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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第8章 春
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98 隠れた人材?

温泉に浸かって、美味いもの食って、いい酒飲んで、マッサージを受けたらふかふかの布団で寝る。

まさしく天国でしょうね。(発想がおっさんですが。)

そろそろ、花粉を引き連れて春がやってくるようですが、まだまだ冷えるのでまた熱をだしたりしないように注意していきたいものです。

 「・・・本当に、申し訳ない・・・」

 宿のホールでウェルに再度頭を下げるラスコーであるが、その横には鬼の形相でラスコーを睨みつけているヒルカの姿があった。着替えを済ませたシャルはドクターの診察を受けていたが今のところは異常はないようだった。

 「そんな・・・、改まってもらわなくても・・・、その、当然のことですから・・・」

 ドクターによって落雪によるちょっとした傷に塗りこまれた薬の臭いを漂わせながらウェルは恐縮していた。

 「そうよね、当然のこととしてシャルを守ってくれたウェル君をスコップで殴ろうとしたなんて・・・、酷い話よね、ね、アナタ」

 ヒルカは居心地が悪そうにしているラスコーに口元だけ緩めて微笑みかけながら追い討ちをかけるように話しかけた。

 「・・・すまなかった、ウェル君、あのー、どうかな、今夜、ウチで飯でも・・・、風呂に入ったてゆっくり温まって、一泊ぐらいいいだろう?」

 輝く頭に汗を浮かべながらラスコーはウェルにぎこちなく微笑みかけ、謝罪とお礼の食事を提案した。

 「とてもありがたいのですが、家で妹が待っているものですから。帰らないと・・・」

 ラスコーの申し出にぎこちなくウェルが答えると、ドクターから異常なしのお墨付きを貰ったシャルがウェルに話しかけた。

 「妹さんも、米豹族?」

 その問いかけにウェルは頷いて答えると、シャルの目の色が変わった。

 「妹さんにも来てもらったら?まだ、明るいしゆっくりお湯に浸かってもらって・・・、父さん、いいでしょ」

 愛娘の一言にラスコーはすかさず頷いていた。その様子をみたヒルカも反対するわけでもなく、逆に来てもらったら良い、とウェルに言うと、シャルに馬橇を頼んでアーシャを迎えに行かせるように指示した。その指示にシャルはにっこりと頷くとウェルに「ゆっくりしていってね」と声をかけて出て行ってしまった。この一連のやり取りの中に全くウェルの意志は反映されることなく、彼の手から離れて事態は動いていた。

 「米豹族の女の子か・・・、一度遠くから見たけど、ビブちゃんが大きくなった時、どんな感じになるか知りたいし・・・」

 馬橇の駅、と言っても御者の住宅と、厩舎からなっており、冬は橇、雪の無い季節は馬車で輸送サービスを地域の特性に見合った金額で提供する個人営業の運送屋であった。

 「おじさーん、至急、隣の集落までお願い」

 橇を繋いだ愛馬と存在とは何か?について哲学的なやり取りしていた中年の髭モジャの男がその声を聞くと

 「ドルヒ、この続きは仕事の後だ。お前の「月は見ている時のみ存在する」はなかなか興味深い意見だ。コレについてもっと掘り下げなくてはならん」

 その男は馬に語りかけると、その言葉を理解しているか馬が頷いた。


 「何か賑やかねー、何かあったの?」

 お風呂から上がりたてでまだ湯気が立っているようなレイシーがホールに入ってきて宿の面々、ネアたち、そして見慣れぬ米豹族の青年を見て驚いたような声を上げた。

 「お初にお目にかかります。隣の集落の薬屋で、「山椒」のウェルと申します。ラスコーさんにお呼ばれしております」

 ウェルはレイシーに恭しく礼をした。礼を受けたレイシーもカテーシーこそしなかったものの丁寧に礼を返した。

 「医師のジングルの妻で、レイシーと申します。よろしくね。この人ね、貴方が言っていた薬屋さんは?」

 「そうじゃよ。なかなか見込みのある若者じゃよ。是非とも医学の勉学をしてもらいたい逸材じゃよ。いきなりですまないが、ウェルをいつか住み込みでわしの持っている医学を教えたいんじゃよ」

