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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第2章 ふしぎな世界
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09 見知らぬ世界

舞台となる世界のちょっとした紹介みたいなお話です。

 「ぷはー」

 スージャの関が見えなくなった所で、荷馬車に詰まれた行李を開けられて、ネアは大きく深呼吸をした。そして、立ち上がるとぐーっと背伸びをして縮こまった筋肉を伸ばし、ひらりと地面に飛び降りた。

 【えっ、俺の身体能力はこんなに高かったか?年齢が若いだけの問題じゃないぞ・・・】

 何気ない動きであったが、改めて考えると幼い子供の身体能力としてもおかしなことであるが、同行しているドクターもルップも驚いている様子はない。

 「裸足で長距離の移動はきついからな、これを履け」

 ドクターは荷馬車からサンダルのような物を取り出してネアに手渡した。その形状はかかとの部分がないサンダルであった。ネアはサンダルのような物をドクターから受け取り、それを履くのであるが、これは下着ほど苦労することはなかった。

 【かかとの部分がないと思ったら、獣人ってのは常に爪先立ちなんだ】

 爪先立ちと言うか、かかとからつま先が長いのである。2足立ちしている犬、猫に近い状態なのである。

 ネアはサンダルを履くと、とんとんとつま先を地面に軽く打ち付けて履き心地を確かめ、それが不快なモノではないと確認した。


 「ネアよ、ちょいとお前さんに聞きたいんじゃが」

 斧を肩にかけたドクターがちょこちょこと後ろをついてくるネアを振り返って声をかけた。

 「なに?」

 「お前さんは、パンツの穿き方を知らなかったじゃろ、するとあの合戦の時は・・・」

 「穿いてなかった」

 恥ずかしがることもせずあっけらかんとネアは答えた。彼女からしてみれば知らないから仕方のないことであり、それで何かのトラブルを引き起こしたわけではないので問題だと思ったことは無かっただけのことである。

 「大事なところを擦りむかんかったか?場所が場所なだけに、エライことになったら、嫁入りが難しくなるからな」

 ドクターは、にたっとわらった。その横で手綱を取っているルップの耳がちょっと赤くなったように思われた。

 「ドクター、レディに対して不躾なことを尋ねるのはいかがなものかと」

 ルップは笑っているドクターに生真面目に注意を促したが、ドクターのお前さんは気にならんのかの一言に黙ってしまった。


 【身体が軽いな、それにいろんな臭いがあることも分かる。なにより、目が良く見える。】

 以前の身体は年齢と酷使により随分と草臥れていたが、この身体はまだまだ成長途中の若い身体である。性別がどうこうより、この事実が妙にうれしかった。


 一行は大木が茂る森の中の一本道をネアの足並みにあわせて急ぐこともせず、足をすすめていた。

 「今日は、ネーアの泉辺りで野営か・・・」

 ルップがぼそっと呟いた。

 「ネーアの泉・・・」

 ルップにつられるように、ネアは自分が出てきた泉の名を口にした。

 「ネーアの泉の話は・・・、その様子だと知らんようじゃな。あそこにでかい木が見えるじゃろ、あれが亡子の木じゃ、あの木の生えておる山の麓に昔は村があったそうじゃ、その村にネーアと言う娘がおってな、その娘の親が重い病になったときに、メラニ様がその娘の枕元にたって泉の水を飲ませろと仰ったそうじゃ。早速、娘は泉の水を親に飲ませると、不思議なことに病が全治した、というお話じゃよ」

 ドクターは片手で立派な顎鬚をしごきながら民話を語って聞かせた。ネアはその話を無言で聞いていた。

 【養老の滝みたいな話は何処の世界にでもあるもんなんだな】

 と、もう戻ることはできそうにない、もとの世界のことをぼんやりと考えた。


 出発した日の夕刻には一行はネーアの泉の水辺に辿り着いていた。ルップはなれた手つきで薪となるモノを集めて焚き火の準備を始めようとして、ふと何かに気付いた。

 「ドクター、あれは」

 ルップが指差す方向には、虫眼鏡のレンズの部分がない丸い標識のようなものが突き刺さった小さな塚があった。

 「あれは、メラニ様のシンボルじゃな・・・、お館様は早速伝説を作り始められたようじゃ」

 【あれは、俺の墓なのか】

 行きながらにして己の墓を見るという稀有な経験をしたことに若干の感動を覚えた。女神様が遣わした少女の伝説はこうやって作れていくのだろうと歴史の一こまを目撃した気分だった。

