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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第10章 出会い
131/342

122 訓練の前に

台風があったり、PCの調子が芳しくなかったりと物事が思うように進まない状況です。(仕事は当然ながらうまく進んだためしがありませんが)

ネアたちの世界もこの点ではこの世界と同じだと思っています。

 青平は自然の地形を巧みに利用した山城の様相を呈していた。山肌をどんな地学的な力が襲ったかは見当がつかないが、ナイフで切ったように切り取られて平地になっている部分の斜面に自然石を巧みに積み上げた石垣がネアの背丈の3から4倍程度の高さに積み上げられ、その下の空堀とセットになって侵入者にいらない苦労を強いる形になっている。

 皆がテントから置き出す前にネアはテントから這い出て、石垣の上、狭間のようになっている石の上に立って眼下に広がる世界を眺めていた。

 「ひょっとして、ここは・・・、ビケット家の墓となる場所・・・?」

 ネアは青平とケフの都の位置関係を考えながら、この青平の地形をさらに掴もうとしていた。

 「見晴らしはいいから、どこから来てもすぐに分かるし、空堀が効いているから、進行する経路はほぼ決まっているし・・・、攻め難い場所だなー」

 ここに攻め入らなくてはならなくなった兵士たちのことを考えてネアは肩をすくめた。そして目を山側に向けると、岩肌から水がチョロチョロとあちこちから流れ出している。昨夜、ちょっと耳障りだった音の正体を確認してネアは納得したような表情を浮かべた。

 「朝早くから偵察か?」

 青平の砦としての価値を確認していたネアにいきなり声がかかった。

 「え、あ・・・、おはようございます」

 いきなりの声に驚いたネアは声をかけてきた黒い人影にペコリと頭を下げた。

 「おはよう、ここはさっき、ネアが言ったように、ビケット家の最後となる場所だ。ここで援軍が来るまで持ちこたえるか、最後に一泡ふかせてやる場所だ」

 団長は腕組みをしながら砦の眼下に広がる世界を眺めて複雑な表情を浮かべた。

 「そうならないことを心からお祈りします。・・・それと、今日の訓練はここで、ですか」

 感慨深げに砦を見回す団長にネアは尋ねた。この訓練が始まってからと言うものの、一切スケジュールもどんな訓練が行われるのかも知らされていなかったからである。

 「そうだ。まずは、ここの手入れ、あちこち石垣や掘が崩れているから、それの整備と、射撃だな。興味があるか」

 団長は腕を組みながらネアを見た。

 「訓練を見学していも良いんですか?」

 多分、この時のネアの期待と言う表情がいかなるものか見本の一つとなるようなものだった。

 「お嬢と若、パルにもやってもらうつもりだ。当たる当たらないは期待はしていないが、なにより経験と慣れが必要だからな」

 団長はそう言うと同時に起床のラッパがけたたましく宿営地に響いた。団長はのそのそとテントから出てくる団員を厳しい表情で見つめながら、彼らが整列しようとしている場所に歩いていった。


 朝食は固くなったを通り越して別の物質になったようなパンと、ひたすら噛み切られることを拒否し続ける干し肉と出がらし風のお茶であった。

 「・・・」

 寝起きのレヒテがむすっとした表情で硬いパンを出がらし風のお茶に浸して、心持ち柔らかくして齧っていた。ラウニやフォニーを初めとする犬科は奥歯でゴリゴリとダイレクトにパンを骨を砕くようにし、ティマは栗鼠族らしく前歯でガリガリと齧りそれぞれがパンを腹の中に収めていた。元より咀嚼という事に難がある猫族であるネアはレヒテと同じようにしてちまちまと硬すぎるパンと格闘していた。

 「お嬢、若、その、硬パンは、あのー、・・・、こうやって・・・ですね」

 アリエラはそれぞれ自分流に硬すぎるパンと格闘するネアたちに、自分の硬すぎるパンを平らな石の上に敷いた布の上に置くとナイフの台尻で思いっきり叩いた。すると硬すぎるパンは小石程度の大きさに砕けた。