 ここでも、ウェルの意志に関係なく彼の人生を左右するようなことが着々と進行していた。それを気づいたウェルは複雑な表情を浮かべて小さなため息をついた。

 「転がる時は、何をしても転がるモノです」

 ウェルの横にそっと移動したネアは彼の裾を引くと小さく慰めの声をかけた。

 「え、そ、それはそうだけど・・・」

 幼い子からの思わぬ言葉にウェルは戸惑っていると、そこにドクターが声をかけてきた。

 「身体が冷えておるだろ。湯に浸かって温まろう」

 ウェルはドクターに引かれるようにして浴場に連れて行かれた。そんなウェルの姿を見てネアは彼がこれからもこのように何かに巻き込まれて転がされていくような人生を送るのではないかと他人事ながら不憫に感じた。

 「ねぇねぇ、ウェルさんになんて言ったの?」

 目ざといフォニーが早速ネアに寄ってきて目を好奇心で輝かせながら尋ねてきた。

 「え、何も言ってませんよ」

 「いいえ、転がる・・・とか言っていましたよ」

 誤魔化そうとしてネアにラウニが詰め寄った。ギクリとして思わず尻尾の毛が逆立ちそうになったがそこを何とか押さえつけて、そんな感情は表に出さずににっこりしながら、何とか言い逃れる手を必死で考えていた。

 「ウェルさんがあまりにも焦っていたようだから、あわてて転ばないようにって」

 苦しい言い訳であるが、これで押し通すしかなかった。果たしてこれで押し通せるかとネアが先輩方の表情を見ると、そこには諦めたようなものがまじっているのに気づいた。

 「ネアがそう言うと、そうなのね・・・」

 「そういう事で終わりですね。こうなると、何を言っても・・・、ね」

 先輩方はため息をつきながらネアをじっとりと睨みつけた。

 「え・・・、あ、ビブちゃん、退屈しているのかなー」

 ネアは思わず視線をずらし床の上で小さな人形で遊んでいるビブの所に駆けつけるとビブの人形遊びに付き合いだした。

 「うまく逃げられましたね」

 「最近、あの手の動きが巧みになってきたねー」

 先輩方は互いに顔を見合わせて肩をすくめた。

 

 ネアたちが温泉に浸かり、それぞれ煮あがって出てきた頃にアーシャが宿に到着した。ホールでドクターと薬についていろいろと話し合っている兄を見つけるとアーシャは兄の襟首をぐっとつかんで立ち上がらせた。

 「お兄ちゃん、シャルさんに何をしたの。身を挺して守ったって、私が雪に埋もれた時、笑ってたよね。その差ってなによ」

 吼えるように兄に突っかかるアーシャにネアたちは呆気にとられていた。また詰め寄られているウェルも何か言おうとしているが言葉がまとまならないようで言葉にもならないうめき声を発するだけであった。

 「・・・シャルさんには僕たちみたいな強い毛皮はないし、身体も・・・」

 「頑丈ならいいんだ・・・」

 何とか弁明の言葉を口にしたウェルにアーシャは鋭く突っ込んでいく。それに対してウェルはますます言葉を失っていく。シャルは今までにこやかに会話していたアーシャの豹変、彼女は米豹族であるが、に戸惑っていた。そんな修羅場を知ってか知らずか、ビブはホールの床に座り込んでネアたちと人形遊びに興じていた。ネアたちも危険なことに巻き込まれたくなくて、ビブと一緒に遊んでいた。ウェルの横にいたドクターもアーシャの剣幕に押されてウェルを弁護することができなかった。そんなウェルを救ったのはレイシーだった。レイシーはホールの状態を見た瞬間、大きな声を出した。

 「喧嘩なら外でして頂戴、小さい子供がいるの」

 自室で寛いでいたレイシーはホールの騒ぎを耳にして降りてきたのであった。そこで目にした光景に思わず子を持つ親として言葉を発していた。ビブと言えばそんな親の心配を他所にネアたちと楽しんでいたのであるが。