 「しかし、伝説の少女が戦場で、ノーパンであった、とは誰も伝えんじゃろな」

 ドクターは徒っぽく笑った。

 「それが伝わってしまうと、伝説が違う方向に行きそうです。有り難味もなくなりますよ」

 ルップは火床を作りながら、にたにたと笑うドクターを睨みつけた。

 「お前さんは真面目すぎるぞ、戯言と真の言葉ぐらい読めるようになれ、それができんと敵の策に嵌ってしまうぞ」

 ドクターは逆にルップを諭すと、荷馬車から寝袋や毛布を降ろして、野営の準備をはじめた。



 夜食は、乾燥した肉だとか見たことも無いようなものを泉の水で煮込んで作られスープと水気のないパンのようなものと熱いお茶だった。勿論、ドクターはこれにアルコールがプラスされている。

 「・・・」

 ネアはスープの中に入っている戻した肉を何とか噛み切ろうとしていた。それは、ゴムのように妙に弾力に富んでおり一筋縄では行きそうになかった。

 「?」

 【あれ、猫の歯って、臼歯が無いはずなのに、俺には臼歯があるぞ】

 己の歯を舌先で確認しつつ、ネアは首をかしげた。そして、とりあえずこの肉を胃袋に流し込もうとお茶の入ったカップを取り上げて、口に運んだ。

 「?」

 お茶が口元から毀れた。その様子を見てルップが声をかけた。

 「カップには口の先だけをつけるんだ。ボクらはマズルがあるから、カップから飲むときは注意しないとこぼしてしまうから」

 ルップはタオルを手に取ると、濡れたネアの口元や胸元をそっと拭いた。

 「ありがと」

 【彼ほど突き出ていると難しそうだな】

 自分を拭いてくれているルップの突き出たマズルを見つめてネアは自分が猫族であったのは幸運なことなのかと思った。

 「ワシは、お前さんら獣人の食事風景を見るたびに、器用さに感心するぞ。お前の親父さんも若い時はそれは、スゴイ食いっぷりじゃったぞ。まさしく、黒狼そのものじゃった」

 ネアはドクターの言葉に、食事の際は充分に気をつけないとだめらしいことを覚悟した。



 「明日は早めに発つぞ、そうすれば、お昼ごろには懐かしのケフの都に辿り着けるじゃろ」

 アルコールを含む食事を終えたドクターはまだ干し肉と格闘しているネアと食器の後片付けを始めたルップに声をかけた。

 「お前らは休め、見張りはワシ一人でやるからな」

 ドクターそう言うと近くの木に背中を預けると、愛用の斧を抱え込んだ。

 「だめです、ボクが見張りにつきます。ドクターは休んでください」

 「いきなり襲われた時、護衛が寝不足でへろへろじゃと、安心して歩くこともできんわ、お前さんは護衛が任務じゃろ、何かあったらたたき起こすから、さっさと寝ろ」

 ルップは、ドクターの一喝でしゅんと尻尾を下げて寝袋の中に潜り込んだ。

 「で、ネアもさっさと寝ろ、いつまで星を見ておる」

 食事の後、ネアは地面に大の字になって寝転がり、空を見上げていた。

 【月は一つ、星座は・・・、よく分からないな】

 夜目が利く目で夜空を見上げるとうるさいぐらいに星ぼしが夜空一面にばらまかれているのが良く見えた。

 「ドクター、ケフの都ってどんな所?」

 ネアはむくりと起き上がり、自分の寝袋に体を突っ込みながら静かに座っているドクターに尋ねた。

 「王都に比べると弩田舎じゃが、それなりに賑わっておるぞ。それに、いろんな種族がおって退屈しないぞ。医者で同じ種族だけを見るというのは退屈極まりないからな」

 ドクターは目を軽く閉じたまま答えた。

 「種族?」

 【俺やドクターみたいなの以外にもいろいろといるのか】

 「心配せんでも、モンスターは街に入ってこないぞ」

 さらりとドクターは恐ろしいことを口にした。

 【モンスターがいるのか】

 ネアはドキリとしてすっぽりと寝袋の中に入り込んだ。

 「この辺りにはおらん、アイツらはもっと人里離れたところに機嫌よく生活しておるから、怖がることも無いぞ、連中の機嫌さえ損なわなければな」

 このドクターの言葉が安心材料になったのか、それとも想像することを放棄したのか、ネアはそのまま黙り込んでしまった。それから暫くすると蓑虫のようになった寝袋の中から小さな寝息が毀れだした。

この世界には様々な種族が存在しています。

それぞれが独自の身体的特徴や文化を持っています。


お読み頂き、ブックマークまで頂いた方々に感謝しております。

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