 「コレをお茶に浸すなりして、食べるんです。干し肉はナイフで細かく切ってから食べます。無理して食べると歯を砕きますから注意してください」

 アリエラ実技を持って説明するとそれぞれ無言で硬すぎるパンと噛み切れない干し肉を食べ出した。ネアたちがやっと半分ぐらい食べ終えた時、騎士団員たちのテント地域で朝の点呼の号令がかかった。ネアは思わずその場に立ち上がり、騎士団員たちのように集合場所に向かおうとした。

 「ネアさん、我々は本隊の動きとは別です。今の訓練はこれを完食することです。残してはいけません。大人はこの硬パンが二つがノルマです。・・・ハッちゃん、三つ目はありませんからね」

 砕きもせずにさっさと硬すぎるパンを平らげたハチが物欲しそうな目でアリエラを見つめているのを彼女はぴしゃりと彼にお代りがないことを告げた。

 「若、お茶淹れますね」

 そんな中、硬いモノを食べることに適応しているティマは自分のノルマを達成すると早速ギブンの横に陣取りたどたどしい手つきながら何かと世話を焼き始めた。

 「ティマ、ありがとう。姉さんにもお茶を淹れてあげてくれるかな」

 「はい」

 まだ朝早い時間帯で昨日の疲れも残っている中、ティマは何故かうれしそうに動き回っていた。

 「アリエラ、ここのトイレってどこかな?」

 何とかノルマを果たしたレヒテが大自然の中で自然の要求を感じて辺りを見回しながらアリエラに尋ねた。

 「えーと、あそこの小さい小屋がトイレですけど。臭いですからできるだけ素早く済ませるのがコツです。それが無理なら水場から離れた目だ立たないところでさっとすませるか・・・ですね」

 アリエラはレヒテの問いかけにくすんだ色の木製小屋と目立たない場所を指差した。レヒテはその手が下ろされる前にトイレに向かって駆け出していった。

 「ウチも・・・」

 「はしたないようですが、私も」

 レヒテの跡を追うようにフォニーとラウニが駆け出していった。

 「・・・」

 パルは彼女達を見送るとそっと立ち上がった。

 「お嬢様、トイレですね。ここにちゃんと後始末用の布もありっ、ぐっ」

 メムが喋り終える前にスパーンと小気味良い音が響いてメムがその場に頭を抱えてしゃがみこんだ。

 「・・・」

 パルはむすっとしてしゃがみこむメムを見下ろすとぷいっとトイレに向かって歩き出していった。

 「これは、混みまくってるねー」

 自然の要求を感じたバトが立ち上がってトイレの方向を眺めて呟いた。

 「でしょうね」

 ルロがバトが見ている方向に目をやると美味いと噂されるラーメン屋の店頭を思わせる光景があった。勿論、バトやルロがラーメン屋やそれ以前にラーメンを知っているわけではない。

 「ティマ、おしっこは大丈夫かな」

 食べ終えた食器をきれいに積み上げたネアがギブンの横に待機しているティマに声をかけた。

 「・・・大丈夫」

 ティマは腰をもじもじさせながらポツリと返事した。

 「それは、大丈夫じゃないよ。若の前でやらかすと、格好悪いよ。大きいのは?」

 心配そうに声をかけるネアにティマは頷いた。

 「でも、おトイレは・・・」

 ティマは混んでいるトイレを見て泣きそうな声を出した。

 「ここは、覚悟を決めますよ。こういう場合は・・・、大自然と共にだよ」

 ネアはテントの周りに雨水を逃がすための溝を掘ったスコップを担ぐとティマについて来るように促した。

 「なかなか思いっきりがいいねー」

 バトがネアの動きを見て感心したように呟いた。

 「あの状態で我慢できる者はそういないでしょうね。やらかす前に・・・、私らもそうするしかないね」

 ルロがうんざりしたように言うと立ち上がってスコップを手にした。

 「ルロと連れションだね」

 「不本意ながらそうするしかないでしょ。バトも広場の真ん中で見せびらかさないように」

 「それは、魅力的だけどやめとくわ」

 バトとルロがいつものようにギャーギャーやりながら宿営地の外れに向かって行くのを見てアリエラはため息をついた。

 「思いっきりが良すぎる感じがしますけど・・・、あのティマまで・・・、私の知っているティマが遠のいていく・・・」


 「まず、人から見られない物陰、茂み、くぼみを見つける。見つけられたら穴を掘ってその中に出す。で、し終わったらきれいに埋める。これが外でする時のルール、外に出したままだと誰かが踏んだり、虫がたかって汚くなるからね」

