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ひとみ先生の言葉に熱が灯る。
「数学は言語、世界共通の道具よ。数には、正しい式には必ず意味がある。規則性を見いだせない素数に何らかの規則性が見いだせたなら、数学の言語化はもっと進むはず。わたしはそんな世界を見てみたいの」
「だから、必ずリーマン予想を解いてみせたい。わたしにはたくさん時間がある」
意志のある目で、ひとみ先生は言い切る。
「内緒ね」、いたずらっ子のような笑みを浮かべてそのままコーヒーに口を付けた。
そしてぱん、と手を叩く。
「さて、やりましょうか。成田くんはわたしにわからないことを質問しに来たのでしょう?」
「はい」
俺もひとみ先生の淹れたコーヒーに口を付ける。
*
「そうね、じゃあ次数を下げて考えてみましょうか。見ててね」
ひとみ先生は白い万年筆とレポート用紙を取り出す。
「n=1をとったとき、p=axという値が得られる。逆に言えばn≠1をとったときp≠ax、つまりは、グラフにするとこう、ね、…」
俺の疑問点を一つ一つ砕きながら、ひとみ先生は白い万年筆でまっさらなレポート用紙にブルーブラックの式とグラフを書き上げていく、
「…したがってn=1のときa=3,x=2
よってp=6」
それは、まるで魔法のようで。
「魔法使いみたいですね」
お礼を言うのも忘れて俺がその言葉を発したとき、ひとみ先生は一瞬、驚きの表情を浮かべた。
そのあと、本当にうれしそうに、花のように微笑んだ。
「ありがとう」
それから彼女は思い出したように、
「でも、レポート課題は次数が高いから一次みたいに一筋縄じゃ行かないわ。よく考えてみてね。成田くんのレポート、楽しみにしてるから」
そう言いながら、付箋紙に緋色の万年筆で何かを書きつけ、自ら書いた数式に貼り付けて、俺に手渡した。
『Never Give Up!』
淡いピンク色の付箋紙には、そう書かれていた。
end.
移植・リメイクなのにとても時間がかかってしまいました。何故だ。
この作品が貴方にとって何らかのgiftになりますように。