く前にアリエラがティマに抱き着いていた。

 「お師匠様、おはようございます」

 いきなり抱きつかれてびっくりしているティマに構うことなくアリエラは頬ずりしていた。

 「アリエラさん、ティマは私に挨拶してくれていたんですよ」

 「私は、ティマの師匠だからいいんです」

 ティマを挟んで何やら言い合っている二人を傍目にネアは食事を終えるとさっさと荷物を片付け始めた。

 「テントをさっさと畳んでしまいましょうよ。荷車に先にテントを載せないと水とか食器が積めませんから」

 ほけっとバルとティマのやり取りを眺めていたラウニたちにネアはそう言うと、テントを固定しているペグを抜こうとした。

 「?」

 前の世界でなら、苦も無く引っこ抜くことができたのに、今のネアではそれは困難だった。ペグを蹴って抜きやすくしようとするも、今の足の作りでは上手くいかない。

 「くそっ」

 小さく悪態をつくと、ネアはペグを打ち込んだハンマーでペグを横から殴りだした。自分が非力になったことへのいら立ちがあったのかも知れないが、その様子は鬼気迫るものであった。


 「各自、配置につけ」

 朝の騒ぎがひと段落する頃、団長が大声を張り上げた。その声に団員たちは弾かれたように動きだした。ネアは砦の狭間からそっと見ると、砦に続く道に赤い旗が一棹翻っていた。

 「敵は旗の方向だ」

 団長の声に鹿族の団員、弓兵隊長が弓を持った団員を指揮してそれぞれを狭間に配置した。

 「十分引き付けるようにするんだぞ。矢が届かないものを狙っても意味がないぞ」

 射手は、弓兵隊長の指示に合わせ、己の得物で最も射撃がしやすい位置をとり、射撃姿勢を整えた。

 「槍は、敵の突進を防ぐため、砦の門に展開、指示するまで、一兵たりとも入れさせてはいけません。いいですか」

 豹族の槍兵隊長は槍を手にした団員にそれぞれの持ち場の位置を指示し、槍を構えさせた。

 「俺たちの仕事は、槍が少しずつ砦内に入れる敵を叩っ斬る。もう一つ、小賢しく裏から来た奴らを手厚くおもてなしすることだ」

 熊族の斬り込み隊長は、入ってきた敵を討ち取るために団員相互が支援し、隙をつかれないような隊形を団員たちに教え込んでいた。

 この訓練はお昼ごろまで続けられた。団長とレヒテたちは一段高い場所から彼らの動きをじっと見守っていた。

 「少ないなー」

 それぞれがしっかりと配置についた状態を見たネアは独り言のように呟いた。

 「普段は殆どが他の仕事をしているからね。今回の訓練も仕事の都合で参加できない人も多いんだよね」

 ネアの言葉を耳にしたアリエラがネアに団員数が少ない理由を説明した。

 「騎士団をお仕事にしている人はいないの?バトさんやルロさんみたいに」

 訓練を続ける団員を見つめるアリエラにネアはさらに尋ねた。

 「鉄の壁騎士団は、街の中で悪い奴らと戦っているから、街が休まないように毎日お仕事があるわけ。黒狼騎士団は、何か騒ぎがなければ動かないから、常にはお仕事はないし、あっても少しの人数でできるものだから・・・、でも、私のお仕事は騎士団だけだよ」

