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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第10章 出会い
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114 ティマとお館様

ティマがメインのお話しになってしまいました。後からのポイと出たのに負けるな主人公。

 「おはよー、あら、ティマはネアと寝てたんだ」

 朝のけたたましいベルの音で叩き起こされ、目をこすりながらベッドから身体を起こしたフォニーがてきぱきとシーツを畳むネアの横で立ったままうつらうつらとしているティマを見て驚いたような声を上げた。

 「おはよう、・・・驚くほどのことですか貴女も来た時に私のベッドに潜りこんできましたよ」

 ラウニもベッドからのそのそと這い出してきてフォニーを見ると懐かしそうに呟いた。

 「・・・否定できない・・・、聞いたことなかったけどラウニはどうだったの?最初から一人きりで寝ていたの」

 フォニーの問いかけにラウニは小さなため息をつくと恥ずかしそうに口を開いた。

 「タミーさんのベッドに入れてもらいました。小さいときは皆そんなモノですよ。・・・そこにいる例外を除いてはね・・・」

 ラウニはティマにシーツの畳み方を教えているネアをじっとみつめた。

 「私が何かしましたか?ティマも私もお寝小していませんよ」

 ちょっとむっとしたようにネアが言い返した。その横で相変わらずティマはうつらうつらと半分夢の中にいた。

 「お寝小はしなくて当然ですよ。ティマなら仕方ないですが・・・、お寝小じゃなくて、今までネアが私たちのベッドに入ってこなかったことです。怖いとか寂しいとか・・・、じっと我慢していたのですか?我慢する必要はないですよ。いつでもベッドに入ってきていいのですよ」

 「そだよ。ネア、泣きたかったら胸貸すから」

 ネアは先輩方の申し出に苦笑しそうになるのを懸命にこらえた。仕事から離れたら一人であるのが普通だった前の生活からするといくら親しいとは言え他人のベッドに潜りこむという発想はなかった。

 「・・・大丈夫ですから・・・ありがとうございます。・・・ティマ、シーツのここの端とここの端を合わせてピンと張るの。ほら、きれいに畳めるでしょ・・・、ティマ、起きてる?」

 ネアは下がってくる瞼と懸命に戦うティマを覗き込むようにして尋ねた。

 「・・・起きてる・・・」

 ラウニはフラフラとしているティマを掴むと

 「ハイ、腕を上げて・・・、寝間着を脱ごうね、そして・・・」

 ティマの着せ替えを手伝いと言うか、大きな着せ替え人形を扱うようにティマに仕事着を着せていた。

 「ティマは尻尾が大きいからねー、難しいなー」

 フォニーは自分のスツールを開けてティマに合う尾かざりを捜していた。

 「これに決めた、これなら尻尾が大きくて常にピンと立っている人にいいよ」

 フォニーが手にしたのは幾分大きめなリボンがついた尾かざりであった。それは自分の太目の尻尾にマッチすると思って買ったのであるが、尻尾を強調しすぎるような感じで手に入れたものの付け時が分からなかった逸品であった。

 「んー、これ、ティマの就職祝いのプレゼント」

 ラウニに一通り服を着せ貰ったティマの背後に回ってフォニーは手早く尾かざりを取り付けると、リボンの位置などを微修正し、全体と尾かざりのバランスを確認すると納得したかのように頷いた。

 「フォニーお姐ちゃん、ありがとう」

 ティマはペコリとフォニーに頭を下げ

 「今度は自分でやってみる・・・みます」

 と、ラウニに己の決心を告げた。ラウニはそんなティマにやさしく微笑むと、がんばってと短く励ましの言葉をかけた。

 「ねぇ、ラウニ聞いた?フォニーお姐ちゃんだよ。ウチ、お姐ちゃんて・・・、どこかの子はフォニー姐さんって可愛げないけど」

 フォニーはちらりと横目でネアを見つめた。

 「私に可愛げがないのが普通ですから」

 ネアはフォニーの言葉を軽く受け流すように言うと、その言葉にラウニが反応した。

 「可愛げがないのが普通ではダメです。それでなくてもネアはがさつな所が多いのですから、ティマのお手本になるようにしてもらわないと困ります。もっと女子力強化しないといけませんね。でしょ、フォニー」

