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珍しく今日も投稿。
短いですけど。
げんなりとした表情で東区のギルドを目指すクラミ。
彼女は先ほど道中にある防具屋に立ち寄り、紅い外套の手入れをお願いしたのだ。
そして、お金とは別の報酬も要求され――。
クラミはブンブンと首を横に振りながら歩く。
周りからは奇異の視線が飛んでくるが、彼女は気付かずにメインストリートを突き進み、お目当てのギルドに到着した。
ドアノブに手を掛け室内に入ると、この地方では珍しい黒髪を見た冒険者達がヒソヒソと喋り出す。
「あれって……」
「Aランクの冒険者を倒したって?」
「お前、声かけてこいよ」
「何言ってんだよ。ゴブリン騒動の時の事忘れたのか――」
(色々といわれているなぁー)と、内心で思いつつも、聞こえないふりをしながら入り口に張られた紙に視線を向けると、聞き慣れた声で呼ばれる。
「おお~い、嬢ちゃんはこんな所で何しているんだ?」
大きな声を出しながら、受付カウンターから出てくる大柄な男。彼の頭部は見事なまでに後退しているが、サイド部分はフサフサの落ち武者の様なヘアースタイルだ。
「おはようございます、ギルドマスター」
クラミは彼の頭を凝視して、視線を床に落として挨拶をする。
そなん彼女に片手を上げて答え、再度口を開く。
「それでどうかしたのか?」
ギルドマスターの言っている意味が解らずに首を傾げるクラミ。
ここ冒険者ギルドに来る者の大半は仕事の依頼を受けるためだ。
そこに、冒険者であるクラミが来ることはなんら不自然ではない。その筈なのだが――。
「どうもこうも、仕事をしに来ましたよ?」
本当はリトスから逃げ出しただけなのだが、そんな事を馬鹿正直に言えるわけもなく、ギルドに来た理由を簡潔に伝えるクラミ。
「仕事にって、つい先日Aクラス冒険者とやり合ったばかりだろ! 休め、休め」
「でも……」
「でもも、クソもないぞ。高ランクの奴らとやり合って武器や防具の方はどうなんだ?」
「ついさっき手入れにだしました」
「だったら尚のこと休め!」
ギルドマスターの厳しい口調にクラミは肩を落とす。
それを見ていた他の冒険者達は「おやっさんがイジメているぞー」「いい年して新人いびりかよー」「男には優しいくせに」等と好き放題言われ、ギルドマスターは青筋を立てながら「お前らも嬢ちゃんぐらい働き者ならなぁぁ」と、叫ぶ。
耳を塞ぎながらこれからの行動を考えるクラミ。
このままお城に戻るのは気が引ける。しかし、肝心の依頼を受けることができ無い。
どうしたものかと悩んでいると、正面のギルドマスター問いかけてくる。
「嬢ちゃんは暇なのか?」
「その……はい。暇って言えば暇ですね」
歯切れの悪いクラミの事などお構いなしにギルドマスターが言う。
「もしよかったら孤児院に行ってみないか?」
「孤児院ですか」
「そうだ。あそこのババ……シスターがな、うちの女性職員の手を貸せって言うんだよ」
「いや、職員って言っているじゃないですか」
クラミの問いにギルドマスター首を横に振る。
「嬢ちゃんとソフィアが助け出した娘達が居るから、男でじゃなくて、女でが居るんだよ。女性の冒険者は少ないし、孤児院からの安い仕事は受けてくれなくて」
「私でも良いなら受けますよ」
これまで何度も足を運んでいる孤児院の為ならと、喜んで仕事を引き受けるクラミ。
その返事を聞きギルドマスターは嬉しそうに笑いながらクラミの肩にて置いて感謝の言葉を贈る。
するとまた、周りの冒険者が騒ぎ出すのでギルドマスターは「孤児院の仕事は任せたぞ!」と、言い残して騒いでいる野郎共の中へと特攻を仕掛けた。
あまり関わりたくないと思うクラミは、さっさとギルドを後にし、南区にある孤児院を目指す。
「そう言えばアルさんとイリニって姉妹……なんだよな」
孤児院の前でイリニを見つけて喜ぶアルモニアと、それとは対照的に険しい顔をしていた彼女のことを思い出すクラミであった。