 「あ、ごめんなさい・・・、ついつい熱くなって・・・」

 アーシャは謝罪の言葉を述べると声のした方向を見て、表情が強ばった。

 「あら、貴女、米豹族ね。怒っていると折角のかわいい顔が台無しにわるわよ」

 レイシーは柔らかく言いながらアーシャに歩み寄った。

 「豹族の方ほどじゃないです。豹族の方と比べると・・・」

 アーシャの心の片隅には米豹族が豹族に比してがっしりした体躯、つまりずんぐりむっくりしていて、スマートじゃないことがコンプレックスとして常にあった。それが、本人の知らない所でいつの間にか豹族に対しての劣等感に似た感情を育っていたのである。

 「獣人ですら豹族と米豹族の違いなんて気づかないわよ。服を脱いで模様を見た時に分かって貰えれば上出来。ウチの人も分からないと思うわ。ね、アナタ」

 ウェルの横でただおろおろするしかなかったドクターに少々嫌味をにじませてレイシーが尋ねた。

 「わ、わしは分かっておるぞ」

 「黒い米豹族のウェイトレスを見て私にお仲間だぞ、って言ったのはどこの誰かしらね」

 横目でドクターを見ながらレイシーはそっとアーシャの斑点模様が入った頭髪をなでた。

 「きれいに手入れしているわね。私が貴女ぐらいのときは、髪の手入れなんてしなかったし、おしゃれもしなかった。米豹族とか豹族とか関係ないの。常に可愛く、きれいにしていくことが大切なの。貴女は充分に可愛くてきれいよ。怒らなければね。そうそう、ここのお湯はとても気持ちいいわよ。私もまた足が冷えてきたから浸かりに行くけど、どうかしら?」

 レイシーはあまりのことに兄のように固まっているアーシャの腕を取ると浴場に連れて行った。

 「・・・やっぱり夫婦だ・・・」

 「そうね、やっぱり兄妹ね・・・」

 レイシーに連れて行かれるアーシャを見ながらネアがつぶやくと、フォニーもその意見に同意した。

 「でも、ネアの言葉は正しかったみたいですね。かっこいい人は常にそうあるべく努力しているって」

 レイシーの言葉に感心しながらラウニが己に言い聞かせるように呟いた。

 「ねぇ、うちらもお風呂に入ろうよ。また、身体が冷えてきたし、それに今日が最後だもん」

 「そうですね。私たちも入りましょう。ねあ、アーシャさんの胸をじっと見つめたりしないで下さいね」

 ラウニがからかうようにネアに言うと、ネアはむすっとして

 「レイシーさんがきれいにしているって言っていたから、きっとアーシャさんも何か努力しているんですよ。それを参考にしないと・・・」

 「まるでおっさんの言い訳じゃな」

 ネアの言葉を聞いたドクターが 苦笑しながら呟くのを聞いてネアはさらにむすっとした。

 【ふん、羨ましくて言っているんだろが】

 ネアはドクターの言葉に何も返さず先輩方の後を付いて入浴の準備にかかった。


 「レイシーさん、そこにうつむけに寝てください」

 温泉から上がってくるとアーシャがレイシーに声をかけた。

 「え、なんで?」

 いきなりのアーシャの言葉にレイシーが戸惑っているとアーシャはレイシーをじっと凝視しながら空いているソファーを指差した。

 「レイシーさんは、左足が悪いのを右足で庇っておられますが、お子さんを抱いたり、杖をついたりで身体をずっとひねっているような状態が続いています。それが背骨、腰のゆがみになっています。これをまっすぐにするだけでも冷えからくる痛みも楽になると思います」

