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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第9章 火種
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107 演者たち

 今回は思いっきり短いです。

 彗星には着替えを買いに行くと言って、一人で街に出たハイリは、ふらりと街角の茶店に入った。

 「今日は、お空が明るいですね。このお茶と何かお薦めはありますか、正しい選択が難しくて」

 注文を取りに来た同年代らしい少女にハイリはにこやかに声をかけた。

 「こんなに空が明るい時のこのお茶との正しい組み合わせは、これですね」

 少女は何故かメニューの空白の場所を指差した。

 「じゃ、それでお願いしますね」

 「畏まりました」

 暫くすると、その少女が温かいお茶と野菜をふんだんに使ったサンドウィッチをハイリの前に置いた。

 「新作のお芝居があるそうですね」

 少女はにっこりとしながらハイリに話しかけてきた。

 「それは楽しみです」

 「この月中に後援されると聞いています。なんと、作者は「夜の影」の人だそうですよ」

 「今回も正義の刃が悪を正すのでしょうか」

 「ええ、今回の悪は押し入り強盗の穢れの民とのことですよ」

 「それは、ステキですね」

 「ええ、お友達の方をお誘いすれば、喜ばれますね」

 「そうですね。そうさせて頂きます。「夜の影」の人に感謝したいですね。きっと良いお芝居になりますね」

 「お芝居でも正義がなされるのは気持ちいいですからね。では、ごゆっくり」

 少女はそう言うとハイリに微笑みかけた。

 「ええ、正義はなされなくてはなりませんから」

 ハイリも同じように微笑んだ。


 「お前は、彗星の・・・」

 ナトロの屋敷に突然現れたハイリにナトロは聊か戸惑っていた。

 「私の事は彗星様の付き人とでもお思いください。賊がコデルの都に押し入る、と言う噂があるように仰っていたようでしたから」

 屋敷の客間できっちりと腰掛けたハイリがニコリともせずにナトロを見つめて口を開いた。

 「ああ、近いうち・・・かな?で、強請る気なら、覚悟はしているんだろうな。お嬢ちゃん」

 ナトロは口調こそいつもの砕けた感じであったが、その目にはそれと反した冷たい光が宿っていた。

 「強請るなんて、まさか。ちょっとしたアイデアがあるんですよ」

 ハイリは初めて小さな笑顔を見せた。

 「アイデアね・・・」

 ナトロは怪訝な表情を浮かべた。

 「賊は穢れの連中にしてください」

 「それがアイデアか」

 自信ありげにアイデアらしきものを披露するハイリにナトロは眉をひそめた。

 「秩序を重んじる郷において、姿からして秩序からはみ出している穢れの連中が襲ってくる。いい絵になるでしょ。こいつらは勿論、彗星様が片っ端から始末されます。決して誰も生かしておきません。・・・郷主様からは穢れは秩序を乱す存在であると宣言して頂きたいのです。この郷から存在からして秩序を乱す穢れを一掃するには良い口実になるかと存じます」

 ハイリはそこまで言うとにっこりしながらナトロを見つめた。

 「穢れを追い出すにはいいが、その後はどうするつもりだ」

 背理の言葉を身を乗り出すように聞いていたナトロが問い詰めるように尋ねてきた。

 「その後はまだお話しできません。この続きがお気になられるのでしたら、賊の件はお願いしますね。お話したところまで進めば、続きをお話しできると思います」

 「なるほど、簡単に手の内は明かさない、ま、当然のことだな」

 「時が来ればお話しします。それまでのお楽しみです」

 ハイリとナトロは互いに見合ってにたりと笑みを浮かべた。


 「で、当日は騎士団の連中はいないってことだな。・・・しかし、なんでそんなことまで知っているんだ」

 ナトロがハイリから意味ありげな話を聞いた翌日の夜、フードを目深にかぶったエルフ族の男がコデルの都のスラム街にある酒場でこの場にそぐわない小奇麗な身なりの男と話し込んでいた。

 「ここだけの話ですが、私はここのお館に勤めてましてね。ここの郷主が・・・、暗君というんでしょうかね。何もできないならお飾りで良いんですけど、何事に至るまで口を挟んで、この郷の運営は半身麻痺状態ですからね。だから、郷主とその取り巻きに喝を入れてもらいたいんですよ」

 その男は、辺りをきょろきょろと見回して身を乗り出して小声でエルフ族の囁いた。

 「そういうことか、あんた逆賊になるぜ。主君に弓引くことのリスクは計算済みか」

 エルフ族の男は相手を値踏みするように見つめた。

 「それは・・・、覚悟していますよ。第一、この郷で誰かが手引きしたと考え、その上、探れるヤツなんていませんから」

 その男は自虐的に口元を歪めて笑みを作った。

 「そうか、せいぜいその日はこの都から離れるか、家の中に隠れていることだな。俺達は手加減なしにやるからな。アンタも例外じゃない。見つけたら・・・、分かるよな」

 エルフ族の男は外套の下の短剣を前をはだけて相手に見せつけた。

 「ええ、その日はここにはおりませんから」

 「そうかい、そりゃ、良かったな。ここの勘定はアンタもちだったよな。じゃあな」

 エルフ族の男はそういい残すと席を立ち、スラム街の暗闇の中に消えていった。


 「彗星様、そろそろ剣や防具の準備をされたほうが良いかと思います」

 ナトロとの面会から暫くたった朝、徐にハイリが暇そうにしている彗星に声をかけた。

 「そっかー、最近飲み歩くのも退屈してきたところだからな。いくらでも暴れられるぜ」

 ソファーにだらしなく横たわっていた彗星はさっと座りなおしてハイリを見つめた。

 「明日の夜明けあたりでしょうか・・・」

 まだ昼前の空を見上げてハイリがつぶやいた。

 「で、俺は何をすればいいんだ」

 「彗星様は、賊を一人残らず、天に帰してもらいます。数はざっと30匹程度でしょうか」

 彗星はハイリの言葉に暫く考えてから、しっかりと頷いた。

 「ありがと、この世界で言葉から文字の読み方、色んなことに世話になって・・・、ハイリには感謝しているよ」

 彗星はそう言うと椅子に腰掛けているハイリの背後に立つと後ろからぎゅっと抱きしめた。

 「私には勿体無いお言葉です。彗星様・・・」

 ハイリは振り向いて彗星を見上げると最上級の笑みを浮かべた。

 短いセンテンスになり申し訳ありません。

 次はいつもとおなじぐらいの長さにしたいと思っています。

 毎回、駄文にお付き合い頂き感謝しております。

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