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エピローグ~それぞれの朝~

 蔵美 善十郎


 クラミが目を覚ますと、見覚えのある白い空間に居た。

 ぼんやりと微睡んでいると、視界いっぱいに黒髪の少年の顔がアップで映る。


「おはよー。気分はどう?」


 お馴染みの白い格好をした少年は、クラミの頭の近くで膝を両手で抱きかかえ、顔を覗き込みながら挨拶してきた。

 急な出来事に動揺するクラミは腹筋に力を込めて、一気に起き上がる。

 顔を覗き込む少年と額を打つける――と思いきや、目に見えない壁にぶつかるクラミは、そのまま白い床に勢いよく後頭部を強打した。

 

「ふごぉぉ……」


 頭を押さえて、呻き声を上げてのた打ち回るクラミ。

 それを見て少年は腹を押さえて笑いこける。

 甲高い声がズキズキと頭に響くのを堪えて立ち上がったクラミは、地面に横たわってピクピクと小刻みに震えている少年に頭を下げた。


「ありがとうございました」


 唐突なお礼の言葉を受けて、少年は涙が浮かぶ目頭を人差し指で拭うと、大きく息を吸い込み真剣な表情で言う。


「マゾなの?」

「そっちじゃないよ!? アレですよ、ソフィアの居場所を教えてくれたじゃないですか!」

「ああ……そっちか」


 森でソフィアの消息が途絶えた後、オロオロと狼狽えるクラミの頭の中に直接声が響いた。

 『彼女は無事だよ。このまま真っ直ぐ森を歩いたところに居るからね!』と、言うその言葉を信じて森を突き進み、ソフィアを救出する事ができたのだ。


 その事に対してお礼を述べれば、マゾ扱いである。

 少し腹も立つが、少年の言葉がなければ――そう思えば再度、頭を下げるクラミ。


「本当にありがとうございます」

「良いって、良いって! それより、大丈夫?」


 頭を下げるクラミの肩を、ドヤ顔で叩く少年。

 クラミが頭を上げると、何時も悪戯をしてくる態度から一変、心配そうに尋ねてくる少年の姿が少年らしく見えて、思わず感動する。 


「あ、はい。少し目を回しましたがもう大丈夫です! ちゃんと心配してくれたり、ソフィアの事も……流石、女性を守る神様ですね!」

「……女性を守る神様?」

 

 テンションが高くなったクラミとは対照的に、少年は小首を傾げて見つめてくる。

 しばしの間だ、白い空間内が静寂に包まれる。


「あ、そろそろ時間だね! 頑張って玉と棒を探すんだよ!」


 この空気に耐えられず、無理矢理話題を変える少年。呆気にとられているクラミは二度、瞬きをして顔の前で手を振りながら言う。


「いやいやいや、神様なんですよね!? 女性を守る神様って自己紹介しましたよね!」

「モチロン神様だよ! ほら、こんなに光るよ!」

 

 食ってかかるクラミに対して、少年がそう言うと後光が差す。

 余りの輝きの前に、咄嗟に腕で目を隠すクラミ。次第に目が馴れてきたので腕をどかすと、今度は自分の体が白く光り出す。


「時間切れだね! また今度会おう!」

「いや待って下さい――」


 言葉を発しようとするが、喋れない。クラミは口をパクパクと開けて何かを訴え掛けるのだが、少年は和やかに無視して言う。


「それよりもさ、本当に大丈夫? 初めて――」


 に・ん・げ・ん・を・こ・ろ・し・た・け・ど? 

 

 声は出さずに、口を大きく開閉する少年を黙って見つめるクラミ。彼女は少年が何と言ってるのか解らない。いや、本能的に理解を拒んだのかもしれない。

 そう考える少年は、誰も居ない空間を見続ける。




 大きな欠伸と共にクラミが目を覚ますと、柔らかな布団に包まれたベッドの上だ。

 枕元にある小さな机に置かれているカンテラから、温かなオレンジ色の弱い光が発せられている。

 それを眺めながら、瞼を下ろそうとすると――全身を寒気が襲う。

 何故か今、二度寝をすると嫌な夢を見そうだ。そう感じるクラミはベッドから降りて、魔法の袋から着替えを取り出す。

 

「よっし、走るか!」


 動きやすい服装に着替え終わると、全てを忘れるように走りだすクラミであった。




 リトス・ブレ・エライオン

 