 「そうだよねー、最終的にはエルマさんに試験して貰うなんてどうかな?」

 フォニーが何気に恐ろしい提案をしてきた。それを聞いたラウニは頷き、そしてネアの表情は強ばっていた。

 「ラウニ姐さんとフォニー姐さんはその試験を受けたんですか?もし、受験されてなかったら、私と一緒に受験することになると思いますよ。それで、不合格だったり、私より成績が悪ければ・・・、エルマさんに何をされるか想像できますよね」

 ネアはフォニーの提案が非常に恐ろしい要素があることを先輩方に警告した。先輩方はネアの警告を耳にすると先ほどまでの他人事感はどこかに消し飛び真剣な表情で互いを見つめた。

 「・・・私たちまで巻き添えになりますよ・・・」

 「危険すぎるよね・・・」

 二人の間で意見の調整がなされたようで、ネアに対して

 「その話はなしね」

 「エルマさんに必要以上にご迷惑をかけることはできませんから」

 焦ったような口調で先ほどの提案を取り消した。

 「エルマさんって?」

 ティマがネアの脇を小さくつつきながら尋ねてきた。

 「このお館で一番偉い侍女の方です。エルフ族で、ご隠居様が生まれる前からビケット家にお仕えになられているそうですよ」

 ネアが簡単にティマに説明するとティマは少し考えてから更に尋ねてきた。

 「怖い人?」

 ティマの質問を耳にしたラウニとフォニーが微妙な表情になり、ネアも少し考えてから言葉を選んで答えた。

 「怖いというより、厳しい人です。私たちのことを良く見ておられます。ティマも例外じゃないですからね」

 「分かった・・・ました」

 先輩たちの表情からただならぬ存在であることを本能的に察知したティマは頷き、言葉少なめに理解したことを示した。


 「ティマ、今日はお館様に挨拶してもらうわよ」

 職場で奥様に朝の挨拶した後、奥様が開口一番にこにこしながらティマに告げた。

 「挨拶・・・ですか?」

 ティマは緊張の表情を浮かべかすれたような声を出した。

 「怖がる必要はないわよ。見た目はいかつい人だけど、とてもやさしい人だから。今度入った子がどんな子か会ってみたいってことなのよ。元気よく挨拶して、聞かれたことに嘘をつかなければ大丈夫よ」

 緊張するティマに奥様は笑いながら話しかけた。しかし、ティマの緊張がほぐれることはなく、不安そうに先輩方を見つめた。

 「挨拶は一人で行くの。いいわね。私と母様・・・大奥様と会った時はまだ何も決まっていないし、来て間がない時だったからネアについてもらったけど。今度は一人で行くのよ。それができないと、ここで働くのは厳しいから」

 にこやかにしかし、一切妥協せずの奥様の姿勢に飲まれたティマは頷き、

 「がんばります」

 と、小さな声で応えた。

 「声が小さいわよ」

 「がんばりますっ」

 奥様の言葉にティマは部屋に響くような大きな声で応えた。

 「いいわよ。その調子でがんばってね。挨拶に行く時にはエルマが呼びに来るから、彼女についてくといいわよ」

 「エルマさん・・・」

 今朝、先輩方が厳しい人と評した人とお館様の所に向かうことを知ったティマは不安を通り越え恐怖すら感じていた。しかし、あの英雄と呼ばれる男を倒すためにはここで力をつける必要があると幼いながらも考え耐えるように歯を喰いしばった。

 「ティマなら大丈夫。ここに来るまでのことと比べたら簡単なことですよ」

 ガチガチになっているティマの頭をそっとラウニがなでた。

 「ティマ、ゆっくり深呼吸して、そう、繰り返してみて、どうですか?」

 ネアはティマを見つめ、かつて、気難しいエライ人たちへの様々な報告やら会議でのプレゼンの時の自分を思い出しながら優しくアドバイスをした。

 「エルマさんが迎えに来るまでお仕事をしましょうね。じゃ、まずは・・・」

 ラウニがティマに指示を出そうとした時、横から奥様が声をかけてきた。

 「最初は文字のお勉強じゃないかしら、そうじゃないとここにある布についているタグやボタン箱のラベル、お買い物の時のメモも読めないでしょ。そうね、文字はネアが教えてあげなさい。貴女の文字を覚える速度は最速でしたからね。でも、無茶をさせちゃダメだよ」

