5-5
「コイツはどうしますか?」
無駄に大きすぎる剣を魔法の袋に仕舞い、地面に突き刺さっている鉈を引き抜き抜いたクラミは、それを肩に担ぎ、足下でのたうち回るひょろ長の男を見下しながら言う。
彼女の言葉を聞き、ひょろ長の男は恐る恐る声の方を向くと、今にも自分目掛けて鉈を振り下ろす。と、言わんばかりに、クラミの視線は穏やかじゃない。
「少し聞きたい事があるから……ちょっとまってね」
二人に背を向けるソフィアは、アイテムボックスから取り出したタオルで顔を拭きながらクラミを宥める。
軽く深呼吸をしてソフィアがクラミの元に歩み寄ると、地面に横たわるひょろ長の男の顔に蹴りを入れて口を開く。
「攫った女は何処にいる? ポリティスが街に居るんだから、まだ売ってないんだろ?」
「何のことですか?」
突然ソフィアが男に蹴りを入れるを見て吃驚するクラミは、訝しげ尋ねる。
「昨日、リトス様が話していた商人や女性が襲われたり、攫われたりする事件が起きているって言ってたじゃん――」
そう言いながら冷え切った目でひょろ長の男を見下し、再度蹴りを入れながら続きを言う。
「その犯人がコイツら」
「……ッグア! た、頼む……何でも、言うから……助けてくれ!」
「…………」
鼻血で顔を汚し、涎と涙を溢しながら男はソフィアの足に纏わり付くソレを、彼女はうっとしそうに払いのける。
その様子を黙って見ているクラミの表情は優れない。
「何でも言うのなら、早く攫った女の場所を言え。街では匿えないだろ? 何処にいる」
「お、鬼の巣だ。使役した鬼の住処に居る! だ、だから早く、足の止血をしてくれ!」
深い森の中に入ってくる人物と言えば冒険者くらいだ。その冒険者が街に帰ってこなくても、どこかで魔物に殺されたと判断するだろう。それに、こんな場所なら死体の処理も楽だ。ほっとけば魔物が餌として処理してくれるに違いない。魔物に関しても、魔獣使いが居たのだから問題無かったんだろう。
そう判断したソフィアは男の言い分に耳を傾けて言う。
「その場所に案内しろ。途中で死なれても困るから、一応、今から止血――」
話しながら男の足に視線を向けるソフィア。彼の足は膝下から無いのだが――血は出ていなかった。
不思議に思い傷口を見てみると、両足の傷口は焼け焦げている。
「良かったな、止血せずにすんだ。クラミの剣がお前の魔法で焼かれた所為で、血が出てないぞ」
「な、何言って……あ、あぁぁぁぁ!」
ひょろ長の男が焼けた自分の足を見て絶叫を上げる中、クラミはソフィアの話しを聞いて何度も肯きながら言う。
「コレが無かったら、今頃、丸焦げでしたね」
汚れの落ちた赤い外套を引っ張りながら嬉しそうに言うクラミ。
「ソフィア、ありがとう。ソフィアがこれを制作依頼してなかったら……」
「私の方こそ……クラミに助けて貰ったし……ありがと」
気恥ずかしそうにするソフィアから、足下の男に目線を向けるクラミは、ボソリと言葉を吐く。呪詛のように憎しみを込めて、人を殺すことに正当性を求めるように。
「本当に……コレがなければ……死んでいたな。いや、殺されていた。お前らに……殺されていた」
ひょろ長の男は「ッヒ!」と、短い悲鳴を洩し、下半身を濡らしていく。
のこり、5-5②とエピローグでこの章も終わりです。