 とある地下の一室に何本もの蝋燭が置かれている。

 部屋の中に叫び声が木霊する度に、蝋燭は揺れ動き、その灯りが写し出す黒い影も歪に蠢く。


「わ、私が誰だか……知っての事ですか……」


 天井から伸びる二本の鎖に両手を拘束され吊り上げられている太った男、ポリティスが椅子に座る少女に睨みながら言う。その言葉に力は無い。

 それもその筈、今の彼の体中には紫色の太い痣が何本も浮かび上がっている。


「…………やれ」


 感情を含まない、無機質な声でリトスが呟くと、ポリティスの後ろに立つ兵士二人が、手に持つ平ぺったい木の棒を叩き付ける。

 それと同時に、ポリティスは歯を噛み締めて痛みに耐えていた。

 そのやり取りをもう、何十回と行なっているのであろう、彼の口の中は血が滲み、幾つかの歯はひび割れている。


 リトスの後ろで佇んでいた執事は、血の混じった涎を垂らすポリティスの元に近寄り、彼の両頬を片手で握りながら言う。


「何故ソフィアを狙った? 言わなければ一族郎党皆殺しですよ」

「それは……」

「まさかコミティス公爵家が守ってくれるなんて、夢物語を見てないですよね?」

 

 執事が投げ捨てるかのようにポリティスの顔から手を離すと、彼は顔を青白させる。

 皆殺しなんて出来るわけが無い。そう考えるのだが、目の前に居るリトスの表情を見れば、只の脅し文句を言っているようには見えない。

 それに、彼女が女伯爵(カウンティス)に叙任された理由を思い出せば――。

 

「こ、コミティス公爵家から依頼で……エライオンの街に居る……ブレ家が懇意にしている…………高ランクの女冒険者を攫ってこいと」


 震えながら言うコミティスの言葉を聞き、リトスは思案する。ソフィアとは別に懇意では無い。

 他に女冒険者と言えば――。


「クラミ様ですか」


 執事がポツリと洩すと、リトスは肯き立ち上がる。

 

「情報伝達に誤りがあった為にソフィアが狙われたのか。クラミを攫おうとしたのもブレ家に対する――いや、私に対する嫌がらせか」


 リトスは兵士から木の棒を奪い取り言う。


「どうせ、お前の証言など当てにもならぬ。せめてもの腹いせに、死ね」


 振りかぶった木の棒を何度も打ち付ける。薄暗い部屋に男の絶叫と、木の棒が折れて地面に転がる音が響く。

 折れた棒を投げ捨てるリトスは、もう一人の兵士に手を伸ばす。


「お嬢様、そろそろ日が昇る時間でございます」

「それがどうした!」


 木の棒を両手で握り締めるリトスの背中に、身に付けるジャケットを羽織らせて言う。


「これ以上は領主の仕事ではございません。少しお休みになった方が良いかと」

「…………分った」


 木の棒を兵士に返すリトスは、執事に顔を見せずに部屋の入り口に向った歩く。

 重たい鉄のドアを開けると、急勾配の石造りの階段が見える。その階段に一歩足を置いたリトスは、後ろをふり返り言う。


「そいつにはもう用がないから、好きにしなさい」

「畏まりました、女伯爵(カウンティス)


 執事の声を背で受け止めるリトスはゆっくりと階段を上って行き、木組みの小屋から外へと出る。

 ここは城の裏手にある場所だ。

 そこから一人、まだ日が昇らぬ薄暗い庭を歩く。


「クラミ……もう、起きているのね」


 城の入り口が見えると、丁度クラミが出る瞬間であった。

 彼女は黒い髪を靡かせて走って行く。

 その姿を目で追いやり、城の中へと入っていくリトス。一晩中、密室に居たため汗をかなり掻いている。彼女は直ぐさま身を清め、洗濯された白いタオルを握り締めて玄関へと向っていくのであった。




 ソフィア・オリキオ


「やっぱり、スカートって馴れないな」


 足首まで伸びた黒いスカートを摘まみながら何度も自分の姿を確認するソフィア。


「似合ってますよ」


 その姿を微笑ましく見つめて、口を開いたのは年配のメイドだ。

 ソフィアはリトスの元で侍女として働くことを伝えると、次の日から働き出した。

 ほかのメイド達からは「昨日は色々と大変だったでしょうから、今日は休んで下さい」と、言われるのだが、早く新しい環境に慣れるために、無理を言ってお願いしたのだ。


「ソフィアさんのお仕事はリトス様の身の回りの世話――と、言うよりも、護衛が主な仕事です。詳しいことはドリフォロス様と打ち合わせしてからですね」


 この城の人事を取り仕切っているのは執事だ。彼の命令無く、勝手に仕事を教えることができないメイドは悩む。

 新人のソフィアはやる気がある。だが、仕事を与えるわけには行かない。

 悩んだあげく、苦肉の策としてメイドは言う。


「まずは、お城になれて下さい。初めてだと迷ったりするので。私達は仕事があるので、一階と外でも見回って下さい。あ、それと二階は駄目ですよ。別の機会に案内しますので」