 奥方様はそう言うと自分のトートバッグからネアが文字を覚える時に使った絵本を取り出した。

 「これでお勉強しなさい。場所は、あそこの良くお日様があたる明るい場所にテーブルと椅子を置いてあるでしょ、それと黒板はテーブルの脇の棚にあるのを使いなさい。ティマちゃん、これもお仕事だから、がんばってね」

 奥様は、にこやかにネアに指示を出すと、じっくりとティマを見つめにっこりした。

 「承知いたしました」

 ネアは奥様に礼をするとその横でティマが

 「奥様、あたし頑張って文字を覚えます」

 元気良く奥様に答えた。その様子に部屋にいたベテランのお針子たちもにっこりとした。


 「ティマ、貴女の年齢では多くは望みません。元気良くはきはきとお館様のお尋ねになったことに答えること、それができれば言うことはありません。・・・終わったらおやつを用意しておくから、がんばって」

 エルマは絨毯が敷かれた廊下をびくびくと後をついて歩くティマにちょっと微笑んだ。

 「は・・・はい」

 緊張の極みに達しているティマを見てエルマはティマが栗鼠族であることも重なって彼女が怯える小動物に見えて、ちょっと可愛そうに感じていた。

 【普通の4歳の子供には酷なことだけど・・・、生きていく上では仕方ないことなのよね。ここで負けると、敵討ちなんて到底無理なことになるから・・・】

 エルマは後ろを付いてくる小さな影に気を使いながらお館様の執務室の前に立った。

 「ノックしてから、元気良く「麦穂のティマ、お目通りをお願いいたします」と元気良く言います。すると、お館様が「入りなさい」と言われますからドアをそっと開けて、お館様にお辞儀して、その後はお館様の言われたとおりに動きなさい。いいですね」

 エルマはしゃがんでティマと視線を合わせるとにっこりしながらこの後の行動について説明した。

 「はい、分かりました」

 ティマが大声で返事したためエルマは一瞬どきりとしたがすぐさま笑顔になった。

 「そのゲンキがあれば大丈夫、さあ、行きなさい。私はここで待ってますから」

 ティマはエルマに背中を押されギクシャクしながら扉の前に立つとネアに言われたように大きな深呼吸をして、意を決してノックした。

 「む、麦穂のティマ、お目通りをお願いいた・・・いたしますっ!」

 ティマは廊下に響くような大きな声を上げると、扉の内側から「お入り」と声がかかった。その声を聞いたティマが一瞬エルマを見るとエルマは優しく頷いていた。ティマはそれを確認すると扉をそっと開けた。


 「君が、ティマだね。さ、そこに座りなさい」

 お館様はガチガチになって入ってきたティマに執務机の前の会議用テーブルを指した。しかし、どこに座っていいのか思案し出したティマをみて口元を緩めた。

 「君のためにお茶を用意しておいたよ。そのカップのあるところに座りなさい。俺もそっち行くからな」 お館様はティマが座るのを確認すると自分の大き目のカップを持ってティマの対面の席に座った。

 「ティマ、君の生まれたところはどこかな?」

 お茶に手も付けず、固くなっているティマにお館様が優しく尋ねかけた。

 「あたし・・・、コデルの郷のイーソンの街から来ました」

 ティマはお館様から視線を動かさず大声で答えた。

 「遠いところから大変だったね。どうだい、この郷は、コデルの郷から比べて住みやすそうかな、周りの人は良くしてくれているかな」

 「とてもいい所です。こんなステキなお館に住めるなんて、こんなにきれいな服を着れるなんて・・・お姫様になったみたいでいい所です。周りの人も・・・ネアお姐ちゃん、ラウニお姐ちゃん、フォニーお姐ちゃんも良くしてくれます。奥様にもやさしくしてもらってます。それに・・・、穢れのあたしにお館様がお話ししてもらえるなんて・・・」