 ネアは宿営地の外れにある大きな岩の陰でティマに野外での行動について説明していた。

 「分かった」

 ティマはそう言うと駆け足で物陰に行くと早速スコップで地面を掘ろうとしたが、悲壮な表情を浮かべてネアを見つめた。

 「穴はいいから、早く出して、パンツを代えることはしたくないでしょ」

 ネアの言葉にティマはその場でパンツの紐を解いてしゃがみこんだ。

 「ーっ」

 ティマの顔にに安堵と満足感が浮かび上がった。

 「私も、ヤバイ・・・」

 ネアは岩陰にある小さな茂みの影にさっと穴を掘った。しかし、思ったより深くは掘れなかった。それ以上掘ることと、我慢の限界を天秤にかけ、この深さで妥協することにした。

 「なんで、こんな、面倒なことを・・・」

 以前なら小さいほうなら立ったまま、さっと済ますことができたのに、今はいちいちパンツを下ろしてしゃがみこんでと面倒臭いことしなくてはならないことが地味にネアの心を傷つけていた。

 「もう、男じゃないんだよな・・・」

 小さな声で寂しげに呟いた。トイレでの作業は慣れて来たが、野外でとなるとまた喪失感がひしひしと押し寄せてくる。しかし、自然の要求はネアの心情なんぞお構いなしに押し寄せてくる。そして、それを無視することは不可能、我慢することも以前に比すると弱くなっている。これは構造上の問題で仕方のないことであるが、これもネアの心を痛めつける要因であった。

 「・・・」

 さっさと後始末を終えるとネアは自分の作品の上にスコップで土をかけ、誰かが踏んだりしないように敢えて掘った後を目立てさせてティマの向かった方向にスコップを担いで足を進めた。

 「ティマ終わった?」

 ティマはついさっき作成した作品の上にまわりの砂を集めてかけている最中であった。

 「うん、すっきりした」

 「よかったね」

 二人揃って宿営地に戻朗とした時であった。

 「あっ」

 ティマが小さな声を上げた。ネアがティマが見ているほうを見て目を丸くした。

 「ちょっと、見ないでよ」

 そこにはしゃがみこんでいるルロの姿があった。

 「君らには、この趣味はまだ早いよ」

 ルロから少し離れたところで同じようにしゃがみこんでいるバトが陽気な声を上げた。

 「私もさ、見られていないとダメの域には行ってないから」

 バトがいらないことを口走るのを聞きながらネアたちは足早にその場を後にした。


 「危険でした・・・」

 「危機一髪だったよね」

 フォニーは顔に浮いた脂汗をハンカチで拭いながらラウニの言葉に同意していた。騎士団員に女性が少ないとは言え、女性用トイレがたった二つしかないのは大問題であった。しかも、主であるレヒテやパルを優先しなくてはならないのは侍女としてはつらいの一言であった。メムにいたってはトイレに並んでいた頃からずっと黙り込んでいる、臭いから察すると小さな事故が発生したようであるが、そこは侍女仲間の慈悲として二人とも突っ込むことはしなかった。レヒテとパルはあのトイレの臭いの衝撃が未だに抜けないようで、気分の悪そうな表情を浮かべていた。