「……はい」


 自分の仕事場に戻るメイドの背中を見送り、ソフィアはフラフラと歩き出す。

 明かりが灯っている廊下と、そうではない廊下を不思議そうに見回り、城の間取りを頭に入れていく。

 一階の全てを回る頃には、窓から見える空は赤く焼けている。

 特にやることも無いので、空を眺める為に城から出ると、丁度クラミが帰って来た。


「私は…………よっし」


 ソフィアはアイテムボックスの中からタオルを取り出して、歩き出す。


「あ、ソフィア! おはよございます」

「おはよ、クラミ」


 すっかり明るくなった景色の中、ソフィアを見つけたクラミは手を振りながら近づき、彼女の元に着くと走るのを止める。

 玉の様な汗を額に浮かべるクラミに、ソフィアはタオルを渡す。

 「ありがとうございます」と、お礼を述べるクラミは顔を拭き、タオルを首に掛けて言う。


「その格好、似合ってますよ」

「そ、そうかな……ありがとう」


 照れるソフィアを見つめて、頬が赤くなるクラミは、それを隠すようにタオルで顔をもう一度拭く。

 その様子を見ていたソフィアは大きく息を吸い込み、頭を下げる。


「助けてくれてありがとう、クラミ」

「ええっと……昨日の事ですよね……それなら、当然のことを――」


 照れるクラミは頭を掻きながら喋っていると、ソフィアが自分の唇を押し当てて、その口を塞ぐ。

 柔らかな感触が一瞬だけ重なると、直ぐさま離れていく。

 夢か幻か、先ほどの感触を確かめる様にクラミは自分の唇に指を当てる。


「今のはお礼。嫌だったかな?」


 呆然としているクラミに、ソフィアが首を傾げて聞いてくると、勢いよく首を横に振って言う。


「嫌じゃないです! 全然、嫌じゃないです!」

「ふふ、知っているよ。クラミは女の子ばっかり見ているものね」

「それは、その――」

 

 どう返せば良いのか分らないクラミが吃っていると、首に掛けているタオルの両端をソフィアが引っ張り、またその口を塞ぐ。

 今度は一瞬で離れることはなかった。

 

 唇の柔らかさと、顔に吹きかかる湿り気を帯びた鼻息が双方から漏れる。それを不快に感じることも、口で息を吸う事をせず、稚拙ながらもお互いに交じり合う。


 どれほどの間だ口づけを交わしていたのであろうか。

 クラミとソフィアの口が離れると、二人の間には細くきらめく一筋の吊り橋が架かっているのだが、彼女達はそれに気付いていない。

 

「さっきのはお礼で、今のは私の気持ち」


 顔を真っ赤にするクラミの頬に手を当てるソフィアは朗らかに言う。


「好きよ、クラミ」


 生まれて初めての愛の告白を受けるクラミは、全身をガチガチに緊張させて口を開く。


「その……ですね――」


 又もや喋っている最中に口を塞がれた。

 しかし、今度は指でだ。

 ソフィアは人差し指をクラミの口に当てると、頭を横に振る。


「返事はいいの……。今は私の気持ちを知ってくれれば……それでいいから」

「はい……」

 

 恥ずかしさの余り俯くクラミ。その頭を撫でるソフィア。


 そんな二人を玄関から見ているリトスはタオルを握り締めて、踵を返すのであった。

 

何て言うか、ありきたりな感じで二章終わりました。


取敢えず、更新遅くて申し訳ないです。

中々、自分の妄想を字にする事ができずに四苦八苦。

エピローグの最後のキスシーンなんて書いてて――。

明日は二章登場人物紹介を投稿して、十七日か十八日に三章を開始したいと思います。


三章のヒロインはリトスさんです。

ここから巻き返しがあるのか!?

……まぁ、タグにハーレムがある時点でお察しですが。

たまに、リトスとソフィアの二大ヒロインで三角関係の話しでもよかったんじゃないか?とか思いますね……。

何時か挑戦したいものです。


ここまで読んで頂きありがとうございました。これからも本作品にお付き合いして頂ければ幸いでございます。

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