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1-2

 トレーニングを終えたクラミは客間のお風呂で汗を洗い流していた。

 以前、リトスと一緒に入った広々とした浴場とは違い、ニ畳ほどスペースに水を生み出す魔道具と手桶とバスチェアーが置かれているだけの風呂場だ。


 しかし、一人ではいる分には充分に広く、クラミは鼻歌交じりに冷たい水を全身に浴びせれば、火照った体の熱と共に不快な汗が流れ落ち、晴れやかな気持ちになる。

 ぱっぱと水浴びを終えたクラミは新しい服に着替えると、ベッドに腰を下ろす。


 濡れた髪を乱雑に拭きながらクラミは、これから合うリトスの事を考えて重いため息を吐く。

 何時までもリトスのお世話になるのは気が引けるので城を後にしたのだが、商人による誘拐事件の後、済し崩し的に居座る現状にどうしたものかと考える。


 城から出て行くのは簡単だが、リトスにその事を告げた時の事を思い出し、想像すれば――。

 けれど、元の世界に帰る為には同じ場所に留まるこはでき無いので、結局は遅いか早いかの問題でしかない。

 清々しい気分から一変したクラミは天井を見つめて口を開く。


「どうしたものかな?」

「悩み事?」


 独り言を呟いたはずなのに聞き慣れた声で返事が返ってきた。

 肩をビクつかせ、タオルの隙間から顔を覗かせると、ソフィアと目が合う。


「朝食の時間だから急いだ、急いだ」


 そう言いうと、クラミの止まっている手からタオルを取り、代わりに拭いていく。


「長い髪って綺麗だけど、手入れって大変そうだね」

「そうですよね?」


 無頓着なクラミは疑問系で言葉を返し、ソフィアにされるがまま身をゆだねていると、後ろを向くように言われたのでベッドの上で胡坐を掻く。

 ソフィアはベットの横に備え付けられているテーブルの上からブラシを手に取り、ぐしゃぐしゃになった髪を梳きながら言う。


「それで、さっきは何でため息をついていたの?」

「あれはですね――」


 背中越しに城から出て行くことを告げるとソフィアの手が止まる。


「冒険者を続けるなら、そうなるよね」


 トーンの落ちた声を聞き、クラミは考える。

 リトスに城から出て行くことを告げても機嫌を損なわない言い方のアドバイスを貰いたいのだが、今の彼女にそれが聞けるか?

  

 なら、ソフィアに告白の返事を返すのはどうだ。

 二人っきり今なら確かにチャンスだが、ソフィアの声から察するに今は少し気落ちしたようだ。

 そんな状態の彼女に追い打ちとなるお断わりの言葉を発するればどうなるか?


 立つ鳥跡を濁さずと言う言葉があるが、このままでは泥だらけになってしまう。

 少し間を置き、クラミは口を開く。

 

「そ、そう言えばソフィアは、何で侍女をやることを決めたんですか?」

 

 結局、今の問題を後回しにするクラミ。

 恋愛経験ゼロで、女性の心の機微など解らない彼女――元い、彼は『嫌われたくない』その思いがあるらしく、話題を変えたのだ。


 クラミの気持ちなど知らないソフィアは、躊躇いつつも素直に口を開く。


「クラミのせいだよ」

「へ!?」


 鳩が豆鉄砲を喰らったように、素っ頓狂な声を発してクラミは振りかえる。

 今の彼女の顔はかなり間抜けらしく、ソフィアは笑いながら言う。


「冗談だよ」

「驚かせないで下さい!」

「ごめん、ごめん。クラミのせいと言うよりもね――」


 ソフィアはAランク冒険者達に掴まった事を思い出しながら話す。

 弟の死や、母親が酷い目に遭ってるのに何もできなかったこと。

 自分のせいでクラミが危険な目に遭いそうだったこと。

 それを昔の様に只見つめるだけしかでき無かった自分が許せなかったこ。


「な~んか自信なくしちゃってね。ホント駄目ね私」

「そんな事ないです」


 自嘲気味に笑うソフィアを抱きしめ、クラミは言う。


「俺はソフィアに色々と助けて貰ってます。全然駄目じゃないです」

「…………」

「知り合いのいないこの場所でソフィアと知り合えて本当に嬉しいです。一緒に仕事したり、酒場で暴れたり、楽しい思い出が一杯です」


 偽りのない気持ちの言葉を聞き、クラミの背中を強く抱きしめるソフィア。


「ソフィアが居てくれて本当に……本当に――」


 元気のないソフィアを励ますべく、自分の思いを告げるクラミなのだが、今の状況を冷静に考えると、口を紡ぐ。

 (あれ? この流れって告白って感じ……)と、思ったクラミはソフィアの両肩に手を置き、ゆっくりと身を離し、マジマジと顔を見つめる。


「クラミ」


 真っ赤な顔のソフィアが言葉を溢す。

 それと同時にクラミは青くなる。


「ほ、本当にね、そのね……」


 彼女の思いは断ろう。断ろうと、再三自分に言い聞かせていたのにこの有様である。

 口をパクパクと開く彼女を、ソフィアは目をキラキラと輝かせて言葉を待つ。


「ご飯ですね! さあ、早くご飯を食べに行きましょう!」


 ベッドから飛び上がるクラミは部屋の出口へと向う。

 その姿を呆然と見つめるソフィアは小さな声で言う。


「ありがとう」


 いつも肝心な所でヘタレるクラミを見て、自分の思いに答えてくれない事にたして怒りや悲しみを感じることはなく、それよりも安心感を覚えるソフィア。

 右手と右足を同時に動かしながら歩くクラミの後を微笑みながらついて行くのであった。

 

なんやかんや言っても、クラミはソフィアの事が好きなんですよね。

だからこそ断れない。


ソフィアも同性に対して告白した事に対して後ろめたい気持ちがあり、その思いを振る払うべく三章1-1では挑発的な事を言っていたのだが、いつものクラミを見て安心している感じです。


二人とも嫌われる事を恐れてるって感じで書いてます?

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