 「お嬢、ちょっとキツイ香りのお茶です。これで少しはマシになるかも」

 ネアは荷物に隠して持って来ていたハーブで淹れたお茶をレヒテに差し出した。

 「ありがとう、あのトイレは地獄だったよ」

 レヒテはお茶の香りを嗅ぐとほっと一息ついた。

 「パル様も、どうぞ」

 ティマも両手で持ったたカップをパルに手渡した。

 「ありがとう、ティマちゃん。・・・かわいい・・・」

 パルはティマが小さな手で大事そうにカップを差し出すのを見て思わず心の声を漏らしてしまった。

 「ネアはトイレに行かなかったの?」

 自分達より後に出発したネアたちが先に戻っていたことに疑問をもったフォニーが不思議そうに尋ねてきた。

 「お外でしたの」

 ネアが答える前にティマが元気良く答えた。

 「外でって・・・、ネア・・・、はしたないです」

 ティマの言葉にラウニは驚いたような声を上げた。

 「並んでいて我慢できないことを考えるとマシだと思いますよ」

 ラウニの言葉にネアがむすっと答えた。そんな2人のやり取りをみたアリエラが2人の間に割って入った。

 「ここはお館でも宿でもありません。選択できるところもそんなにありません。着替えも持てるだけです。お淑やかではやっていけないこともあるんです。だから、ネアの判断は正しいことです」

 「汚いトイレより外のほうが気持ちいいよ」

 アリエラがラウニに説明している時にバトからいきなり声がかかった。

 「漏らすと大変なことになりますから。バトの場合だといろんな意味でシモ(で粗相した)エルフになりますからね」

 アリエラが驚いてバトを見ているとその横でルロがバトの言葉に付け足した。

 「私は締りがいいから、そんなことにならないよ。ルロこそやばいんじゃないの」

 バトの言葉にきっとルロがにらみ返した。

 「締りの良い悪いは別にして、柔軟に判断することが大事です。私のように慣れてくると、トイレの時間をずらすようにすることもできるようになります。何が大事なことか、これを常に頭に入れておかないと失敗することになりますから」

 あちこちと話が脱線していく様子を気にしながらもアリエラは野外で行動する時の心得の一つを説明した。


 食事とトイレのゴタゴタが終わって、後片付けが居った頃、騎士団の本隊は石垣の補修と空堀の中に溜まった土をかき出していた。

 「ここは、お前達の墓になるんだ。自分の墓だぞ。気合を入れてきれいにするんだ」

 黙々と作業する騎士団員に団長が檄を飛ばしていた。団員たちはその檄に作業で応えていた。そんな光景をアリエラの説明を聞きながらレヒテと眺めていたネアたちに輜重隊長から声がかかった。

 「おーい、昼飯の準備をするんだが、手伝ってくれないかー」

 輜重隊長は砦に作られた簡単な竈の横に停めた馬車から調理機材を数名の団員と一緒に降ろしていた。

 「今日の昼、夜、明日の昼と飯を作るんだよ。今回の訓練は侍女さん達から支援を受けられるってことだから、俺達もいつもより数が少ないんだよ。飯作りが地味でつまらないなんて思ってくれるなよ。腹が減っていたら戦うこともできんだろ、俺たちの仕事が戦いを左右するんだよ」

 輜重隊長は己の仕事に誇りを持っていることを示すように胸を張った。

 「かっこいい、ちんちくりんでハゲだけど・・・、液が出そう・・・」

 そんな輜重隊長を熱い眼差しで見つめていたバトが身体をくねらせながら呟いた。それを聞いたルロはよこで大袈裟なため息をついた。

 「ネアお姐ちゃん、エキってなに?」

 バトの言葉を耳にしたティマがネアの袖を引っ張りながら尋ねてきた。

 「大人になったら嫌でも分かることだと思うよ。私たちにはまだまだ分からない大人の世界のこと」

 ティマはネアの説明に納得いきかねるといった表情を浮かべて

 「そうなんだ・・・、ですね」

 と不服そうに答え、それ以降は液について聞くことはなかった。

 【バトって漢の浪漫はいいんだけど、こっちの年齢も考えて欲しいよ。ティマだからいいものの、お嬢だったら・・・、それは考えないことにしよう】

 ネアは渋い表情を浮かべながら輜重隊長の指揮下に入った。


騎士団の訓練が開始される前の準備だとか野外の日常生活の話になりました。

5桁の兵士がぶつかるような戦はこの世界では難しいと思っています。せいぜい4桁の兵士の数がぶつかるのが精一杯の世界です。軍を動かすには補給もお金も馬鹿にならないぐらいかかりますから、ケフのようにあまり裕福ではない郷では大きな常備軍を保持することは難しいのです。

今回も駄文にお付き合い頂き感謝しております。PCの調子が芳しくないのでひょっとするとがあるかもしれませんがなんとかなるとでしょう、多分。

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