1-2 ②
短いです。
ソフィアとの妖しい雰囲気から逃げ出したクラミは急いで食堂を目指す。
後ろから聞こえる足音を意識しながら歩き続けていると、やっと目的に到着した。
何時もよりも何倍もの距離を歩いたと錯覚するクラミは、力無く扉を開けて入室する。
「おはよう、クラミ」
「おはようございます、リトス様」
すでにリトスは食堂に居り、にっこりと微笑み挨拶して着た。挨拶を交わすとクラミは慌てて椅子に座る。
彼女が座るのを確認したリトスは、後ろのソフィアに視線を向けて同じように口を開く。
「おはよう、ソフィア」
「お、おはようございます。リトス様」
「貴女が侍女になってくれて嬉しいわ」
「い、いえ。こちらこそ、雇って頂きありがとうございます」
「ふふ、そんなに硬くならずに。それより仕事の方はどうかしら?」
「そうですね――」
優雅にお茶を飲みながら質問するリトスに対して、ソフィアは緊張した面持ちで答えていく。
そんな二人の会話を聞きながらクラミは目の前のカップを手に取り、息を吹きかけ冷ましながら口に含む。
「それにしても……クラミとソフィアは今朝も仲が良かったわね」
「ブフッ……ゲホっ」
意味ありげな言葉を聞くと同時にクラミはお茶吹き溢し、むせながらリトスを見る。
「ふふ。ふふふ」
表情は笑っているのだが、笑っているようには感じられないリトスに前にして、縋り付くように後ろに立っているソフィアに視線を向けるクラミ。
しかし、ソフィアもいきなりの事態にどうして良いのか解らず目を泳がしていると、食堂の中に執事が入ってきた。
「朝食をお持ちしました……何かありましたか?」
「何でもないわ。それより早く朝食にしましょう?」
それ以降の会話はなく、静かな食堂で味のしない朝食を摂るクラミ。
食べ終わると、「それじゃ、冒険者の仕事に行ってきます!」と言い残して逃げ去る。
それに追従する様にソフィアも、「玄関までお見送りしてきます!」と告げて、後を追う。
慌てて出て行く二人を執事は訝しげに見つめ、リトスに視線を向けるが、彼女は素知らぬ顔でお茶を飲んでいた。
「何て言うか……その、大変でしたね」
「そうだね。まだ、仕事始めて2日目なのに」
玄関に辿り着いた二人は大きなため息を洩して考える。
リトスの先ほどの発言の意味は何だったのか?
「いつも仲が良いわね」ではなく、「今朝も仲が良かったわね」と言ったのは、別の日に仲良くしている所も見られたのだろうか?
大体同じ事を考える二人は頬を赤くして見つめ合う。
「リトス様もからかわなくても」
「……えっと。そうだね」
クラミとしては、小学生男子が男女仲良くしている子に対して、囃し立てている様に感じたみたいだ。
ソフィアはリトスの様子から色々と察したが、邪推の域を出ないので曖昧に返事をして、話題を変える。
「冒険者の仕事をするって言ってけど、何するの?」
「う~ん。向こうに行ってみないと何とも……」
「それもそうだけど、街から出るような仕事をするなら、ちゃんと装備の手入れをするんだよ」
「手入れですか?」
「そ、手入れ。お店に持って行けば良いから。武器ならスディラス。クラミの防具ならあそこね」
防具の話になると顔を歪めるクラミ。あそこの店に行くたびに精神的に嫌な思いをするからだ。
できるだけ革専門の防具屋とわ関わりたくないクラミは、魔法の袋から紅い外套を取り出してソフィアに見せ付ける。
「防具ならこれがあるから大丈夫ですよね!」
A冒険者の魔法や剣の斬撃を防ぐほどの防御力を身に染みて味わったクラミは、自慢げに外套を羽織る。
しかし、ソフィアは首を横に振りながら口を開く。
「駄目だね。買ったときと比べて色が落ちているでしょ? ちゃんと専門家に見せて来るんだよ!」
買ったばかりの頃に比べて、紅い外套の光沢が落ちており、その原因は乱暴に扱ってしまったせいだなと思っていたのだが――。
現実を受け止めたくないクラミは力無く城を後にするのであった。
修正するかも?