 「え、そんなことが分かるの」

 アーシャの言葉にレイシーが戸惑った。

 「アーシャは整体の心得があるんです。僕とちがってアーシャは小さい頃から母さんに整体技術を教えられていますから、施術させてやってください」

 戸惑うレイシーに安心させるようにウェルが言葉をかけた。

 「アーシャさんは、ネアと違っていろんなところを見ているんですね」

 「一緒にお風呂に入っただけであそこまで分かるんだ、凄いよね」

 「アーシャさんは、ボリュームは普通だったけど、形は良かったですよね」

 と、ネアだけはどこかずれた感想を述べたが、先輩たちはあえて聞かないことにしていた。


 「力を抜いてくださいね・・・」

 アーシャは横たわるレイシーの背骨をそっと撫でてその伊上具合を見ると

 「失礼します。尻尾触りますね」

 レイシーの黒い文様がうっすらと見える黒い尻尾をそっと掴むとしごくように数回なでると何かを考えるような表情を浮かべた。

 「痛かったら言ってくださいね。腰の位置を正していきます」

 アーシャは横たわるレイシーの腰の辺りに手を置くとぐっと力をこめて押し込んだ。その時、レイシーの口から小さな呻き声と腰からゴキッという音がした。

 「これから背骨いきますね。肩こりもきついようですからそれも緩和できるようにします」

 アーシャはグイグイとレイシーの背骨を押していくと、ときおりぼきっという音がした。そして、レイシーは押されるたびに小さな呻き声を上げていた。


 「どうでか、簡単な施術ですが、できる限りのことはしました。良ければ、ここに来られるたびに読んで頂けるともっといい治療ができると思います」

 アーシャの施術を終えたレイシーはその場でゆっくり立ち上がると身体を確かめるように腰をひねり、腕を回した。

 「え、すごく軽い・・・、足も楽になっているし、アーシャさん、ありがとうね」

 レイシーはアーシャにニコリと微笑んだ。それを見たアーシャも最初にあったもやもやを吹っ切ったのか明るく微笑み返した。

 「胸を大きくすることができるのでしょうか」

 すっかり調子がよくなったレイシーを見ながらラウニが呟いた。

 「・・・するとあの形の良さは整体の技術が活かされている可能性があるということですね」

 「ウチはそんなに都合のいいのはないと思うよ」

 ネア達の言葉を聞いてアーシャはクスクスと笑い出した。

 「そんなに都合のいいのがあったら真っ先に私がやってるよ。・・・ネアさん、そんなことを考えて見ていたのね」

 「かっこいい人は何か努力をしているからそうなっている、と考えているのよね。それで、じっくりと観察しているみたいよ」

 アーシャの指摘にレイシーが苦笑しながらネアを微妙な弁護をした。

 「純真にそうなの?」

 アーシャは気まずそうにしているネアを覗き込むようにして尋ねてきた。

 「私もかっこよくなりたいから・・・」

 ネアは外しそうに小さな声で弁明した、けっして助平心からではない、と言いたかったが、それを言えばますます自分を危機に追い込みそうなのであえて黙っていた。

 「・・・そうだよな・・・」

 ネアの言葉と表情を見ながらラスコーは呟いていいた。ネアがまれびととしての来歴を知っているからこそ、ラスコーはネアの言葉の裏を読んでいた。

 「シャルとは一緒に入浴させんぞ」

 と、誰にも聞こえない小さな声で言うとジロリとネアを睨みつけた。その視線を察してかネアは一瞬全身の毛が逆立つのを感じた。


 「おっぱいの話しもいいけど、さ、できたわよ。明日は都に帰るんだから、思いっきり食べていってね。ウェルさん、アーシャさん今日はありがとうね。今日はふかふかのベッドも用意しているからゆっくりと寛いでいってね。アーシャさん、良ければ明日私も整体して貰えるかな」

 シャルと一緒に様々な料理を運びながらヒルカが明るく声をかけた。

 「ええ、喜んで施術させて貰います」

 ヒルカの申し出ににこやかにアーシャが応えた。

ウェル君の妹も癒し手でした。米豹は「ジャガー」を意味しています。米豹なる豹はおりませんので、もし混乱された方がおられたら、すみませんでした。

ネア達の休暇も僅かです。早くケフの都に戻らせたいのですが、力が足りずまだバカンス中です。自分も休暇がほしいのですが現実は厳しいものです。

こんな駄文にお付き合いいただき感謝しております。生暖かく見守って頂けると幸いです。

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