 アリエラはネアに騎士団の構成についてざっとした説明をした。

 「心配しなくても、事があれば3日もあれば皆そろうから。大丈夫よ」

 ネアはアリエラの説明を聞いて、安心するより逆に不安が大きくなってきた。

 【3日も行動できないなんて、攻め込まれたらどうするんだよ。街道を抑えられたら、郷の町や村が孤立するじゃないか】

 ネアが難しい表情を浮かべていることを気にもせず、アリエラはティマに今実施されている訓練について、細々と説明していたが、ティマはあまり関心がないようであった。

 「アリエラ、さっき、鉄の壁騎士団は毎日仕事があって、皆騎士団を仕事にしているみたいに言ってたけど、お給料は安いよ。ね、ルロ」

 「ええ、私も刃物研ぎやらの復職してたし、バトもウェイトレスやってましたよね」

 懸命にティマに一方通行の説明をしているアリエラに、バトとルロは彼女の鉄の壁騎士団に対する認識が誤っていると訴えた。

 「ええ、私でも復職しないで食べていけるのに」

 驚くアリエラにバトとルロは鉄の壁騎士団員のあまり目立たない問題についてさらりと語った。

 「お館の侍女になれて良かったですよ。住むところもお食事もただですからね」

 「お手当も少し良くなったしね。でも、自由に出歩くことはできなくなったけど」

 彼女らは互いに見合って、「ね」と互いの認識に乖離がないことをに確認した。

 「アリエラも侍女になる?ティマと過ごせる時間も長くなるかもよ」

 バトの言葉にアリエラの心が大きく揺れた。

 「いいかも・・・」

 「ご隠居様に、いい人材がいることをお話しておきますよ」

 この時のこの何気ない会話が、アリエラの人生を大きくないかもしれないが、それなりに変えていくことになるとは誰も想像できなかった。


 昨日の夕食と大して変わらない昼食をとった後、騎士団は砦を発った。

 「次の目的地は、四つ池。ここから歩いて夕方ぐらいにつける処だよ」

 輜重隊の後を歩きながらアリエラはネアたちに次に行く所について話した。

 「騎士団の本隊は、ここから分かれて山道を補修したり、パトロールしながら遠回りするから、つくのは夜だな。それまでに嬢ちゃんたちにはまた、飯の準備を頼むぞ。そこのエルフの嬢ちゃんは連中にウケがよかったから、今回も給仕を頼むよ」

 輜重隊長がネアたちのグルーブに近づいて機嫌よさげに仕事を依頼してきた。

 「もちろん、喜んで、私の魅力でちょっとでも殿方が癒されるなら」

 「普通のエルフだったらよかったのに、かわいそうにね・・・」

 バトが元気よく輜重隊長の申し出を受けた横で、小さくルロが呟いた。

 「おい、ウェルよ。なんで、わしらと一緒におるんじゃ、お前さんは本隊と一緒に動かないとダメだろ」

 ネアたちの後ろを医療用の肩掛け袋に斧を背負って歩くドクターが大荷物を背負ったウェルに大きな声で指示をだした。

 「聞いてませんよ。それに、診療所を四つ池に作らないと・・・」

 「診療所なんぞ、これがあれば十分じゃ、お前さんは、あいつらに付き合って、何かあれば応急処置をしなくちゃならんだろ。お前さんならできるだろ。もし、ひどい場合はお前さんが背負って四つ池まで来ればよいだけだ。わしに患者を背負って山道を行けと言うなら別じゃが」

 いきなりのドクターの言葉に戸惑うウェルにドクターは無常に言い放つと、さっさと行けと背中を押した。

 「これも、医学の勉強の一つじゃよ」

 ドクターは、どこか不満そうなウェルの背中にそっと呟いた。


 四つ池、池と言われているが、実は泉である。25メートルプールぐらいの広さを持つ、一番大きな一の池、その近くに湧水量が豊富な一の池より少し小さい二の池、そして、二の池逆方向に、無駄に深いと言われている三の池、それらから少し山の方にある小さな四の池からなる地域の名称である。この池から流れた水がこの麓にある畑の大切な用水となっている。輜重隊は二の池の畔の広場に馬車を停め、炊事の準備に取り掛かった。何度も訓練で使用しているのであろう、いい感じの水場に既に石を組み合わせた竈が作られていた。