 ティマはつっかえながらもケフの郷が気に入ったことを告げた。これは、決してお世辞ではなく、同じような境遇のネアたちと生活できること、穢れの民だと忌み嫌う事無く接してくれるお館の人、特に奥様、お館様が下賎の身である自分に優しく接して貰えることが何よりティマにとっては嬉しかったのである。そして、何より自分を救ってくれたギブンに対しては感謝以上の感情があった。

 「気に入ってくれたか。ありがとうな。ここは飯も美味いからな、季節ごとに美味いものがたくさんあるぞ。楽しみにしておけよ。それとな、さっき言った穢れ、この郷に穢れたヤツはいない。この郷はな、姿形なんてどうでもいいんだ。この郷を良くして行こうって思う気持ちが大切なんだよ」

 お館様はやさしくティマに語りかけ、そしてお茶を飲むようにすすめた。ティマはすすめられるままに両手でカップを掴むとこぼさない様に注意しながらカップに口をつけて生暖かくなったお茶を流し込んだ。

 「あたし、ケフの郷のために一所懸命にがんばります」

 お茶を飲み終えるとティマは元気良く答えた。その声にお館様はにっこりしてうなずいた。

 「そうかー、頑張ってくれるか。よし、頑張って一緒にこの郷を良くしていこうな」

 お館様はティマの言葉を聞いてうれしそうな声を上げた。そして、少し表情を強ばらした。

 「・・・仇のことは知っている。俺達もアイツは危ないと思っている。だから、決して一人で動くなよ。俺達はティマ、お前の味方だ。そしてティマは俺たちの味方だ、そうだよな」

 ティマはお館様に同意を求められると「はい」と大きな声で応え頷いた。それをみてお館様は小さなため息をついた。

 「この事は、けっして誰にも話してはいけないぞ。ティマがいることを知られちゃいけないんだ。いいかい」

 お館様のこの言葉にもティマは大きくハイと応えうなずいた。

 「良し、いい子だ。俺の話はこれまでだ。誰にも相談できないこと、アイツに関係することがあれば、すぐに俺に相談するんだぞ。約束できるかな」

 「ありがとうございます。アイツをやっつけるためなら・・・、なんだってできます」

 ティマの決心を聞いたお館様はにっこりと頷くと

 「アイツをやっつけることばかり考えてちゃいけないぞ。それは大切なことだけど、それでティマの生活が辛くなったら、ティマはアイツにまたやられたことになるのと一緒だからな。自分を大切にするんだぞ。それじゃ、ケフの郷を良くするための仕事に戻ってくれ。きょうはありがとう」

 お館様は立ち上がるとさっとゴツイ手をティマに差し出した。ティマはその手を恐る恐る握り、お館様が力強く握ってくれたのを感じた。


 「良くできました。ご褒美がこちらにありますよ」

 ガチガチのまま執務室から出てきたティマは扉を閉めるとその場にしゃがみこんでしまった。そんな彼女を見てニコニコしながらエルマが声をかけてきた。ティマ何とか立ち上がるとヨタヨタとエルマの後に続いた。お館様の執務室の隣にある秘書室のテーブルの上に「小麦の森」パン店の「漢のクッキー」が山盛りになった篭が置いてあった。

 「奥様の仕事場で皆で食べてください。お館様からのティマがこのお館に来てくれたことのお祝いの差し入れです」

 ティマはずっしりとした篭を両手に抱えるとクッキーをこぼさないようにそっと注意しながら奥様の職場へと足を進めた。

ティマがお館の一員になっていきます。ネアよりずっと子供らしいキャラなので周りからは可愛がられているようです。お館の侍女見習いがツキノワグマ、アカギツネ、イエネコ、エゾリスと発毛密度が非常に高くなりつつあるようです。彼女らはちゃんと入浴などをしておりますのでノミや臭いはありませんので、お館の中に入るとあちこちかゆいとか獣臭いとかはありません。

今回も駄文にお付き合い頂き感謝申し上げます。

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