 「ちょいと直す必要があるなー、ハッちゃん、悪いが、ここに合う石を見繕って持ってきてくれないか。夕飯に干し肉一切れ多めにつけるからよ」

 ハチは輜重隊長の言葉に頷くと石を探しに駆け出して行った。

 「じゃ、まずはお嬢のテントからだね、皆でかかったらすぐ終わるよ」

 バトが荷車からテントを引きずり降ろしながらネアたちに声をかけた。

 「それじゃ、水はけのいい、あそこに建てましょう、あそこなら石も少ないし、ちょっと高くなっているから」

 アリエラがテントを建てる場所を示した。

 「僕たちもテントを建てるお手伝いをしないとダメだね、姉さん」

 ギブンはいらない動きを乱発して疲れて座り込んでいるレヒテに明るく声をかけた。

 「えええ、疲れているのに」

 レヒテは文句を言って立ち上がろうともしなかった。すると、パルがレヒテの襟首を掴んで無理やり立たせた。

 「お嬢、指揮を執る者が怠けていると、配下に示しがつきません。辛くても動いてくださいね・・・」

 言葉は穏やかであったが、その表情はまさに獲物に喰いかかろうとしているオオカミのそれだった。

 「分かったよ。分かりました」

 ぶつぶつ言いながらレヒテが重い腰を上げた。

 「姉さん、ティマも働いているんだよ。あんな小さい子が、皆、疲れているんだよ」

 ギブンは姉の手を取って荷車に引っ張っていった。

 「お嬢のが終わったら、今度は若のですね」

 ネアは地面に打ち込まれたペグに紐をかけテントを固定しながら、設営の指揮を執っているらしいアリエラに声をかけた。

 「そうね、若のテントは、お嬢の隣に私たちのテントを建てるから、その横ね。ハッちゃんのイビキが聞こえると大変だから」

 このアリエラの言葉にギブンはすかさず

 「ハッちゃんはイビキはかかないよ。歯ぎしりもしないし、大きな声で寝言も言わないよ」

 と、ハチを弁護した。

 「意外なこともあるんだね。ハッちゃんのことだから、寝ていても騒がしいかなって思ったけど」

 「人は見かけによらないってことでしょうか」

 ギブンの言葉にフォニーとラウニが互いを見合って首をかしげていた。

 「そう言えば、ネアは寝ていても静かですよね。時々、飛び起きて大泣きすることがあるけど」

 フォニーがネアを見て、ニタリと笑った。

 【この身体の記憶が見せた夢に、子供の部分が反応しているんだよ。どうすることもできないことなのに】

 ネアはフォニーの言葉にぷいっと口を尖らせた。

 「お寝小は、まだ、したことないですけど」 

 「ネアもその内、やるんだよ。だから、ティマも心配することないよ」

 ネアの言葉にフォニーがふくれっ面になると、ティマに優しく語りかけた。

 「寝る前におしっこに行くから大丈夫だよ」

 ティマは胸を張って、お寝小はしないと断言した。

 「しまりのいい女は、漏らすことはないのよ。濡らすこっ!」

 ネアたちの言葉をいつもの調子でトンでもないことを口走りかけたバトの口にきれいにルロの裏拳がさく裂した。

 「お嬢やパル様もおられるんですよ。少しは自重しなさい」

 「痛いよ・・・、でも、少なくとも、ルロは私よりしまりは悪いはずだよ」

 口を押えながらバトがルロに抗議した。

 「私のしまりが悪いって、何を証拠に」

 バトの言葉にルロが言い返すとバトは満面の笑みを浮かべた。

 「よく、ちびるでしょ。パンツ持ってきている量も私より多いもん」

 「そんなことを・・・、汚いパンツを履いているよりマシでしょ」

 「その気になれば、私のパンツは殿方にいいお値段で買い取ってもらえるんだよ」

 「また、そんことを」

 凸凹はギャーギャーやりながらも手を止めることなく、今夜の寝床は滞りなく建てられていった。

 「どうして、あんだけやり取りしながら作業できるの・・・」

 アリエラは凸凹コンビの実力に驚愕の表情を浮かべていた。

黒狼騎士団は予備役の比率が高い騎士団です。

常備はお金がかかるのでそんなに多くはいません。

同じく、お金がかかるので、騎馬もそんなにいません。

この世界の合戦は、地味な展開になります。

今回もこの駄文にお付き合いいただき、また評価、ブックマークを頂いた方に感謝を申し上げます。

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